【令和5年度改定】安川孝志薬剤管理官インタビュー(厚生労働省 保険局 医療課)

【令和5年度改定】安川孝志薬剤管理官インタビュー(厚生労働省 保険局 医療課)

【2023.01.05配信】令和5年度の薬価改定においては診療報酬(調剤報酬含む)においても特例措置を講じることとなった。今回の改定について、本紙では主に調剤に関わる内容について、厚生労働省 保険局 医療課 薬剤管理官の安川孝志氏にインタビューした。安川氏は地域支援体制加算の加点について、安定供給の課題に関しては議論の余地が大きいものとした上で、今回の対応は「地域に目を向けた取り組みをさらに促す」ことを目的としたものであり、「財政影響を考えた上」での対応であったと語った。


薬価と診療報酬が別建てで議論された令和5年度改定

 ――まず、今回の改定の全体像についておうかがいしたいと思います。いわゆる中間年改定である今回、診療報酬においても対応がされました。この関係性はどう受け止めたらいいのでしょうか。

 安川 基本的には薬価改定と診療報酬は別枠で取り扱われました。薬価改定の一部が診療報酬の対応分に充てられたのではないか、それが必要だったのか、というご意見をお聞きすることもありますが、薬価改定の大臣合意や予算編成過程における大臣折衝事項では薬価は薬価、診療報酬は診療報酬で別建てになっています。
 薬価は今回の平均乖離率や中医協での議論を受けて、どの範囲とするか、また特例対応を講じることを決めました。これが12月16日の大臣合意です。
 その後、予算折衝をする上で、これは保険に限ったものではなくさまざまな項目がある中で、その1つとして診療報酬について特例的な対応ということでオンライン資格確認の普及と医薬品安定供給における対応について追加的な加算を行うことになりました。これが12月21日でした。
 オンライン資格確認の普及と医薬品安定供給における対応の2点がなぜ取り上げられたかいうと、オンライン資格確認は令和5年4月に義務化される中で、さらに普及を進めていこうということ、安定供給については医療現場で大変な状況であり、中医協の薬価専門部会でもかなりご意見をいただいていたので、今、必要と考えられるトピックとして議論されたということです。

オン資加点は要件追加や算定間隔の変更なし

 ――次に調剤報酬に関しておうかがいします。まず、オンライン資格確認への対応についてです。

 安川 オンライン資格確認については、マイナンバーカードの普及促進も大きな観点です。その中でその手法がどうあるべきかは議論のあるところですが、今回はマイナンバーカードがあった場合とない場合の点数差を広げました。
 もともと、この加算に関しては令和4年10月に新たに導入された点数であり、医療の質の向上のため薬剤情報や特定健診情報に関してしっかり集めることを前提にした点数であり、令和5年4月のオンライン資格確認の義務化にあわせて対応したものです。その上で集める手段がマイナンバーカードであれば非常に情報が得やすい一方で、聞き取りやお薬手帳などによる情報収集は現場の負担は大きいので、今回の特例措置として大変な業務に関して評価を厚くしたものです。調剤においてはマイナンバーカードを利用しない場合、3点 だったものに1点加点し、4点としました。
 より大変な業務の報酬は手厚くするのは診療報酬の原則であり、調剤報酬の服薬管理指導料でお薬手帳を持参しなかった場合の点数が高いのと同様の考え方です。マイナンバーカードを持参しない方へのペナルティ、というような意味合いはありません。

 ――今回、医科では再診時の評価追加やそれに伴う要件が新設されていますが、調剤ではシンプルにマイナンバーカードを利用しない場合に1点加点ということで、要件追加などの変更点はないと考えていいですか。

 安川 はい、そうです。マイナンバーカードを利用しない場合の算定間隔の「6ヶ月に1回」なども変更していません。あとは、オンライン請求要件に特例的な対応はとっており、医療機関と薬局に適用されますが、調剤においては現状でもオンライン請求がほとんどですので、調剤に関してはあまり関係がないかもしれません。

 ――併せて議論になったのがオンライン資格確認義務化に際した経過措置ですね。

 安川 義務化するにあたって、例えばネットワークのないところについてはどうするのかなど、意見が出ていました。そこで今回、経過措置の「やむを得ない事情」に関して類型と、それぞれの類型への経過措置期限を示しました。ネットワーク環境が整備されていない医療機関や薬局などを類型として整理しました。

財政影響を考えた上で最善を尽くした安定供給への措置

 ――続いて、安定供給問題への措置についてです。

 安川 安定供給への今回の対応については、これは議論の余地がたくさんあるだろうとは思っていますが、財政影響を考えた上で、薬局での取組を促すために最善を尽くしたということになると思います。

 安定供給問題においては、みなさんがお困りの問題です。どの薬局も大変です。その中で、安定供給の問題に対する薬局の取り組みを評価することで、地域に目を向けた取り組みをさらに促すというのが今回の趣旨です。
 それをどの項目で評価するかですが、これは地域医療への貢献だろうということで地域体制加算に位置付け、さらに後発医薬品調剤体制の区分によってグラデーションをつけたということになります。

 ――その「取り組み」というのが、薬局においては施設基準に記載した医薬品の融通や在庫情報の共有ということでしょうか。

 安川 12月21日の中医協総会の資料でもお示ししましたが、地域によってさまざまな取り組み事例があります(資料 総-5 P7)。
 例えば滋賀県薬剤師会では、「在宅医療推進のための薬局の機能強化事業」として医療用医薬品の共有システムを活用して情報の共有や薬局間相互での医薬品融通を行っており、現在の状況ではこのような対応が活用できると思います。

