【日薬・山本会長】訪看STの配置可能薬剤拡大の根拠、「事実誤認はないか」

【日薬・山本会長】訪看STの配置可能薬剤拡大の根拠、「事実誤認はないか」

【2023.05.10配信】日本薬剤師会(日薬)会長の山本信夫氏は5月10日の定例会見で、改めて訪問看護ステーション(訪看ST)への配置可能な医薬品の対象を拡大する規制改革提案に断固反対する考えを強調した。会見の中では、そもそも訪看STが困っている事例として挙げられているものに「全部とは言わないが、一部、事実誤認があるのではないか」と指摘。薬剤師が訪看STと連携し関わっていない事例の中には医師からの訪問指示がないために薬剤師が関われないケースがあることも想定されるとし、薬剤師が在宅医療に関わる対応が必要との考えを示した。日薬によるヒアリング調査では多職種連携によって指摘されるような問題事例は起こっていないことも確認されたとした。


山本会長、適切な在宅医療を進めようとしている中で、「推進ではなく逆行」

 規制改革推進会議「医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ」(WG)では、訪問看護に従事している看護師235名を対象にした「患者・利用者急変時の薬剤および特定行為に関する緊急調査」の結果が示され、約7割が「訪問看護師の手元に薬剤や輸液がないことで、患者・利用者の急変に即時対応できなかった経験」を有しているなどとしていた。

 一方、困った個別事例をみると、主治医に連絡したものの休診日で翌日まで輸液を確保できなかったケースや薬局の在庫不足なども含まれており、医師との連絡体制や医薬品の在庫問題など、訪看STに薬剤を置くことだけで解決できないとは思われる事例も複数含まれていた。

 山本会長は、「(いろいろな背景が)ないまぜになっているのではないか」と指摘。薬剤師が訪看STと連携して関わっていない事例の中には医師からの訪問指示がないために薬剤師が関われないケースがあることも想定されるとし、薬局、薬剤師が在宅医療に関わる対応が必要との考えを示した。
 日薬によるヒアリング調査では多職種連携によって指摘されるような問題事例は起こっていないことも確認されたとした。

 その上で「全てとは言わないが、(規制改革提案には)一部、事実誤認があるのではないか」と指摘。日薬としては、こうした個別事例における事由が明確でない中では事実誤認や誤解に基づいた議論となることを懸念している。

 山本会長は「特定の職種が突出することでチーム医療の安全は確保できない」と語り、医療関係者の相互の理解と連携に基づき専門性を発揮することが重要との考えを示した。

 法律として患者への薬剤投与のために薬剤師による「調剤」という行為が規定されているとも指摘し、法的な問題であるとの認識も示した。「医師の処方権」や「薬剤師の調剤権」に関わる問題との考えを示した。

 加えて、「仮に」として、WGで提案された「遠隔倉庫」のようなものを想定した場合、薬局と連携するのであれば、「100の訪看STに100の薬局の在庫を置かなければいけないことになる。合理的ではない」とするとともに、そうでないとすれば特定の薬局への患者誘導となる懸念も示した。「適切な在宅医療を進めようとしている中で、推進ではなく逆行になる」とした。

 議論するにしても、背景の明確化のほか、チーム医療検討会などの医療職種間での議論が必要とし、その上で「法律として行うべき」とし、「なんでも“規制緩和で”というのは乱暴だと思っている」と話した。

 WGでは専門委員から「日本は国民皆保険の元、同一の医療が、どこでも受けられることが保障されているはずである」など、国民の権利に関わる問題としての指摘がある。このことへの考えを記者から聞かれると、山本会長は「権利というのであれば、どういう権利かというと適切な医療が受けられる権利だ。そのために安全を担保するための法律がある」と語った。

 日薬副会長の安部好弘氏は、医薬品がすぐ手元になかったケースに関しては、「医師も看護師も、薬剤師も同じ悩みを抱えている」と話し、連携を密にすることでそれを回避していく方向が重要とし、患者へ対する最善のケアへの願いは同じだとの思いをのぞかせた。
 その上で、薬局は数千品目の医薬品を扱い、法律に基づき管理を行っているとして、訪看STへの薬剤配置拡大は医薬品の管理の視点からも問題があるとの考えを示した。

  日薬は5月に、全国で過不足のない医薬品の提供体制を構築することを目指して「第8次医療計画及び地域医薬品提供体制に係る全国会議(仮称)」を開催する予定にしている。
 訪問薬剤管理指導を実施している薬局のほか、在宅医療チームの一員として小児の訪問薬剤管理指導を実施している薬局数、 24時間対応可能な薬局数、麻薬(持続注射療法を含む)の調剤及び訪問薬剤管理指導を実施している薬局数、無菌製剤(TPN輸液を含む)の調剤及び訪問薬剤管理指導を実施している薬局数なども新たに指標例とした第8次医療計画が国から発出されたことを受けたもの。国、職能団体も少子高齢化が進展するわが国の状況に対応できる施策を検討、講じている。

この記事のライター

関連するキーワード


訪問看護ST

関連する投稿


【規制改革推進会議】規制緩和求めた「住田町」 / “町唯一の”薬局「夜間休日対応、連携で可能」

【規制改革推進会議】規制緩和求めた「住田町」 / “町唯一の”薬局「夜間休日対応、連携で可能」

【2024.05.08配信】4月26日に開かれた内閣府の規制改革推進会議「健康・医療・介護ワーキング・グループ」(WG) では、「在宅医療における円滑な薬物治療の提供について」が議題の1つとなり、岩手県気仙郡住田町の町長から訪問看護ステーションへの薬剤ストックの提案がされた。同町で唯一である薬局が本紙取材に応えた。


