飯島氏は外部委託に関しては「患者や地域住民の為になるのであればやるべき」との見解を示す。理由は特に施設向けの調剤では、処方が固定的であり、薬剤師の知見を生かす領域と一包化などの“手”を動かす業務を分けて考えることにより、薬局・薬剤師のタスクシフトになると考えるからだ。この考えは生産人口の減少、それに立ち向かうための生産性の向上という日本全体の課題に薬局業界も無関係ではいられないということだろう。
ただし、飯島氏がイメージする外部委託は、例えば東京にある調剤センターが地方に医薬品を届けるという、経済団体が考えているようなものではない。そういった考えに対しては「患者と対峙したことない人の考えだ」と一蹴する。患者は不安を抱えており相談する場所を欲している、そこに応えることが地域にある薬局の責任であるとの考えがあるからだ。
飯島氏が描くのは、地域にあり一定余力を持った薬局が外部委託も使いながら業務を効率化し、そして医療リソースの足りないエリアへの医薬品提供に関しても、その薬局が責任を持つという姿だ。当然、夜間・休日などの地域住民への医薬品提供に対しても責任を持つ。
経済団体の求める規制改革の論理に対抗するためにも必須は薬局の“質”の向上と担保
その考えは、厚労省が提示した「まとめ役となる薬局の存在」に近いだろう。ただ、この“まとめ役”の提示が薬局業界から批判を浴びたのは、「全ての薬局ができるはずだ」という考えがあるからだ。これに対して、飯島氏は厳しい見方を示す。「本当に全ての薬局ができていたなら、個々の薬局が自分の患者に対して365日24時間の責任を持っていたのなら、こんな議論は起こっていないはずだ」と。さらには、2022年の年末から年始を振り返ってみても、こうした期間の地域住民の要請に応える薬局は限定的だったと憤る。そこには、休みたいという運営側の考えやチェーン企業の提供側の論理が横たわっていたのではないかとみる。「医療はそういうものではない」(飯島氏)。そういった現状である以上、「薬局のために政策があるのではない。地域住民のために政策がある。また、地域住民の要請に応えられない薬局がいくつあっても、経済団体の求める規制改革の論理に対抗できる薬局の“質”が担保できない」と、飯島氏は考える。「人口減少社会で薬局が撤退戦となることは時代の流れ」と指摘する。
地域薬剤師会においても質を担保しているところとそうでないところの差が大きいとみる。例えば上田薬剤師会には独自の認定薬局制度があるが、本来、患者に責任を持つべきかかりつけ薬局が夜間・休日対応が不十分である事例が散見された場合、認定しないなど、地域に対する薬局の質の担保機能が一定程度ある。
「“まとめ役”が地域医療における薬局機能としての最後の受け皿になるのか、職能団体が舵取りをして個々の薬局が連携することにより質を担保するのか、どちらがマッチするかは地域により変わると思うが、重要なことは患者ファーストであるかどうかだ」(飯島氏)。
飯島氏の「一定の余力がある薬局」が「責任を持つ」ことが重要との考えは、この条件は「規模があればいい」ということも違う。例えば地域連携薬局では調剤併設のドラッグストア企業の申請も目立ったが、飯島氏は、「そもそも調剤を行っている時間帯も限定的。そして調剤の営業時間以外の患者からの求めに応じる姿勢はない」と否定的な見方だ。「地域のためになっていない」(飯島氏)。
厚労省は“まとめ役”の姿として、2パターンを提示している。①人的・物的なリソースが豊富な薬局が多くの機能を担い、その機能を各薬局に提供する場合、と②人的・物的なリソースが豊富でないものの、他の薬局と連携して機能を補完しあう場合――だ。飯島氏の考えはイイジマ薬局が①を担う姿だろう。②の「連携」「補完」は難しいのだろうか?
この問いに対して飯島氏は、例えば外部委託に関しては、施設向け調剤は薬局のアイドルタイムを有効に活用できるようになっており、わざわざ他薬局に委託する薬局はないだろうとみる。ただ、会営薬局を“まとめ役”として生かしていくことは可能性はあるとする。その場合にも、地域薬剤師会の活動の透明化やガバナンスは不可欠だという見方だ。まとめ役の薬局の収益が、薬剤師会の役員の給料になる場合も、その給料に見合ったどのような業務にあたったかを地域に向けて説明する責任があるとした上で、そういったガバナンスの保持はかなり難しいだろうという見方も示す。
「重要なことは、薬剤師の臨床判断能力と医療機関との適切な連携ができるか」
もう1つの薬局・薬剤師の不安は「効率化して空いた時間で何をすればいいのか」が見えていないことではないだろうか。これに対して、飯島氏は、健康相談からの受診勧奨、セルフメディケーション支援、経過観察なども挙げる。このセルフメディケーション支援に応えられる商品も薬局に置いてあることは必須になるとみる。「重要なことは、薬剤師の臨床判断能力と医療機関との適切な連携ができるかだ」(飯島氏)。
一方、上田という地域では地域住民の薬局の活用法や選択眼がそもそも他の地域と違うのではないかとの指摘がある。これを飯島氏は認めた上で、地域住民のヘルスリテラシーを高める努力も薬局・薬剤師の有効な活用を促すことにつながるとみる。
今後の薬局・薬剤師の方向性としては、未病・予防、健康増進、公衆衛生など地域貢献できる領域は幅広いとする。「薬剤師が職能発揮することで、ゲートキーパーを果たし医師から薬局への流れではなく、薬局から医師への矢印をつくることができる。そのことで医療費削減に貢献できる」と指摘する。
飯島裕也氏●上田市出身。薬剤師。2013年、両親が創業した有限会社飯島の代表取締役に就任。海外の薬局視察を積極的に行うほか、オーストラリアで薬剤師の生涯教育について学んだ経験も
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