八戸薬剤師会はこれまでも、市民からの相談を受け付ける「くすりの電話」や「院外処方せんの事前合意プロトコール」など、地域住民に資する活動を数多く実施してきた。
今回のサービスもその一環。
説明会の冒頭、同会会長の阿達昌亮氏は、「現在の医薬品供給不安で一番困っているのは地域の患者さんではないか」と話し、地域に貢献する取り組みとして、サービスへの参加を求めた。
具体的な仕組みは、レセプトコンピューター情報を基に、サービスに参加した薬局の調剤実績情報を共有するというもの。それにより医薬品の薬局間融通の際に多くの薬局へ問い合わせたりする業務負担の軽減を目指す。
システムはメディカルシステムネットワークが開発した「LINCLE」を基にしたもので、カスタマイズされた「LINCLEはちのへ」がサービス名称になる。
システム料は八戸薬剤師会が負担し、参加した薬局が個別にシステム利用料を払う必要はない。
「LINCLE はちのへ」で連携される調剤実績データは、必要最低限の内容になるよう薬局内で自動加工がされる。そのため、個人情報や保険点数等の薬局の調剤情報が送られることはない。
自薬局に在庫のない医薬品の処方箋を受けた際、近隣薬局の調剤実績から融通してもらう可能性の高い薬局を検索し問い合わせすることができ、お互いに可能な範囲で医薬品融通をスムーズに行うことができるようになることが期待される。
副次的なメリットとして、医薬品卸の急配の削減も見込める。物流の「2024年問題」で急配抑制も社会課題といえる。そのほか、将来的には希少医薬品や高額医薬品等の調達、不動在庫の有効活用、医療用麻薬の夜間休日の融通(予め登録したグループ内)、災害時の医薬品調達等への活用も期待されるとして、サービス多角化も検討していきたい考え。
スケジュールとしては、2024年7月よりシステム導入案内を開始し、 システム導入完了した薬局より利用を開始する見込み。
レセコンデータの情報はNSHIPsの使用許諾を得て使用し、自動連係されるため、参加薬局における手間も低減される工夫がされている。
基となっている「LINCLE」は、メディカルシステムネットワークが開発・提供する調剤薬局向け在庫管理システムのテクノロジー。メディカルシステムネットワークが運営する「なの花薬局」で2年以上の運用実績がある。
八戸薬剤師会は、サービス導入の背景として、医薬品供給不安の長期化を挙げる。昨今、ジェネリック医薬品を中心とした医療用医薬品の供給不足が長期間続き、医療機関や保険薬局では必要量の医薬品調達に支障をきたす状態が継続していると指摘。医薬品の供給情報が医療機関や薬局間で共有されていないことも供給不安が長引いている一因、また医薬品在庫が偏在する要因とも指摘されているとする。
八戸圏域の薬局間においては、以前からその都度、電話等で近隣の他薬局に医薬品融通の可否を確認し小分け調達していた。しかし、最近では不足する医薬品の調達が困難な場合が多く、結果として患者の待ち時間が増加し、患者が即時に医薬品を受領できないばかりか患者に全く医薬品を渡すことができない事例も発生。適切な薬物療法提供上も課題を生んでいると現状を説明。これらの課題解決のため、八戸薬剤師会では、圏域内の薬局で活用可能な医薬品調剤情報を共有するために、「LINCLE はちのへ」を導入し運用を開始することとしたと説明している。
同日の説明会の上、趣旨に賛同した薬局を募集し、登録を進める方針。
「LINCLE」のログイン画面。ブラウザ上でID、パスワードを入力する
説明会後の質疑応答では、調剤実績の「数量」ではなく、「時期」で情報を共有している理由を聞く質問も出た。「30錠しか出ていない薬局さんに融通をお願いするのも酷な気がする。調剤された数量ではなく時期の情報を共有することにしたのはなぜか」という趣旨だ。
これに対し、阿達会長は、「数量の情報を共有してしまうと断りづらくなるのではないか。理事会で検討を進めてきた中で、無理強いすることのない、互助の理念で進めたいとの考えから数量ではなく、時期とした」と回答した。