【中医協】賃上げ対応で論戦/診療側「賃上げの原資必要」、支払い側「医師などの給与データを」

【中医協】賃上げ対応で論戦/診療側「賃上げの原資必要」、支払い側「医師などの給与データを」

【2023.10.27配信】厚生労働省は10月27日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、看護師の処遇改善のほか、「医療を取り巻く状況等について」を取り上げ医療関係職種の賃上げ対応にかかわる診療報酬のあり方について議論された。特に後者に関しては、医療関係職種(医師・歯科医師・薬剤師・看護師を除く)の給与の平均は全産業平均を下回っていることや、直近の医療関係職種の有効求人倍率は2倍~3倍程度で、入職超過率は2022年には産業計を0.3%下回っていることなどが報告された。2023年春期生活闘争の結果によると、全産業の平均賃上げ額/率は、10,560円/3.58%となっていることも資料として示された。


 日本医師会常任理事の長島公之氏は、「医療を取り巻く状況としては資料でも示された通り、医療関係職種の給与の平均は全産業平均を下回っており、また今年の春闘では全産業の平均賃上げ率が3.58%となっている中、医療・介護の賃上げは一般企業に及んでいない。その結果、高齢化等の需要増加にもかかわらず他の産業に人材が流出しており、医療分野における求人倍率は全職種平均を2倍から3倍程度の高い水準で高止まりしている。人材確保が困難な状況だ。これは地域医療存続の危機に関わる由々しき事態である」と主張。

 続けて、「公定価格により経営する医療機関等においては価格転嫁ができないことなどにより経営努力のみでは対応が困難なことから医療機関が賃上げや人材確保に対応できるよう十分な原資が必要であることは疑いの余地がない」(長島氏)と述べた。その上で、「前回改定で診療報酬上の対応として新設された看護職員処遇改善評価料に関してはこれまで指摘されてきた通りこの点数の評価対象とならない職種や医療機関があることや補助金からの移行という事情があったため、評価体系として技術的な課題もあることが今回の実績報告の結果からもみてとれる。それぞれの医療機関が雇用する医療従事者の職種構成や賃金の評価体系等、個々の医療機関が考慮しなければいけない事情が千差万別であることは十分に配慮しなければいけない。いずれにしても賃上げを確実に達成していくという政権の目標に沿うためにも公定価格である診療報酬を確実に引き上げる対応が必須であり、従事者の給与の上昇、および人材を確保する原資の確保が求められているということだと考える」とした。

 日本歯科医師会副会長の林正純氏は、医療関係職種の給与資料に関して、職種別のデータ提示は可能かを確認した。「コメディカルの部分に関して歯科衛生士などの個別の職種別や事業所の人数別の資料なども追加で提供いただくことは可能か」と質問した。また林氏は歯科材料費や機器の価格が高騰しており、公定価格で診療を行う中でこれ以上の対応は困難として支援を求めた。事務局は職種別データに関しては「調査設計を確認し可能であれば次回以降の議論のタイミングでお示ししたい」と回答した。
 

 日本慢性期医療協会副会長の池端幸彦氏は、診療報酬上の処遇改善の対象に病院薬剤師が含まれていないことに課題を持っているとの見方を示した。

 日本薬剤師会副会長の森昌平氏は、薬局や医療機関の処遇改善に関して、「新型コロナウイルス感染症の流行、連続の薬価改定、 物価・賃金の高騰などの影響により薬局や医療機関の経営は大きな影響を受けている。診療報酬は公定価格であるため、増加したコストの転嫁等ができず薬剤師をはじめとした医療職種や事務職などの人手不足や物価上昇に対応してスタッフの生活を支えるための賃金の引き上げを満足に実施できていないのが現状だ。薬剤師は薬局だけでなく医療機関でも地域医療を支えるために働いている。このような視点も含めて薬局や医療機関における処遇改善の実施へ向けて今回の改定で対応が必要で、どのような対応ができるのか、検討していくべきものと考える」と述べた。

 健康保険組合連合会理事の松本真人氏は、「処遇改善を考える上では補助金と診療報酬の性格が異なることは十分留意した上で議論に入るべきだ」と述べた。その上で、「看護補助者の給与が低いことは理解するが、医師・歯科医師・薬剤師・看護師を除いているデータだ。こうした方々を含めた上でデータを示していただきたい」と要望した。「これまで働き方改革に関連してさまざまな評価をしてきた経緯がある。さらには来年度から医師の残業規制が始まり、医師から看護師へのタスクシフトなどが進むと医療機関内の人件費の配分が変化する可能性が十分ある。また、処遇改善のために診療報酬を引き上げるということではなく、医療機関のマネージメントにより高齢化に伴う医療費の増加を相対的に賃金が低い職種に還元する流れにしていくべき」(松本氏)とした。コロナ禍の医療経営のダメージについては、「一般的に産業界を考えた時に売り上げが毎回伸びるわけではない。そうした中で企業は効率化も図っている。そうした効率化の観点も医療業界においても図っていただきたいとお願いだ。したがって、これ以上、診療報酬での評価を安易に増やすべきではないということは強調させていただく」(松本氏)とした。

