【有償サービス拡大するドラッグストア】店舗で「健診」も開始の杏林堂薬局(静岡県)の戦略

【有償サービス拡大するドラッグストア】店舗で「健診」も開始の杏林堂薬局(静岡県)の戦略

特定健診が身近なドラッグストアの店舗で受けられたら、受診者にとっての利便性は高いだろう。実はすでに取り組みを開始しているドラッグストアがある。静岡県浜松市を中心に展開する杏林堂薬局だ。特定の日時に医師に店舗に出向いてもらうことで可能にした。特定健診は8店舗で実施する計画で、そのほか、特定保健指導は12店舗で実施していく予定だ。背景には「モノの販売以外の有償サービスをいかに拡大できるかが、長期的な生き残りにつながる」との青田英行社長の考えがある。


店頭にしかないサービスが来店動機に

 2020年12月13日、杏林堂薬局吉田店(静岡県榛原郡吉田町)で実施するのを皮切りに、2021年2月まで、同社9店舗で、特定健診を行う予定だ。

 当日は医師に店舗に出向いてもらうことで実現する。

 また、店舗での特定保健指導は「ニコニコ保健室」とういう名称で、同社の13店舗で実施していく。指導は、同社の管理栄養士が対応する。

 これまで、ドラッグストア企業では健診保健指導に乗り出す企業はあったが、特定健診そのものをドラッグストアの店頭で実施する取り組みは、業界でも先行事例といえる。

 実施に至った背景を、青田英行社長は「モノの販売だけであれば、ネットですべて買える時代になる。コロナによるニューノーマルがそれを加速させる可能性もある。そうした中で、モノではない、サービスをどれだけつくっていけるかが、ドラッグストア企業の長期的な生き残りのカギになるのではないか」と話す。

 もちろん、中期的にはニューノーマルに沿ったワンストップショッピングをかなえる商品カテゴリーの充実を図る。同社は調剤にも強いが、ヘルス&ビューティーの枠にとらわれず、食品を強化する。最近では切り花や焼き芋など、「他業態が強みを持っている商品を根こそぎ取り入れるぐらいの考え」(青田社長)という。

 しかし、最終的には、それらさえもネット販売が強みを発揮していくことは否定できないとして、店舗にしかないサービスをフックに来店してもらい、その際に買い物をしてもらう流れになる可能性もあるとみる。

 そのアイデアの一つが、冒頭の特定健診や特定保健指導というわけだ。

医療とモビリティ融合の実証実験に参画

 同社は2021年5月期に5店舗の出店を計画するが、そのすべてが地盤の静岡県内。地域密着で、地域性に合った品ぞろえナンバーワンを自負する。

 「ほかの地域への出店が視野にないわけではない。しかし、静岡県内でも、まだまだ出店余地や、既存店でできることがたくさんある」というのが青田社長の考えだ。

 2020年から地元・浜松市が始める実証実験「春野医療MaaSプロジェクト」にも参加する。複数の企業が参画し、移動診療車を活用したオンライン診療やドローンによる薬剤配送が行われる。同社はオンライン服薬指導を担う。

 浜松市は内陸に行くと中山間エリアで、公共交通機関のない中、通院の“足”に困る高齢者が少なくない。こうした課題解決の必要性に市は迫られている。
 
 こうした地元自治体主導のプロジェクトに名が挙がるのも、地元密着企業ならではの強みといえる。
 
 最近では、「まちかど保健室」や「よりみち保健室」といった、各自治体が高民会などで実施してきた健康相談会も、同社店舗の待合室などを活用して実施するケースも増えてきた。

 こうしたサービスを実施していくことで、「ドラッグストアでサービスが受けられる」という認知が浸透し、さらに新たなサービスの芽を育てることにつながる側面があるといえるだろう。
 
 青田社長は、「例えば」と前置きしつつも、「学校の部活動が、教員の方への重い負担の問題から、縮小する可能性もある。その時に、例えば、部活動に似たような体を動かす放課後クラブを当社が運営することもあり得るのでは」とアイデアを披露する。
 
 つまり、同社は「元気ときれいの創造企業」というビジョン通りに、健康の枠にすらとどまらない、“地域の元気”につながるサービスを模索しているのだ。

ランニングクラブには県民600人

 もう一点、こうした新たなサービスが生まれてくる背景に、同社の「現場の裁量権が大きい」という特徴がある。

 「この変化の大きな時代に社長が何でも知っているというのは大きな間違いで、現場の方が変化に敏感」というのが青田社長の考え。

 「社員それぞれが地域の方々に“健康になってもらうために我々は何ができるのかを常に考えることで新しいサービスが生まれる」(青田社長)

 スポーツ支援にも力を入れており、地元のグランドゴルフの大会を主催したり、市民ランニングチームを運営したりしている。2012年から始めたランニングプロジェクト「市民ランニングクラブSmiley Angel」には、600人の県民が参加している。

 企業の生き残りに関して、青田社長が強く共感した言葉がある。それがタニタ社の「体重をはかる、から、健康をはかるへ」というものだ。「タニタさんは、体重をはかることだけに固執しているのではなく、そこから健康を軸に“コト”に事業を移していかれた。当社も“元気とキレイ”を軸に企業の形を変えていくことができれば生き残れるでしょう」

 ドラッグストアの姿は、変化してきている。

あおた・ひでゆき●1959年生まれ。京都薬科大学薬学部卒業後、病院薬剤部で研修。その後、1982年に杏林堂薬局入社。店長、バイヤー、営業部、調剤事業部、人事部など、数々の部署を経験したのち、2000年に同社取締役に就任。2015年から現職。趣味はランニング。

【編集部より】本インタビューは、薬学生向け「MIL NEXT VISION」との連動企画です。ぜひ、そちらもご覧ください。

「“Something New”がなければ退化に等しい」青田英行(杏林堂薬局)

https://www.anycr.net/post/201215kyorindo

社員の自主性を重んじ、常に“新しい何か”を発見して実践する社風で地域の健康づくりに挑戦し続ける杏林堂薬局の青田英行社長。社員の成長と共に地域の健康課題解決に掛ける思いを語ります。

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