【緊急避妊薬のスイッチOTC化検討会】薬剤師の説明要する「BPC」創設も論点に/次回、パブコメ原案を提示へ

【緊急避妊薬のスイッチOTC化検討会】薬剤師の説明要する「BPC」創設も論点に/次回、パブコメ原案を提示へ

【2022.05.02配信】厚生労働省は4月28日に「第20回医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」を開催し、緊急避妊薬のスイッチOTC化について議論した。この中で、事務局は夏に開催予定の次回検討会議の場でパブリックコメント募集の原案を提示したい考えを示した。論点案にはすでにBPC(Behind the pharmacy Counter)の仕組み創設の検討も記載されており、今後、論点の1つとなる可能性があるといえそうだ。


日薬・岩月氏「OTC化になったら、産婦人科の先生方のお仕事を薬剤師が全て行うのではなくて、連携をとって、より声の出しにくい方が相談できる間口を広げていくということ」

 同日の会議では、性暴力救援センター・大阪SACHICO(阪南中央病院産婦人科)の加藤治子氏から、センターの現状や緊急避妊薬をめぐる課題が示された。
 加藤氏は内閣府の調査では「無理やり性交等をされた被害経験」の比率が6.9%にも上っていることから推計すると、年間7万人の女性が被害に遭っている可能性があることを問題視し、警察が認知しているのは氷山の一角であるとした。自身の経験をふまえ、「緊急避妊薬が必要な事案の中には
安心で安全な関係の下の性交ではない事案が少なくないと推定でき、避妊に失敗の状況についての相談体制と診療体制がある中での処方が望ましい」との意見を述べた。また、薬剤師に対しては「医薬品の知識はあってもこうした安心で安全ではない性的な行動についてどの程度知識を持っておられるのか」とし、「1度や2度の研修でいけるとは思えない」と述べた。

 この意見に対しては、日本薬剤師会常務理事の岩月進氏は、産婦人科医やワンストップ支援センターの役割を薬剤師が全て担うわけではなく、連携しながら相談の間口を広げていくことの必要性を指摘した。
 「この会議の前提としていかに安心安全に処方箋なしで緊急避妊薬を供給できるかを議論している。私ども薬剤師はオンライン診療における緊急避妊薬の調剤の研修等を通してワンストップ支援センターや地域の産婦人科医と連携をとることが実際に起きている。OTC化になったら、産婦人科の先生方のお仕事を薬剤師が全て行うのではなくて、連携をとって、より声の出しにくい方が相談できる間口を広げていくということなんだろうと思っている」(岩月氏)と話した。

 宗林さおり氏(岐阜医療科学大学薬学部 教授)は、「ワンストップ支援センターに届かなかった人たちにどうすればいいのか。薬局の販売においてどういうことをカバーすれば次のステップとしていいのか」と課題を提示した。加えて、「OTCにしたら処方箋薬はやめましょうということを言っているのではない。補完的にという意味だと思っている」とした。

 また、日本 OTC 医薬品協会理事長の黒川達夫氏は、「被害で認知されているのが5%という指摘があった。残りの95%の方々は誰が支援するのかというと、加藤先生のお話では相談機関がなく、根拠法もなく一人で悩んでいるとのこと。OTCへのスイッチを議論しているが、いま苦しんでいる人を助けるための社会全体の1つの仕組みの強化としてこのツールを社会に持ち込むことは決して悪いことではない、してはいけないことではないと思う。むしろ、力を寄せ合ってできることを重ねていくことの方がよほど重要」との考えを示した。

 加えて日本女性薬剤師会理事の渡邊美知子氏は、緊急避妊薬を必要としている人は性被害に遭った人だけでないことにも理解が必要との考えを示した。
 「海外の方などが薬局でOTCとして緊急避妊薬を購入しようと訪れることがある。その際に産婦人科医の受診が必要であると説明している。強制性交の問題はあるが、72時間以内に対処したい人はたくさんいる。きちんと私たち薬剤師が勉強をしてそれに対処できるように講習会もしている。正しい情報を伝えながら、強制性交があった場合はワンストップ支援センターや警察とも連携をとり手を携えてやっていくことがとても大切なのではないか。主体的に性をコントロールできるのが女性の意思ですのでそこは分かってほしい」(渡邊氏)と述べた。

 宮園由紀代氏(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 消費生活研究所 研究員)は、アクセスの悪い地域に住んでいる、特に若年層の支援の必要性を指摘した。
 「私は地方に住んでいるが、特に地方に住んでいる人は72時間以内にセンターに行くというのはものすごくハードルが高い。特に若い高校生などを支援していく必要があるのではないか」(宮園氏)と指摘した。

