【日本薬剤師会・山本信夫会長】規制改革に「薬剤師の総力を結集して、理不尽な要求に対抗していかなくてはならない」

【日本薬剤師会・山本信夫会長】規制改革に「薬剤師の総力を結集して、理不尽な要求に対抗していかなくてはならない」

【2023.03.13配信】日本薬剤師会は3月11・12日の両日、第101回臨時総会を開いた。この中の会長演述の中で、会長の山本信夫氏は、調剤業務の一部外部委託や訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の対象範囲の拡大を求めている規制改革の要望に対して、薬剤師は「国民が安全に医薬品を提供できる環境を確保する、いわば“提供義務”を担う」として、「その責務が揺るがぬよう、会員をはじめ日本中の薬剤師の総力を結集して、理不尽な要求に対抗していかなくてはならない」との考えを示した。


「ビヨンドコロナの環境では、薬局、薬剤師の担う役割はこれまで以上に大きくなる」

 山本会長が文書で公開した会長演述の内容は以下の通り。

■第101回臨時総会 会長演述

日本薬剤師会会長 山本信夫

 日本薬剤師会第101回臨時総会の開催にあたり、一言申し述べさせて頂きます。

 さて、本年2月6日、 トルコ・シリア国境付近で発生した、マグニチュード 7.6の地震とそれに続く大規模な余震により被災された地域では、なお救出活動が継続中で、被害の全容についてはいまだ不明と報道されています。
 我が国に未曾有の甚大な被害をもたらした「東日本大震災」から 12 年を経過した今日でも、 我々の記憶に鮮明に残る当時の惨状を思うと、 被災地でなお余震に怯えながら、 厳寒下での避難生活を強いられているトルコ・シリアの皆様に対して、心よりお見舞いを申し上げます。
 日本薬剤師会では国際薬剤師・薬学連合 (FIP) の呼びかけなどを踏まえ、義援金を募ることに致しました。 是非、皆様のご理解とご協力をお願いいたします。


 また、2020年1月、国内初の新型コロナ患者が確認されて以降、丸3年が経過しました。 その間、同年2月には横浜港に向かうクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号船内での集団感染が確認され、神奈川県薬剤師会・東京都薬剤師会皆様のご協力で、 寄港後の医薬品提供体制が維持できました。 しかし、これが100年前に我が国も巻き込まれたスペイン風邪と同様の世界的パンデミックの始まりとは、誰もが夢想だにできなかったことと思います。 そ以降、 本年初頭まで、8波に及ぶ感染拡大を繰り返す3年間でありましたが、その間、各地域の薬局で働く薬剤師並びに医療機関に勤務する薬剤師は、地域薬剤師会等と連携・協力し、ワクチン接種会場での薬液の希釈・充填や予診のサポート、接種後の経過観察等の支援を行いました。 また、国民に向けてワクチンの正しい知識を得てもらうための説明を、 薬局・薬剤師、都道府県・地域薬剤師会は積極的に行いました。 直接ワクチン接種を行うことはありませんでしたが、円滑な接種体制の構築や公衆衛生の向上に協力してまいりました。さらには、自宅療養等の患者に対する継続的な医薬品提供体制の維持・確保に加えて、 OTC医薬品・抗原定性検査キット等の適切な販売など、薬剤師ならではの貢献が出来たものと改めて御礼を申し上げます。
 まもなく、国はコロナ以前と同様の生活を回復すべく、 5月8日をもって、これまでの様々な行動規制を緩和する方針を示しました。 ポストコロナ・アフターコロナ・ビヨンドコロナの環境にあっては、薬局、薬剤師の担う役割はこれまで以上に大きくなります。 地域への医薬品提供体制に混乱が生じないよう、適切な対応が求められるものと思います。

「電子処方箋で単なるデジタル化やデジタライゼーションにとどまらない真の意味での医療 DXへ向けて大きな一歩が踏み出された」


 一方で今回のコロナ禍は、社会全体でのICTの活用を急速に進展させた側面も持ち合わせます。 この大きな変化の中で、 本年1月26日から全国で電子処方箋の社会実装が開始されました。 本年4月から義務化される「オンライン資格確認システム」と相まって、単なるデジタル化やデジタライゼーションにとどまらない真の意味での医療 DX へ向けて大きな一歩が踏み出されたものと理解しています。 これまで長い間、 紙媒体のみを真正な処方箋原本として運用してきた我が国においては、 驚天動地の大きな変革と思いますが、その反面、適切なICTの活用を 国民患者にとって望ましい方向に進めてゆく責任が、 医療関係者に同時に課せられたものと思います。
 ただし、本来の目的を見失わないように電子処方箋を推進していくためには、 十分なシステム環境の構築や意識の醸成をしていく必要があります。 加えて、昨年2月 24 日に勃発したロシアによるウクライナ侵攻の影響で、電子処方箋の的確な運用に不可欠な薬剤師資格証に必要なICチップを搭載したカードの供給不足もあり、 期待される機能を十二分に発揮するためには、しばらくの時間的猶予も必要です。 HPKI カードの発行に責任を持つ本会では、カードの発行を急ぐと同時に、セカンドキーの発行・活用による電子処方の円滑な運用に向けて対応を進めています。


