調査部主任研究員の成瀬道紀氏が執筆した。
要点は以下の通り。
病院の薬(医療用医薬品)を処方箋なしで薬局が販売する「零売」が岐路を迎えている。厚生労働省は、従来、通知で医療用医薬品は原則処方箋に基づき販売すべき旨を示していたが、今通常国会で零売規制を法制化する方針である。他方、薬局 3社が法的根拠のない通知による零売規制は、違憲・無効として国を提訴した。
零売を巡る問題の根底には、わが国の処方箋の要否を決める基準が、処方箋医薬品と医療用医薬品のダブルスタンダードになっていることがある。リスクが高い医薬品は、処方箋医薬品に区分され、法律上処方箋が必須とされる。これは、諸外国と同様の制度である。もっとも、わが国は医療用医薬品という独自の区分があり、処方箋医薬品以外の医療用医薬品(約 7,000 品目)も原則処方箋に基づき販売するよう厚生労働省は通知している。
零売は、病院や診療所を受診せずとも処方箋医薬品以外の医療用医薬品を入手でき、患者にとって利点がある。とりわけ、処方箋医薬品以外の医療用医薬品は、OTC医薬品(市販薬)よりも費用対効果が高い製品が多い。さらに、零売は、公的医療保険の給付対象外のため、医療保険財政の改善に資する。公的医療保険で給付されている処方箋医薬品以外の医療用医薬品は年間約 1 兆円にのぼる。一方、零売は販売時に医師の関与がないため、薬剤師による患者指導が不十分な場合は、患者の健康に悪影響を与え得る懸念が指摘されている。
そもそも 1967 年に医療用医薬品という区分が設けられた背景には、薬剤師への信頼が低く、医療の担い手として見做されていない状況があった。もっとも、2006年度入学生から薬学部は従来の4年制から6年制となり臨床教育が大幅に強化されている。今求められるのは、第 1 に、薬剤師の職能の尊重である。もちろん、薬剤師自身が自己変革に取り組む努力も不可欠である。第 2 に、医療用医薬品というわが国特有の区分を廃止してダブルスタンダードを解消し、処方箋医薬品以外の医薬品はOTC医薬品として薬局で薬剤師が堂々と販売できるようにすることである。

【日本総研】レポート「零売規制の妥当性を問う」公表
【2025.02.05配信】日本総研は2月5日、レポート「医薬品『零売』規制の妥当性を問う」を公表した。「処方箋医薬品以外の医薬品はOTC医薬品として薬局で薬剤師が堂々と販売できるようにする」ことが求められているとしている。
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