厚労省は現在、市販薬の販売方法見直しを含めた薬機法改正を予定している。
1月10日には、厚生科学審議会「医薬品医療機器制度部会」の報告書を公表。今月24日にも招集されるとみられる通常国会に薬機法改正案を提出する予定だ。
厚労省は制度部会に入る前の検討会で濫用のおそれのある医薬品に関しては、「顧客の手の届かない場所」での陳列などが必要としたとりまとめを行っており、これにより専門家の関与を担保しようとの意向をみせていた。こうした方針が制度部会での「報告書」では「手の届かない場所」への陳列以外に「継続的な専門家の配置」を選択肢に加えた。この提案はドラッグストア業界から出てきたものであり、ドラッグストア業界の意向を反映したという指摘は、はずれたものではない。
しかし、「継続的な専門家の配置」はあくまで選択肢であり、当初から目指した「専門家の関与」を担保するとの目的を変えたものではない。
今回の濫用のおそれのある医薬品の販売方法の厳格化は、いうまでもなく、昨今の市販薬の過量服用(いわゆるオーバードーズ)の社会問題化を受けての対応である。過量服薬は背景として孤立の問題などが含まれていると指摘されており、一面的な方策で解決するものではない。そのため、地域に根差した薬局や店舗販売業は、販売に際するルール遵守だけでなく、地域住民の状況により、地域の必要な機関につなげることが求められる。これは、地域のネットワークがなければできないことだ。
また、地域包括ケアの必要性が高まる中、最近、地域を“頭越し”したオンライン診療についての問題点が指摘されることも出てきた。肥満症治療薬をオンライン診療で処方された患者が体調不良になった際、その対応にあたるのは地域の医療リソースになることの問題点の指摘だ。同じことは市販薬にもいえる。医薬品はベネフィットと表裏一体でリスクを持っているものであり、地域ぐるみの啓発やネットワークが欠かせない。無論、医薬品のこうした特性は何も最近の変化ではないが、生産年齢人口の急速な減少の中、地域のリソースは細ってきていることは事実だ。こうした中で、もしかしたら向けられる“目”が減っているかもしれない若者に誰が注意を配るのか。これは、1つとして地域の薬局や店舗販売業であってもいいはずだ。
同様に「とりまとめ」から「報告書」の過程で、変わった事項の1つが購入者の「記録」と「保管」だ。 報告書では購入者の氏名・年齢などの機微な個人情報については確認はするものの、記録し保管することの義務化までは見送った。ネット事業者からは自らのデジタルの優位性を訴え、リアル店舗の施策が手ぬるく優遇されているとの指摘も聞こえてくる。ただ、ネット事業者といえども、他社の記録を共有しているわけではなく、ネット事業者が記録を保管したとしても、手のひらのスマホの中で別の事業者から購入できる現状では「買い回り」に対して実効性はどこまであるのだろうかという疑問がある。もしもマイナンバーカード活用で買い回り防止効果を担保するのであれば、OTC医薬品の購入履歴、少なくとも濫用のおそれのある医薬品の購入履歴情報を他社間でも共有できるような仕組み構築が必要となる。現状ではマイナンバーカードは保険診療情報や健診情報しか蓄積されない。「マイナンバーカードを活用すればネット販売でも濫用防止ができる」といえる状況は現在はない。
ドラッグストア業界にしろ、ネット事業者にしろ、「現状の販売が毀損される」というビジネス起点の主張の応酬のように映る。濫用のおそれのある医薬品は、荒っぽい表現をすれば“稼ぎ頭”である総合感冒薬が多く含まれるからだ。求められるのは濫用にはからずも陥ってしまうような若者をどう減らすかであり、専門家の活用を含めた“人”というリソースを使おうという視点は理にかなっているのではないか。ネット事業者にも、リアルタイムのオンライン通話で“対話”を求めるとした見直し案も“人”の活用という根本は同じだ。
オンライン、IT、DXは活用すべきツールである。しかし、地域の“人”が生かされ生きるために活用すべきではないか。地域のかかりつけ薬局がこれまで以上に「時には薬局で相談」「時にはオンラインでも販売」と便利なツールをそれぞれ地域住民、購入者に提供していくことも選択肢になるのではないか。ネットモールでの出店社もかかりつけ薬局という出店社が増える可能性もゼロではないのではないか。もっといえば、ネット事業者の医薬品購入情報も、いざという時にはかかりつけ薬局と連携して地域住民を守っていくという概念もほしい。