 堀恵氏(認定NPO 法人ささえあい医療人権センターCOML)は、「たくさんの薬剤師さんが緊急避妊薬に関して研修を行っていただいていることを嬉しく思う」と指摘。堀氏は海外実態調査報告書への意見としても、「緊急避妊薬を購入するにあたって、日本では産婦人科に行くことにハードルを感じている患者の割合が高く望まない妊娠の一つの原因になっていることを考えると、購入の際の最
初の窓口が近隣の薬局になり、かつプライバシーの保護が守られながら健康相談ができるのであれば、緊急避妊薬のスイッチ OTC 化をきっかけに、かかりつけ薬局が国民のより身近な存在になり地域のハブになっていくことを期待したい」と期待を寄せていた。

産経新聞・佐藤氏「薬剤師と産婦人科医の連携が重要」

 佐藤好美氏(産経新聞社 論説委員)は、2017年当時の課題をベースに議論することに疑問を呈した。
 「2017年に提示された課題が解決されたかとテーマ設定をすると、全て解決したとはいかないと思う。(当時の課題も)OTC化に向けて不可欠なことばかりではないと思う。例えば教育の問題は解決しなければ(OTC化)できないということではなくて引き続き解決していく問題といえる」と指摘した。「前回会議であれだけのパブコメの反響があって、必要とされているものをどのように解決していくかということからこの検討会が始まっていることを忘れてはいけない」と指摘した。今回の会議の別添資料の記載にも触れ、「感銘を受けたのは、薬剤師がやるか、産婦人科医がやるかではなく、必要としている人へ対してどう解決していくかが重要で、そのためには薬剤師と産婦人科医の連携が必要と書かれていたところだ」と述べた。

 なお、別添資料は特定非営利活動法人 Healthy Aging Projects for Women 理事長(薬剤師)の宮原富士子氏と一般社団法人日本家族計画協会 会長(医師)の北村 邦夫氏が共同で厚生労働記者会に提出していたもの。一部のアンケート調査に関しては回答率が17%と低いことや客体の抽出に一貫性がないこと、あるいは日薬関連資料との誤解を受ける可能性などの指摘から、資料としての提出に委員から異論も出ていた。

 ただ、この別添資料の医薬連携の重要性に関する記述については、湯浅章平氏(章平クリニック 院長)も同調し、「別添資料について、信頼性などの指摘はその通りと思うが、一方で薬剤師と産婦人科医が連携ができていないという実態については真摯に受け止めるべきではないか。医薬連携は薬剤師の方は前向きで、鍵は医師なんだと思う。医会や学会などがリーダーシップをとることを含めて先生方も連携がどうしたら実現するかを考えていただけるとよい」(湯浅氏)と述べた。

産婦人科医会・種部氏、中絶期限へのリスクの認識やBPCの必要性指摘

 日本産婦人科医会常務理事の種部恭子氏は、今後の対応策について、中絶期限へのリスクの認識・対応策のほか、BPC(Behind the pharmacy Counter)などを挙げた。
 「緊急避妊薬は効いたのか効かなかったのかの自覚症状での判断が難しい。効かなかった時に受診しなければいけないが、受診が遅れた場合に中絶期限が過ぎてしまうリスクがある。短い期間内で産婦人科につなげる、そのタイムラグをどうするか。また計画的避妊をする機会を失ってはいけない。さらに未成年の女性、特に中学生などをどうやって性暴力から保護するのか。またBPCの話をしないといけない。OTCではなくBPCであることは必要だ。海外ではOTC化の際に産婦人科受診のハードルを下げる仕組みや性教育の拡充、場合によっては子連れで卒業できる仕組みなど、安全装置も導入されている」と話した。
 さらに薬剤師に対しては、「1日遅れただけで中絶期限を過ぎてしまうこともある。薬剤師さんに覚悟があるのか、考えていただきたい」と指摘した。

 こうした薬剤師の覚悟について、日本薬剤師会常務理事の岩月氏は、「薬剤師の覚悟についてはOTC医薬品のすべてがそうだが、誰の責任で販売するかといえば薬剤師である。何かあったら薬剤師が責任を持つのは自明の理。ここで改めて宣言させていただく」と述べた。

 日本女性薬剤師会理事の渡邊美知子氏も、「責任を持って対応したいと思っている。医療のことだけではなく、性教育や命の教育などいろんなところと手を携えたい。OTC化は進めた方がいいと思う」と述べた。

 販売サイドになることが想定される日本保険薬局協会や日本チェーンドラッグストア協会も前向きに対応していく姿勢を示した。
 
 松野英子氏(日本保険薬局協会 常務理事)は、各薬局は対人業務に注力しており、生活背景に配慮する環境になっていると指摘した。
 「(支援センターなどに)到達できないで悩んでおられる、中絶にまで追い込まれる方たちが多くいらっしゃる現実がある中でそこの門戸を広げる意味で薬剤師が一役担えないのかという申し出は強く申し上げたい。さきほどBPCの創設が必要という話もありました。そういう点ではスイッチOTC化を進めながら同時に環境整備や安全装置も進めていくということが課題だと思う。患者のための薬局ビジョンで対物業務から対人業務へと強く各保険薬局で行われている部分で、ピルそのものの対物業務だけでなく、対人業務だという感覚が私ども薬剤師にあるので患者さんの背景にある生活や人生の中で私たちがどう関わっていけるのかということに対して非常に認識できるような状況になってきたと感じている。薬剤師は今でも1万7000種類に及ぶ命に関わる薬を扱っている。覚悟を持って薬剤師として連携をし、やっていきたい」と述べた。

