【激論:規制改革と薬局vol.5】帝京平成大学薬学部 教授 亀井美和子氏「薬剤師法第一条に記載の調剤は非常に大事で薬剤師が絶対に手放してはいけないもの。しかし薬剤師自身が大事にしてきたのか」

【激論:規制改革と薬局vol.5】帝京平成大学薬学部 教授 亀井美和子氏「薬剤師法第一条に記載の調剤は非常に大事で薬剤師が絶対に手放してはいけないもの。しかし薬剤師自身が大事にしてきたのか」

【2022.04.21配信】座談会参加者■プライマリーファーマシー 代表 山村真一氏<独立系薬局経営者の立場から>■I&H 取締役 インキュベーション事業本部 岩崎英毅氏<大手調剤チェーン企業の立場から>■中部薬品 代表取締役専務 医療本部長 佐口弥氏<ドラッグストア企業の立場から>■帝京平成大学薬学部 教授 亀井美和子氏<アカデミアの立場から>■カケハシ 代表取締役社長 中尾豊氏<システム企業の立場から>【全5回】


 ――亀井先生からはアカデミア、教育、あるいは研究者のお立場からお話を伺えればと思います。

 亀井 今日はZOOMでの参加になってしまったので、会場に伺っていれば熱い議論が聞けたのではないかととても残念です。皆さんのお話を伺っていて考えていたのですが、薬剤師法第一条の調剤は非常に大事で、絶対に手放してはいけないのは当然のことなのですが、なぜ調剤を薬剤師以外の外から言われているのかと言えば、大事だと言いながら薬剤師自身が大切にしてきたのかなと感じました。調剤を本当に大切にしていたら、外野から批判されるような調剤にはならなかったと思います。
私は大学にいるので薬剤師の業務がこうであったらいいという思いで、アウトカム研究を中心にやってきましたが、製薬会社が治験をする段階では効く薬でも、実際に使うところに薬剤師が関わらなければ期待した効果が得られなかったりします。薬剤師がどのように関われば患者さんの治療がうまくいくのか、そこにもっと薬剤師が関わることが大切なのです。しかし、薬学教育が6年制になっても‘薬剤師としての’治療への関わり方は一向に教育されないし、6年制課程で病態や薬物治療をたくさん勉強した学生が、卒業後に調剤をこなすだけの人になってしまう。3年経つと、「うちの会社は休暇が取りやすい」といった話しかしなくなってしまう。こういったケースを見ると、大学教育ももちろん問題はありますけど、薬局業界もサラリーマン薬剤師を増やすだけ増やして、そこからプロフェッショナルに引き上げられなかったという大きな問題があったと思います。

 また、先ほど、外部委託やテレワークという話もありましたが、今の働き方がずっと続くかと言えばそうではなくて、薬局・病院というモノがある場所で働くだけではない働き方があっても良いと思います。ただ、今ある場所が地域からなくなっても良いということではなく、働き方の多様化として選択肢が増えるというイメージです。一方、薬剤師という資格でモノがない場所で独立して食べていけるかといえば、薬剤師自身が相当なプロフェッショナルでなければ難しいと思います。自分たちの職能に対して強く思いがなければそういう薬剤師にはなれません。働き方の選択肢が増えても、薬剤師としてのマインドがなければ、「薬剤師っていらないのでは」という議論になります。

 また、山村先生がおっしゃっていたように、登録販売者のように一度作った制度はなかなかなくすことはできないので、外部委託、あるいは薬局という箱のあり方も含めて制度を変えるということには慎重な議論が必要だと思います。

 これまでずっと、薬局薬剤師は薬局と薬剤師でワンセット、つまり箱と人で成り立っていて責任を共有していますので、仮にその箱をなくして人がうまく動けるようになるかと言えば、そうなっていません。ですから、この問題にどう向き合うのが薬剤師なのかを薬剤師自身が考えないと上手くいかないと思います。

 今の薬局数は、今までの議論からすると集約されていく可能性があります。ただ、地域に絶対必要な薬局というは今でも同じで、薬をもらうだけの薬局はいらないと言われるかもしれませんが、“寄り添う”やきちんとした薬物治療の提供といった専門知識の“質”などは地域に必要と言われるでしょうし、地域の繋がりの中でなくてはならないものにしていく必要があります。そのためにはデジタル技術なども活用して、より薬剤師の専門性が伝わるようになることが大事です。

 規制改革推進会議の中で色々議論されていますが、たくさんある医療の中で薬局や薬剤師の部分だけ変えても全体が上手くいくのかという疑問もあります。規制改革会議に対してはとっつきやすいところを議題にするのではなく、もっといろいろな方面から社会にどれだけ有益なアウトカムをもたらすのかが議論がされればいいと思っています。

 ――先生のご意見としては、今は薬局と薬剤師がセットだけれども部分的には切り離しが起きてくることは容認というスタンスでよろしいでしょうか。

 亀井 薬局という箱の話というよりも、薬剤師の働き方の話ですね。海外ではナースプラクティショナーや処方権をもった薬剤師のオフィスなどもありますが、そういった形で薬剤師が職能を活かして独立して仕事をすることも将来的にはあり得るのではないかと思います。ただそれで食べていかないと成り立たないので、できるかどうかはわかりません。

 ――プロフェッショナルというワードが印象的でしたが、逆に言えばアウトカムを提供できるというのがプロフェッショナルでもあると思います。薬局もしくは薬剤師は今からどうしたらいいのでしょうか。

 亀井 できている人は今もできています。もちろんできない人も一定数いますが、できる人を伸ばす環境があるのかなというのがあります。またそれを育てる大学という教育機関で、プロフェッショナルというマインドの醸成があるかどうか。こういったマインドは学生のうちに身につけないといけませんし、それをもって薬剤師になる。そして薬剤師になってからも持ち続けるという理想のような話になりますが……。質の高いサービスを提供できる薬剤師をどんどん活用していかなくてはなりません。