 一方、令和3年6月に取りまとめられた 「薬剤師の養成及び資質向上に関する検討会」の報告書を受けて、文部科学省の「薬学人材養成の在り方に関する検討会」から、「地域事情を踏まえて」との付言つきではありますが、明確に「薬学部定員抑制」の方向性が示されました。 本会ではこれまでも、薬剤師の資質確保の観点から、薬学部・薬科大学の定員の抑制を進言してきましたが、令和6年度からスタートする新たな薬学教育モデルコア・カリキコラムが確実に実行され、また、今回の文科省の提言を受けて適切に定員の抑制が行われれば、社会から求められる資質を有する薬剤師の輩出が実現できるものと思います。 本会としては、関連する様々な検討会等を通じて、その実効性について注視していきたいと考えています。

規制改革、「薬剤師の責務が揺るがぬよう、会員をはじめ日本中の薬剤師の総力を結集して、理不尽な要求に対抗していかなくてはならない」

 また、10数年に亘り衰えることがない規制改革の圧力は、さらにその度合いを強めています。
  昨年秋からは、患者の利便性向上と対人業務の充実等を謳い文句に、調剤業務の一部外部委託を可能とするよう求めたり、夜間における医薬品の迅速な提供を容易にすることを論拠として、訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の対象範囲の拡大を求めるなど、 今や規制改革とは程遠い内容となっており、社会秩序の破壊行為と見紛うほどです。
 現代の医療において欠かすことのできない医薬品を過不足なく提供することに責任を持ち、国民が安全に医薬品を提供できる環境を確保する、いわば「提供義務」を担う薬剤師として、その責務が揺るがぬよう、会員をはじめ日本中の薬剤師の総力を結集して、理不尽な要求に対抗していかなくてはなりません。

「医療費の薬価依存型にも似た“中間年薬価改定” には、“四大臣合意”に示された基本原則に則るよう、主張していく」

 さらに、本年4月にはいわゆる中間年薬価改定が行われ、それに伴い診療報酬も一部改定されます。 本来は、 2016年の四大臣合意に基づき、 「薬価と実勢価に著しい乖離がある医薬品については適切に改定を行う」べきですが、それにも関わらず、2021年度の薬価中間年改定は、平均乖離率を下回る乖離幅の医薬品にまで改定が及び、医療機関・薬局が受けた備蓄医薬品に係る経営的な負担は甚大です。
 本会は国政に対してその改善を求め、日本薬剤師連盟の協力を得て精力的に実態の説明を行いました。その結果、2023年度薬価中間年改定では、新薬創出等加算対象品目と不採算品再算定対象品目については薬価が維持されたものの、改定の対象範囲は平均乖離率 0.675倍とされたため、約半数が引き下げの対象とされました。
 本会では、医療にける医薬品の重要性を踏まえ、イノベーションの促進を図る観点から、医療費の薬価依存型にも似た「中間年薬価改定」 については、「四大臣合意」に示された基本原則に則るよう、主張していく所存です。

 さて、2024年は医療・介護・障害福祉サービス報酬のトリプル改定に加えて、第8次医療計画の作成指針等が国より都道府県に示され、それに基づい各都道府県での医療計画作成作業が開始されます。 約2年に及ぶ国の検討会では、「薬剤師の確保」 がこれまでになく取り上げられました。 「5疾病・事業及び在宅医療」の各分野に新たに盛り込まれる見込みの「薬剤師の確保」や「薬局の活用」について、具体的な計画作成段階で落とされることがないよう、緊密な連携体制のもと都道府県薬剤師会の活動を支援してまいります。

医薬分業、「この半世紀は、先達が思い描き、望んだ姿や役割が正しく発揮できているのだろうか?と自問自答する50年だった」

 1974年 (昭和49年)、 我が国は画期的な政策転換を行いました。 それが、我々が100年間待ち望んだ、 外来患者の投薬に対して院外処方箋をもって対応する、 医薬分業をこの国の方針と定めたことです。
 それから半世紀が経過しました。 処方箋の発行と応需という、諸外国とりわけ欧州の原則からする幾分変わった形でスタートした我が国ですが、 すでに外来患者の院外処方の利用率は70%を大きく超え、1974年、分業元年と呼ばれる時代に想定した状況に達しています。 しかしながら、その出来上がった姿はどうでしょうか?  この半世紀は、先達が思い描き、望んだ姿や役割が「正しく発揮できているのだろうか?」という自問自答を繰り返す 50年でもあったと思います。
 
 「処方箋調剤という限定的な範囲ではなく、医薬品をいかに円滑に、 適切に過不足なく提供できる体制をこの国に構築することが、グローバルな基準に照らした医薬分業ではないのか?」、 「そのために、 2019年に薬機法・薬剤師法が改正されたのではないか?」 など、 昨今の薬剤師・薬局への社会からの指摘を受けるたびに、こうした疑問が湧き起こってきます。

 長い闘争の歴史を経て獲得した現状に対して、自らの経験にのみ頼ることなく、歴史を振り返りながら、薬剤師・薬局の真の在り様を模索し、国民・患者から期待され頼られる薬局・薬剤師を目指し、会務を進めて参る所存であることを申し上げ、 会長演述といたします。

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