【地域フォーミュラリ】作成目的に“医薬品安定供給確保”の要素拡大/飯田下伊那薬剤師会(長野県飯田市)の事例

【地域フォーミュラリ】作成目的に“医薬品安定供給確保”の要素拡大/飯田下伊那薬剤師会(長野県飯田市)の事例

【2023.10.24配信】これまで「医療費の適正化」や「標準薬物治療の推進」などが目的とされることが多かった地域フォーミュラリの作成。ここに、明らかにもう1つの理由が追加されるようになってきた。医薬品の安定供給確保だ。10月22日に開かれた「日本フォーミュラリ学会学術総会」で一般演題発表した飯田下伊那薬剤師会(長野県飯田市)は、会員薬局から安定供給確保への強い要望があったことを受け、安定供給確保が見込めるPPI3成分について銘柄を含めて選定したとした。


地域での薬剤使用量を銘柄を含めて透明化/電子版お手帳データをEHRへ

 飯田下伊那薬剤師会(長野県飯田市)では、会員薬局から安定供給確保への強い要望があったことを受け、安定供給確保が見込めるPPI3成分について銘柄を含めて選定した。

 今年7月7日に厚労省がフォーミュラリ作成の参考として公表した「フォーミュラリの運用について」では、原則的に成分名とすることとし、銘柄名にする場合は合理的な選定理由を有するべきだとしている。飯田下伊那薬剤師会では当該地域での銘柄を含めた使用量を全て透明化。原則的に足下の使用量上位であり、かつヒアリングにより安定供給が見込めるとの回答のあった企業等の条件を基に銘柄を選定した。十分な「合理的選定理由」を担保しているといえるだろう。

 地域フォーミュラリに銘柄名までを指定するか否かについては、成分名までの指定にとどめる地域がある一方、昨今の医薬品供給不安を受けて銘柄名まで指定しなければ地域に活かせる情報にならないとの指摘もある。地域によって使用される薬剤は違いがあることも事実だ。製剤工夫などを含めて銘柄まで責任を持ったリストとすべきとの意見もある。

 また、この足下の薬剤「使用量」のデータをどのように集めるかは、これまで地域フォーミュラリ策定において課題の1つとされてきた。
 保険者や卸企業からの提供を模索する動きに加え、最近では大阪府を筆頭に郡市ごとの薬剤使用データを提供する都道府県の動きも出てきた。一方、飯田下伊那薬剤師会では、本来は電子版お薬手帳の機能を有するファルモクラウドのデータを、地域医療ネットワーク、いわゆるEHRの1種であるID―LINKに連携。この時点で、地域における使用薬剤が透明化され、医療・介護関係者も地域の使用薬剤を把握することができる。その上で、Tableauというシステムを活用することで労力なく、データ解析を行っている。
 
 こうしたIT活用がフォーミュラリ作成をスムーズにしている側面に加え、同会がチェーン薬局も含め地域の薬局100%の組織率であることも円滑な作成の基盤に挙げられる。飯田下伊那薬剤師会会長の木下雅文氏は「顔の見える関係だからできること」と指摘する。さらに同会の会営薬局薬局長の熊﨑進氏は、「こうした銘柄指定をすることで会営薬局から地域の薬局への小分けも円滑になる」と指摘する。
 同地区では地理的に、地域の中心に会営薬局がある。また、地域において卸の急配対応が減ってきていることもあり、会営薬局が医薬品供給不安の中で頼りになる存在となっていることも高い組織率の背景とみられる。今後、地域フォーミュラリが進めば、入退院時で供給不安等によって医薬品を切り替えなければいけない事情も減ってくることも期待される。

飯田下伊那薬剤師会会長の木下雅文氏(写真右)と同会の会営薬局薬局長の熊﨑進氏(写真左)。同会は10月22日に開かれた「日本フォーミュラリ学会学術総会」で一般演題発表した

アルフレッサ福神社長「地域フォーミュラリは医薬品不足緩和策の1つの選択肢」

 銘柄の集約化は、過剰な流通負担を軽減することにもつながる。同日のシンポジウムで指定発言したアルフレッサ社長の福神雄介氏は、不足問題が卸社員の業務時間増となりサステナビリティを毀損する事態になっていると指摘。その上で、例えば、地域の卸事業所にある2000〜3000種類の薬剤在庫を、「地域でどう使っていただくのか」は重要な視点であるとし、地域フォーミュラリが作成されれば優先的に使えるようなことができるとし、不足ができるだけ起きないような仕組みの選択肢の1つが地域フォーミュラリであるとの認識を示した。

この記事のライター

関連するキーワード


フォーミュラリ 供給不安

関連する投稿


【医薬品供給状況】不足カテゴリートップは抗生剤/株式会社イヤクル調査

【医薬品供給状況】不足カテゴリートップは抗生剤/株式会社イヤクル調査

【2024.12.03配信】株式会社イヤクル(本社:北海道、代表取締役:佐孝尚氏)は、薬剤師を対象に「医薬品供給不足に関するアンケート調査」を実施。その結果、出荷調整品のカテゴリーでは抗生剤がトップだった。


