健康へのメリットを記載していない商品
近畿大学出身の西井香織氏は2017年にNEWRON社を起業。マーケティングやインキュベーション、商品開発・販売などを手掛けている。
直近で立ち上げたのが商品開発・販売を行う「Healthy & Lab.」事業だ。
プロダクトとして、糖の吸収を穏やかにすることが期待されている食物繊維のイヌリンを豊富に含んだ菊芋を使った「菊芋フロランタン」がある。
菊芋使用以外にも、栄養豊富なアーモンドとクルミを載せ、白砂糖の代わりにメープルシロップを使っている。メープルシロップの働きについては、母校・近大の研究成果を生かしている。近大はメープルシロップに含まれるオリゴ糖の一種、メープルビオースが、砂糖(ショ糖)の吸収を半分に抑えたという研究報告を行っている(動物実験にて)。
こうした薬学部発の知見が市場に生かされるメリットもベンチャーにはあるといえる。
また、同事業のコンセプトとして、「美味しくてヘルシーを叶える研究所」を掲げている。「ヘルシー」よりも前に「美味しい」を位置づける。
「ちょっとまずいけど健康のために食べよう、というよりも、美味しいから食べていたら、結果的に健康に良かったということを目指しています」(西井氏)
商品パッケージには、健康へのメリットを記載しておらず、おしゃれなデザイン性にもこだわっている。
健康へのメリットを謳う商品開発に一石を投じる面もあるだろう。
アイセイ薬局がベンチャー支援に名乗り
このように、業界を活性化させる可能性のあるベンチャーだが、薬局業界では支援や協業の動きは出始めたばかりだ。
2020年6月にはスギ薬局がPREVENT社との業務提携を公表。PREVENT社は2016年創業の企業で、健康保険組合向けに主治医と連携した生活習慣病の重症化予防プログラムを提供している。スギ薬局は、同社店舗を通したリアルとデジタルを融合した重症化予防支援モデルの構築も視野に入れる。
また、アイセイ薬局はベンチャー支援を模索している。同社はリアル拠点の強みとデジタルの融合で新たなビジネス展開ができると考えている。
成功事例を後進に見せたい
一方の“薬系ベンチャー”としては、薬剤師である喜納信也氏が起業したミナカラが累計10億円の資金調達を行ったことなどがニュースになった。PB開発にも意欲を示しており、カイゲンファーマなどのメーカーも出資している。
ただ、薬学生が卒業後の進路として「起業」を選択することは少ないようだ。
前出の西井氏も「薬学部の同級生を見ても起業という選択肢がほとんどない」と話している。
業界内でベンチャーを活発化させるには、企業側の支援と、起業意欲を持つ人の育成の両方が必要だろう。
西井氏は、実はNEWRON社で起業家を支援する事業を展開しており、「Healthy & Lab.」事業を立ち上げたのも、「より多くの成功事例を起業を考えている人に見せたい」という思いからだ。
西井氏への支援が、ひいては後進の起業意欲の向上につながる流れを期待したい。
なお、「菊芋フロランタン」はWEBで受注販売を行っているほか、11月18日(水)~24日(火)まで東京の新宿伊勢丹で期間限定販売を行っている。
“薬系ベンチャー”のNEWRON社は11月18日(水)~24日(火)まで、プラダクトの「菊芋フロランタン」を東京の新宿伊勢丹で期間限定販売する。それに先立ち、11月14日~は近鉄百貨店で数量限定販売を行った。写真は近鉄百貨店で店頭に立った同社代表取締役の西井香織氏。
【略歴】西井 香織●NEWRON株式会社 代表取締役CEO
1992年大阪生まれ。2011年近畿大学薬学部に入学。4年生の時に立ち上げた学生団体の事業化を目指し、6年生から2年間休学。2017年7月に起業し、「教育✕マーケティング」を中心とした事業で多数の企業とコラボする。2018年5月に復学。勉強と会社経営とを両立させながら、2019年3月には薬剤師国家試験に合格して大学を卒業。現在は大学、企業、行政と連携したワークショップやイベントを開催するほか、近畿大学や大阪府立大学などでビジネスデザインの講師としても活躍中
「菊芋フロランタン」。「美味しいから食べていたら、結果的に健康に良かったということを目指しています」(西井氏)といい、パッケージに健康への働きなどはあえて記載せず、パッケージはデザイン性にこだわっている