【薬剤師等有志団体】緊急避妊薬のスイッチOTC化パブコメで提出する意見書公表/「SRHR pharmacy PROject」

【薬剤師等有志団体】緊急避妊薬のスイッチOTC化パブコメで提出する意見書公表/「SRHR pharmacy PROject」

【2023.01.23配信】SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:性と生殖に関する健康と権利)について知り、薬剤師等が何ができるかを考える場を作ることを目的に活動している「一般社団法人SRHR pharmacy PROject」はこのほど、厚労省が開始している緊急避妊薬のスイッチOTC化のパブコメに提出する意見書の内容を公表した。パブコメ提出は誰もができるもので、提出期限は1月31日まで。市民団体などによるパブコメ提出への呼びかけなどが活発化している。


 同団体は意見書で、緊急避妊薬を必要としている人は性犯罪や性暴力の被害者だけでなく、妊娠の可能性のあるセックスをきっかけに、「このままだと妊娠するかもしれない」という不安を抱えている人が多く存在していると指摘。その上で、緊急避妊薬に対する正しい情報の提供が求められている状況を説明。妊娠不安を抱えた女性に対して、薬剤師がリーフレットや専用ウェブサイトなどを活用することで、婦人科医のような専門知識や心理相談員のような対応技術がなくとも、緊急避妊薬を正しい情報の提供とともに販売することは可能と指摘している。緊急避妊薬OTC化にあたっては、女性の主体性や自己決定が尊重される運用体制を要望。性的虐待や性暴力を受けて緊急避妊薬を必要とする児童(18歳未満の者を指す)に対しては、 警察や児童相談所等へ連絡し、対応を引き継ぐなどの対応を示した。

 意見書の詳細は以下の通り。

■ 厚生労働省「緊急避妊薬のスイッチOTC化に係る検討会議での議論」に関するパブリックコメント

2023年1月 一般社団法人SRHR pharmacy PROject

 当団体は、女性や思春期のヘルスケアに薬剤師が積極的に関われていない状況を変えるために活動する非営利団体である。会員は薬剤師を中心に保健師など医療専門職で構成され、 Sexual Reproductive Health and Rights(SRHR)という基本的人権が尊重された社会を薬剤師や薬局が中心となって地域に伝えていけるよう活動している。 緊急避妊薬は自身で産む産まないを選択する際に大きな役割を果たし、自身の身を守るため女性にとって必要不可欠な薬である。人々の健康な生活を確保するという使命をもった薬剤師として、緊急避妊薬を服用する可能性のある女性として、アクセス改善を望み、団体として意見することとした。

 すべての女性が緊急避妊薬にアクセスでき安全に使用するため、現場で女性を支援する専門 職として、以下を提案する。


1.スイッチOTC化のニーズ
 緊急避妊薬に馴染みのない、これまで関わる必要がなかった人たちは、「緊急避妊薬は性犯罪や性暴力の被害者が使う薬である」という誤った認識を持っていたように思う。薬を扱う薬剤師の多くもそう捉えていたように思う。しかし実際には、妊娠の可能性のあるセックスをきっかけに、「このままだと妊娠するかもしれない」という不安を抱え、悩んでいる女性は世間が想像するよりもはるかに多い。そしてそのような女性が求めていることは、緊急避妊薬が選択肢の1つであること、そしてそれをどうすれば入手できるかという正しい情報である。
 行政の妊娠等の相談窓口には“中絶するか、産むか”の相談が多いとイメージする人が多いかもしれないが、実態は異なり、「妊娠したかもしれない」という不安によるものが最多だというデータがある。東京都にんしんほっとラインの平成31年度の相談実績1)によると、「妊娠かも?」という 妊娠未判定時期の相談が約36%で最多である。また、全国に先駆けて相談窓口を開設した大 阪府のにんしんSOS令和3年度の実績報告2)によると、月経が遅れている、避妊に失敗したなどの「妊娠不安」が53.8%と最も多く、「その他(緊急避妊等)」も13.6%を占める。これは全国どの地域においても類似の状況であると考えられる。
さらに、日本における予定外妊娠の頻度等に関する報告は少ないが、妊娠の約4割が予定外妊娠であったことが報告されている3)。DVなどはごく一部であり、たとえ良好な性関係であっても 望んだタイミングでの妊娠ではない女性が多くいることを示しており、ここにも緊急避妊薬の大き なニーズがあると考える。
 先述の大阪府の実績報告では、相談窓口での対応内容についても触れている。取られる対応で多かったのは、情報提供77.4%、傾聴・助言等17.0%の順であり、受診勧奨や紹介等の連携をおこなう必要があったものはごく少数であったとされている。また、相談を受ける姿勢としては 「相談者に寄り添い、悩みに対し妊娠や出産についての正しい知識や情報を伝える」ことを実践 していると報告されている。このように多くの購入者に必要なことは、直接介入や指導よりも緊急避妊薬に対する正しい情報の提供である。