 ――アウトカム研究をされてきた先生からみて、どうやったら患者さんにプロフェッショナルたる薬剤師を感じてもらえるとお考えですか。

 亀井 患者さんの治療に責任を持つという自覚を持つということです。

 ――今日は長時間にわたるご議論、ありがとうございました。

オンラインでの参加となった帝京平成大学薬学部 教授 亀井美和子氏

■かめい・みわこ
1987年 日本大学理工学部薬学科卒業
1993年 筑波大学大学院経営政策科学研究科修了
2006年 昭和大学薬学部教授
2010年 日本大学薬学部教授
2020年 帝京平成大学 薬学部教授・薬学部長

この記事のライター

関連する投稿


【厚労省】調剤業務の一部外部委託でQ&A発出

【厚労省】調剤業務の一部外部委託でQ&A発出

【2024.05.10配信】厚生労働省は5月9日、「国家戦略特別区域調剤業務一部委託事業の実施要領に関する質疑応答集(Q&A)」を発出した。


【厚労省】調剤外部委託の特区実施要領を通知/特区事業開始の素地整う

【厚労省】調剤外部委託の特区実施要領を通知/特区事業開始の素地整う

【2024.05.09配信】厚生労働省は5月9日、「国家戦略特別区域調剤業務一部委託事業の実施要領」を発出した。これにより大阪での特区事業実施の素地が整うことになる。


【国家戦略特区】調剤の外部委託でWG、関係省庁等からのヒアリング実施/WG後は「区域会議」→「諮問会議」の流れ

【国家戦略特区】調剤の外部委託でWG、関係省庁等からのヒアリング実施/WG後は「区域会議」→「諮問会議」の流れ

【2023.10.12配信】10月12日、内閣府地方創生国家戦略特区ワーキンググループは関係省庁等からのヒアリングを実施した。この中で調剤業務の一部外部委託に関して議題となった。


【調剤業務の一部外部委託】厚労省、大阪府での特区に「実証の方向で検討進める」

【調剤業務の一部外部委託】厚労省、大阪府での特区に「実証の方向で検討進める」

【2023.09.28配信】内閣府はこのほど、「国家戦略特区等に関する検討要請に対する各府省庁からの回答について(令和5年度分)」を公表した。この中で、大阪府・大阪市・薬局DX推進コンソーシアムの3者が提案した調剤業務の外部委託に関わる事業について、厚労省は「実証の方向性で検討を進めてまいりたい」と回答した。


【日本薬剤師会山本会長】大阪の外部委託特区事業「注目している」/「所期の目的にそうように」

【日本薬剤師会山本会長】大阪の外部委託特区事業「注目している」/「所期の目的にそうように」

【2023.09.16配信】日本薬剤師会は9月16日、都道府県会長協議会を開催した。


最新の投稿


【厚労省_令和6年度医薬品販売制度実態把握調査】“濫用薬”販売方法で改善みられる

【厚労省_令和6年度医薬品販売制度実態把握調査】“濫用薬”販売方法で改善みられる

【2025.08.26配信】厚生労働省は8月22日、「令和6年度医薬品販売制度実態把握調査」の結果を公表した。同調査は、薬局・店舗販売業の許可を得た店舗が医薬品の販売に際し、店舗やインターネットで消費者に適切に説明を行っているかどうか等について調べたもの。令和6年度の調査は、前年度に引き続き一般用医薬品のインターネットでの販売状況や要指導医薬品の店舗での販売状況を含めた調査を実施した。


【スギHD】セキ薬品の株式の取得/持分法適用会社化

【スギHD】セキ薬品の株式の取得/持分法適用会社化

【2025.08.19配信】スギホールディングス株式会社は8月19日、埼玉県を中心に調剤併設型ドラッグストアを展開する株式会社セキ薬品の株式(3万7929株、持株比率 34.8%)を取得し、持分法適用会社とすることについて決定し、同日、株式譲渡契約を締結したと公表した。


【薬局DXコンソーシアム】病院が新たに加盟/社会医療法人 仁厚会

【薬局DXコンソーシアム】病院が新たに加盟/社会医療法人 仁厚会

【2025.08.19配信】薬局DXコンソーシアムに病院が加盟した。社会医療法人 仁厚会が会員となった。


【医薬品情報把握システムの検討活発化】薬剤師会“アクションリスト”実践へ/MSNW「LINCLEちいき版」を全国の都道府県薬へ提案中

【医薬品情報把握システムの検討活発化】薬剤師会“アクションリスト”実践へ/MSNW「LINCLEちいき版」を全国の都道府県薬へ提案中

【2025.08.08配信】日本薬剤師会が公表した「地域医薬品提供体制強化のためのアクションリスト」。このうちの1つの事項である「地域の医薬品情報の把握・共有の取組」。この実践へ向けて情報共有のためのシステム選定の動きも活発化してきた。こうした中、メディカルシステムネットワーク(MSNW)では、もともと地域薬剤師会と共に開発を進めてきた「LINCLEちいき版」の提案を強化している。すでに10以上の都道府県薬剤師会への提案を進行中だという。


【厚労省】保険調剤「確認事項」公表/2枚処方箋で投薬期間上限を超えるなど不適切事例

【厚労省】保険調剤「確認事項」公表/2枚処方箋で投薬期間上限を超えるなど不適切事例

【2025.08.08配信】厚生労働省はこのほど、保険調剤「確認事項」(令和7年度改訂版)を公表した。2枚処方箋を受け付けることにより、投薬期間上限を超えるなどの不適切事例を指摘している。