【すでに87人がエントリー】「旅する薬剤師」は薬剤師コミュニティづくりでもある

【すでに87人がエントリー】「旅する薬剤師」は薬剤師コミュニティづくりでもある

【2021.06.15配信】マーケティング・商品開発などを手掛けるNEWRONを経営し、薬剤師でもある西井香織氏が立ち上げた「旅する薬剤師」プロジェクト。都市部で働く薬剤師の休暇と、薬剤師獲得に苦慮する地方をつなぐことを目指す。すでに87人がエントリーするなど、特に若手薬剤師から注目を集めている。今年中に200人のエントリーを目標とする。副業に理解のある薬業界関連企業の増加も背景にある。職場や団体にとらわれない薬剤師コミュニティづくりの側面もある。


地方と都市部を経験することで両方の魅力を感じられる

 フリー薬剤師の村上俊介氏が、もともと旅が大好きで、各地を旅しながら薬剤師業務に就いていた。村上氏は「地方と都市部のどちらかがいいということではなくて、どちらにも魅力がある。どちらも経験することで、両方の魅力を感じることができる」と、「旅する薬剤師」の魅力を語る。

 こうした考えに発想を得て、西井氏がプロジェクトを立ち上げた。

 当初は都市部勤務の薬剤師の休暇を利用して、数日から数週間の地方でのスポット勤務を想定していたが、利用する医療機関や薬局側から「業務に慣れることも考えると、1か月間ぐらいの期間は欲しい」との要望があった。

 エントリーする薬剤師側にヒアリングしてみると、意外にも「1か月間くらいなら何とかなる」という人が少なくなかったという。

 そこで、「1か月程度」にプロジェクトを見直したところ、マッチングがうまく回りだした。すでに富山県と長崎県で実績をつくっている。

 プロジェクトにエントリーしている薬剤師はすでに87人を超えている。
 エントリー募集は西井氏のTwitterや、西井氏のコミュニティの中での告知が中心だが、それでもこれだけの人数がエントリーした。
 エントリー方式は、ホームページなどで掲載しているLINE公式に登録する形。

 現在休暇の活用だけでなく、求職中に登録をする薬剤師も増えている。

 西井氏は、「非常勤薬剤師は6万人以上いるといわれている。こうした薬剤師の方にも活用していただくようにしたい」と話す。
 目標は今年中に200人の登録を目指す。

受け入れ薬局に“新しい風”

 医療機関・薬局側と、登録する薬剤師にはどのようなニーズがあるのだろうか。

 まず、医療機関・薬局側は、地方ではいまだ薬剤師不足の状況がある。また、個人薬局では、経営者が管理薬剤師を兼ねているケースも少なくなく、スタッフの産休などで欠員が出ると、補完しづらいことがある。こうしたケースに1か月間でもスタッフが補充できる「旅する薬剤師」は求められている。

 また、登録する薬剤師側は、村上氏のように、各地を旅してみたいというニーズはもちろんだが、いろいろな場で経験をしてみたいというニーズもある。薬剤師は一度就職してしまうと、1か所の勤務地に長く働き、また、1つの店舗で働いているスタッフ数はそんんなに多くはない。

 「職場の人間関係で行き詰ってしまう人もいるため、違う場で働いてみることで、少し違う目線で今の職場をみることにもつながればいいなと思う」と村上さんは話す。

 こうした新しい取り組みへの反応は分かれるようだ。

 地域薬剤師会でも、プロジェクトの紹介に、冷ややかな対応をするところもあるという。
 薬局薬剤師では、1つの店舗にある程度の勤務経験を求める「かかりつけ」の推進が進んでおり、こうした流れや地域密着と相容れないと感じる関係者もいるかもしれない。
 
 ただ、かかりつけ推進を軸にしつつも、「旅する薬剤師」の取り組みが薬剤師の多様性を許容できることにつながり、多様性は業界を活性化させるのではないだろうか。

 プロジェクトに参画する薬剤師の関悠氏は、「旅する薬剤師の取り組みは、受け入れる薬局にも新しい風となり、従来の業務を見直すよい契機にもなるのではないか」と指摘する。

 社会全体で多様化のメリットが指摘されているが、関氏自身もヘルスケア関連企業でマーケティングの職に就いているが、その企業では副業を受け入れている。会社のスタッフがさまざまなキャリアを積むことが企業のメリットにもなるとの考えからだ。

 少数派のニーズであっても、現にあるさまざまなニーズをかなえていくことは意味のあることだろう。

 最後にもう1点、「旅するプロジェクト」で指摘できるのは、コミュニティをつくっていく楽しさをメンバーが感じていることだ。

 村上氏も、関氏も、プロジェクトを通して西井氏や、同じ気持ちを持った登録メンバーとのコミュニケーションすること自体から、多くの気付きを得て、意義があると語っている。
 「旅する薬剤師」は、プロジェクトであり、団体などではないが、一つのコミュニティの側面がある。

 関氏は、「コミュニティが大きくなっていき、コミュニティの中でつながりができたり、コミュニティの中で新しいプロジェクト回っていくようになるのが目指すところ」と話す。
 こうした新しい団体ではない、新しいコミュニティが今後もたくさん生まれてくるかもしれない。 