以上のことを考えると、妊娠不安を抱えた女性に対して、薬剤師がリーフレットや専用ウェブサイトなどを活用することで、婦人科医のような専門知識や心理相談員のような対応技術がなくとも、緊急避妊薬を正しい情報の提供とともに販売することは可能である。


2.総合意見
 緊急避妊薬スイッチOTC化において、転売など犯罪防止に重きを置いた非現実的なゼロリスク志向で、女性の保護を目的に管理するべきではない。基本的人権としてのSexual Reproductive Health and Rights(以下、SRHR)が尊重されることを強く望む。
SRHRとは“自分のからだは自分のものであり、プライバシーが守られ、差別や強制、搾取、暴 力を受けず、自己決定が尊重されることを当たり前にしようとする考え方”であり、“子どもをもつかもたないか、いつ持つか、何人もつかを決められる”ことも含まれる4)。 スイッチOTC化の議論において、SRHRが尊重されない対応案が散見されることに懸念を抱いている。たとえば、悪用濫用の可能性の排除に重きを置くばかりに、治療上または公衆衛生上の 妥当な理由なく販売時に薬剤師の面前での服用を求めることは、すべての人の医療の自己決定 権を奪う行為である。また、リーフレットやウェブサイトを活用することで避妊法についての正しい 情報提供は可能であり、合理的な理由なく服用後の婦人科受診を勧奨することは、女性を主体 性のない存在とみなす行為である。
以上より、緊急避妊薬OTC化にあたっては、上記意見や対応策について見直し、女性の主体 性や自己決定が尊重される運用体制となることを望む。
前項で述べたように、緊急避妊薬スイッチOTC化で望まれていることは、薬へのアクセス改善と安全安心に利用するための情報提供である。販売時の対応等について、国際的なガイドラインに沿わない、根拠の乏しい条件を販売者に課すことは、販売のハードルとなり、結果的に薬へのアクセスを妨げることにつながりかねない。よって、日本の現状に合わせた実行可能な運用とな ることを望む。


