【スイッチ検討会議中間とりまとめ】「自覚症状のないスイッチ」への慎重意見併記

【スイッチ検討会議中間とりまとめ】「自覚症状のないスイッチ」への慎重意見併記

【2021.02.10配信】厚生労働省は、「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」の「中間とりまとめを」公表した。焦点であった「医師の管理下での処方で長期間状態が安定しており、対処方法が確定していて自己による服薬管理が可能な医薬品等」に関しては、「自覚症状がないものに使用する医薬品については、スイッチ OTC 化すべきではないとの意見もあった」との慎重意見が併記となった。


 厚労省は昨年12月24日に中間とりまとめの案を議論していた。
 議論の詳細は以下の当メディア記事を参照いただきたい。
https://www.dgs-on-line.com/articles/620


 記事にも記載している通り、日本医師会常任理事の長島公之氏から「医師の管理下での処方で長期間状態が安定しており、対処方法が確定していて自己による服薬管理が可能な医薬品等」に関して、「自覚症状がないものに使用する医薬品については、スイッチ OTC 化すべきではないとの意見もあったと記載してほしい」との要望があった。これに座長の笠貫 宏氏(早稲田大学特命教授 医療レギュラトリーサイエンス研究所顧問)が、意見としての記載は了承する意向を示していた。
 こうした議論の結果、「中間とりまとめ」に、慎重意見が併記された格好だ。
 また、「スイッチOTC化の適切性は個別の成分毎に議論されるものであるが」という文言が追加された。この文言のあとには、もともとあった「どのような薬効群の医薬品がスイッチ OTC 化の対象となるのか、その具体的な条件については、各ステークホルダーの連携等の更なる環境の整備の状況も踏まえつつ、個別の成分の議論等を通じて、今後も議論が進められる必要がある」との文章が続く。
 意見としての記載であるため、上記の考え方が最終的に否定されたわけではないといえる。基本的には個別の成分の議論となるため、薬食審での議論が展開されることになりそうだ。

 上記の変更点が、前回の「中間とりまとめ案」から「中間とりまとめ」までの主な変更点だ。

***************
 改めて「中間とりまとめ」の意義を考察してみたい。

 まず重要な点は、「医師の管理下での処方で長期間状態が安定しており、対処方法が確定していて自己による服薬管理が可能な医薬品等」のスイッチの扉が閉ざされなかった点である。
 これは表現を変えると慢性的な症状と受け止めることができ、産業界が生活習慣に関連する症状を想定していると考えられる。
 このカテゴリーのスイッチにあたって焦点となるのが「自覚症状」の有無である。
 例えば、日本チェーンドラッグストア協会がスイッチ化を優先的に要望しているもののうち、片頭痛薬「イミグラン」やアレルギー性結膜炎薬「パタノール」、吐き気改善薬「ナウゼリン」、胃潰瘍薬であるPPI「オメプラゾン」「オメプラール」などは自覚症状のあるものといえるのではないだろうか。一方、食後過血糖改善薬「ベイスン」などは、どのように自覚症状を定義するかは難しい面もあるように思える。

 また、こうした成分が議論される前提として示されているのが、薬剤師等の知識習得やセルフチェックシート・お薬手帳の活用、医師と薬剤師等の情報共有という位置づけとなる。
 スイッチOTC促進は製薬企業だけで進められるものではなく、販売を担う薬局・ドラッグストアの“本気度”も問われるだろう。
 慢性的な症状のスイッチ化が正しいのか、重症化をもたらすのではないかとの議論は常につきまとう。しかし、現状でも未受診者、受診離脱者は一定数いると考えられ、こうした層に薬局やドラッグストアからもアプローチができる手段が増えるととらえれば社会的意義は大きいのではないだろうか。
 医師か、薬剤師か、の議論ではなく、一定の条件の下で、生活者がアクセスしやすい環境整備が理想的だ。そのためには、要指導薬固定条件でのスイッチや、販売条件を逸脱した店舗は一定の期間の販売停止など、厳正な条件を設けることも一案ではないだろうか。特に医療リソースの限られる地域では、こうしたスイッチによって生活者のQOL改善に貢献したいとの意欲を持つ薬局・ドラッグストアは少なくない。一部の不適切販売によって、全体の機会が奪われるのは社会にとって好ましいことなのかどうか。
 少子高齢化の進むわが国で、スイッチの健全な在り方はどのようにあるべきか。前例にとらわれない新しい制度の枠組みも期待したい。

