【コラム】薬局でのコロナ抗原検査キット販売を考える

【コラム】薬局でのコロナ抗原検査キット販売を考える

【2021.09.28配信】厚労省はコロナ抗原検査キットの薬局での販売を特例的に認める通知を出した。https://www.mhlw.go.jp/content/000836277.pdf これに対し、専門家からは「偽陰性の可能性を含めて正しい知識・使い方が重要だ」とする声や、「確定診断のために結局、受診するなら抗原検査は必要なのか」という疑問の声なども聞かれる。筆者も、厚労省の今回の事務連絡を読む限り、「症状がある人は受診勧奨が望まれ、無症状者には抗原検査キットは推奨されないなら、いったいどんな人が抗原検査を受けたらいいのか?」、そして「意味はあるのか?」と混乱したため、関係者にお話を聞いてみた。そこから得た内容を記載する。


 改めて、コロナ抗原検査キットとは何かというと、新型コロナウイルスの構成成分であるタンパク質を、ウイルスに特異的な抗体を用いて検出する検査方法のこと。
 ウイルスの遺伝子を特異的に増幅するPCR検査(核酸検出検査)と同様に、陽性の場合はウイルスが検体中に存在することを示す。
 特別な検査機器を使わず、自宅で簡単に検査ができる点がメリット。短時間(15から30分程度)で陽性・陰性の判定結果が出る。

 これまでの薬局販売容認までの流れでは、9月10日に開かれた規制改革推進会議での要望が一つの節目だった。
 経団連は、積極的な検査の実施が必要と提案し、PCR検査を補完する抗原定性検査の拡充に向けた規制緩和を求めた。抗原定性検査について、有症状者に限らず広く活用を認めるべきで、より容易に検査にアクセスできるよう、厚生労働省承認の抗原簡易キットを薬局等で販売し、検体採取や測定を自身で行えるようにすべきとした。

 また、アボット ダイアグノスティクス メディカル社は海外の状況などを報告。海外では安全な社会・経済活動の再開を実現する手段の一つとして、抗原定性検査のメリット(低価格、迅速、簡易)を活かしたスキームによる大規模スクリーニング検査が活用されているとした。また海外では、抗原定性検査による大規模スクリーニング検査の展開にあたり、必要となる自己測定・判定も認める国が増えており、加えて、一般人が容易に検査へアクセスできるOTCを認める国も増えていると紹介した。国内においても、海外同様に抗原定性検査によるスクリーニング検査を利用した安全な社会・経済活動の再開を実現するために、感染リスクを懸念する主体が抗原定性検査をスクリーニングで使用可能な環境が必要とした。抗原定性検査の無症候者に対する(より柔軟な)使用や、抗原定性検査の自己による測定・判定ができる環境を求めた。加えて、更に国民全体の検査へのアクセスを高くするため、OTC化の検討も重要とした。

 こうした要望に対し、この日の厚労省の回答では、「発熱がある者などが、地域の身近な医療機関で、迅速・スムーズに検査できる体制を整備しており、あわせて、職場等における感染対策を進める観点から、職場で症状がでた場合に直ちに受診ができない場合等に検査を受けて頂けるよう、抗原簡易キットの活用を推進している」と説明。また、抗原簡易キットに関しては、有症状者に対しその場で簡便かつ迅速に(30分程度)検査結果を判明することが可能な一方、新型コロナウイルス感染症病原体検査の指針(国立感染症研究所、日本感染症学会、日本環境感染学会、厚生労働省等)では、無症状者に対しては他の検査と比較し感度が低下するため推奨されないとされている」と説明していた。

 そして、今回の厚労省からの薬局販売の解禁だ。今一度、今回の厚労省の事務連絡を読み返すと、基本的な考え方は、「抗原検査キットをより入手しやすくし、家庭等において体調が気になる場合等にセルフチェックとして自ら検査を実施できるようすることで、より確実な医療機関の受診につなげる」としている。
 ただ、医療用抗原検査キットが無症状者に対する確定診断には推奨されないという従来の説明は変えておらず、有症状者であってもウイルス量が少ない場合には感染していても結果が陰性となる場合があることにも注意を促している。そのため、「陰性であったとしても引き続き感染予防策を講じる必要があること」とする。

