【社説】市販薬の濫用防止策こそ「地方創生」だ

【社説】市販薬の濫用防止策こそ「地方創生」だ

【2025.01.15配信】市販薬の濫用対策の見直しをめぐって、ドラッグストア業界やネット事業者関係者からの“経営視点”での議論の応酬が目に付く。その根底には現状のビジネスの継続に支障となるとの思惑がのぞく。しかし、濫用問題は孤立の問題や相談先の確保、もっと言えば人的なリソースなど、地域でどう若者など守るべき人を守っていくのか、という点に収斂される。地域の持続性をどう確保するのかという、すなわち、石破茂首相が就任以来、掲げてきた「地方創生」にも関わる問題だ。


 厚労省は現在、市販薬の販売方法見直しを含めた薬機法改正を予定している。
 1月10日には、厚生科学審議会「医薬品医療機器制度部会」の報告書を公表。今月24日にも招集されるとみられる通常国会に薬機法改正案を提出する予定だ。

 厚労省は制度部会に入る前の検討会で濫用のおそれのある医薬品に関しては、「顧客の手の届かない場所」での陳列などが必要としたとりまとめを行っており、これにより専門家の関与を担保しようとの意向をみせていた。こうした方針が制度部会での「報告書」では「手の届かない場所」への陳列以外に「継続的な専門家の配置」を選択肢に加えた。この提案はドラッグストア業界から出てきたものであり、ドラッグストア業界の意向を反映したという指摘は、はずれたものではない。
 しかし、「継続的な専門家の配置」はあくまで選択肢であり、当初から目指した「専門家の関与」を担保するとの目的を変えたものではない。

 今回の濫用のおそれのある医薬品の販売方法の厳格化は、いうまでもなく、昨今の市販薬の過量服用(いわゆるオーバードーズ)の社会問題化を受けての対応である。過量服薬は背景として孤立の問題などが含まれていると指摘されており、一面的な方策で解決するものではない。そのため、地域に根差した薬局や店舗販売業は、販売に際するルール遵守だけでなく、地域住民の状況により、地域の必要な機関につなげることが求められる。これは、地域のネットワークがなければできないことだ。

 また、地域包括ケアの必要性が高まる中、最近、地域を“頭越し”したオンライン診療についての問題点が指摘されることも出てきた。肥満症治療薬をオンライン診療で処方された患者が体調不良になった際、その対応にあたるのは地域の医療リソースになることの問題点の指摘だ。同じことは市販薬にもいえる。医薬品はベネフィットと表裏一体でリスクを持っているものであり、地域ぐるみの啓発やネットワークが欠かせない。無論、医薬品のこうした特性は何も最近の変化ではないが、生産年齢人口の急速な減少の中、地域のリソースは細ってきていることは事実だ。こうした中で、もしかしたら向けられる“目”が減っているかもしれない若者に誰が注意を配るのか。これは、1つとして地域の薬局や店舗販売業であってもいいはずだ。

 同様に「とりまとめ」から「報告書」の過程で、変わった事項の1つが購入者の「記録」と「保管」だ。 報告書では購入者の氏名・年齢などの機微な個人情報については確認はするものの、記録し保管することの義務化までは見送った。ネット事業者からは自らのデジタルの優位性を訴え、リアル店舗の施策が手ぬるく優遇されているとの指摘も聞こえてくる。ただ、ネット事業者といえども、他社の記録を共有しているわけではなく、ネット事業者が記録を保管したとしても、手のひらのスマホの中で別の事業者から購入できる現状では「買い回り」に対して実効性はどこまであるのだろうかという疑問がある。もしもマイナンバーカード活用で買い回り防止効果を担保するのであれば、OTC医薬品の購入履歴、少なくとも濫用のおそれのある医薬品の購入履歴情報を他社間でも共有できるような仕組み構築が必要となる。現状ではマイナンバーカードは保険診療情報や健診情報しか蓄積されない。「マイナンバーカードを活用すればネット販売でも濫用防止ができる」といえる状況は現在はない。

 ドラッグストア業界にしろ、ネット事業者にしろ、「現状の販売が毀損される」というビジネス起点の主張の応酬のように映る。濫用のおそれのある医薬品は、荒っぽい表現をすれば“稼ぎ頭”である総合感冒薬が多く含まれるからだ。求められるのは濫用にはからずも陥ってしまうような若者をどう減らすかであり、専門家の活用を含めた“人”というリソースを使おうという視点は理にかなっているのではないか。ネット事業者にも、リアルタイムのオンライン通話で“対話”を求めるとした見直し案も“人”の活用という根本は同じだ。

 オンライン、IT、DXは活用すべきツールである。しかし、地域の“人”が生かされ生きるために活用すべきではないか。地域のかかりつけ薬局がこれまで以上に「時には薬局で相談」「時にはオンラインでも販売」と便利なツールをそれぞれ地域住民、購入者に提供していくことも選択肢になるのではないか。ネットモールでの出店社もかかりつけ薬局という出店社が増える可能性もゼロではないのではないか。もっといえば、ネット事業者の医薬品購入情報も、いざという時にはかかりつけ薬局と連携して地域住民を守っていくという概念もほしい。

 手段と目的を取り違えず、生産年齢人口急減という我が国の現状下の「地方創生」のあり方を含めた大局観で、今後の国会審議が進むことを期待したい。

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