8年連続実施となってしまった薬価改定、「引き続き本会の主張していく」
日本薬剤師会会長の岩月進氏の会長演述は以下の通り。
日本薬剤師会第 105 回臨時総会の開会にあたり、一言申し述べさせて頂きます。
本日の総会は、令和6年度の事業に関して中間報告を申し上げるとともに、令和7年度の本会の事業計画案並びに、それを実行する財政的な裏付けるとなる予算案のご審議をいただく総会になります。
代議員の皆様におかれましては、本総会が、日本薬剤師会の最高議決機関であると同時に、加えて、本会が令和7年度にどのような事業を遂行していくのか、国民や患者のために薬剤師免許を使うものの統括団体として内外に向けて発信する機会でもあることの認識を新たにしていただき、実りある議論と慎重かつ厳正なご審議をお願いする次第です。
令和6年度は診療報酬・介護報酬・障害者福祉サービスのトリプル改定が行われ、4月1日に薬価基準が、6月1日に診療報酬と介護報酬(医療系サービス)が改定されました。令和6年度診療報酬改定は、技術料本体+ 0.88で、医科・歯科・調剤の公平な配分比率( 1:1.1:0.3)が堅持され、三師会で主張してきた医療関係者の賃上げ対応も、決して満足のいくものではありませんが、一定程度理解されたものと理解しています。
とはいえ、医療分野における賃上げ・物価高騰に対応した適切な財源を、引き続き政府に要望しています。
また、今回の改定は令和6年度からの第8次医療計画、第9期保険事業(支援)計画を踏まえた医薬品提供体制の確立や、医療安全の確保・医療の質の向上を目指した医療 DX の推進に向け、薬剤師・薬局のさらなる取組みが期待された内容となっています。さらに、10 月からは後発医薬品の存在する長期収載品に係る選定療養の仕組みが導入されました。
本会は、7年連続で実施された薬価改定による影響も受け、医薬品の安定供給に支障が生じ、薬物治療の維持・確保が困難になっている現状から、薬価基準の中間年改定の「廃止」を要望するとともに、長期化する医薬品の供給不足について、医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議等で改善に向けた意見を述べています。一部の見直しがあったものの残念ながら、8年連続の薬価引き下げが決まってしまいましたが、引き続き本会の主張を継続してまいります。
緊急避妊薬の試験販売、「薬機法改正を待って、何らかの対応がされるものと期待」
医薬品の販売制度を巡っては、昨年1月の「医薬品の販売制度に関する検討会」の取りまとめを踏まえ、厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会で議論が進められ、本会としても必要な意見を述べてまいりました。さらに、社会的・国民的な関心を集めている緊急避妊薬の販売については、昨年度、本年度と本会が厚生労働省からの委託を受けて、環境整備のための調査事業を実施してまいりました。
厚生労働省では来年度も実施する予定とされており、本会が受託した際には、会員薬局・薬剤師の方々にはさらなるご協力をいただくことになりますが、薬機法改正を待って、何らかの対応がされるものと期待しています。
医療 DX を巡っては、電子処方箋に対応した調剤業務環境の早急なデジタル化が必要であると認識しています。本会は薬剤師資格証や電子お薬手帳の提供等を通じて、各薬局の体制整備を支援してきました。特に電子処方箋対応薬局は既に6割超となり、会員各位のご協力・ご努力に感謝申し上げます。
また、電子診療録と整合のある調剤録・薬歴情報の標準化や薬局の基盤整備を含めた薬局の DX 対応への財政的支援については、引き続き関係各方面に要望を行っています。
地域住民が「薬剤師サービス」や「医薬品提供サービス」を確実に享受できる環境を作る
このような令和6年度の事業の実施を受けて、令和7年度事業計画と予算案を策定いたしました。令和7年度は、地域包括ケアシステムの構築目標年とされているのはご承知のとおりです。住み慣れた地域で、住まい・医療・介護・予防・生活支援のサービスが一体的に提供されるシステムの中で、薬剤師・薬局にはかかりつけとしての機能とともに多職種との連携が求められていますが、各地域で連携体制はできているのでしょうか。地域の薬剤師・薬局がその役割を果たすためには、個々の薬剤師・薬局の活動に加え、地域住民が「薬剤師サービス」や「医薬品提供サービス」を確実に享受できる環境を、地域薬剤師会が作ることが重要であります。その上で都道府県薬剤師会がより広域での医薬品提供体制を構築し、さらに日本薬剤師会が各地域で解決が困難な課題に取り組む。全国の薬剤師・薬局・薬剤師会が協働し、相互に活動を支える仕組みが肝要であると考えます。
少子高齢化やデジタル化の進展等により、薬剤師・薬局を取り巻く環境は大きく変わりつつあります。長期化する医薬品の供給不足、医薬品販売制度の見直し、薬局の DX 対応、規制改革案件など、薬剤師・薬局を巡る多くの課題が山積し、並行して議論・検討が進んでいるなかで、本会は厚生労働省や関係団体と連携し、各審議会等において必要な主張を引き続き行ってまいります。
特に、医薬品販売制度や規制改革等において取り上げられる案件については、不確かな情報が氾濫している現在、医薬品は専門家である薬剤師が必要な指導・説明を行った上で提供・販売することが重要であるという視点とともに、専門家・関係者によるこれまでの審議や検討会による「取りまとめ」の内容を基本に対応してまいります。
また、医療 DX には調剤業務環境のデジタル化や調剤録・薬歴情報の標準化とともに、薬剤師・薬局の活動そのものの DX に向けた視点も重要であり、薬局の内外について必要な事項の検討を進めてまいります。
加えて、地域の医薬品提供体制は、地域薬剤師会が中核となって、行政や他団体、多職種と連携・協力して、地域の実情に合わせて構築していくものと理解しています。今回の薬機法改正案では、「地域医薬品提供計画」という文言そのものが明記されているわけではありませんが、医薬品医療機器制度部会による報告書の取りまとめにその重要性が記載されるとともに、改正事項として薬局開設者が「関係行政機関との連携等により」医薬品供給等を行う責務が規定され、来年度予算事業として地域医薬品提供体制を充実するための事業が新規に加えられる見込みです。
薬系議員や各国会議員からも政府に対して、地域医薬品提供体制・計画の構築の重要性について主張していただきました。日本薬剤師会としましても、これまで医薬分業の確立を申し上げてまいりましたが、今後は、処方箋調剤にとどまらず、健康サポート機能のさらなる充実、さらには人口減少地域や山間へき地、島しょ部への対応、休日・夜間や在宅医療等における医薬品提供の確立や、 OTC 医薬品や検査薬や衛生用品などを含めた供給拠点としての地域の薬局が必要な機能を発揮できるよう体制を整えていかなくてはなりません。
一方で、毎年1万人弱の新たな薬剤師が生まれている状況下においても、会員数の減少が続いています。現在活動している薬剤師を対象とした活動とともに、薬剤師の職能団体として永続的な活動を進めていくためには、薬学生を含む若年層を対象とした加入促進の取組みが非常に重要です。
新たな視点での会員増強策を検討し、都道府県薬剤師会・地域薬剤師会の協力の下、会運営の在り方も含めて組織強化に取り組んでまいります。
今後も会員諸氏のご理解とご協力をいただきながら、会務を進めてまいります。