厚労省は昨年12月24日に中間とりまとめの案を議論していた。
議論の詳細は以下の当メディア記事を参照いただきたい。
https://www.dgs-on-line.com/articles/620
記事にも記載している通り、日本医師会常任理事の長島公之氏から「医師の管理下での処方で長期間状態が安定しており、対処方法が確定していて自己による服薬管理が可能な医薬品等」に関して、「自覚症状がないものに使用する医薬品については、スイッチ OTC 化すべきではないとの意見もあったと記載してほしい」との要望があった。これに座長の笠貫 宏氏(早稲田大学特命教授 医療レギュラトリーサイエンス研究所顧問)が、意見としての記載は了承する意向を示していた。
こうした議論の結果、「中間とりまとめ」に、慎重意見が併記された格好だ。
また、「スイッチOTC化の適切性は個別の成分毎に議論されるものであるが」という文言が追加された。この文言のあとには、もともとあった「どのような薬効群の医薬品がスイッチ OTC 化の対象となるのか、その具体的な条件については、各ステークホルダーの連携等の更なる環境の整備の状況も踏まえつつ、個別の成分の議論等を通じて、今後も議論が進められる必要がある」との文章が続く。
意見としての記載であるため、上記の考え方が最終的に否定されたわけではないといえる。基本的には個別の成分の議論となるため、薬食審での議論が展開されることになりそうだ。
上記の変更点が、前回の「中間とりまとめ案」から「中間とりまとめ」までの主な変更点だ。
***************
改めて「中間とりまとめ」の意義を考察してみたい。
まず重要な点は、「医師の管理下での処方で長期間状態が安定しており、対処方法が確定していて自己による服薬管理が可能な医薬品等」のスイッチの扉が閉ざされなかった点である。
これは表現を変えると慢性的な症状と受け止めることができ、産業界が生活習慣に関連する症状を想定していると考えられる。
このカテゴリーのスイッチにあたって焦点となるのが「自覚症状」の有無である。
例えば、日本チェーンドラッグストア協会がスイッチ化を優先的に要望しているもののうち、片頭痛薬「イミグラン」やアレルギー性結膜炎薬「パタノール」、吐き気改善薬「ナウゼリン」、胃潰瘍薬であるPPI「オメプラゾン」「オメプラール」などは自覚症状のあるものといえるのではないだろうか。一方、食後過血糖改善薬「ベイスン」などは、どのように自覚症状を定義するかは難しい面もあるように思える。
また、こうした成分が議論される前提として示されているのが、薬剤師等の知識習得やセルフチェックシート・お薬手帳の活用、医師と薬剤師等の情報共有という位置づけとなる。
スイッチOTC促進は製薬企業だけで進められるものではなく、販売を担う薬局・ドラッグストアの“本気度”も問われるだろう。
慢性的な症状のスイッチ化が正しいのか、重症化をもたらすのではないかとの議論は常につきまとう。しかし、現状でも未受診者、受診離脱者は一定数いると考えられ、こうした層に薬局やドラッグストアからもアプローチができる手段が増えるととらえれば社会的意義は大きいのではないだろうか。
医師か、薬剤師か、の議論ではなく、一定の条件の下で、生活者がアクセスしやすい環境整備が理想的だ。そのためには、要指導薬固定条件でのスイッチや、販売条件を逸脱した店舗は一定の期間の販売停止など、厳正な条件を設けることも一案ではないだろうか。特に医療リソースの限られる地域では、こうしたスイッチによって生活者のQOL改善に貢献したいとの意欲を持つ薬局・ドラッグストアは少なくない。一部の不適切販売によって、全体の機会が奪われるのは社会にとって好ましいことなのかどうか。
少子高齢化の進むわが国で、スイッチの健全な在り方はどのようにあるべきか。前例にとらわれない新しい制度の枠組みも期待したい。

【スイッチ検討会議中間とりまとめ】「自覚症状のないスイッチ」への慎重意見併記
【2021.02.10配信】厚生労働省は、「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」の「中間とりまとめを」公表した。焦点であった「医師の管理下での処方で長期間状態が安定しており、対処方法が確定していて自己による服薬管理が可能な医薬品等」に関しては、「自覚症状がないものに使用する医薬品については、スイッチ OTC 化すべきではないとの意見もあった」との慎重意見が併記となった。
関連する投稿
【ドラッグストア協会】セルメ税制、「OTC薬協とタッグ組み推進を決定」/店頭のデータに基づく資料提示予定
【2025.01.30配信】日本チェーンドラッグストア協会は1月30日に会見を開き、セルフメディケーション税制に関して、日本OTC医薬品協会とタッグを組んで推進することを決めたと説明した。
【2025.01.15配信】日本OTC医薬品協会は1月15日、小学校向けに「健康とくすり」の出前授業を行ったと公表した。
【東京都薬剤師会】要指導薬などの取扱店が増加/自主点検で判明
【2025.01.10配信】東京都薬剤師会は1月10日に定例会見を開いた。この中で、会員薬局において要指導薬・一般用薬の取り扱い薬局が増加していることがわかった。薬局へのセルフメディケーションにおける役割が注目されていることなどが影響しているとみられる。
【セルフケア・セルメ有識者検討会】「推進に関する工程表」令和7年夏に公表へ/進捗を管理
【2025.01.08配信】厚生労働省は1月8日、「第1回セルフケア・セルフメディケーション推進に関する有識者検討会」を開いた。今後、推進に関する工程表を作成し、進捗を管理する方針。
【厚労省】セルフケア・セルメ推進検討会を来年1月に開催/ほぼ4年ぶり
【2024.12.25配信】厚生労働省は2025年1月8日に、「セルフケア・セルフメディケーション推進に関する有識者検討会」を開く。
最新の投稿
【東京都薬剤師会】緊急避妊薬調査事業、協力医療機関数が250に
【2025.02.07配信】東京都薬剤師会は2月7日に定例会見を開いた。この中で、緊急避妊薬販売にかかる環境整備のためのモデル的調査事業の協力医療機関リストを公開した。250の医療機関から協力を得た。
【2025.02.05配信】日本総研は2月5日、レポート「医薬品『零売』規制の妥当性を問う」を公表した。「処方箋医薬品以外の医薬品はOTC医薬品として薬局で薬剤師が堂々と販売できるようにする」ことが求められているとしている。
【リフィル処方箋動向】2024年6月に最高値/日本システム技術の調査
【2025.02.05配信】日本システム技術は2月4日、リフィル処方箋の普及状況に関する調査結果を公表した。それによると、診療報酬改定が施行された2024年6月に医科のリフィル処方率が向上、過去最高となった。改定などの各施策に一定の効果があったことが考えられるとしている。
【日本薬剤師会】第1回「大学教員薬剤師部会」全国会議開催/3月10日に
【2025.02.04配信】日本薬剤師会は2月4日に定例会見を開いた。この中で第1回「大学教員薬剤師部会」全国会議を3月10日に開催すると報告した。
【大正製薬】4月から値上げ/10~20%アップ/目薬「アイリス」シリーズで
【2025.02.03配信】大正製薬株式会社(本社東京都豊島区、上原茂社長)は、2025年4月1日出荷分から一部製品の希望小売価格を改定すると公表した。