32歳で日薬の理事入りした日髙氏。理事の中で最も若い。しかし、日髙氏は“若い”だけではない。活発な活動は業界紙記者の中ではすでに広く知られていたし、薬剤師・薬局の歴史を知ろうとする強い思いから、元日薬会長の佐谷圭一氏と対話を重ねてきたほか、各地の薬剤師会にも現地まで足を運んできた。
今回の取材中にも、日髙氏の見識の高さをうかがわせる瞬間があった。それはAmazonファーマシーに関する見解を聞いた時だ。日髙氏は「何のテーマでもそうだが、いつも念頭に置いている観点は、20年後の社会にそれはどういう影響をもたらすのかということだ」と指摘。Amazonファーマシーに関しては実際にどのような取り組みが展開されるかをまずは正確に知る必要があると前置きしつつも、「利便性は高まるが、国民全体の健康へのリスクと天秤にかけて検討する必要がある。そこには専門家である薬剤師が関わらないといけない」と語った。
とかく既存の薬局との対立構造として語られがちなこの問題。しかし本質的には国民の健康を維持・増進する職務のある薬剤師が、専門的観点から検証・提起することがまず最初にくるべきだろう。日本の国民の健康を守るのは国家の責任でもあり、その責任を果たすために設けられた国家資格の1つが薬剤師であるからだ。そう水を向けると、日髙氏は「日本国憲法第25条の第2項、国は、すべての生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない、ですね。それに基づき薬剤師法があるといえます」と即座に回答。薬剤師としての立脚点を正確に捉えている印象だ。
北里大学薬学部を卒業後、千葉薬品に入社。在宅医療に関わってきた。在学中にがんで自身の母を看取った経験が「薬剤師としてできることがたくさんある」という実感にもつながった。そして、在宅医療に関わる中で「その人らしい最期」に関わるために、制度が課題になっていることも経験。「どうしたら現場の声を政策に届けることができるのか」に関心を持つようになった。
薬剤師の地域への貢献の広がりを、学問的な側面からもエビデンスを持って証明したいと考える。千葉薬品を退社後に大学院へ入り、公衆衛生学の領域でMPH(Master of Public Health)を取得。現在も慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室HTA公的分析研究室の研究員を続けており、今後はPh.D(Doctor of Philosophy=博士号)取得を目指している。
プライベートでは同じ薬学部出身で、製薬企業の開発に携わる女性と2022年に結婚。高い志も、夫人の理解と支えがあってのことだと、ここは照れ笑いを見せる。
薬剤師会での役員歴などはない。しかし、若いがゆえに持っている中長期的な薬剤師の未来像への関心の高さは、日薬にも何らかの化学反応をもたらしてくれるのではないか。
【日髙玲於氏 略歴】
(ひだか・れお)[東京、32歳]※年齢は2024年6月14日時点
平成28年 7月 北里大学薬学部卒業
平成30年 4月(株)千葉薬品入社
平成31年 3月(株)フロンティアファーマシー出向
令和 6年 3月 慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科修士課程修了
令和 6年 5月~現在 慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室HTA公的分析研究室特任研究員
<薬剤師会役員歴>
なし