【薬局規制改革の波_この人に聞きたい】イイジマ薬局(長野県上田市)飯島裕也氏/調剤業務の一部外部委託、「患者や地域住民の為になるのであればやるべき」

【薬局規制改革の波_この人に聞きたい】イイジマ薬局(長野県上田市)飯島裕也氏/調剤業務の一部外部委託、「患者や地域住民の為になるのであればやるべき」

【2023.01.12配信】調剤業務の一部外部委託など、押し寄せる薬局業界への規制改革の波。この規制改革の波を薬局業界はどう受け止めたらいいのか。薬局業界関係者の中にも迷いがある人も少なくないのではないだろうか。本紙ではこうした問題について、厚労省「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」に参考人としても出席していたイイジマ薬局(長野県上田市)開設者である飯島裕也氏に聞いた。


 飯島氏は外部委託に関しては「患者や地域住民の為になるのであればやるべき」との見解を示す。理由は特に施設向けの調剤では、処方が固定的であり、薬剤師の知見を生かす領域と一包化などの“手”を動かす業務を分けて考えることにより、薬局・薬剤師のタスクシフトになると考えるからだ。この考えは生産人口の減少、それに立ち向かうための生産性の向上という日本全体の課題に薬局業界も無関係ではいられないということだろう。

 ただし、飯島氏がイメージする外部委託は、例えば東京にある調剤センターが地方に医薬品を届けるという、経済団体が考えているようなものではない。そういった考えに対しては「患者と対峙したことない人の考えだ」と一蹴する。患者は不安を抱えており相談する場所を欲している、そこに応えることが地域にある薬局の責任であるとの考えがあるからだ。
 飯島氏が描くのは、地域にあり一定余力を持った薬局が外部委託も使いながら業務を効率化し、そして医療リソースの足りないエリアへの医薬品提供に関しても、その薬局が責任を持つという姿だ。当然、夜間・休日などの地域住民への医薬品提供に対しても責任を持つ。

経済団体の求める規制改革の論理に対抗するためにも必須は薬局の“質”の向上と担保

 その考えは、厚労省が提示した「まとめ役となる薬局の存在」に近いだろう。ただ、この“まとめ役”の提示が薬局業界から批判を浴びたのは、「全ての薬局ができるはずだ」という考えがあるからだ。これに対して、飯島氏は厳しい見方を示す。「本当に全ての薬局ができていたなら、個々の薬局が自分の患者に対して365日24時間の責任を持っていたのなら、こんな議論は起こっていないはずだ」と。さらには、2022年の年末から年始を振り返ってみても、こうした期間の地域住民の要請に応える薬局は限定的だったと憤る。そこには、休みたいという運営側の考えやチェーン企業の提供側の論理が横たわっていたのではないかとみる。「医療はそういうものではない」(飯島氏)。そういった現状である以上、「薬局のために政策があるのではない。地域住民のために政策がある。また、地域住民の要請に応えられない薬局がいくつあっても、経済団体の求める規制改革の論理に対抗できる薬局の“質”が担保できない」と、飯島氏は考える。「人口減少社会で薬局が撤退戦となることは時代の流れ」と指摘する。
 地域薬剤師会においても質を担保しているところとそうでないところの差が大きいとみる。例えば上田薬剤師会には独自の認定薬局制度があるが、本来、患者に責任を持つべきかかりつけ薬局が夜間・休日対応が不十分である事例が散見された場合、認定しないなど、地域に対する薬局の質の担保機能が一定程度ある。

 「“まとめ役”が地域医療における薬局機能としての最後の受け皿になるのか、職能団体が舵取りをして個々の薬局が連携することにより質を担保するのか、どちらがマッチするかは地域により変わると思うが、重要なことは患者ファーストであるかどうかだ」(飯島氏)。

 飯島氏の「一定の余力がある薬局」が「責任を持つ」ことが重要との考えは、この条件は「規模があればいい」ということも違う。例えば地域連携薬局では調剤併設のドラッグストア企業の申請も目立ったが、飯島氏は、「そもそも調剤を行っている時間帯も限定的。そして調剤の営業時間以外の患者からの求めに応じる姿勢はない」と否定的な見方だ。「地域のためになっていない」(飯島氏)。

 厚労省は“まとめ役”の姿として、2パターンを提示している。①人的・物的なリソースが豊富な薬局が多くの機能を担い、その機能を各薬局に提供する場合、と②人的・物的なリソースが豊富でないものの、他の薬局と連携して機能を補完しあう場合――だ。飯島氏の考えはイイジマ薬局が①を担う姿だろう。②の「連携」「補完」は難しいのだろうか?

 この問いに対して飯島氏は、例えば外部委託に関しては、施設向け調剤は薬局のアイドルタイムを有効に活用できるようになっており、わざわざ他薬局に委託する薬局はないだろうとみる。ただ、会営薬局を“まとめ役”として生かしていくことは可能性はあるとする。その場合にも、地域薬剤師会の活動の透明化やガバナンスは不可欠だという見方だ。まとめ役の薬局の収益が、薬剤師会の役員の給料になる場合も、その給料に見合ったどのような業務にあたったかを地域に向けて説明する責任があるとした上で、そういったガバナンスの保持はかなり難しいだろうという見方も示す。

