“共用薬”は、日本薬剤師会が政策提言に「医療用一般用共用医薬品(仮称)類型の創設」として掲げているもので、以下のように説明されている。
・地域住民が医薬品をより活用しやすくするため、医師と薬剤師の両者で対応することができる一般用医薬品(OTC医薬品)の新たな類型(「医療用一般用共用医薬品」(仮称))を創設する。
• 医師による処方箋の交付(薬局において調剤)、または、薬局での販売(薬剤師による販売)のいずれも可能とする。
• 医療用医薬品を処方箋なしで販売する、いわゆる「零売」とは異なる、新たな仕組み。
さらなる具体内容や実現可能性等については、中長期的視野・視点も含め、引き続き検討を行っていくものとしている。
厚労省「医薬品の販売制度に関する検討会」では、医薬品の区分の在り方に関して議論されたが、“共用薬”の議論の深まりは少ないようにみえた。
以下、今後の少なからずの議論の参考になるよう、ドイツにおけるOTC医薬品の“処方”について取材した。
ドイツでは通常の処方箋はピンク色だが、患者の治療に必要でも保険償還しないOTC医薬品を処方箋に書き込むには緑色の処方箋
ドイツでは通常の処方箋はピンク色だが、患者の治療に必要でも保険償還しないOTC医薬品を処方箋に書き込むには緑色の処方箋が用いられるという。
これにより、この処方箋に書かれた医薬品はOTC薬の処方であり、患者の自己負担となることがわかりやすい。
この時、患者に手渡されるのはOTC薬のカテゴリーの医薬品であり、日本でいう医療用医薬品ではない。医療用は価格に国が介入しているため、医療用で安く仕入れ、OTC薬として利益をのせて販売することを防止するためだという。
色分けされたドイツの処方箋(アッセンハイマー慶子氏提供)。
治療上、医師が保険償還されないOTC医薬品の購入を成人に勧める場合は、 緑色の処方箋を使用(右上)
ドイツで高まるOTC薬の相談販売需要
ドイツにおけるOTC薬の相談販売需要は高まっているといい、その背景が2004年以後、成人に処方されたOTC薬が保険から除外されたことだという。それまではOTC薬といえども処方された場合は保険対象だった。
市民は「どうせ自費なら最初から薬局に行った方が早いのでは」との感覚を持ったことが要因として挙げられる。このあたりは日本でも今回の改定の大臣折衝でも、「市販品類似の医薬品の保険給付の在り方の見直し」について引き続き検討を行う旨が記載されており、変化が起きる可能性はありそうだ。なお、ドイツでは12歳未満や未成年で障害があるなどの条件にあてはまる人、特定の薬剤については処方OTC薬でも保険対応される。
一方、当然のことながら、OTC薬を取り巻く環境はドイツと日本では大きく異なる。ドイツでは、医師への報酬が出来高ではなく包括。医師も多くの患者を複数回診ることに積極的ではなく、予約がないと患者は診察までに数時間も待たされることがあるという。
加えて地理的・規模に関わらず卸から薬局には1日数回の配送があることで、薬局が小包装納品を含めOTC薬を取り扱いやすい環境にもなっていることが挙げられる。この卸は医療用・OTC薬が統合されており、のど飴にいたるまでの薬局で取り扱うべき品目を揃えているという。
メーカーによってはOTCと医療用が分かれているわけではなく、新薬を保有していたオリジナルメーカーがオリジナルOTC薬を販売、またGEメーカーも後発OTC薬を揃えているという。医療用薬の利益は国の介入がきつくなっているため、メーカーはOTC薬で補完している側面があるという。
アッセンハイマー慶子氏は、「薬局・薬剤師の機能の議論も必要だが、基本的な医薬品の安全で安定的な供給を支えるため物流を含めた環境改善も必要なのではないか。有事の備蓄拠点になる薬局のためにも重要だ」と指摘する。
アッセンハイマー慶子氏
ドイツの薬局「セントラル薬局」開設者。
1986年神戸女子薬科大学(現・神戸薬科大学)卒業、薬剤師資格取得。ドイツ・チュービンゲン大学薬学部大学院入学。1989年ドイツ薬剤師資格取得。1991年大学院卒業。1992年日系製薬企業に現地採用され、勤務ののち、セントラル薬局開設、現在に至る。一般社団法人日本コミュニティファーマシー協会理事(現任)