 また、「症状がある場合は医療機関を受診することを原則」とし、「家庭等において体調が気になる場合等にセルフチェックとして使用するもの」だと説明している。

 抗原検査キットで、陽性であった場合は医療機関を受診することはもちろん、陰性の場合でも偽陰性の可能性を考慮して症状がある場合には受診することとしている。

 
 ここまでを額面通りに読むと、なかなか抗原検査キットを個人に説明するのは難しい気がしてくる。
 症状がすでにあるなら受診勧奨であるし、無症状なら検査は推奨されない。
 抗原検査キットの対象となる「体調が気になる時」とはどのような時なのかと思ってしまう。

 ここで少し参考になるのが、神奈川県の抗原検査キット配布事業だ。
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/kougenkensa_kit.html

 この事業では、「症状者が医療機関を受診せず、感染が確認できない」という問題点に対し、「セルフチェックにより個人が医療機関の受診や外出(通勤等)自粛を選択することを実証」することを目的とするとしている。
 令和3年9月27日時点の結果速報ではあるが、抗原検査キットを利用した人数は4,637人で、そのうち陽性の反応が出たのは253人(5.5%)、陰性の反応が出たのは4,267人(92.0%)、判定不能だったのは117人(2.5%)だったという。

 主体のある事業に解釈を加えてしまうのは望ましくないのだが、ここから読み取れるのは、「本人は症状を自覚していなくても軽度の症状が出ている可能性がある」ということだろう。そして、そういう人がハードルの高い受診という行動を取る可能性は極めて低い。
 そうであるなら、ハードルの低い抗原検査キットによって無自覚を含めて“軽度な症状のある人”の陽性スクリーニングに意味が出ることになる。
 
 そもそも神奈川県のこの事業の背景にあるのは、抗体検査で判明した市中感染率は1.2%であるのに対して、実際に判明した陽性者率が0.5%であり、この差の0.7%の人が検査を受けずにすり抜けてしまっている可能性があるという分析だ。
 症状が軽い、あるいは短期間だったために検査を受けようと思わなかった人や検査のために学校や職場を休むことに抵抗があったことなどが考えられる理由として考察されている。
 だからこそ、学校や職場を休まずに検査のできる仕組みが求められるところなのだ。
 そのツールとして、抗原検査キットを取り入れてみましょう、というのがこの事業の背景だ。

 陽性のスクリーニングが意義であり、陰性の判断には日本では用をなさないことにも、もちろん注意が必要だ(EUの一部の国でその日限りの域間の移動を許可する“デイリーチケット”に抗原検査キットの陰性結果が用いられている事例があるとの情報もある。しかし、その詳細な条件までは情報がなく、前提として国の置かれている状況・制度により活用方法は異なると考えられる)。

 とどのつまり、抗原検査キットの意義は、「スクリーニング検査としての抗原検査キットを家庭で使用することによって、感染者が医療機関を受診するという行動が促進される」ということに尽きるのだが、加えて薬局薬剤師の方からいただいたのは、「体調が悪くなったときにそのまま診療所に行くのか、自己検査の結果を持って行くのかで、大きく違いがでると思います」とのご意見だ。
 
 そこで、私が想起したのは、妊娠検査薬だ。
 市販の妊娠検査薬に関しても、「確定診断のためにどうせ産婦人科を受診するなら一般検査薬は不要だ」という声もある。しかし、検査する女性からすれば、受診よりもいち早く、自分で知っていることは大きな意味を持つ。
 コロナは妊娠よりも判断に求められる時間軸はかなり短いと思うが、リーチしやすい検査薬で1時間でも早く一定の状態を知ることができるのは、やはり意義が大きいのは同じではないかと思った。

 抗原検査キットの薬局販売の最大の利点は価格的にも入手のしやすさからも検査のハードルが低いことだろう。それによって一定の陽性者のスクリーニングができることはメリットだと合点がいった次第だ。

 また、“副次的な効果”を指摘する声もある。

 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野 特定講師の岡田浩氏は、「薬局で薬剤師が購入者に検査の意味などを説明できるいい機会になるのではないでしょうか」と期待を込める。さらに「薬局に限ってのことではないですが、COVID-19に関して、何でも病院・診療所の医療者でなければできないということではなく、薬局で個人ができることがあるというメッセージを政府が出すことは社会的にもとても意義があると思っています」と話している。

 なお、神奈川県ではキット使用方法の動画も準備している。
 海外でもQRコードから利用方法のサイトに飛ぶ仕組みなどが導入されており、利用者が理解しやすい資材・動画はあるとよいだろう。

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