3.販売時の具体的対応案
3-1.年齢制限および本人確認
  薬の性質および用法の観点から年齢制限を設ける合理的な理由はないため、年齢制限および本人確認は不要である。
 レボノルゲストレルは、用法が簡便で、正しい使用のために医学的管理下におく必要はなく、多くの国で市販薬または処方箋なしでの使用が承認されている。13歳~16歳の女児を対象とした 研究において、緊急避妊薬の使用は安全であること、研究参加者全員が緊急避妊薬を正しく使 用することができたことが報告されている5)。
 また、日本国内において、OTC医薬品に対する医療の同意年齢に関して2014年医薬品の販売規制の見直しがなされた際にも言及はなく、以降OTC医薬品の販売に関して医療の同意年齢が大きな問題として取り上げられていない。そのため安全性の高く健康上のリスクも低いレボノルゲストレルについてのみ、OTC化に際して医療の同意年齢を懸念事項とすることには疑問である。また、レボノルゲストレルについて依存性の報告はなく、購入者が若年者である場合の氏 名・年齢の確認等の対応には該当しないと考える。 上記に加え、SRHRの観点から、思春期を含むすべての女性は緊急避妊薬にアクセスする権利があり、販売に年齢制限を設けることはアクセスの妨げとなる。
 性的虐待や性暴力を受けて緊急避妊薬を必要とする児童(18歳未満の者を指す)に対しては、 手引き等を作成して適切な初期対応ができるよう努めるべきである。教職員向けに都道府県や NPOが児童の性暴力被害初期対応のマニュアル/手引きなどを作成しており6)7)8)、初期対応のポイントは参考になる。
 児童虐待の通告は全ての国民に課せられた義務である。加えて、児童虐待の防止等に関する 法律において、児童虐待を発見しやすい立場にある人や団体には、より積極的な児童虐待の早期発見及び通告が義務付けられている。当然薬剤師もこれに当たるため、対応に関して積極的な姿勢をとるべきである。
 緊急避妊薬を必要とする児童への基本的な対応としては以下の通りである。
・あなたを守るために信頼できる機関と連携すると児童に伝える
・二次被害防止の観点から非専門家(販売者)による詳細な聞き取りは行わない
・警察や児童相談所等へ連絡し、対応を引き継ぐ
3.2.なにをどのように問診し、情報提供するか
 緊急避妊薬のOTC化にあたり第一に求められることは、安心安全に使用するための適切な情 報提供である。具体的には、使用者の基礎情報などから適応を判断し、使用者が不安なく適切 に使用できるよう書面を用いた情報提供を行い、購入後の相談等フォローアップを行うことであ る。これについて、日本薬剤師会が作成した要指導医薬品・一般用医薬品の確認フローチャート 9)に沿って対応することで適切な使用をサポートできると考える。 一方、緊急避妊薬に特化して求められる対応や環境として、①プライバシーへの配慮、②Safer sexについての情報提供、③性暴力被害者への対応、の3点が重要である。それぞれについて、 以下の通り具体的に示す。
1プライバシーへの配慮
 必ず個室で対応する、というような特別な配慮は不要であると考える。これは、レボノルゲストレ ルは安全性の高く健康上のリスクも低い薬であり、女性は妊娠の可能性のあるセックスをしたか どうかを自分で判断することができ、緊急避妊薬の使用前に販売者によるスクリーニングは必要 ないと複数の国際的なガイドラインにて示されているためである10)。よって、緊急避妊を要するに 至った経緯や使用者の月経状況に関する詳細な聞き取りは不要と判断する。但し、これはプライ バシーに配慮しなくても良いということではなく、個人の健康や病気に関する相談について、他の 医薬品の販売と同様に行われるべきである。また、本人がプライバシーに配慮した環境での相 談を希望した場合には、個室等の場所を設定するなど、本人が安心して相談できるよう、現実的 な配慮策を他の医薬品販売の場合と同様に講じることが望ましいと考える。
2Safer sex(注1)についての情報提供
 販売時の口頭での情報提供を必須とせず、リーフレットや専用ウェブサイトおよび動画などを活 用した情報提供が適切であると考える。これにより、プライバシーに配慮した環境が十分に整っていない場所においても販売しやすくなる。また、購入者にとっても、自身が安心できる環境で、 何度でも閲覧・視聴できるようになり、全国どこで購入しても均質な情報が得られるなどのメリットがある。後から何度も情報を見返せることは、さまざまな障害を抱えた人にとっても有益なことである。さらに、外国語や手話言語などの多言語への対応が可能となり、誰もがSafer sexに関す る情報を得ることができる。
(注1)Safer sexとは、より安全な性行為のことで、避妊だけでなく、性感染症の予防のためにコ ンドームを使用するなどの配慮をしたセックスを指す。
3性暴力被害者への対応
販売時に性暴力被害への対応を検討すべき場面は2つであると考える。1女性自身が性暴力 被害について販売者に開示したとき、2身体のケガや購入女性の言動に対して販売者が違和感 を感じ性暴力被害を疑うとき、である。どちらの場合も、対象者の意思を尊重した情報提供を行う必要がある。
 女性のための相談先としては、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター・内閣府の性暴力に関する SNS相談・性犯罪被害相談電話(警察)など性暴力の相談に特化した場か ら、警察署・保健所/保健センター・女性相談センター・市区町村の女性相談窓口・近隣医療機 関・子ども家庭支援センター・児童相談所・NPOなど生活圏内の身近な場まで様々ある。もちろん女性には相談しないことを選択する権利もあり、相談することを強制してはならない。また、女 性のニーズによって適当な相談先は変わるため、一律に相談先を案内することは適切ではな い。
 性暴力被害者への聞き取りはトラウマに配慮した対応が必要であり、専門的な知識に基づい て、特別な配慮による支援が行われる必要がある。そのため、二次被害防止の観点から販売者が詳細な聞き取りを行ってはならない。トラウマ・インフォームド・ケア(注2)の視点で、批判や非難はもちろん、良かれと思った不用意な言葉掛けで被害者を傷つけることのないよう、販売者は共感的な姿勢で情報提供に徹するべきである。 各都道府県では、女性の相談先を網羅的にまとめたリーフレットの作成がすすめられている。たとえば、東京都では『女性が抱えやすい悩みに応じた相談窓口一覧(ハンカチ型リーフレット)』11) が作成されている。
 また、カード型の情報提供資材もあり、これらを活用することで女性自身が相 談する/しない、どこへ相談するか選択することを支援できると考える。また、このような資材を すべての購入者に配布することで、隠れた被害者にも情報を届けることができると考える。
 以上をまとめると、性暴力被害への対応については、隠れた被害者も想定し、すべての購入者 に情報提供を行うことができるよう、分かりやすく馴染みやすい情報提供資材を配布するのが望 ましいと考える。加えて、どの機関へ相談するか、相談しないことも含めて女性に選択する権利 があり、たとえばワンストップセンターへの紹介状を作成して相談を勧奨したり、販売者がその場 で支援機関に連絡することなどを、一律の対応として定めるべきではない。性暴力被害者への直 接介入は専門機関が行うべきであり、販売者が介入方法を習得する必要はない。

