【薬局薬剤師と“性と生殖”】3カ国調査を実施/城西国際大学山村教授/7月にも公表予定

【薬局薬剤師と“性と生殖”】3カ国調査を実施/城西国際大学山村教授/7月にも公表予定

【2021.06.28配信】緊急避妊薬の薬局での販売議論を契機の一つとして、薬剤師と“性と生殖”への関わりが注目を集めている。こうした中、城西国際大学薬学部教授の山村重雄氏は「『性と生殖に関する健康』に関するサービス提供〜薬局薬剤師の役割と国際比較」の調査を実施。カナダ(アルバータ大学)とタイ(チュラロンコン大学)、そして日本の3カ国による共同研究となる。すでに日本では529人の薬局薬剤師が回答し、集計済み。今後、各国で打ち合わせを行った上で早ければ7月中にも公表の予定だ。本稿では山村教授のインタビューをお届けする。山村氏は「想像していた以上に薬局薬剤師は性と生殖に関する健康サービスに高い関心を持っている」と指摘する。


「昔は男性薬剤師は抵抗があったけれど、 今は教育がしっかりしている」/カナダの大学教授の言葉

 ――まず、このような調査を実施した経緯を教えてください。

 私はもともと、カナダのアルバータ大学の教員と親しくさせていただいていて、その中にウィメンズヘルスの研究を行っていた教授がいたことが始まりです。
 彼女と話をしている中で、「カナダでは薬剤師がこういうことをしているよ」という話を聞くうちに、関心を持ちました。

 特に私が興味を持ったのが、「男性の薬剤師は性と生殖に関わる情報提供をしづらいのではないか。避ける傾向はないのか」ということだったのですが、それに対する彼女の回答は「最初はカナダでもそうだった。しかし、今では教育がしっかりされているから、そんなことはない」というものでした。
 私はこの分野における教育の必要性を感じたのです。

 もともと性と生殖に関するテーマについて、現状を変えなければいけないという問題意識も持っていました。
 若い世代に性の話をしていく必要があり、それを実践するのには薬剤師は適している専門家だと思ったからです。薬剤師は学校薬剤師として、若い世代の教育現場に関わる接点をすでに持っています。
 しかし、現状は学校側が性のテーマを避けたり、薬剤師側も知識が不十分だったりして、本当は伝えなければいけないことが伝わっていないのではないかと思うのです。

 ちょうど、そのころ、緊急避妊薬の薬局販売の議論も聞こえ始めたころで、日本の薬剤師はどう考えているのか、調査をしてみたいと思ったのです。
 最初はカナダと日本の2カ国で行う予定でしたが、一昨年チュラロンコン大学の教授が本学を訪ねてきて、この話をしたらぜひ一緒に調査を行いたいということでしたので、3カ国で行うことになりました。

 ――カナダやタイの調査への関心はどのあたりだったのでしょうか。

 カナダは一定の教育プログラムができていますが、さらに現状でも足りていないことは何かを知りたいニーズがあったようです。タイは、日本と同じようにこうした領域での薬剤師の役割を高めたいという思いとともに、医薬分業推進の糸口にしたいという気持ちもあるように思います。タイではまだ医薬分業が十分に進んでいませんので。

薬局での「性と生殖に関する健康サービス」の提供状況は

 ――おおまかな調査概要や質問事項を教えていただけますか。

 調査は2020年10月から2021年2月まで行い、日本では529人の薬局薬剤師の方から回答を得ました。すでに3カ国とも集計を終わっていますので、3カ国間での打ち合わせが済み次第、公表する予定です。
 質問項目に関しては大きく分けると、提供の実態、生活者からのニーズ、薬剤師の自己評価などです。
 この調査では、「性と生殖に関する健康サービス」として具体的に以下のものを挙げています。

 妊娠検査薬。
 排卵日検査薬。
 避妊(ピルを含む)。
 緊急避妊薬。
 性感染症の対策と予防。
 母胎と周産期の母胎の健康。
 LGBTなど性のマイノリティへの対応。

 これらを指して「性と生殖に関する健康サービス」(サービス)としました。

 例えば、サービスの提供の実態としては、妊娠検査薬を取り扱っていますか、排卵日検査薬を取り扱っていますかなどを聞いています。また「サービス」は日本でいう情報提供に近いと思うので、これらの情報提供を行っていますか、などを聞いています。
 実施していない場合は、今後、実施していく予定はあるか、などです。

 生活者からのニーズでは、薬局におけるサービスとして、最も患者から要求度の高いと感じているものを5つ挙げてもらったりしています。

 サービス提供への考え方も聞いています。
 例えば、「性と生殖に関する健康サービス」を薬局で提供することについて同意するか、しないか。
 薬局薬剤師は「性と生殖に関する健康」について、問題点を指摘できる訓練をされていると思うかどうかも聞いています。

