【インタビュー】コロナで店頭スタッフが会社に望んだこと

【インタビュー】コロナで店頭スタッフが会社に望んだこと

【2020.07.29配信】ドラッグストアで働く登録販売者の「梨本さん」(仮名)に、新型コロナウイルス(以下コロナ)の影響で起きたこと、感じたことをインタビューした。会社の対応には「会社も初めてのことだった」と初動の遅れに理解は示すものの、その後、現場の意見を聞く社風なのかどうかがはっきり分かり、梨本さんは他社に転職をした。労働人口減少で“人”への対策は企業の生き残りに直結する時代。しかも小売業において、店頭は情報の最前線ではないだろうか。インタビューが少しでも今後の参考になれば幸いだ。


いつもは優しいお客さまが…

 ――まずは簡単な梨本さんのプロフィールからお願いします。

 梨本(仮名) 大学を出て、新卒でドラッグストア企業に入社しました。今は20代後半です。

 ――コロナで経験したことで、今、振り返って印象に残っていることは何ですか。

 梨本 店頭で我先に、商品を買おうというお客さまの行動ですね。普段はきついクレームの少ない店舗で、客層もよい方だと思っていました。だから、なおさら、「みんな思いやりの気持ちをなくしてしまったのかな」と、そういう面を目の当りにしたことが精神面にきましたね。

 体力的にも厳しかったです。いつもよりもお客さまの数が多くて、レジのおつり補充のランプが付くまでレジを離れることができないほどでした。普段、補充ランプまで付くことはなかったので。それぐらいレジにお客さまが並んでしまって、品出しをする時間もなくなってしまい、店頭業務がさばけなくなっていきました。

 それに加えて、ピークの時は5分に1回ほど、「マスクはあるのか?」という質問がありました。「ありません」と。そうすると、「じゃあ消毒薬はあるか?」「ありません」「じゃあハンドソープはあるか」「ありません」と。

 つまり、お客さまが期待されている商品に、ほぼすべてにお応えできないような状態だった。「ありません」と言い続けるのも精神的につらかったです。

 ――直接的に来店客からの言葉できついと感じたことは何ですか。

 梨本 これはお店での出来事ではないのですが、駅から店舗に行くまでの通勤途中に、「あなた、あの店舗の従業員よね。マスクは何時に入荷するの」と声をかけられたことです。これがずしんときました。

 プライベートな時間に声を掛けられることは、もしかしたら店頭のスタッフとしては顔を覚えていただいているという意味で喜ばしいことなのかもしれませんが、その時は、「こちらの気持ちを全く考えずに、自分のことが最優先なのだな」と感じました。そういう面を突き付けられていることが厳しかったです。

 いつもは優しいお客さまが多いのに、みなさん人が変わってしまったかのように感じました。

 ――普段来ているお客さまが変わってしまったのでしょうか、それとも、新しいお客さまが増えたことでそういったことが起きたのでしょうか。

 梨本 半々だと思います。これまで来ていただいるお客さまも、その時だけは「我先に」という風になっていましたね。

 ――店頭のクレームではいかがですか。

 梨本 「入荷の予定も未定です」とご説明したお客さまから、「こういう時にちゃんと仕入れるのがあなたたちの仕事でしょ」と言われたことが印象に残っています。

 ――いつぐらいがピークでしたか。

 梨本 2月第4週目を境に急に店頭が変わったのを覚えています。ここから2カ月ぐらいはつらい時期が続きました。

 そのあと、会社としても「マスクの早朝販売をやめます」という張り紙対応などが始まり、Twitterなどの店頭の人たちの発信を取り上げた報道などもあって、クレームは下火になっていきました。

現場の意見への会社対応がコロナで見えた

 ――2カ月間、ある意味で無策だったということだと思いますが、もっと早く対応をしてほしかったということはありますか。

 梨本 もちろん、もっと早く対応いただければとは思いますが、その半面、会社としても初めての事態だったと思うので、頑張って対応してそのタイミングだったのかなと思います。

 世界的にみても、今回の事態は想定外のことだったと思いますし、会社にも当然、マニュアルはなかったと思いますから。

 ――今回の件を通して、梨本さんは転職されていますよね。なぜですか。

 梨本 日々変わり続ける環境に対して、会社の柔軟な対応力や臨機応変さが足りないと感じたことが大きかったと思います。

 人件費を減らすと利益が増える、というのはどの会社も同じだと思います。ただ、この情勢下でも、その考えを継続しようと会社が推し進めた時に、「ああ、現場で働く人の気持ちに寄り添ってくれない会社なんだな」と。コロナで、普段は見えなかった、見ないで済んできたものが、鮮明に見えてしまったのだと思います。
 
 ――コロナに関して会社にはどんな対応をしてほしかったですか。
 
 梨本 まずは人を増やしてほしかったですね。実際に増やすことが難しくても、そういう姿勢だけでも見せてほしかったと思います。

「レジを離れることができず品出しや店舗のスタッフとのコミュニケーションが取れなくなっていった」と話す梨本さん(仮名)。接客以外の時間を持つためにも営業時間の短縮も有効な対応だったはずと話す(写真と本文は関係ありません)

対応の事例集があってもよかった

 ――メンタルヘルスの窓口をつくったらいいのに、と思っていたのですが、いかがですか。

 梨本 メンタルヘルスの窓口で助かる人もいるかもしれません。ただ、私自身は、現場とは関係していない人に相談するよりも、現場で一緒に闘っている仲間たちとコミュニケーションを取ることの方が大切だと感じていました。