「重要なことは、薬剤師の臨床判断能力と医療機関との適切な連携ができるか」

 もう1つの薬局・薬剤師の不安は「効率化して空いた時間で何をすればいいのか」が見えていないことではないだろうか。これに対して、飯島氏は、健康相談からの受診勧奨、セルフメディケーション支援、経過観察なども挙げる。このセルフメディケーション支援に応えられる商品も薬局に置いてあることは必須になるとみる。「重要なことは、薬剤師の臨床判断能力と医療機関との適切な連携ができるかだ」(飯島氏)。
 一方、上田という地域では地域住民の薬局の活用法や選択眼がそもそも他の地域と違うのではないかとの指摘がある。これを飯島氏は認めた上で、地域住民のヘルスリテラシーを高める努力も薬局・薬剤師の有効な活用を促すことにつながるとみる。

 今後の薬局・薬剤師の方向性としては、未病・予防、健康増進、公衆衛生など地域貢献できる領域は幅広いとする。「薬剤師が職能発揮することで、ゲートキーパーを果たし医師から薬局への流れではなく、薬局から医師への矢印をつくることができる。そのことで医療費削減に貢献できる」と指摘する。

飯島裕也氏●上田市出身。薬剤師。2013年、両親が創業した有限会社飯島の代表取締役に就任。海外の薬局視察を積極的に行うほか、オーストラリアで薬剤師の生涯教育について学んだ経験も

■関連記事:上田薬剤師会の研修
「令和4年度薬剤レビュー・ワークショップ」参加募集開始
https://www.dgs-on-line.com/articles/1927

この記事のライター

関連するキーワード


調剤の外部委託 飯島裕也

関連する投稿


【厚労省】調剤業務の一部外部委託でQ&A発出

【厚労省】調剤業務の一部外部委託でQ&A発出

【2024.05.10配信】厚生労働省は5月9日、「国家戦略特別区域調剤業務一部委託事業の実施要領に関する質疑応答集(Q&A)」を発出した。


【厚労省】調剤外部委託の特区実施要領を通知/特区事業開始の素地整う

【厚労省】調剤外部委託の特区実施要領を通知/特区事業開始の素地整う

【2024.05.09配信】厚生労働省は5月9日、「国家戦略特別区域調剤業務一部委託事業の実施要領」を発出した。これにより大阪での特区事業実施の素地が整うことになる。


【国家戦略特区】調剤の外部委託でWG、関係省庁等からのヒアリング実施/WG後は「区域会議」→「諮問会議」の流れ

【国家戦略特区】調剤の外部委託でWG、関係省庁等からのヒアリング実施/WG後は「区域会議」→「諮問会議」の流れ

【2023.10.12配信】10月12日、内閣府地方創生国家戦略特区ワーキンググループは関係省庁等からのヒアリングを実施した。この中で調剤業務の一部外部委託に関して議題となった。


【調剤業務の一部外部委託】厚労省、大阪府での特区に「実証の方向で検討進める」

【調剤業務の一部外部委託】厚労省、大阪府での特区に「実証の方向で検討進める」

【2023.09.28配信】内閣府はこのほど、「国家戦略特区等に関する検討要請に対する各府省庁からの回答について(令和5年度分)」を公表した。この中で、大阪府・大阪市・薬局DX推進コンソーシアムの3者が提案した調剤業務の外部委託に関わる事業について、厚労省は「実証の方向性で検討を進めてまいりたい」と回答した。


【日本薬剤師会山本会長】大阪の外部委託特区事業「注目している」/「所期の目的にそうように」

【日本薬剤師会山本会長】大阪の外部委託特区事業「注目している」/「所期の目的にそうように」

【2023.09.16配信】日本薬剤師会は9月16日、都道府県会長協議会を開催した。


最新の投稿


【厚労省】“研究用”抗原検査キット、薬機法で取り締まりの方向/該当性判断の上

【厚労省】“研究用”抗原検査キット、薬機法で取り締まりの方向/該当性判断の上

【2024.07.25配信】厚生労働省は7月25日に「厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会」を開催し、体外診断用医薬品の特性を踏まえた制度の見直しについて議論した。その中で「研究等の医療以外の用途を標榜する試薬の提供業者への対応」を議題とした。


【日薬】オーバードーズ問題でマニュアル作成を検討中

【日薬】オーバードーズ問題でマニュアル作成を検討中

【2024.07.24配信】日本薬剤師会は7月24日、都道府県会長協議会を開催した。


【厚労省】処方箋保存期間の検討を提示/薬局検討会

【厚労省】処方箋保存期間の検討を提示/薬局検討会

【2024.07.19配信】厚生労働省は、現在3年間となっている処方箋の保存期間について見直す方針を示した。「第7回薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」で提示した。診療録の保存期間が5年となっている中、電子処方箋については処方箋を調剤済みとなった日から5年間保存するサービスを提供しているなどの環境変化を挙げている。今後、制度部会で議題とする方針。


【コンソーシアム】大阪市から調剤外部委託で4社8薬局が確認通知受領を公表

【コンソーシアム】大阪市から調剤外部委託で4社8薬局が確認通知受領を公表

【2024.07.19配信】薬局DX推進コンソーシアムは7月19日、大阪市から調剤業務一部委託事業の確認通知を受け取ったと公表した。


【日本保険薬局協会】健康サポート薬局と地域連携薬局「違いない」/厚労省検討会に意見書

【日本保険薬局協会】健康サポート薬局と地域連携薬局「違いない」/厚労省検討会に意見書

【2024.07.19配信】日本保険薬局協会は7月19日に開かれた厚労省「第7回 薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」で意見書を提出した。「健康サポート薬局、地域連携薬局、地域支援体制加算届出薬局が描く薬局像は、小異こそあれ、分立させるほどの違いはない」とした。


ランキング


>>総合人気ランキング