 ――改定項目に目がいってしまい、その資料の提示は見落としていました。素晴らしいお取組みですね。薬局は個々で経営しているイメージが強く、在庫情報を共有している地域はとても限られている印象です。たしかに、こういった好事例が横展開されていくことは有用だと感じました。

 安川 地域の病院での医薬品入荷状況や処方状況を薬局と共有することで患者への提供に支障がないように取り組んでいる事例も資料に記載しています。また、医薬品の供給状況に合わせて医師が適切に処方できるよう、入手困難となっている品目の在庫状況について、薬局から近隣の医療機関に情報共有している事例もあります。
 安定供給への取り組みは、地域によってそれぞれだと思うのです。ただ、こうした地域に目を向けて配慮していく取り組みは、安定供給の混乱期にあっては考えていかなければいけない。当然、みなさんがそれぞれ取り組まれていることだと思います。地域の医薬品の在庫情報を薬局から医療機関に伝えて処方薬の種類や処方期間に配慮してもらう、こういった医療機関との調整を行うところ、それから薬局間で足りない医薬品を融通し合うなど。いろいろ取り組みはあると思います。
 今回の加点が本年4月から12月までの時限措置になっているのは、安定供給の大変さに対する加算ではなく、そういった取り組みを時限的な期間に促していこうという趣旨になります。医療機関の処方や使用に関する特例措置も同様です。その期間で安定供給の問題が解決することは難しいと思いますが、少しでも乗り越える間の取り組みを広げようということです。

 ――「地域に目を向けた取り組みの普及」という観点は非常に共感します。個人的な思いとして、たしかに現在の混乱は後発医薬品の不祥事であり今の産業構造をつくった制度的な問題もあるとは思うのですが、一方で、紛争など、不可抗力の事態で医薬品供給が不安定になることもあり得て、医薬品の供給が不安定になった時に、それを緩和する機能が薬局にあるということを今、示すことはとても価値があることではないかと思っているのです。それには個々の薬局の取り組みではなく、地域としての取り組みが必須ですね。

 安川 地域によって医薬品の流通状況も異なるので、自分の地域でどの医薬品が不足しているのか、それを共有、周知をして処方にも配慮してもらうような働きかけをする、そういった取り組みは結果的に薬局の混乱を最小限に抑えることにもつながるのではないかと思っています。
 そして、そういった取り組みや薬の入手が難しくなっている状況を患者を含めて周知をすることも大切なのではないかと思っています。今回、薬局内への取り組みの掲示を要件にしています。
 こうした取り組みを、地域支援体制加算を算定していない薬局はやっていないとか、やらなくていいとかいうことではなく、安定供給の取り組みはみなさん行っていることではあるのですが、今回の特例措置としては、医薬品の一定の備蓄などの要件も入っていて、医薬品提供についても地域に貢献していることを前提としている地域支援体制加算に対して加点をすることで地域での取り組みを促していこうということで整理しました。取り組みをどう進めたらいいのかと考えた時に、地域にもともと貢献している薬局に率先して取り組んでもらいたい、そこに取り組みを広げてもらう役割を求めましょうということを評価対象としました。

 ――たしかに、資料にもあるような地域に目を向けた取り組みをみると、もともと地域と連携している薬局という基盤がないと、できなかったことだと感じますね。
 一方、冒頭、「財政影響を考えた上で」という言葉がありましたが、実際は大臣折衝事項で決まった予算の中での配分であって、無尽蔵に配分できるわけではないということがあまり理解されていないのかなとも思います。単純に点数で考えるのではなく、点数×算定対象施設の考えで配分されていることを考慮する必要があるのかなと感じました。

 安川 医療費ベースで全体で250億円という中で、その中で今回のような対応としたということになります。

――ちなみに医科の一般名処方加算への加点など医療機関への対応についてはいかがですか。

安川 医療機関における取り組みとしては、銘柄を指定するようなことが広がると、薬局で医薬品供給が不安定な中では柔軟性ある調剤ができなくなってしまう。それでは困るので、一般名処方を推進する目的で2点加点しました。後発医薬品の供給が不安定になる中で、それを機に「それなら先発品の銘柄指定にしよう」といったことになれば、保険調剤での柔軟性ある調剤が難しくなってしまいます。
また、入院に関しても医薬品の供給が不安定な中でクリティカルパスの見直しなどの業務も発生しますので、これについても後発医薬品使用体制加算に、入院初日に限って20点を加点しました。これには、適切な提供に資する取組を実施した場合が対象という要件を追加しています。外来後発医薬品使用体制加算についても同様に2点を加点しています。

――改めてですが、中間年改定に対しては業界からはとても大きな反発がありますね。

安川 そこもさまざま議論のあるところだとは思いますが、中間年改定がなぜ議論になっているかというと、薬価差が1つのキーでもあります。薬価改定で製薬企業の力を削ぐような意図はないですが、大臣合意でも「国民負担軽減の観点から」とあるように、一定の乖離率が生じている中で、「実勢価が薬価と乖離しているではないか」「国民負担の観点からそれでいいのか」という論点に対して、改定が必要ないことを十分答えることはなかなか簡単ではないです。「では、なぜ価格が下がっているのですか」と。薬価改定は国が勝手に薬価を引き下げているわけではなく、実勢価にあわせて調整しているだけであり、流通上の価格が通常年の改定と変わらない程度に下がってしまっているというところにこの問題の難しさがあります。

 ーー分かりました。ありがとうございます。

厚生労働省 保険局 医療課 薬剤管理官 安川孝志氏


【編集部注】有料版「ドラビズforPharmacy」では、インタビュー全文を配信。「薬価差について」「令和6年度改定へ向けて」など。
https://www.dgs-on-line.com/boards/5

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