周回遅れの対応、「なぜそうなってしまうのか。そこが分からない」
11月24日の定例会見の中で、記者の質問に答えたもの。
日本チェーンドラッグストア協会事務総長の田中浩幸氏はコロナ抗原検査キットの販売のあり方について、「協会としてはスイッチOTC化して、OTCとして販売しましょうと申し上げている。特例的に薬局で販売が可能となったことやウェブ広告の規制緩和など、できることが広がったのは歓迎すべきではあるが、それが十分かというとそういったところまではいっていないかもしれない」と述べた。
協会会長の池野隆光氏は販売状況について言及し、従来販売してきた「研究用」と称した製品と、医療用製品は「量としては同じぐらい売れており、全体として2倍の販売量となっている」とした。
「研究用」と「医療用」の製品で購入している人にどう違いがあるのかについては、「手軽に買えるかどうかが違うところではないか」と指摘した。「検査全般にいえることだが、あれとこれをしたら販売していいよといって、結局できないということがある。医療用でも理解したことの確認結果
の保存等が求められていることなどが、(生活者にとっても)躊躇する一つになっている可能性があるかもしれない」との感触を示した。
その上で池野会長は、「薬局だけでなく店舗販売業など、どういう状態でも買えるのが一番いいと思う。登録販売者でも販売できるとなると全く変わってくると思う。検査をたくさんやることが一番重要。JACDSとしても積極的に検査が行えるような体制について、国に対しても働きかけていきたい」と話した。
協会副会長の根津孝一氏も、これまでのコロナ関連の検査の状況について、「対応が周回遅れだ」との認識を示した。「生活者はもっと現実的。研究用の抗原検査キットは1年前に販売ピークがあった。そこから(今)行政が対応を出す。PCR検査もずっと前から並んででも検査を行っている様子があった。対応が周回遅れになっていて、なぜそうなってしまうのか。そこがよく分からない」と話した。
<編集部コメント>“生活者”のニーズと“専門家”の介入の必要度のバランスをどう取るのか
会見の中で、根津副会長が「生活者は」と切り出したことは印象的だ。
先行して販売されてきた「研究用抗原検査キット」と「医療用抗原検査キット」を混同することがないように行政は監視指導を強化する方針を示しているが、そもそもドラッグストアは研究用を販売したかったわけではなく、「手軽に検査をしたい」という生活者のニーズに足下の状況で応えたことが結果的に研究用の販売につながっていただけだ。ドラッグストアの対応は生活者のニーズを映し出しているといえる。医療用の薬局販売が認められた現在でも研究用が売れている事象も、池野会長が指摘する通り、生活者のニーズの表れだろう。
抗原検査キットのOTC化に限らず、緊急避妊薬のOTC化を含めて、市販化の議論は常に「生活者のニーズ」と「専門家の介入の必要度」とのバランスの議論である。
これまでの議論の経過を踏まえると、専門家の介入が重視されてきたことは明白だが、市民の声の高まりやドラッグストアの政治力の高まりが、これまでの様子に少しずつ変化を与える可能性があるだろう。
その時に、「専門家の介入がなかった時の不利益」の議論はもちろん重要だ。一方で、体内への影響が低い体外診断薬は不利益は比較すると低い分類に入るのではないだろうか。服用要否に診断よりも本人の判断の方が大きい緊急避妊薬もその分類に入るだろう。
また、市販化は専門家の不介入を意味するわけではなく、薬剤師や登録販売者といった専門家へのタスクシフトの意味合いもある。その意味では、ドラッグストア業界が資質向上に本腰を入れ始めていることも影響するだろう。日本医薬品登録販売者協会はさきごろ「登録販売者の倫理規程と業務マニュアル」を作成・公表しており、「セルフメディケーションを適切に支援する役割」の推進に注力している。さらには、JACDSは濫用のおそれのある医薬品の該当商品であることを知らせる「レジアラーム」システムの導入進展により医薬品販売ルールの遵守率向上といった成果も公表している。こうした実績づくりも今後の規制緩和に影響していくだろう。