 平野健二氏(日本チェーンドラッグストア協会 理事)は、「性教育に関しては必要性は言うまでもないが、文科省だけの問題ではない。中学生・高校生に対して、相手によって課題は違う。どのような人に対して何を教育しなくてはいけないか、どういうタイミングでやるべきなのか、どういうコンテンツなのか。この会議できちんと定めておき、それができれば、会議に参加の皆様それぞれがこの部分は私が責任もってやりますという対応ができる。学習指導要領の改訂から入ると時間がかかってしまう。逆に言えばこの問題はいつまでに解決するんだ、したがってそれまでに何ができるのかという形で議論をしていかないとまた待たせてしまうということになるのではないか」と述べた。

次回会議ではパブコメ原案を提示しそれ以外の追加調査検討はパブコメと並行して行う方針

 座長の笠貫 宏氏(早稲田大学総長室参与)は、今回の議論をもって、パブリックコメント募集の開始に着手する案を提示した。この検討会議では原則、2回の検討会議を行うこととなっているからだ。「検討会議①」の前に資料整理と、医会・医学会からの意見聴取を済ませて、会議で提示する。また、1回目の検討会議以降は、パブリックコメントに並行して、検討会議①で挙げられた課題への対応策について検討会議の構成員のほか、関連するステークホルダーから追加の意見を収集し、「検討会議②」に進むこととなっている。緊急避妊薬の検討は現時点で、原則的な回数を超過している。

 この座長の案に対して、長島公之氏(日本医師会 常任理事)は反対を表明。長島氏は今回の議論を受けて、さらに追加で性教育の問題に関する文科省の見解や薬剤師の現状に関する日本薬剤師会の調査、追加すべき研修内容のとりまとめ、地域医療連携の現状などの資料追加を求めていたからだ。

 また、宗林氏や佐藤氏などからもパブリックコメントを求める文言の原案について意見が出たことに加え、最終的には事務局からも事前に原案を会議に提出し直すとの意向が示された。そのため、夏に開催予定の次回会議でパブリックコメントを求める際の文言について提示し、議論することになった。ただし、事務局は追加で求められた調査については次回の会議での提出は労力的にも困難であることから、次回会議では今回の会議の意見のとりまとめとパブリックコメント原案の提示にとどめ、次回以降、パブリックコメントを開始する意向を示した。その上で、必要な追加調査についてはパブリックコメントと並行して実施を検討したい考えを示した。

編集部コメント/これ以上の議論延長は望ましくない

 2017年の議論開始から、5年以上にわたり、緊急避妊薬の安全で安心なアクセス改善を待っている人がいることを考えると、これ以上の議論延長は望ましくないと考えられる。事務局もこれ以上の追加調査については、パブリックコメントと並行して行う姿勢を示しており、次回の会議以降はパブコメ開始、「検討会議②」に進むことが期待される。

 一方で、議論の回数超過が無駄かというとそうではなく、日本産婦人科医会の種部氏が提示したように中絶期限と産婦人科受診のタイムラグへの対応などは、今回、新たにOTC化に際して必要な薬剤師研修項目としてクリアになった形だ。
 また、薬剤師からの説明を必須とするBPC創設などの課題も浮き彫りになってきている。

 おそらく、緊急避妊薬の薬局での販売を求めている女性の中には、BPCなど、あらゆる制限をかけないことが最善との意見もあると推察する。ただ、この検討会議では、我が国では中学生に性交や性交すれば妊娠する可能性があること、そして中絶についてなど学校教育では十分に取り入れられていないとの指摘があった。
 つまり、我が国の女性の中の知識には濃淡があることが想定され、それを医療界が心配していることも本音であろう。日本産婦人科医会の種部氏は、コンドームが避妊方法として多く用いられている日本では、海外と同じように議論はできず、どのような影響があるかは誰にもわからないと警鐘を鳴らしている。海外ではコンドームは避妊方法としてではなく性感染症対策として認識されていることがすでに一般的な一方で、日本では海外で主流であるピルなどの女性が主体的な避妊方法が定着していない。こうした中にあっては、知識が豊富である人、そうでない人の双方の安全安心に配慮した制度設計が、ステップとしては我が国では現実的であると指摘できる。

 もちろん、これら課題は緊急避妊薬のスイッチOTC化を妨げる要因ではなく、まさにスイッチOTC化に際して対応策として拡充すべき点であると指摘できる。

 性教育に関しても、スイッチ化の条件ではないにしても、スイッチ化に際しての対応策としてこれを機に推進を書き込んでおくことの意味も小さくない。

 薬剤師においても、今回提示された産婦人科医との連携体制拡充は、制度とは別にしても、地域ごとに取り組みを厚くしていく必要性があるといえそうだ。

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