検討会議を「対話・議論の場に」
話を聞いたのは、兵庫県三木市で薬局を経営する薬剤師・高橋 秀和氏。
高橋氏は薬剤師有志の会である「日本の医療・薬事制度について考える会」の発起人であり、同会では、緊急避妊薬の分類を「処方箋医薬品以外の医薬品」に変更し、薬剤師が提供できるよう、署名活動を行ってきた。
高橋氏は、緊急避妊薬のスイッチOTC化(医療用医薬品からリスク分類の「要指導医薬品」への転用)の議論が再開したことに関して、「賛成・反対のそれぞれの意見の対話の場となってほしい」と期待を込める。
「検討会議再開までの間、賛成と反対の意見があいまみえることはなかったように思います。新聞報道でも、どちらか片方の意見が取り上げられ、ぞれぞれの主張が述べられるだけで対話の場の機会とはなっていなかった。規制緩和をするかしないか、また規制緩和するなら、どういった方法で・どの医薬品分類とするのかといった議論が進むことになると思いますが、どのような決着であれ、デメリットをなくすことができません。懸念も切実さも残ることになります。そうした難しい議論であることを、それぞれの立場の方々が受け止めて下さることを願います。正義か悪か、規制緩和か既得権益か、賛成か反対かではありません。『議論の単純化・劇場化』に陥ってしまわぬよう、世論やメディアの姿勢も非常に大切だと思います」(高橋氏)
そのうえで、薬局薬剤師の使命については、「切実なニーズに、しっかり対応するのが薬剤師の職責であると考えています」と話す。
高橋氏が懸念するのは、海外と日本では市販薬利用や購入者と薬剤師との関わりといった状況に大きな違いがあるため、単純に各国の医薬品分類を比較して同じようなカテゴリーに分類したとしても、実際の緊急避妊薬購入時の情報提供やコンサルティングの状況には大きな違いが生じてしまうだろうといった点だ。
「薬剤師の立場からは非常に残念なことですが、現在の日本の市販薬販売制度は、海外諸国のように利便性・利用者のニーズと安全性確保・適正使用のバランスを追求したものではなく、より多くの市販薬を販売したい市場関係者の要請を反映し、かなり規制緩和に舵を切った制度です。O T C薬購入のリスク意識が生活者の中に希薄だ、O T C購入者が薬剤師との会話を嫌がると言われますが、ある意味当然の話で、販売制度やCMによってそうした意識が誘導されている面があります。海外の薬局での緊急避妊薬販売のエピソードについて書かれた記事を読みましたが、同じように日本でドラッグストアの薬剤師が購入者に話しかけたり、質問をしたら、多くの購入者が違和感を抱くだろうと感じます。『傷ついた女性に無理に話しかけるべきではない』といった話ではなく、たとえば『日本では、養護教諭(保健室の先生)から話しかけられる際の印象と、ドラッグストアの薬剤師から話しかける印象に、すでに大きな違いが生じてしまっている。それを踏まえてどう考えるか』といったことです。海外と日本の医薬品販売制度や文化の違い、あるいは国民性も踏まえ、どうするのが最も望ましいのか。緊急避妊薬へのアクセスは女性の権利ですから、そこをないがしろにする決定は許されません。かなり複雑で難しい議論が想定されるところですが、会議ではそうした複雑な議論を回避し、要指導医薬品に固定できればいい、研修を受けた薬剤師が販売すればいい、といった幾つかの条件を加えてゴーサインを出してしまおうとする圧力が生じるだろうと思います。厚労省やそれぞれの委員の方々には、誠実で的確な議論をお願いしたいところです」(高橋氏)
薬剤師会には職能団体としての責務を果たしてほしい
また、高橋氏は6月7日の検討会で日本薬剤師会の委員から発言がなかったことに懸念を示す。
「アクセスを改善してほしい、高い価格をなんとかしてほしいといった生活者の方々の願いは切実なものです。その要望に対して、前述したような国内のOT C薬販売の状況や制度の問題点などを把握しており、提言できるのは薬剤師という専門家だけです。そこを説明すべき専門家の職能団体から発言がないことは、責務を果たしていないと考えています。一方で、発言しないという選択肢もまた、利害関係者の中でのポジション確保に役立っているというのであれば、その責任は制度設計を担当する委員・行政・政治といった意思決定システム全体にあるはずです」
最後に、高橋氏は、今後、どのような在り方が望ましいかについて、「検討会議での議論と結論になる」ことを前提としつつも、以下のような私見を示す。
「『既得権益を侵害させないための規制』であれば論外ですが、基本的な考え方として、規制緩和は自己責任の考え方の受容につながりやすいものです。かつて、市販薬は薬剤師を介さずに販売してもよいか、インターネットで市販薬を販売してもよいか厚労省で議論された際には、市販薬の濫用・依存症についての懸念が示されていました。現在では『残念なことだが、市販薬は自由に購入できるものだ。仕方ない』と受け入れてしまっている方が増えたように見受けます。弱い立場の人ほど落とし穴にはまりやすいものです。緊急避妊薬でもそうなってしまうのでは、本来の趣旨とは違うのではないでしょうか。どういった制度・条件として緊急避妊薬の切実なニーズに応えていくか、入手や使用にあたっての国民意識はどのように醸成していくのか、私たちの社会が試されていると思っています」(高橋氏)
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<編集部コメント>
専門家である薬剤師だからこその着眼点、提言がある。
それらが次回以降の検討会議で委員からも示されていくことを期待したい。
本稿<1>以降も、当メディアでは薬局薬剤師の声を随時、レポートしていきます。