入り口に並ぶ「店頭商材」が様変わり
ドラッグストア店員(医薬品登録販売者)の梨本です。
コロナ流行から10カ月。今、ドラッグストアに大きな変化が起きている。
店頭商材の変化だ。
店頭商材とは店の入り口やその付近にならぶ商品のこと。お客様の入店のきっかけをつくる場所であり、並べる商品によって来客数が左右するといっても過言ではない。
いわば、お店とお客様のファーストコンタクトの場である。
商品を店頭に並べるとき、大きなポイントは4つある。
『お買い得価格であること・売れ筋品であること・話題品や限定品であること・色んなジャンルの商品があること』
お得感があればついつい買ってしまうし、売れ筋品なら集客が見込める。
話題品や限定品はトレンドや流行をいち早く演出できるし、ジャンル違いの商品を見せることでより多くの商品と出会う場を提供できる。
上記のポイントを踏まえて、コロナが起きる前はどんな商品が並んでいたか想像してみてほしい。
特大サイズの大袋お菓子、シャンプーとリンスのセット品、限定デザインがプリントされたスキンケア用品、お試し容量の洗剤…。多種多様の商品が並んでいたのを思い出してもらえただろうか。
「あれ安いから買おう」「CMでよく見るし使ってみようかな」「そうだこれ買う予定だったんだ」ーー。
どんな小さなきっかけでもいい。少しでもお店に寄ってもらえるように、当時は華やかなで活気のある店頭が多かった。
店頭に溢れた除菌剤とそのワケ
新型コロナウイルス流行後、ドラッグストアは一変した。
マスクを始めとする衛生用品の爆発的な需要増加により、一時、商品の安定供給が困難を極めた。
現在はマスクや衛生用品の入荷状況が徐々に解消してきているが、それに伴い店頭は大きく様変わりした。
コロナウイルスの影響を受け、店頭商材として衛生用品や除菌商品が並ぶようになったのは言うまでもない。大きく変わったのは店頭を占める除菌商品の割合である。
原則、店頭商材は同じジャンルの商品を陳列しない傾向にある。
同じ機能を持つ商品が複数置いてあっても、最終的に手に取ってもらえるのは一種類の場合が多いからだ。それなら異なる機能を持つ商品を展開した方が販売促進にもつながり販売点数アップの見込みも立つ。
今回の感染爆発のような混乱の中でその原則が大きく変わったのだ。
現在のドラッグストアを観察してみると、店頭スペースにはハンドソープ本体・詰め替え・特大詰め替えに続き、別のメーカーのハンドソープ・詰め替え、その隣には除菌アルコールとその詰め替え…。一面、除菌商品で埋まった光景が各地で見られるようになり、従来展開されていた話題品のコスメや限定の日用品の展開は縮小傾向となった。
店頭が除菌一色になった理由は急増した需要に何とか答えようとした結果だといえる。
コロナウイルス流行直後は全国的にアルコール除菌やハンドソープなど除菌系統の供給が不安定であった。そのため、多くの会社が一括で仕入れ、各店舗に振り分けて納品を行っていた。しかし、予想をはるかに上回る需要の増加に、国内メーカーだけでは賄いきれずドラッグストア各社が外国メーカーの仕入れも積極的に行ったのだ。そのため通常の数倍から数十倍入荷された商品がいつしか供給量が過剰になり、数多の除菌商品が店頭に並ぶことになったのだ。
徐々に複雑化する除菌製品への相談内容
除菌商品の需要増加に比例して増えたものがある。
お客様からの除菌・消毒商品の問い合わせである。
特に緊急事態宣言中は商品の供給不足が顕著であり、この時期は今手に入るもので代用しようという方からの問い合わせが非常に多かった。以下は実際に問い合わせがあった一例である。
「手の除菌にハイターを代用したいがどのくらい薄めたら使えるのか」
「燃料用アルコールを消毒に使いたいが問題ないか」
「傷口消毒薬なら毎日の消毒に使えるか」
中には本来の使い方ではない、危険を伴う方法で除菌しようとするお客様も多く、二次被害を起こさないように注意喚起を行った。
緊急事態宣言が解除され、国内外のメーカー商品が出そろい始めた頃には問い合わせも変化を見せた。
「この商品とこの商品は何が違うのか」
「これを使って本当に効果があるのか」
「口に入っても問題ない商品か」
「一番効き目があって肌に優しいものはどれか」
日に日に問い合わせが複雑化し、どうお答えしたらいいのか頭を抱えた日もあった。
こうした背景からコロナ禍において新しく求められる対応とは、除菌・消毒商品の特徴と使い分けだ。
実際に売り場に立っていて気が付いたが、今年だけで言うなら、薬や化粧品のことより消毒関係の問い合わせのほうが圧倒的に多い。
それも聞かれる年代も若い方からご年配の方まで幅広い。
このような事態が起こるまで除菌・消毒ついてしっかり向き合ったことがあるスタッフは決して多くはないはずだ。今後ドラッグストアは除菌・消毒の知識を持っているスタッフが力を発揮するステージになる。
健康を担う医薬品・美容を担うメイクに続く、第三の部門として新しい生活様式に欠かせない存在となり、ドラッグストアを牽引していくのではと注目したい。
「感染対策」が、医薬品・美容に続く、ドラッグストア成長を牽引する第三の部門になるのではないか
コロナ禍の店頭を見て思うこと
未だ終息の目途が立たない新型コロナウイルス。
その影響もあり、アルコール除菌やハンドソープは確かに売れ続けている。売れているから店頭に出し続ける、というお店もあるだろう。
しかし、どこの店も同じような商品を店頭に出し続けているのは少し寂しく感じる。
店頭とはお店の第一印象を示すものであり、時に販売戦略が見え隠れするユーモアあふれる場でもあった。
現にこの数か月、色んなお店の店頭を拝見したが、どこも代わり映えのしない品揃えで以前あった華やかさや個性がどこかへ行ってしまったように思える。
ドラッグストアは除菌屋さんになってしまったのか…とも思える激変ぶりであったが、一時期と比べ、お客様が求めていた除菌商品は安定的に出回るようになった。
そのことを考慮すると、目につくところに商品展開することで『欲しい時にいつでも買えるという安心感』を演出することがコロナ禍での新しい店頭の役割のような気がしてくる。コロナ禍で店頭も転換点を迎えているのかもしれない。
【2020.07.29配信】ドラッグストアで働く登録販売者の「梨本さん」(仮名)に、新型コロナウイルス(以下コロナ)の影響で起きたこと、感じたことをインタビューした。会社の対応には「会社も初めてのことだった」と初動の遅れに理解は示すものの、その後、現場の意見を聞く社風なのかどうかがはっきり分かり、梨本さんは他社に転職をした。労働人口減少で“人”への対策は企業の生き残りに直結する時代。しかも小売業において、店頭は情報の最前線ではないだろうか。インタビューが少しでも今後の参考になれば幸いだ。