 具体的な緊急避妊薬使用に関する確認事項および情報提供について、以下を提案する。 〔確認・説明事項〕
チェックリスト等を用いながら確認および説明する。
1. 適応について 添付文書の禁忌および慎重投与、重要な基本的注意、併用注意について確認し、必要 時医療機関の受診を勧奨する。
2. 避妊効果に関する説明
● 緊急避妊薬は性交から72時間以内で高い効果があり、それ以降は成功率が下がるこ
と。ただし、これは販売の可否をジャッジするものではない。
● 服用後避妊の成功が確認されるまでは、妊娠の可能性のある別のセックスをしないこと
● 予定日を過ぎても月経がない場合は、妊娠検査薬の使用もしくは婦人科へ受診すること
● 作用減退の可能性のある健康状態(嘔吐・下痢)やハーブ、サプリメントなどがあること
3. 副作用
添付文書の副作用と対処法について説明する。特に2時間以内の嘔吐はもう1錠服用する必要があり、再度購入は自費となること。
4. 避妊法および性感染症の予防について
リーフレット等資料を渡すことで避妊法および性感染症の予防について情報提供をおこ
なう。
5. 相談先について
リーフレット等資料を渡すことで、DVや性被害、予期せぬ妊娠等の相談先について情報提供を行う。
〔リーフレットおよびウェブサイトの仕様〕 リーフレットおよび専用ウェブサイトにより、すべての購入者およびパートナーへ情報提供できる 環境が望ましい。
● リーフレットには最小限の情報を記載し、二次元バーコードなどから詳しい情報について 記載された専用ウェブサイト等へアクセスできること
● 女性のみでなく、パートナーの男性に向けた情報があること
● 専用ウェブサイトは、外国語や手話言語など多言語に対応していること
● ウェブアクセシビリティが確保されていること
(注2)トラウマ・インフォームド・ケアとは、“支援する多くの人たちがトラウマに関する知識や対応 を身につけ、普段支援している人たちに「トラウマがあるかもしれない」という観点をもって対応す る支援の枠組み”である。“2000年代以降、北米を中心に広がりを見せ、近年日本においても、医 療、福祉、司法、教育の領域にも適応されるようになってきて”おり12)、一部の専門家に求められ る関わりではなくすべての人が公衆衛生上の一般知識として理解することが必要である。


4.薬剤師の研修体制
 レボノルゲストレルは安全性が高く用法も簡便な薬であり、その他多くのOTC医薬品と同様に すべての薬剤師が適切に販売できると考える。よって、販売者に研修を義務付けることは不要で あると考える。前項に述べたように、フォローチェックシートを用いて必要事項を確認し、用法、副 作用、注意事項などの説明を行うことができる。
 緊急避妊薬服用はSafer sexについて情報提供を行うよいタイミングであり、これらについてリーフレットやウェブサイト等を案内することで対応可能である。 研修を必須化することで対応できる薬剤師が限定され、薬へのアクセスを妨げることにつなが りかねない。一方で、緊急避妊薬に関する基本的な知識やそれを利用する女性の背景、販売時 の対応などについて販売者が理解しておくことで女性にとって安心できるよりよいサービスにつ ながると考えるため、すべての薬剤師がいつでもeラーニングで習得できる環境を整えることは重 要である。
 以上より、販売者の研修を必須とする必要はなく、すべての購入者にリーフレット等の情報提供 を行うことで、安心安全な販売体制とアクセスしやすい環境の双方を満たすことができると考え る。
 具体的な薬剤師向けeラーニング研修の内容について、以下を提案する。
● Sexual Reproductive Health and Rightsの概念について(対象者の自己決定を尊重する態度とはどのようなものか)
● 緊急避妊薬の作用機序
● 我が国の緊急避妊薬使用の現状
● 購入者の確認事項とその目的
● 用法と副作用について
● 購入者からのよくある質問
● その他知っておきたい関連する医薬品について
● 避妊法について(コンドーム・低用量ピル・IUD/IUSなど)
● 性感染症について
● 我が国のにんしん相談の現状と公的支援
● DVおよび性暴力被害の現状と相談先
● 二次被害防止とトラウマ・インフォームド・ケアの視点とは


