地域での薬剤使用量を銘柄を含めて透明化/電子版お手帳データをEHRへ
飯田下伊那薬剤師会(長野県飯田市)では、会員薬局から安定供給確保への強い要望があったことを受け、安定供給確保が見込めるPPI3成分について銘柄を含めて選定した。
今年7月7日に厚労省がフォーミュラリ作成の参考として公表した「フォーミュラリの運用について」では、原則的に成分名とすることとし、銘柄名にする場合は合理的な選定理由を有するべきだとしている。飯田下伊那薬剤師会では当該地域での銘柄を含めた使用量を全て透明化。原則的に足下の使用量上位であり、かつヒアリングにより安定供給が見込めるとの回答のあった企業等の条件を基に銘柄を選定した。十分な「合理的選定理由」を担保しているといえるだろう。
地域フォーミュラリに銘柄名までを指定するか否かについては、成分名までの指定にとどめる地域がある一方、昨今の医薬品供給不安を受けて銘柄名まで指定しなければ地域に活かせる情報にならないとの指摘もある。地域によって使用される薬剤は違いがあることも事実だ。製剤工夫などを含めて銘柄まで責任を持ったリストとすべきとの意見もある。
また、この足下の薬剤「使用量」のデータをどのように集めるかは、これまで地域フォーミュラリ策定において課題の1つとされてきた。
保険者や卸企業からの提供を模索する動きに加え、最近では大阪府を筆頭に郡市ごとの薬剤使用データを提供する都道府県の動きも出てきた。一方、飯田下伊那薬剤師会では、本来は電子版お薬手帳の機能を有するファルモクラウドのデータを、地域医療ネットワーク、いわゆるEHRの1種であるID―LINKに連携。この時点で、地域における使用薬剤が透明化され、医療・介護関係者も地域の使用薬剤を把握することができる。その上で、Tableauというシステムを活用することで労力なく、データ解析を行っている。
こうしたIT活用がフォーミュラリ作成をスムーズにしている側面に加え、同会がチェーン薬局も含め地域の薬局100%の組織率であることも円滑な作成の基盤に挙げられる。飯田下伊那薬剤師会会長の木下雅文氏は「顔の見える関係だからできること」と指摘する。さらに同会の会営薬局薬局長の熊﨑進氏は、「こうした銘柄指定をすることで会営薬局から地域の薬局への小分けも円滑になる」と指摘する。
同地区では地理的に、地域の中心に会営薬局がある。また、地域において卸の急配対応が減ってきていることもあり、会営薬局が医薬品供給不安の中で頼りになる存在となっていることも高い組織率の背景とみられる。今後、地域フォーミュラリが進めば、入退院時で供給不安等によって医薬品を切り替えなければいけない事情も減ってくることも期待される。
飯田下伊那薬剤師会会長の木下雅文氏(写真右)と同会の会営薬局薬局長の熊﨑進氏(写真左)。同会は10月22日に開かれた「日本フォーミュラリ学会学術総会」で一般演題発表した
アルフレッサ福神社長「地域フォーミュラリは医薬品不足緩和策の1つの選択肢」
銘柄の集約化は、過剰な流通負担を軽減することにもつながる。同日のシンポジウムで指定発言したアルフレッサ社長の福神雄介氏は、不足問題が卸社員の業務時間増となりサステナビリティを毀損する事態になっていると指摘。その上で、例えば、地域の卸事業所にある2000〜3000種類の薬剤在庫を、「地域でどう使っていただくのか」は重要な視点であるとし、地域フォーミュラリが作成されれば優先的に使えるようなことができるとし、不足ができるだけ起きないような仕組みの選択肢の1つが地域フォーミュラリであるとの認識を示した。