「特に、薬局を倒産させてしまったつらい経験のある大学教員は希少だと思うんです、たぶん、いないのではないでしょうか」――。
聞いている方がドキッとしてしまう発言なのだが、くったくなく、そう言い切ってしまう嫌味のなさが山浦氏のキャラクターだ。そんな豊富な経験が薬剤師会役員候補としても目にとまった背景ではないかと指摘する。
「自分でもその大変さを経験したので、日薬役員にもいらっしゃる薬局を経営されている方はリスペクトしたくなります」と続ける。
千葉大学薬学部を卒業後、メーカーの創薬研究所に勤務。その後、薬局経営に関心を持ち、開局するも、うまくいかなかった。薬局を閉じてからは大手薬局、CROの臨床開発モニターなどに従事。新薬が生み出される“出口”に近い治験などに関わる業務には非常にやりがいを感じていたが、恩師の勧めもあり、平成21年から大学で教員を務めることになる。
現在は慶應義塾大学薬学部の教授であり、薬学部構内にある附属薬局の薬局長を兼務している。教員の仕事は、これまでの自分の経験全てを学生に還元できるとも考えている。
研究者としては、服薬フォローアップの有用性などをテーマとして手掛ける。
最近、力を入れている領域としては、口腔ケアと薬剤師の関わりがある。
「口渇や口内炎、歯肉肥厚、顎骨壊死、嚥下障害など、口の中に悪影響をもたらす薬剤は意外に多い。また歯科医の方は薬剤師の専門性に理解のある方も多い。薬剤師が口の中の健康に関わる中で、健康な口、栄養状態、健康寿命に貢献できる」と考える。日本口腔ケア学会では薬剤師部会の部会長を務めている。
厚労科研では、健康サポート薬局の有用性について介入研究の代表を務めている。これからも薬局薬剤師の仕事を国民に理解してもらえることにつながる研究を続けたいとする。
日薬の役員としての役回りについては、「実際の臨床現場と教育現場が乖離していてはいけない。そこをつなぐ役割は、両方をある程度知っている人が必要なのではないか」とし、橋渡し役、双方への“翻訳者”の存在になれればとする。教育現場が優秀な人材を輩出することが薬剤師の将来に直結することも、いうまでもない。
時々、日薬が独自で会員にアンケートをとって解析、公表する時もある。そんな時にも調査設計や解析に一役買えるのではと水を向けると、「調査研究もけっこう手掛けているので、そういったところでも貢献できれば」とする。
日薬の委員会ではドンピシャ、「薬学教育委員会」や「臨床・疫学研究推進委員会」などを担当する。好きな言葉は「忘己利他」。社会貢献など他人のために尽くすことで自分も磨かれるという考えだ。
研究者・教育者としてだけでなく、分け隔てない接し方という山浦氏のキャラクターは、円滑な委員会活動を実現してくれそうだと感じる。
【山浦克典氏 略歴】
(やまうら・かつのり) [東京] 58歳 ※年齢は2024年6月14日時点
平成1年 3月 千葉大学薬学部総合薬品科学科卒業
平成 3年 3月 千葉大学大学院薬学研究科博士前期課程修了
平成1 4年 3月 千葉大学大学院薬学研究科博士後期課程修了
平成 3年 (株)ツムラ 創薬研究所
平成 9年 4月 東京・埼玉・茨城の保険薬局管理薬剤師・開設者など
平成17年 1月 圏央入間クリニック埼玉PET 画像診断センター薬剤 部長
平成18年12月 富士バイオメディックス臨床 CRO部門サブマネージャー
平成21年 1月 千葉大学大学院薬学研究院講師、准教授
平成27年 4月〜現在 慶應義塾大学薬学部教授・附属薬局長
<薬剤師会役員歴>
令和5年 7月~現在 東京都薬剤師会代議員