【日本薬剤師会・山本信夫会長インタビュー】改定へのスタンス語る

【日本薬剤師会・山本信夫会長インタビュー】改定へのスタンス語る

【2023.11.01配信】日本薬剤師会(日薬)会長の山本信夫氏は本紙の取材に応え、次期調剤報酬改定へ向けて現時点での考え方について語った(収録日:10月20日)。


 ――過日の日薬会見における、一部経済紙報道に関連した執行部の回答に対して、薬剤師・薬局関係者から困惑の声が当社にも寄せられているが。

 山本会長 現時点で、何かが決まった状況にはないと認識している。改定の議論は中医協で行われていく。とはいえ、改定の年の秋になると、いろいろな報道が出るのは今回に限らずこれまでもそうであるし、今年が特別変わった状況にあるわけではないと考えている。

 話題になっている調剤基本料の位置付けは、廃棄、損耗を含む医薬品の備蓄や建物、調剤用機器等、薬局の体制を整備するための経費であることを考えれば、その中には当然、賃金や人件費が含まれている。したがって、それを引き下げることは国の方針と違っているのではないか。

 民間企業であれば価格に転嫁することができるが、公定価格である診療報酬や介護報酬ではそれができないため、公定価格の中で対応する以外に必要な原資を求める先がない。日本薬剤師会だけでなく、日本医師会・日本歯科医師会を含め医療・介護関連団体は、現状では物価高騰・賃金上昇に対応しきれないために、診療報酬の引き上げを求めている。

 それを調剤報酬で考えた場合、例えば何かの特別な加算に上乗せしようとするならば、その加算の算定が多い・少ないといった違いによって差が生じてしまいかねないことになる。したがって、どこで対応するかとなれば、「調剤基本料を引き上げる」ということが自然な考え方ではないか。

 また、例えば、過疎が進んでいるような地域では、医療機関自体が少ないため、その地域にある薬局の努力だけでは集中率を引き下げられないことにも配慮が必要となる。規模の大きさや効率性は薬局ごとに異なり、集中率の違いだけで基本料を引き下げるかどうかを判断することはできないはずだ。これまでも医療経済実態調査に基づき、どの規模であればどのくらい経営の効率性に違いがあるかなどを含めて検討してきたわけで、単に処方箋枚数や集中率という視点だけで調剤基本料が検討されてきたわけではない。

 これからも年末までに「診療報酬を引き下げる方針が決まった」みたいな報道は出ると思うし、逆から見れば医療・介護団体からは引き上げるべきと主張する声が挙がるはずと思う。ただ、現場のみなさんにあまり動揺しないでいただきたいのは、きちんと仕事をしていれば、それに見合った評価は必ず行われる。薬剤師がしっかり仕事ができる財源を日薬としては求めていく。まずは財源を確保することが大前提になる。

 とはいえ、「私の評価は100だ」と思っていて評価が70であれば、それは不満だし、逆に「私の評価は50くらいだ」と思っていれば60でも嬉しいし、そういう受け止め方の違いはどうしても出ると思うが、それは関係者の議論の中でこれから決まっていくことにはなると思う。こうした議論はスタートラインに立っているのが現状。「何を」という議論はあるが、少なくとも全体を下げる理由はない。ただし、何が起こるか分からない可能性もあると思うので、現時点で確定的なことは言えない。先日、北海道で起きた敷地内薬局をめぐる事件はいろいろな意味で影響が出ることは間違いないので、注視している。

 一方、「門前薬局」という言葉に対しては、大きな病院の前に規模の大きな薬局があることや、敷地内薬局が想起されることもあるのではないか。そういったイメージがいまだ混在しているように思う。物価高騰の中で痛手を負っている層は幅広く、薬局がどう見られるかも意識しなければいけない。また、いわゆる「患者のための薬局ビジョン」では、「立地も地域へ移行し」とも掲げられている。財務省的には門前という立地に対して徐々に対象を広げていくステップだという意識があるのかもしれないが、医療提供体制を考える上では、必ずしもそうではなくて地域における薬局のあり方を考えるべきだという軸があると思う。どのような形が望ましいのか、それはまさにこれから議論されるものだ。われわれとしては、その議論の中でしっかり主張をしていく。


■有料版「ドラビズ for Pharmacy」内記事から転載、一部抜粋

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