【敷地内薬局】“一線”を踏み越えた規制緩和と社会秩序

【敷地内薬局】“一線”を踏み越えた規制緩和と社会秩序

【2023.09.05配信】KKR札幌医療センターが発注した敷地内薬局の整備事業をめぐって、センターの元事務部長とアインホールディングス役員が逮捕された事件によって、薬局業界でも特異な存在である「敷地内薬局」という形態に注目が集まっている。


 「事件の報を聞いた時、体の奥底から抑えられないほどの怒りを感じた」ーー。
 ある個人薬局経営者はそう語る。

 KKR札幌医療センターの敷地内薬局を舞台にした事件の報道が広がっていくにつれ、業界内外の「敷地内薬局」という形態への関心は高まっている。
 この経営者が“怒り”を覚えているのは不正の疑惑はもちろんのこと、報道によって当初提案の1.7倍におよぶ月額約750万円といわれる敷地内薬局の家賃など、多額の資金が薬局から病院に渡っていることを改めて目の当たりにしたからだ。

 敷地内薬局に対しては、医薬分業の趣旨に疑義があるとの観点から薬局業界では強い反発の声が当初からあった。
 処方を出す医師と調剤する薬剤師の専門性を分離し、独立した組織における専門職(医師、薬剤師)による相互確認システムが医薬分業だ。
 その独立性を担保するために、薬局は医療機関から「経済的」「機能的」「構造的」の3つの要素で独立すべきだと長らく規定されてきた。
 この3要素のうち、「構造的」独立性の緩和を求めたのが、2014年から2015年にかけての規制改革の議論だった。
 2015年3月に開かれた「規制改革会議 公開ディスカッション 医薬分業における規制の見直しについて」では、次の要望が取り上げられた。「(医療機関と薬局間について)国が一旦公道に出て入り直す構造を求めていることもあり、両施設の敷地境界にフェンス等を設けている。フェンス等により仕切られていると身体が不自由な者、車いすを利用する者、子供連れ、高齢者にとっては不便であるので、一旦公道に出て入り直すべきとする杓子定規な考え方は見直してほしい」というものだった。
 
 結果的には規制改革が行われたが、その後、当初は「公道やフェンス」の構造上の緩和が趣旨とされていたものが、医療機関の敷地内への薬局誘致を招くことになり、家賃などの名目で堂々と薬局から医療機関へ多額の資金が渡ることになった。この状況に多くの薬局関係者は、「構造上」ではなく「経済的」な独立性に疑義が生じる事態だと憤っている。医薬分業の本旨が守られないとすれば、国民がわざわざ医薬分業にコストを支払っている意味も薄くなる。

 

 医薬分業の趣旨以外に、もう1点、敷地内薬局の問題点が指摘されてきた側面がある。
 それが地域医療連携を損なう側面があるとの指摘だ。

 医薬分業の趣旨に疑義があると強く反発する地元・薬剤師会と、敷地内薬局に出店しようとする薬局企業の間には、少なからずの軋轢があった。それだけでなく、地域にある薬局同士は、ある意味で同業他社でもある。「敷地内薬局は、医療機関周辺を争う“門前薬局”と大きく違わない」との論調は一理あるが、「AがだめならBがある」という門前の争いと、そこしかない「唯一無二」となる敷地内薬局では、やはり違う。規制改革で誕生した“唯一無二”の存在を、周囲の薬局はどう見ていたのか。その軋轢を軽んじることはできないのではないか、ということを改めて考えさせられる。薬局間にそれほどの軋轢を生んで、今後進めるべき薬局間連携は実現できるのだろうか。社会秩序を守っていた“一線”を踏み越えた規制緩和は、地域医療連携を阻害する意味で、かえって非効率を生じるのではないか。

 敷地内薬局も、当初の賛成論の中に“病院前の景色を変える”影響もあり、医療費の効率化につながるというものがあった。次なる規制改革のターゲットになっている「調剤業務の一部外部委託」も、医療費が米国では6分の1になったなどの指摘が出始めている。しかし。医療的ケア児を筆頭に障害など福祉を含め、医療・介護・社会生活を支える地域包括ケアには、地域のプレイヤー同士の密な連携は欠かせない。地域包括ケアは地域の限りあるリソースを最大限活用しようとする仕組みであるのに、それを阻害する規制緩和であれば、ちぐはぐな政策としか言いようがないのではないだろうか。地域における薬局のあり方という視点でも、多くの薬局が今後の規制改革の行方をさらに議論する必要がありそうだ。もしも、特異な薬局形態がどうしても必要だとしても、地域でのコンセンサスを求める仕組みをつくるなど、コミュニティを壊さない配慮が求められるのではないだろうか。

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