5.悪用・濫用について
 まずはじめに、何を指して緊急避妊薬の悪用や濫用とするのか、具体的な場面・状況等の前提 条件が共有されないままに対応策を検討する段階に至っており、その点について確認しておきたい。薬物乱用とは、“ルールや法律から外れた 目的や方法で使用すること”と定義されている13)。悪 用も類似した意味と考えられる。女性が妊娠を回避したいと考え自覚的に緊急避妊薬を服用す るとき、いかなる場面であったとしても、たとえきっかけが他人からの勧めなどであったとしても、 その目的は達成できる。つまり、薬の目的に合致した使用であり、悪用濫用には当てはまらない。
 そもそも目的外の不正な使用とは、女性の意思に反して、つまり妊娠を回避しようと考えていないにも関わらず、知らないうちに第3者に服用させられることであり、これが悪用・濫用と定義され るのではないだろうか。しかし、緊急避妊薬スイッチOTC化の議論における悪用濫用とは、このような事象を懸念しているのではないように思う。悪用濫用の前提条件の共有がないため断定はできないが、何度も緊急避妊薬を購入することそれ自体を乱用であるといった、誤った捉え方をしているの ではないか。その女性は、何らかの事情があり、支援が必要な人なのかもしれない。コンドームや経口 避妊薬(低用量ピル)を正しく使用していても妊娠不安を感じているということもあるだろう。100%避妊 できる方法がこの世に存在していないのだから、女性が不安に思うのは当然と言える。女性が服用を望 んだ場合は、販売者が状況や必要性を判断することなく、不安に寄り添い、適切な情報提供を行う必要がある。また、使用者からの質問や問い合わせあった場合には誠実に対応し、薬剤師のみ対応しようと せず、適切な支援先につなげることが有効である。また、レボノルゲストレルに依存性の報告はな く、依存による濫用についての対策の検討は不要と考える。
 また、女性のSRHRの観点からも、必要なときになるべく早く手に入れられる状況が望ましく、具 体的な事象の共有もなされていない悪用濫用の可能性という憶測のみで、女性の緊急避妊薬ア クセスを妨げるべきではない。現状でも、個人輸入によって、誰でも・簡単に・安く・大量に緊急避 妊薬を購入することができるため、OTC化によって悪用濫用が増えるという憶測は的外れであ る。むしろ、日本での緊急避妊薬へのアクセスが改善されないことで、個人輸入によって品質の 担保されない薬を入手しようとする人が増えるのではないかと懸念する。

5-1.緊急避妊薬が容易に手に入ることで性感染症が増えるという憶測について
 緊急避妊薬が容易に手に入ると避妊具の使用が減り、性感染症が増えるとの懸念があるよう だが、緊急避妊薬が容易に手に入ることと性的活動が活発になる可能性との間には相関関係が ないことが分かっている14)。また、性感染症に関する特定感染症予防指針では、“性感染症の予 防には、正しい知識とそれに基づく注意深い行動が重要である。このため、性感染症に対する予 防対策としては、感染する又は感染を広げる可能性がある者への普及啓発及び性感染症の予 防を支援する環境づくりが重要である”ことが示され15)、情報提供が重要である。緊急避妊薬販 売時に性感染症やSafer sexについて情報提供ができれば、普及啓発および予防を支援する環 境づくりとして効果的であると考える。