メンバーからは、「コミュニティが大きくなっていき、コミュニティの中でつながりができたり、コミュニティの中で新しいプロジェクト回っていくようになるのが目指すところ」とのコメントも。
写真左から2番目が西井香織氏

■旅する薬剤師HP
https://sites.google.com/view/trip-pharmacist/

この記事のライター

関連する投稿


【日薬代議員】 奈良、唯一の選挙で後岡氏(44)が当選/5月には会長選に挑む

【日薬代議員】 奈良、唯一の選挙で後岡氏(44)が当選/5月には会長選に挑む

【2024.04.15配信】令和6年3月28日に投開票された日本薬剤師会代議員選挙で、奈良県薬では44歳の後岡伸爾氏が当選した。今回の代議員選挙では唯一、選挙を行っての決定となった。


【日病薬】武田会長、改定の「薬剤業務向上加算」、第8次医療計画を後押しするもの

【日病薬】武田会長、改定の「薬剤業務向上加算」、第8次医療計画を後押しするもの

【2024.02.17配信】日本病院薬剤師会は2月17日に臨時総会を開いた。挨拶した武田泰生会長は今回の診療報酬改定にも触れ、薬剤業務向上加算については、「新任薬剤師の研修体制の構築や、出向を通してシームレスな薬物治療をつなぎ、第8次医療計画を後押しするものと期待している」と評価した。


【米国薬剤師の役割でセミナー開催】全米州薬局協会連合州政策担当部長のAllie Jo Shipman氏が登場/主催・真野俊樹氏

【米国薬剤師の役割でセミナー開催】全米州薬局協会連合州政策担当部長のAllie Jo Shipman氏が登場/主催・真野俊樹氏

【2021.08.17配信】8月20日(金)9時〜、真野俊樹氏(多摩大学大学院教授)が主催するWEBセミナーが開かれる。テーマは「米国薬剤師の役割とその重要基盤COVID-19を踏まえて」。数十名規模でインタラクティブな質疑応答が可能なセミナーとなっている。料金は1万6000円。申し込みはPeatixより。https://digital-health-now-4.peatix.com/


【コロナワクチン接種への薬剤師の協力】45.7%の薬局で協力要請に対応/日本保険薬局協会調べ

【コロナワクチン接種への薬剤師の協力】45.7%の薬局で協力要請に対応/日本保険薬局協会調べ

【2021.07.08配信】日本保険薬局協会(NPhA)は7月8日に定例会見を開き、新型コロナワクチン接種における薬局薬剤師の活動状況について報告した。協力要請のあった7割の薬局のうち、45.7%の薬局で協力要請に対応していることが分かった。コロナワクチン接種への薬局薬剤師の協力体制に関して、規模の大きな調査はこれが初めて。


【ドラッグストア協会】協会加盟社所属薬剤師がコロナワクチン調製手技研修会を実施/千葉大学が協力

【ドラッグストア協会】協会加盟社所属薬剤師がコロナワクチン調製手技研修会を実施/千葉大学が協力

【2021.07.08配信】日本チェーンドラッグストア協会は、7月4日に「新型コロナウイルス ワクチン調製手技研修会」を開催した。国立大学法人千葉大学様の協 力のもと実施された。


最新の投稿


【厚労省_流通改善懇談会】「1社流通」への問題指摘相次ぐ

【厚労省_流通改善懇談会】「1社流通」への問題指摘相次ぐ

【2024.10.11配信】厚生労働省は10月10日、「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」(流改懇)を開いた。この中で、メーカーが卸を1社に限定する「1社流通」に関して問題の指摘が相次いだ。


【中医協】認知症薬「ケサンラ」の薬価算定やコロナ治療薬「ゾコーバ」の費用対効果を議題に

【中医協】認知症薬「ケサンラ」の薬価算定やコロナ治療薬「ゾコーバ」の費用対効果を議題に

【2024.10.10配信】厚生労働省は10月9日、中央社会保険医療協議会(中医協)を開いた。認知症薬「ケサンラ」の薬価算定やコロナ治療薬「ゾコーバ」の費用対効果を議題とした。


【オンライン資格確認】訪問診療等向けのアプリがスタート

【オンライン資格確認】訪問診療等向けのアプリがスタート

【2024.10.08配信】令和6年10月1日から、薬局の在宅業務を含む訪問診療等においてマイナ資格確認アプリが利用可能となった。 アプリを利用することで、目視確認による本人確認が可能になる。


【福岡厚労相】局所麻酔薬「アナペイン」の不足問題にコメント

【福岡厚労相】局所麻酔薬「アナペイン」の不足問題にコメント

【2024.10.08配信】福岡資麿厚生労働相は10月8日、全国的な不足が指摘されている局所麻酔薬「アナペイン」の対策についてコメントした。


【日本薬剤師会_新理事の“横顔”⑦】池田里江子氏/「みんなで何かをするのが好き」、学術大会では企画班長

【日本薬剤師会_新理事の“横顔”⑦】池田里江子氏/「みんなで何かをするのが好き」、学術大会では企画班長

【2024.10.07配信】日本薬剤師会は岩月進新会長の下、6月30日の総会をもって新執行部を立ち上げた。本紙では、その中でも新たに理事になったメンバーに焦点を当てて取材、紹介する。第7回は池田里江子氏。【シリーズ最終回】


ランキング


>>総合人気ランキング