この記事のライター

関連する投稿


【2024年5月度OTC薬市場】過去5年間で最も高い実績/外用鎮痛消炎剤が前年比9%増

【2024年5月度OTC薬市場】過去5年間で最も高い実績/外用鎮痛消炎剤が前年比9%増

【2024.06.24配信】インテージヘルスケアは6月24日、「2024年5月度 OTC医薬品(一般用医薬品) 市場概況」を公表した。それによると、2024年5月度のOTC市場は前年比103.8%。5年指数は112.6で、過去5年間で最も高い実績となった。外用鎮痛消炎剤や目薬などが前年を上回った。


【財政審】セルフメディケーション推進を明記/「春の建議」

【財政審】セルフメディケーション推進を明記/「春の建議」

【2024.05.21配信】財務省の財政制度等審議会が5月21日に開かれ、“春の建議”となる「我が国の財政運営の進むべき方向」を公表した。その中でセルフメディケーション推進を明記した。医薬品のスイッチ OTC 化を進め、薬局で自ら購入できる医薬品の選択肢を増やしていく必要があるとしたほか、セルフメディケーション推進と整合的な保険給付範囲の見直しとして、「OTC 類似薬に関する薬剤の自己負担の在り方について、保険外併用療養費制度の柔軟な活用・拡大とあわせて検討すべきである」とした。


【規制改革推進会議WG】スイッチOTC促進議論/令和8年末までOTC化目指す成分リスト公開

【規制改革推進会議WG】スイッチOTC促進議論/令和8年末までOTC化目指す成分リスト公開

【2024.03.29配信】内閣府規制改革推進会議「健康・医療・介護ワーキング・グループ」(WG)が3月28日に開かれ、スイッチOTCの促進について議論された。


【ヘルスケア卸_大木】健康サポート薬局“48薬効”への考え示す

【ヘルスケア卸_大木】健康サポート薬局“48薬効”への考え示す

【2024.02.07配信】ヘルスケア卸大手の大木ヘルスケアホールディングス(松井秀正社長)は2月7日に会見を開き、健康サポート薬局の要件に定められているOTC医薬品“48薬効”に関する取り組みの考え方を話した。


【規制改革中間答申】スイッチOTC化加速を明記/複数国でOTC化された成分「原則3年以内」

【規制改革中間答申】スイッチOTC化加速を明記/複数国でOTC化された成分「原則3年以内」

【20232.12.26配信】内閣府は12月26日、規制改革推進会議と国家戦略特別特区諮問会議合同会議を開催し、規制改革推進に関する中間答申をまとめた。


最新の投稿


【厚労省】“研究用”抗原検査キット、薬機法で取り締まりの方向/該当性判断の上

【厚労省】“研究用”抗原検査キット、薬機法で取り締まりの方向/該当性判断の上

【2024.07.25配信】厚生労働省は7月25日に「厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会」を開催し、体外診断用医薬品の特性を踏まえた制度の見直しについて議論した。その中で「研究等の医療以外の用途を標榜する試薬の提供業者への対応」を議題とした。


【日薬】オーバードーズ問題でマニュアル作成を検討中

【日薬】オーバードーズ問題でマニュアル作成を検討中

【2024.07.24配信】日本薬剤師会は7月24日、都道府県会長協議会を開催した。


【厚労省】処方箋保存期間の検討を提示/薬局検討会

【厚労省】処方箋保存期間の検討を提示/薬局検討会

【2024.07.19配信】厚生労働省は、現在3年間となっている処方箋の保存期間について見直す方針を示した。「第7回薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」で提示した。診療録の保存期間が5年となっている中、電子処方箋については処方箋を調剤済みとなった日から5年間保存するサービスを提供しているなどの環境変化を挙げている。今後、制度部会で議題とする方針。


【コンソーシアム】大阪市から調剤外部委託で4社8薬局が確認通知受領を公表

【コンソーシアム】大阪市から調剤外部委託で4社8薬局が確認通知受領を公表

【2024.07.19配信】薬局DX推進コンソーシアムは7月19日、大阪市から調剤業務一部委託事業の確認通知を受け取ったと公表した。


【日本保険薬局協会】健康サポート薬局と地域連携薬局「違いない」/厚労省検討会に意見書

【日本保険薬局協会】健康サポート薬局と地域連携薬局「違いない」/厚労省検討会に意見書

【2024.07.19配信】日本保険薬局協会は7月19日に開かれた厚労省「第7回 薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」で意見書を提出した。「健康サポート薬局、地域連携薬局、地域支援体制加算届出薬局が描く薬局像は、小異こそあれ、分立させるほどの違いはない」とした。


ランキング


>>総合人気ランキング