【日本薬剤師会】“アマゾン薬局参入”にコメント/「国にも考えてもらわないと」

【日本薬剤師会】“アマゾン薬局参入”にコメント/「国にも考えてもらわないと」

【2022.09.09配信】日本薬剤師会は9月8日、定例会見を開いた。この中で、記者から“アマゾンの薬局参入”の報道への見解を求める質問が相次いだ。山本信夫会長は、「国にも考えてもらわないと」などど述べ、国の方針が業界の今後に大きく影響するとの考えなどを述べた。


 “アマゾンの薬局参入”との報道への見解に関して、山本会長は国の方針が大きく関わるとの考えを示した。

 山本会長は9月8日の会見の中で、「われわれの世界からすると、国がどちらに引っ張ろうとしているかも大きな問題。これだけ規制を受けた業種だから、国の方針に極めて大きな影響を受ける。国にも考えてもらわないと、われわれだけでは考えきらないところがあるだろう」と述べた。

 “アマゾンエフェクト”と称され、アマゾンが参入した業界には甚大な影響がもたらされるとされているが、薬局が通常の小売業と違う点は公費が投入されている点である。しかも、日本は国民皆保険制度を築いている。医療や医薬品供給を国民の健康の維持増進、あるいは災害や新興感染症の対策として、どう構築しておくべきかは、国の方針が大きく影響する。

 薬局業界においては、規制改革の流れから、すでに薬局の調剤業務の一部外部委託に関して検証を始める方針が決まっている。医薬品という“モノ”にかかわる部分を効率化するために、一包化などの業務を自らの薬局以外の薬局に外部委託することで薬局が“対人業務”に割く時間が増加するのか、対人業務の質が本当に高まるのか、という検証である。

 しかし、規制改革から上がった提案であるにもかかわらず、政府が今年5月にまとめた「規制改革推進に関する答申」では、「調剤の一部外部委託」の検証の必要性を明記しつつも、プラットフォーマーへの“厳正な対処”についても記載している。以下のように記載されている。

 “公正取引委員会は、薬局における調剤業務の関連市場及び隣接する市場において独占的又は寡占的な地位を有するプラットフォーマーその他の事業者が、その競争上の地位を利用して、内部補助等を通じ、不当廉売、差別対価その他の不公正な取引方法によって、地域の調剤薬局を不当に排除することがないよう、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)に違反する行為が認められた場合には、厳正・的確に対処する。”

 国がプラットフォーマーに対し、調剤や関連する市場への台頭を許容する意図は感じられない。

 既存の医療業界においてはいわずもがなで、こうした外部委託の進展への懸念は多く指摘が出ている。
 厚生労働省が今年7月13日に開いた「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」でも、日本医師会常任理事の宮川政昭氏は外部委託が進み医薬品が集約化されることは災害対策を考えるとリスクとなるとの考えを示していた。宮川氏は「(外部委託は)災害時に(リスクを)分散できない。拠点に何かあったら丸つぶれだ。非効率であることで救われることがあるということを理解しないといけない。それを理解せずにただのモノの外部委託ということをすれば当然問題が起こってくるだろうことは明らか」と話していた。

 医療関連業界からは、オンラインだけを活用するような趣旨が進みすぎると、地域医療への影響が大きく、「地域医療は一度崩壊すれば元に戻すことは難しく、最終的に不利益を被るのは地域住民だ」との考えは根強い。

 昨年12月の中央社会保険医療協議会(中医協)でオンライン診療がテーマになった際も、日本医師会常任理事の城守国斗氏は懸念を表明していた。「オンライン診療だけしてそれ以外の診療は知りませんといった無責任な診療が跋扈するということや、地域でかかりつけ医機能を果している医師や診療所を、遠隔地から問診と診察の一部しか行わないオンライン診療で大きく変わってしまうということなどはあり得ないし、あってはならない。こういった診療が安易に行われる、広がると、例えばいざという時に実際に直接診療できる場所がなくなったり、現存する医療提供体制に対して余計な負担となったり、地域医療の弱体化、ひいては崩壊させるリスクすらあるのは明白。これは患者さんにとって大変大きなデメリットとなる。こういった認識も中医協で共有すべきだ」と話していた。

 日本薬剤師会も多くの公的場で医薬品提供体制のあるべき姿に関して言葉を尽くしてきた。

 日本薬剤師会(日薬)常務理事の橋場元氏は、厚労省の「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」で、「調剤自体を外部委託という形で丸投げするようなことになれば地域医療の崩壊につながる。そういう改革は絶対に認めるわけにはいかない」と強調した。「丸投げが行き過ぎれば、過剰な枚数の処方箋を取り扱うことになったり、過度な効率性を追求するあまり、処方箋を取り次ぐだけの薬局、こういった薬局がはびこることになりかねない。今般のコロナのような緊急事態が発生した時に本来の機能を持たない薬局ばかりでは地域医療に必要な調剤サービスがほぼ不可能になる。薬局というインフラは一度崩壊したら簡単に立て直すことはできない。いざとなってからでは遅い」と述べていた。
 
 橋場氏は、国の進める地域包括ケアという概念にも反するとの考えを表明。「そもそも地域包括ケアを進めている中で、地域のリソース、地域のプレイヤーによって成し遂げられることを目指している。医薬品提供もその地域の包括ケアの単位でまかなえるべきと思っている。また、安全性の観点についても、昨今のジェネリック医薬品メーカーの不正を行政が見抜けなかった。三次医療圏でも不安は拭えない」などと指摘していた。

 加えて、橋場氏は配送料の問題に関しても言及していた。「今と同じサービス、同じ価格を維持できることを前提に議論するのは懸念を持っている。医薬品をお届けする業務をあまりにも進め過ぎて、薬局以外の業者に依存してしまうことは懸念がある。しっかり議論すべき。アメリカでも医薬品の配送における温度管理や破損の問題がテレビでも報道され、社会問題化していると聞いている」としていた。

 無論、前述した内容は医薬品の“配送”だけに関わらず、オンラインの活用や調剤の外部委託などへの考え方を含んでいるが、プラットフォーマーの参入が配送受託だけでとどまると考えている業界関係者は少ない。

 医薬品は“モノ”と捉えられやすいが、医療提供と切り離して考えることはできない。医療の領域では高齢者だけでなく、障害を持った人、子供などの福祉を含めた地域包括ケアを前提として、多職種連携やタスクシェアのあり方の議論がされている。そういった中で医薬品提供についてもどのようなあり方が望ましいのかは、国の方針も求められる。
 山本会長は新興感染症を踏まえた今後の医薬品提供体制にも関連して、「医療が必要なところに医薬品も必要になってくる。必要なところに必要な医薬品が提供できる体制ができているか。その論点をはずすわけにはいけない。そのことを実践できるよう施策を打っていくことが必要」と述べていた。

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