 質問の中には「薬剤師が性と生殖に関する健康サービスを行うことは倫理的に責任があると思うか」という項目もあります。あるいは「恥ずかしいと思うか」も聞いています。
さまざまな点から、態度や考え方について聞いています。

「少数派や性的弱者に対して個人の尊厳を尊重して批判的ではなく差別的ではない方法で対応する方法にはどんな方法があるか」

 ――そのほかの質問も教えてください。

 次に設けているのが「もし提供するとしたら、どういったことが影響していると思うか」。
 提供にあたって何が重要なのかですね。
 関連知識なのか、大学教育なのか、卒後教育なのか、あるいは人的・経済的な余裕か、などですね。

 それから薬剤師自身の自己評価も聞いています。
 サービス提供に対して自信があるか、ないか。

 教育に関しては、どの分野のトレーニングを受けたいか、これまで受けてきた教育はどのようなものかも聞いています。

 調査の動機の一つでもあるのですが、この研究を通して、次の段階としては性と生殖に関する健康サービスの教育プログラムをつくりたいと考えています。
 
 これは質問項目の中に「どのようなスキルを得たいですか」という選択肢にも入れているのですが、例えば、少数派や性的弱者に対して個人の尊厳を尊重して批判的ではなく差別的ではない方法で対応する方法にはどんな方法があるか」というものがあるのです。そういうトレーニングを受けたいかどうかを聞いています。
 あるいは、「守秘義務とプライバシーの原則を理解した上で、それを性と生殖に関する健康サービスを提供する際にどう応用するか」、あるいは「性差と性の多様性を見分ける方法とそれを尊重する方法」などもあります。

 これらは、カナダでもこれから拡充していきたい教育プログラムなのではないかと感じています。
 カナダでは性と生殖に関する健康サービスの一定の基本的な教育がいきわたっているという感覚を持っているようですが、さらに地域の住民を守るという観点からどういう知識・スキルを薬剤師は持っているべきかという視点のようです。

「私たち薬剤師が勝ち取った業務だ」という意識

 ――詳細な結果が今から楽しみです。先生は教育者としても、結果を教育現場に生かしていかれると思いますが、すでに現場で働いている薬局薬剤師の方にはどのような影響を考えていますか。

 具体的なイメージをまだ持っているわけではないのですが、ざっと調査結果を見渡すと、想像していた以上に薬局薬剤師のみなさんは「性と生殖に関する健康サービス」に高い関心を持っておられる。

 薬局ではすでに妊娠検査薬や排卵日検査薬を販売しており、OJTの中で知識を持たれ、栄養摂取などのアドバイスも含めて実践されているのではないかと思いました。

 性と生殖に関する健康サービスというのは、例えば、熱がある患者に対して熱が下がればいいというような一面的な関わりではなく、専門家として、生活や考え方への理解を含めたトータルケアの役割だと思います。

 これらが今後は、子供のワクチン接種の状況確認や助言だったり、さらに広がっていくような気がしています。

 ――薬局薬剤師と「性と生殖に関する健康サービス」の関係が注目されている背景には、緊急避妊薬の薬局販売の課題が一つの契機になっていると思います。山村先生はこの問題をどのように考えていますか。

 調査結果でいうと、緊急避妊薬に関する情報提供に「自信がある」、「やや自身がある」という回答も15%ありました。緊急避妊薬においても研修が進んでいることなどを背景に、自信を持っている薬剤師が増えていると感じます。

 一方で、緊急避妊薬のスイッチの議論を見ていると、なぜ日本ではだめなのかなと思いは持ちます。コロナワクチン接種の議論もそうです。たとえば、カナダでは条件がありますが、研修を受ければ薬学生でもインフルエンザワクチンを接種することが可能ですし、コロナワクチンを打つことも可能になっています。もちろんトレーニングが必須ですが、そんなに難しいトレニーニングでもない。ヨーロッパの国々でもインフルエンザのワクチン接種は薬剤師の重要な仕事の一つになっています。

 カナダでは薬剤師が「スイッチすべき薬剤」を調査してスイッチ化を提言しています。この例に限りませんが、「この業務は私たち薬剤師みんなが勝ち取ったのだ」というプライドを持っているように感じます。

 中には「日本でもやっているよ」という業務を誇らしげに語られることもありますが、仮に同じ業務を行っていても、行政で与えられた業務なのか、自らが勝ち取ったと認識している業務なのかには、その思いに違いが出るのではないかという気がしています。

 ――わかりました。ありがとうございました。

この記事のライター

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