この記事のライター

関連するキーワード


診療報酬改定 調剤報酬改定

関連する投稿


【中医協】医療DX推進体制加算、10月から3区分に/マイナ保険証利用率に応じて

【中医協】医療DX推進体制加算、10月から3区分に/マイナ保険証利用率に応じて

【2024.07.17配信】厚生労働省は7月17日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開催し、医療DX推進体制整備加算の取り扱いについて議論した。


【DX加算】マイナ使用率議論に言及/日薬森副会長

【DX加算】マイナ使用率議論に言及/日薬森副会長

【2024.06.29配信】日本薬剤師会は6月29日に定時総会を開催。午後に開かれたブロック代表質問では、令和6年度調剤報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」についてマイナ保険証の利用実績という要件の議論について質問があった。


【調剤報酬改定_疑義解釈(その8)】特定薬剤管理指導加算3ロ、「10月以前」算定可能/必要かつ十分な説明で

【調剤報酬改定_疑義解釈(その8)】特定薬剤管理指導加算3ロ、「10月以前」算定可能/必要かつ十分な説明で

【2024.06.19配信】厚生労働省は6月18日、調剤報酬改定の「疑義解釈(その8)」を発出した。特定薬剤管理指導加算3ロについては、必要かつ十分な説明を行えば10月1日より前の時点でも算定可能とした。


【調剤報酬改定_疑義解釈(その8)】特定薬剤管理指導加算3のイロ、「初回」算定可能

【調剤報酬改定_疑義解釈(その8)】特定薬剤管理指導加算3のイロ、「初回」算定可能

【2024.06.19配信】厚生労働省は6月18日、調剤報酬改定の「疑義解釈(その8)」を発出した。


【日本薬剤師会】特定薬剤管理指導加算3の「ロ」の算定、「現時点においては慎重に」

【日本薬剤師会】特定薬剤管理指導加算3の「ロ」の算定、「現時点においては慎重に」

【2024.06.06配信】日本薬剤師会は6月5日、都道府県薬剤師会担当役員宛てに、「長期収載品の選定療養に係る調剤報酬点数の取り扱い(特定薬剤管理指導加算3の「ロ」の算定)について」を発出した。「現時点においては慎重に考えていただく必要がある」としている。


最新の投稿


【厚労省】“研究用”抗原検査キット、薬機法で取り締まりの方向/該当性判断の上

【厚労省】“研究用”抗原検査キット、薬機法で取り締まりの方向/該当性判断の上

【2024.07.25配信】厚生労働省は7月25日に「厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会」を開催し、体外診断用医薬品の特性を踏まえた制度の見直しについて議論した。その中で「研究等の医療以外の用途を標榜する試薬の提供業者への対応」を議題とした。


【日薬】オーバードーズ問題でマニュアル作成を検討中

【日薬】オーバードーズ問題でマニュアル作成を検討中

【2024.07.24配信】日本薬剤師会は7月24日、都道府県会長協議会を開催した。


【厚労省】処方箋保存期間の検討を提示/薬局検討会

【厚労省】処方箋保存期間の検討を提示/薬局検討会

【2024.07.19配信】厚生労働省は、現在3年間となっている処方箋の保存期間について見直す方針を示した。「第7回薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」で提示した。診療録の保存期間が5年となっている中、電子処方箋については処方箋を調剤済みとなった日から5年間保存するサービスを提供しているなどの環境変化を挙げている。今後、制度部会で議題とする方針。


【コンソーシアム】大阪市から調剤外部委託で4社8薬局が確認通知受領を公表

【コンソーシアム】大阪市から調剤外部委託で4社8薬局が確認通知受領を公表

【2024.07.19配信】薬局DX推進コンソーシアムは7月19日、大阪市から調剤業務一部委託事業の確認通知を受け取ったと公表した。


【日本保険薬局協会】健康サポート薬局と地域連携薬局「違いない」/厚労省検討会に意見書

【日本保険薬局協会】健康サポート薬局と地域連携薬局「違いない」/厚労省検討会に意見書

【2024.07.19配信】日本保険薬局協会は7月19日に開かれた厚労省「第7回 薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」で意見書を提出した。「健康サポート薬局、地域連携薬局、地域支援体制加算届出薬局が描く薬局像は、小異こそあれ、分立させるほどの違いはない」とした。


ランキング


>>総合人気ランキング