5-2.緊急避妊薬が容易に手に入ることでDVや性暴力を助長するという憶測について
 恋人関係も含めたDV(ドメスティック・バイオレンス)は、「パワーとコントロール」の関係が本質 である。避妊に協力しなかったり、同意なく避妊しないなどの性的暴力は、「パワーとコントロール の車輪(注3)」の構造で説明される様々なコントロール手段のひとつに過ぎない。緊急避妊薬が安 易に手に入ることで避妊具をつけないなどの性暴力が増えるとの推測は、このパワーとコント ロールの関係や構造という本質から外れた、表層的で的外れなものである。DV関係の中での性暴力を防ぐ真の取り組みとは、パワーとコントロールの車輪を助長する社会的要因を変えること であり、緊急避妊薬のアクセスに懸念を示すことではない。直接支援につながってもDVからすぐ に逃げ出せる人は少ないことは、近年よく知られるることと思う。パワーとコントロール関係で植 え付けられた心理を脱却することは容易ではなく、またその支援も一度学べば実践できるといっ た簡単なものではない。DV支援においては、被害者を受容する態度とともに大切なことは、繰り 返しの情報提供である。緊急避妊薬販売時に、DVについてリーフレットやウェブサイトを活用し てすべての人に情報提供できれば、直接支援につながりづらい人にも情報を届ける貴重な機会 となる。
(注3)パワーとコントロールの車輪とは、DV発生の構造を車輪に例えた概念である。男性がもつ身体 的な力や経済力、社会的地位といったパワーが車軸となり、女性をコントロールすることにつながる。さ らに、身体的暴力、心理的暴力など様々な暴力が組み合わさることで、その車輪の回転の威力は増大 する。そして、車輪の外側に取り巻く、援助体制の不足や女性の経済的自立の困難、妻や母としての役 割の押し付けなどの社会的要因が加わり、よりスムーズに車輪が回転してしまうという悪循環をたどる。

5-3.要指導医薬品に留め置くべきか
 悪用濫用についての見解は前述の通りであり、リスクマネジメントの点において要指導医薬品 に留め置くことの合理的な理由は見いだせない。一方で、第1類医薬品となった場合、インター ネット販売も可能となり、対面販売の機会が減ることとなる。薬剤師が直接販売することでSafer sexや各種相談窓口の情報提供が確実に行われたり、相談の機会となるなどのメリットがあると 考える。スイッチOTC化後の状況を分析したうえで、上記メリットとインターネット販売を含むさら なるアクセス改善について、評価し判断するべきと考える。


6.アクセス担保と地域連携
 まず前提として、医師の処方による入手ルートがなくなるわけではないため、スイッチOTC化によって緊急避妊薬を入手できる場所は増え、現状よりアクセスがよくなることは明白である。薬局 やドラッグストア等の販売者に対して休日や深夜の対応まで求めるかどうかは、スイッチOTC化 が実現した後のさらなるアクセス改善についての議論であり、一足飛びに議論することではない。
 また、在庫の有無等でアクセスが担保されないとの懸念については、薬局間での在庫の確認 や、在庫がない場合の近隣薬局の案内、薬局ー病院間でも疑義照会など連携する体制は既に整っており、緊急避妊薬のOTC化に伴って特別な体制作りは不要であると考える。一方で、よりよい連携に向けて、近隣病院・薬局との連携に積極的に取り組むことや、薬剤師が関係機関(子 育て世代包括支援センター・児童相談所・男女共同参画センター・妊娠SOS相談など)の役割に ついて学ぶことは、地域のヘルスケアを担う存在として緊急避妊薬に関する連携に限らず求めら れる。 繰り返しになるが、まずはスイッチOTC化を実現し、適切な使用を支援する体制を整えることが 先決である。よりよいアクセスを目指した議論については、OTC化後の状況分析に基づき、継続 的になされるべきである。

7.緊急避妊薬OTC化を契機とした性教育の取り組み
 近年の地域包括ケアシステムの推進に際して、薬局やドラッグストアにも地域のヘルスケアの 情報発信の場となることが求められており、緊急避妊薬OTC化の一連の議論をきっかけに、薬 剤師が性教育や女性のヘルスケアに積極的に取り組み始めることを期待する。子どもに向けた 性教育については、たとえば学校薬剤師を通じて地域の保健師や学校養護教諭などと連携し行 うことができる。また薬局やドラッグストアにおいて、年齢を問わず正しい性の情報について、ポスターの掲示やリーフレットの配布などで情報提供することも可能である。それには各種資材や 質問を受けた場合のある程度の知識が求められるわけだが、そのためには、人権としての包括 的性教育、SRHRの概念はじめ性と生殖に関する基礎知識が、薬学教育や専門職としての研鑽 に位置づけられるべきであり、薬学生・薬剤師がそれらを学ぶ場が必要である。また、生涯教育 として国が国民に働きかけることも必要である。
以上

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