【厚労省】長生堂製造の医薬品、品質等に問題がなければ「出荷は差し支えない」

【厚労省】長生堂製造の医薬品、品質等に問題がなければ「出荷は差し支えない」

【2024.06.11配信】厚生労働省医薬局監視指導・麻薬対策課は6月10日、事務連絡を発出した。一部の医薬品で製造販売承認書から逸脱した製造方法により医薬品の製造が行われ、出荷停止を行っている長生堂製薬。同社製造の医薬品に関して、製造販売業者により性状、品質等に問題がないことが確認された場合、出荷して差し支えないとした。


【厚労省】「経口抗菌薬の在庫逼迫に伴う協力依頼」発出

【厚労省】「経口抗菌薬の在庫逼迫に伴う協力依頼」発出

【2024.06.04配信】厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課は5月31日、各地域の衛生主管部事宛に事務連絡「経口抗菌薬の在庫逼迫に伴う協力依頼」を発出した。過剰な発注は厳に控えることなどを依頼している。


【医薬品の安定供給へ】後発薬業界ができること/東和薬品が講演

【医薬品の安定供給へ】後発薬業界ができること/東和薬品が講演

【2024.05.28配信】5月25日に名古屋で開かれた「日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会 学術大会」で、東和薬品執行役員の田中俊幸氏が「ジェネリック医薬品産業のあるべき姿の構築に向けて」と題して講演した。


【八戸薬剤師会】調剤実績情報の共有サービスを開始へ/薬局間医薬品融通スムーズに

【八戸薬剤師会】調剤実績情報の共有サービスを開始へ/薬局間医薬品融通スムーズに

【2024.04.17配信】八戸薬剤師会(青森県)は4月17日の夜、八戸市内のホテルで「薬局会員間の調剤実績共有サービスの導入について」との説明会を会員薬局・薬剤師向けに開催した。同サービスは調剤実績情報を共有することで薬局間の医薬品融通をスムーズにすることを目的とするもの。同薬剤師会は会員薬局数149薬局だが、説明会には100名以上が参加し、関心の高さがうかがえた。


最新の投稿


【大木ヘルスケアHD】“推し活”キーに医薬品需要に気付き/目薬や喉ケア/秋冬商品提案で

【大木ヘルスケアHD】“推し活”キーに医薬品需要に気付き/目薬や喉ケア/秋冬商品提案で

【2025.06.15配信】ヘルスケア卸大手の大木ヘルスケアホールディングスは6月11日に、事業部説明会を開催した。来る6月17日(火)~6月18日(水)にTRC 東京流通センターで開く「2025OHKI秋冬用カテゴリー提案商談会2025 年 OHKI 秋冬用カテゴリー提案商談会」の事前説明会の位置付け。OTC医薬品に関しては、“推し活”市場の拡大を背景に、“推し活”をきっかけに需要に気付きを与える提案を実施することを説明した。


【骨太方針_閣議決定】「高齢化の伸び」に経済・物価動向の増加分を加算

【骨太方針_閣議決定】「高齢化の伸び」に経済・物価動向の増加分を加算

【2025.06.13配信】政府は6月13日、「経済財政運営と改革の基本方針 2025」、いわゆる骨太方針を閣議決定した。医療・介護に関連しては、「高齢化による増加分に相当する伸びにこうした経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する」と記載した。これまでは、社会保障関係費の伸びを高齢化の範囲内に抑える方針がとられてきた。薬剤師で参議院議員の神谷政幸氏はXで「税収増を踏まえた経営の安定化や確実な賃上げに繋がる対応がついに反映」と投稿。医療介護業界の声が届いたとの考えを示唆した。


【奈良県薬剤師会】「健康ハートの日 2025」に協賛/気になる“nara”測ろう血圧ポスター作成

【奈良県薬剤師会】「健康ハートの日 2025」に協賛/気になる“nara”測ろう血圧ポスター作成

【2025.06.12配信】奈良県薬剤師会(後岡伸爾会長)は、「健康ハートの日 2025」に協賛する。


【マイナ保険証】活用で「多重受診・過剰処方」発見効果/日本保険薬局協会調査

【マイナ保険証】活用で「多重受診・過剰処方」発見効果/日本保険薬局協会調査

【2025.06.12配信】日本保険薬局協会は6月12日に定例会見を開き、「保険薬局における医療DX活用と業務貢献等の実態調査」の結果を説明した。「多重受診・過剰処方」の発見など効果がみられた。


【日本医師会】自公維3党合意に見解公表/病床削減と医療DXに「総論賛同」

【日本医師会】自公維3党合意に見解公表/病床削減と医療DXに「総論賛同」

【2025.06.10配信】日本医師会は6月9日、自由民主党、公明党、日本維新の会の3党合意についての見解を公表した。