 その時間もうまく取れなくなっていたので。クレームを受ける店舗のスタッフがコミュニケーションを取って、「こういう時にはこうしよう」など、意思疎通するようには心がけていました。

 ――例えば、どういう対応ですか。

 梨本 まずは謝ろうと。ただ、「お客さまも今は精神的につらい時期だから、必ずしもお店の対応が悪いわけではなくて、どこかに怒りをぶつけたい気持ちなのではないか。だから、すべてを受け止めてしまうとつらいから、そういうふうに理解して対応していきましょう」と、話していましたね。

 ――そういう対応は店舗の中で話し合ったものだと思いますが、会社からは「こういう時にはこうしよう」などの話はあったのですか。

 梨本 なかったですね。

 ――あったらよかった、と思いますか。

 梨本 おそらく、一律に「こうしよう」と対応を出すのが難しかった面もあると思います。
 ただ、「こういう時はこうする」など、具体例を例示することで会社の方針が分かると安心感が増したと思います。

 ――今も、そういった例示などはないですよね。

 梨本 ないですね。

 ――現場の声を聞く体制が必要なのではないかと思っています。アンケートを取るとか。

 梨本 以前の会社でも従業員へのアンケート調査はありました。私は率直に会社の治すべきところも記入していました。ただ、その後、その意見がどのように議論になったかなど、その後の取り扱いは全く見えなかったですね。

 現場の声にどう対応するかも、見えるとよいと思います。

 ――現場に報奨金を出した企業もありましたよね。報奨金についてはどう思いますか。

 梨本 もちろん、良いことだと思います。ただ1点、社員とパートさんで報奨金に違いがあったところもあったと聞いたので、それはどうかと思います。

 私は社員なので、それでいいとも言えますが、コロナで大変な思いをしたのは社員もパートも同じで、一緒に苦労を共有している仲間です。そこに差を付ける意味は何なのかなと、疑問を持ちます。

 もちろん、現場を支える社員の方が大変な面も多いという、会社の配慮なのかもしれませんが。でも、パートさんがいなければ店舗は回らないので。私にとってはパートさんは戦友です。

 ――「当社にはカスタマーハラスメントはなかった」とおっしゃった企業さんもいたのですが、どう思いますか。

 梨本 私にはその会社さんで実際にカスタマーハラスメントがあったか、なかったかは分かりません。もしかしたら、現場の方がとても素晴らしい対応でカスタマーハラスメントを発生させていなかったのかもしれません。

 ただ、私の感覚としては、1日に1回はそういったことはありましたので、まったくなかったというのはとても珍しいなと思います。

 ――「営業時間を短縮しても、店のローテーションが変わってしまい、必ずしも店舗スタッフの負荷軽減にならない」という意見もありましたが、どう思いますか。

 梨本 「営業時間を短縮しても負荷軽減にならない」ということはないと思います。
 例えば、スタッフの勤務時間を同じにして、店舗の営業時間だけを短縮すれば、お客さま対応の必要がない時間を品出しなどの作業に充てたり、コミュニケーションに時間に充てたりすることができると思います。

本部社員も月に1度レジ打ちしても

 ――個人的なお話になりますが、梨本さん自身はどうやってストレスを解消していましたか。
 
 梨本 経験したことのない目まぐるしい日々が続いたので、当時はうまくストレスを解消することができませんでした。

 そんな中で、一つ、「お客さんとして行列に並んでみようかな」という考えが浮かびました。
 
 お客さまの立場になって、他社のドラッグストアの早朝の行列に並んでみたら、少し気持ちが変わるかもしれないと。
 
 実際にマスクを求める行列に並び、話を聞いていると、各店のマスク販売状況をとても自慢げに列に並ぶ人に話している年配の男性がいらっしゃって。それは悪気は全くなくて、みんなのためになる情報を提供したいという感じでした。まわりの方も「こんな時は助け合おう」という雰囲気でした。
感じたのは、ここが一つのコミュニティというか、この方にとっては居場所の一つのようになっているのかもしれないなと。

 この体験からは、自分の店舗の行列を見ても、感じるプレッシャーは小さくなりました。それまでは、行列を見ると、「あんなにもマスクに期待されているけれど、応えられない」とプレッシャーに感じていたのですが、お客さまの気持ちが少し分かってからは、「そんなに切羽詰まって並んでいる方だけではなくて、もしかしたら時間があって、コミュニケーションの一つとして並んでいる方もいるのかもしれないなぁ」と少し楽に感じることができました。
 
 ――すごく面白い発想ですね。今後の対応として、何かアイデアはありますか。
 
 梨本 本部社員の方も、月に1度はレジを打ってみるといいのではないかと思っています。お客さまと直接関わることで、本部運営の糧にもなるし、成長にもつながると思います。
 
 例えばいま、レジ袋を有料化していますが、買い物バッグを持参してくれたお客さまがお会計の済んだ商品を袋に入れるのに、難儀されている風景が多くなっています。買い物袋持参を推奨するだけではなくて、それに伴うお客さまへの対応も必要になると思うのです。食品スーパーには買い物袋に入れるサッカー台がありますが、ドラッグストアはない店舗も多いと思います。サッカー台も設ける必要があるのかもしれません。

 ――分かりました。ありがとうございました。

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