【日本薬剤師会・山本信夫会長】規制改革に「薬剤師の総力を結集して、理不尽な要求に対抗していかなくてはならない」

【日本薬剤師会・山本信夫会長】規制改革に「薬剤師の総力を結集して、理不尽な要求に対抗していかなくてはならない」

【2023.03.13配信】日本薬剤師会は3月11・12日の両日、第101回臨時総会を開いた。この中の会長演述の中で、会長の山本信夫氏は、調剤業務の一部外部委託や訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の対象範囲の拡大を求めている規制改革の要望に対して、薬剤師は「国民が安全に医薬品を提供できる環境を確保する、いわば“提供義務”を担う」として、「その責務が揺るがぬよう、会員をはじめ日本中の薬剤師の総力を結集して、理不尽な要求に対抗していかなくてはならない」との考えを示した。


【規制改革会議】訪看STへの薬剤配置で“遠隔管理”案が浮上

【規制改革会議】訪看STへの薬剤配置で“遠隔管理”案が浮上

【2023.03.07配信】内閣府は3月6日、規制改革推進会議「医療・介護・感染症対策ワーキンググループ」(WG)を開催し、「訪問看護ステーション(訪看ST)へ配置可能な薬剤の対象拡充について」を議論した。この中で、専門委員から実施にあたってのスキーム案が提示された。薬局の薬剤師がオンラインによって訪看STに設置した遠隔倉庫を遠隔管理し、随時授与するなどとした。


【長野県茅野市】指定訪問看護事業所の在庫薬剤の対象拡大を要望/医療機関または薬局と連携協定を結ぶこと想定

【長野県茅野市】指定訪問看護事業所の在庫薬剤の対象拡大を要望/医療機関または薬局と連携協定を結ぶこと想定

【2022.11.11配信】内閣府国家戦略特区ワーキンググループは11月9日、「指定訪問看護事業所にストック可能な薬剤等の対象拡大」を議論した。この中で長野県茅野市は、医療機関または薬局と連携協定を結んだ上で、連携先の医師または薬剤師が指定訪問看護事業所にストックされた薬剤の管理を行うスキームを提案。処方薬や衛生材料はその患者を診ている医療機関が算定、または包括報酬の中で払い出しを行うイメージ図を示した。


【規制改革WG】訪問看護STへの薬剤の常備を議論/鎮痛剤や抗生物質など

【規制改革WG】訪問看護STへの薬剤の常備を議論/鎮痛剤や抗生物質など

【2022.11.07配信】規制改革推進会議「医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ」(WG)は11月7日、「訪問看護ステーションに配置可能な薬剤の対象拡充について」を議論した。日本看護協会などから、訪問看護ステーション(ST)に一定の範囲の薬剤の常備を求める要望が出た。鎮痛剤や抗生物質などを想定している。特定行為研修制度を修了している場合、手元に薬剤がないため指示を実施できないことも矛盾として挙げられた。これに対し、厚労省は職種間の連携が重要との考えを示し、今後の方向性については回答はしなかった。


最新の投稿


【日本薬剤師会】“零売訴訟”にコメント

【日本薬剤師会】“零売訴訟”にコメント

【2025.01.22配信】日本薬剤師会は1月22日に定例会見を開いた。この中で記者から、いわゆる“零売”に関する訴訟が起きていることへの見解を求める質問が出た。


【日本薬剤師会】薬機法とりまとめ評価/「地域医薬品提供計画」の文言は入らない見込みも「精神は理解頂けた」

【日本薬剤師会】薬機法とりまとめ評価/「地域医薬品提供計画」の文言は入らない見込みも「精神は理解頂けた」

【2025.01.22配信】日本薬剤師会は1月22日に会見を開き、次期薬機法改正に向けた厚労省制度部会のとりまとめへの見解を示した。


【電子処方箋】院内処方機能のプレ運用開始

【電子処方箋】院内処方機能のプレ運用開始

【2025.01.20配信】厚生労働省は1月23日から、電子処方箋の院内処方登録機能のプレ運用を開始する。


【日本保険薬局協会】「1社流通」調査/理由の説明あったのはわずか「7.1%」

【日本保険薬局協会】「1社流通」調査/理由の説明あったのはわずか「7.1%」

【2025.01.16配信】日本保険薬局協会は1月16日、定例会見を開き、「1社流通」に関する調査結果を公表した。「一社流通」はメーカーが卸を限定して流通させている医薬品のことで、価格交渉の余地が小さく、薬価の「単品単価交渉」「銘柄別評価」の原則の中で、薬価形成に問題があるのではないかとの指摘が出ているもの。薬局・医療機関からは1社流通の場合は、メーカーからその理由について説明を求める声が高まっている。1社流通品のある多くの薬局で、卸変更や納品時期確認を余儀なくされているだけでなく、患者への欠品対応や継続服用の中断といった供給上の問題も発生していた。


【日本保険薬局協会】「壁を取り除くことから」/薬局間連携に意欲、三木田会長

【日本保険薬局協会】「壁を取り除くことから」/薬局間連携に意欲、三木田会長

【2025.01.16配信】日本保険薬局協会は1月16日に定例会見を開いた。この中で会長の三木田慎也氏は、薬局間連携に意欲を示すとともに、会員からは「イメージしづらい」との声もあることを紹介した上で、「まずは壁を取り除くことが必要ではないか」との見方を示した。協会としては、協会の持つ機能を地域の財産としていかに活用してもらうかがテーマだとした。