スイッチOTC薬の認識向上、薬剤師の役割に期待
磯部氏は「薬局・ドラッグストアで購入できる医薬品はなるべく薬局・ドラッグストアで購入すべきとの考えについては賛同する」との考えを示した。その上で「ただしそれを進めるための政策としてOTC類似薬価収載医薬品の保険適用を除外することは必ずしもセルフケア・セルフメディケーションの推進にはつながらないと言わざるを得ない」と述べた。
理由は、まずはOTC医薬品が「選択肢」として国民に広く認識されている基盤が必須との考えがあるからだ。足下の状況は、協会とシンクタンクが共同で行った調査で認知度は3割しかない。具体的にはホワイトヘルスケア社と共同で、花粉症薬を保険診療で処方・調剤されている患者に対してスイッチOTC現物を送付する調査を実施、「処方された花粉症医薬品と同一有効成分のお薬である」と認識している人は、約30%しかいなかった。
こうした状況の中では、磯部氏はまずは認識の醸成を行うべき段階との立場だ。「どのOTC医薬品が該当するか、政府として周知を行い、OTC薬が患者の選択肢としてあることの認知を醸成する必要がある。また、この周知には薬剤師の方々の役割発揮が欠かせないと思っている」(磯部理事長)とした。
協会でも推進策を模索、“トリアージ”盛り込んだ「ガイド」作成
他方、セルフケア・セルフメディケーション推進の環境整備については、OTC薬協でも尽力してきた。緊急性のある症状を見逃すとの指摘に対しては、使用者対象者の設定や使用期間の考慮、また“トリアージ”によって感知することで、できる限り最小化する考えで施策を検討。実際に協会が将来的に目指す降圧剤のスイッチ化においても、協会は併発疾患のない人や服薬がしっかりできている人など使用者を比較的ヘルスリテラシーの高い人に限定するとの考えを表明している。使用期間についても1カ月、3カ月と、状態が不安定になっていないかを確認しながら進めるフローを提案している。
また、直近で最大の注目を集めた胃酸の分泌を抑制するプロトンポンプ阻害薬(PPI)のスイッチ化においては、「胃のお悩み症状ガイド案」を協会としても提示。その中で「突然起こった激しい痛み」や「冷や汗やのどの詰まった感じを伴う」といったチェックリストを作成、心筋梗塞などの緊急性を伴う症状に気づく工程を設けている。
加えて、協会はセルフメディケーション税制の基準ともなっている毎年の定期健診受診などの取り組みを推進することも提唱。「こうしたことがセルフメディケーションの基本。そういうことをきちんと取り組んでいかないと適切なセルフメディケーションとは言えないと考えている。我々は適切なセルフメディケーションの推進をしなければ、将来的にはOTC医薬品そのものの価値が毀損するリスクすらあると思っている」(磯部氏)。
「OTC薬は高い問題」、OTC薬の販売価格を調査
セルフメディケーション推進の環境整備にはほかにもいくつもの課題が指摘されているところ。そのうちの1つに「OTC薬は高いのではないか」という指摘だ。そこで、協会ではインテージ社に委託してOTC医薬品の価格帯を調査。
その結果、医療用成分を転用したスイッチ成分の解熱鎮痛薬では1箱平均単価は964円だった。最頻価格帯は500〜999円で、54.0%だった。また内服アレルギー用薬では平均単価は1275円。最頻価格帯は500~999円で45.4%だった。磯部氏は自由経済のOTC薬では高すぎると感じられれば購入してもらえないという当然の原理が働くため、「そんなに高い価格帯ではないのではないか」とし、使用者に受け入れられる価格帯ではないかとの感触を示した。
スイッチOTC“お試し”使用で次回からの購入意欲が向上
OTC薬の「選択肢」としての認知向上策として、前述のホワイトヘルスケアとの共同調査で行ったOTC薬の現物送付も有効とみている。
この調査は健康保険組合と協働するもので、2025年1月31日から2月3日にかけて健保から該当スイッチOTC薬を2151人に送付した。その結果、アンケートに回答した468人のうち、送付したスイッチOTC薬が花粉症薬であることを知っていた人は76.9%と比較的高かったが、送付したOTC薬と処方薬が同一有効成分であることを認識している人は約3割にとどまった。また過半が効果を感じており、「今後は送付されたOTC薬の購入使用と考えている」人は37.1%となった。
磯部氏は、3割にとどまった認知度を向上していく施策が必要であるとするとともに、送付のような“お試し”使用について効果のある施策だとの認識を示した。
「花粉症の薬は医療機関で処方してもらうものであり、それと同一成分同一含量のOTCがあり、それで代替できるとは思っていないといった生活者の固定観念があるのではないか」と指摘した。こうした理解浸透はジェネリック医薬品の普及促進の際にも必須となっていたとし、ジェネリック医薬品と同様にスイッチOTC薬の理解浸透には薬剤師の役割が欠かせないと語った。
理解浸透していない段階での施策導入は「手戻り」の可能性
このように協会で環境整備が十分ではないと認識する中で、強引にOTC類似薬の保険適用除外を導入した場合はどうなるのか。磯部氏は、自身の政策立案を担った行政の経験からも「手戻りする可能性がある」と指摘する。「認知度3割の現状で導入施策では必ずしもない。導入しても手戻りしてしまう可能性があると思っている。まずは“選択肢”があることの生活者意識の醸成を進めるべき」とした。