地方と都市部を経験することで両方の魅力を感じられる
フリー薬剤師の村上俊介氏が、もともと旅が大好きで、各地を旅しながら薬剤師業務に就いていた。村上氏は「地方と都市部のどちらかがいいということではなくて、どちらにも魅力がある。どちらも経験することで、両方の魅力を感じることができる」と、「旅する薬剤師」の魅力を語る。
こうした考えに発想を得て、西井氏がプロジェクトを立ち上げた。
当初は都市部勤務の薬剤師の休暇を利用して、数日から数週間の地方でのスポット勤務を想定していたが、利用する医療機関や薬局側から「業務に慣れることも考えると、1か月間ぐらいの期間は欲しい」との要望があった。
エントリーする薬剤師側にヒアリングしてみると、意外にも「1か月間くらいなら何とかなる」という人が少なくなかったという。
そこで、「1か月程度」にプロジェクトを見直したところ、マッチングがうまく回りだした。すでに富山県と長崎県で実績をつくっている。
プロジェクトにエントリーしている薬剤師はすでに87人を超えている。
エントリー募集は西井氏のTwitterや、西井氏のコミュニティの中での告知が中心だが、それでもこれだけの人数がエントリーした。
エントリー方式は、ホームページなどで掲載しているLINE公式に登録する形。
現在休暇の活用だけでなく、求職中に登録をする薬剤師も増えている。
西井氏は、「非常勤薬剤師は6万人以上いるといわれている。こうした薬剤師の方にも活用していただくようにしたい」と話す。
目標は今年中に200人の登録を目指す。
受け入れ薬局に“新しい風”
医療機関・薬局側と、登録する薬剤師にはどのようなニーズがあるのだろうか。
まず、医療機関・薬局側は、地方ではいまだ薬剤師不足の状況がある。また、個人薬局では、経営者が管理薬剤師を兼ねているケースも少なくなく、スタッフの産休などで欠員が出ると、補完しづらいことがある。こうしたケースに1か月間でもスタッフが補充できる「旅する薬剤師」は求められている。
また、登録する薬剤師側は、村上氏のように、各地を旅してみたいというニーズはもちろんだが、いろいろな場で経験をしてみたいというニーズもある。薬剤師は一度就職してしまうと、1か所の勤務地に長く働き、また、1つの店舗で働いているスタッフ数はそんんなに多くはない。
「職場の人間関係で行き詰ってしまう人もいるため、違う場で働いてみることで、少し違う目線で今の職場をみることにもつながればいいなと思う」と村上さんは話す。
こうした新しい取り組みへの反応は分かれるようだ。
地域薬剤師会でも、プロジェクトの紹介に、冷ややかな対応をするところもあるという。
薬局薬剤師では、1つの店舗にある程度の勤務経験を求める「かかりつけ」の推進が進んでおり、こうした流れや地域密着と相容れないと感じる関係者もいるかもしれない。
ただ、かかりつけ推進を軸にしつつも、「旅する薬剤師」の取り組みが薬剤師の多様性を許容できることにつながり、多様性は業界を活性化させるのではないだろうか。
プロジェクトに参画する薬剤師の関悠氏は、「旅する薬剤師の取り組みは、受け入れる薬局にも新しい風となり、従来の業務を見直すよい契機にもなるのではないか」と指摘する。
社会全体で多様化のメリットが指摘されているが、関氏自身もヘルスケア関連企業でマーケティングの職に就いているが、その企業では副業を受け入れている。会社のスタッフがさまざまなキャリアを積むことが企業のメリットにもなるとの考えからだ。
少数派のニーズであっても、現にあるさまざまなニーズをかなえていくことは意味のあることだろう。
最後にもう1点、「旅するプロジェクト」で指摘できるのは、コミュニティをつくっていく楽しさをメンバーが感じていることだ。
村上氏も、関氏も、プロジェクトを通して西井氏や、同じ気持ちを持った登録メンバーとのコミュニケーションすること自体から、多くの気付きを得て、意義があると語っている。
「旅する薬剤師」は、プロジェクトであり、団体などではないが、一つのコミュニティの側面がある。
関氏は、「コミュニティが大きくなっていき、コミュニティの中でつながりができたり、コミュニティの中で新しいプロジェクト回っていくようになるのが目指すところ」と話す。
こうした新しい団体ではない、新しいコミュニティが今後もたくさん生まれてくるかもしれない。
メンバーからは、「コミュニティが大きくなっていき、コミュニティの中でつながりができたり、コミュニティの中で新しいプロジェクト回っていくようになるのが目指すところ」とのコメントも。
写真左から2番目が西井香織氏
■旅する薬剤師HP
https://sites.google.com/view/trip-pharmacist/