手段と目的を取り違えず、生産年齢人口急減という我が国の現状下の「地方創生」のあり方を含めた大局観で、今後の国会審議が進むことを期待したい。

【社説】市販薬の濫用防止策こそ「地方創生」だ
【2025.01.15配信】市販薬の濫用対策の見直しをめぐって、ドラッグストア業界やネット事業者関係者からの“経営視点”での議論の応酬が目に付く。その根底には現状のビジネスの継続に支障となるとの思惑がのぞく。しかし、濫用問題は孤立の問題や相談先の確保、もっと言えば人的なリソースなど、地域でどう若者など守るべき人を守っていくのか、という点に収斂される。地域の持続性をどう確保するのかという、すなわち、石破茂首相が就任以来、掲げてきた「地方創生」にも関わる問題だ。
関連する投稿
【新経済連盟】薬機法法案の国会提出にコメント/引き続き主張を要望
【2025.02.13配信】新経済連盟(三木谷浩史代表理事)は2月13日、国会に提出された改正薬機法の法律案について、代表理事としてのコメントを公表した。
【東京都】“濫用薬”ネット販売でルール遵守の形骸化例を確認/監視事業で
【2025.01.28配信】東京都薬事審議会が1月28日に開かれ、薬事監視指導に関連する事業内容について報告があった。
【2025.01.27配信】日本医薬品登録販売者会(日登会、横山英昭会長:コスモス薬品社長)は1月27日に会見を開いた。
【日登会】厚労省制度部会「とりまとめ」評価/今後は会議体への参画求める
【2025.01.27配信】日本医薬品登録販売者会(日登会)は1月27日に会見を開き、2025年度の展望と方針について説明した。その中で会長の横山英昭氏(コスモス薬品社長)は次期薬機法改正へ向けて厚労省の医薬品医療機器制度部会が公表した「とりまとめ」に対して「評価」するとの見方を示した。濫用薬の陳列や記録・保管、リスク区分等について日登会の要望事項が反映されたとの立場。また、今後、一般用医薬品の販売に関わる会議体については参画していくことを求めるともした。
【日本薬剤師会】薬機法とりまとめ評価/「地域医薬品提供計画」の文言は入らない見込みも「精神は理解頂けた」
【2025.01.22配信】日本薬剤師会は1月22日に会見を開き、次期薬機法改正に向けた厚労省制度部会のとりまとめへの見解を示した。
最新の投稿
【大木ヘルスケアHD】松井秀正社長「ドラッグストアは行政とも連携しビジネスモデル変革を」
【2025.02.14配信】ヘルスケア卸大手の大木ヘルスケアホールディングスは2月14日、同社提案会開催中の会場にて会見を開いた。この中で同社社長の松井秀正氏はドラッグストアは今後、「行政とも連携してビジネスモデルを変革していく必要がある」と語った。同社はこれまでも販売だけでなく店頭で行政とも連携した健康イベントの実施を提案・支援するなどの試みを展開している。今回の提案会でも店頭でのフレイル予防に資する取り組み提案などを行っている。
【2025.02.14配信】ヘルスケア卸大手の大木ヘルスケアホールディングスは2月12日、販促企画・運営会社と業務提携したと公表した。
【新経済連盟】薬機法法案の国会提出にコメント/引き続き主張を要望
【2025.02.13配信】新経済連盟(三木谷浩史代表理事)は2月13日、国会に提出された改正薬機法の法律案について、代表理事としてのコメントを公表した。
【日本保険薬局協会】マイナ保険証受付方法で要望/「在宅Web」を外来にも
【2025.02.13配信】日本保険薬局協会は2月13日に会見を開き、マイナ保険証の受付方法についての要望をまとめ、公表した。現在、在宅医療現場で活用しているWeb方式を通常の外来でも活用できるようにすることなどを求めている。
【2025.02.12配信】KKR札幌医療センターの敷地内薬局の整備を巡り、アインファーマシーズ元代表取締役社長・酒井雅人被告と同社元取締役・新山典義被告が公契約関係競売入札妨害の罪に問われた裁判について、札幌高検は2月12日、札幌高裁が両被告に言い渡した控訴審の無罪判決を不服として上告したことが明らかになった。(ジャーナリスト・村上和巳)