【激論:規制改革と薬局vol.4】カケハシ 社長 中尾豊氏「IT企業に勝てない領域を強くする、例えば地域連携の領域」

【激論:規制改革と薬局vol.4】カケハシ 社長 中尾豊氏「IT企業に勝てない領域を強くする、例えば地域連携の領域」

【2022.04.21配信】座談会参加者■プライマリーファーマシー 代表 山村真一氏<独立系薬局経営者の立場から>■I&H 取締役 インキュベーション事業本部 岩崎英毅氏<大手調剤チェーン企業の立場から>■中部薬品 代表取締役専務 医療本部長 佐口弥氏<ドラッグストア企業の立場から>■帝京平成大学薬学部 教授 亀井美和子氏<アカデミアの立場から>■カケハシ 代表取締役社長 中尾豊氏<システム企業の立場から>【全5回】


 ――それでは厚労省のワーキンググループにも参考人として参加された中尾社長にお伺いしたいと思います。

 中尾 私は薬局を持っているわけでも薬剤師でもないので、コメントをしていいのか非常に悩ましいところではありますが、その立場を前提とした上でフラットかつ優しい目で聞いていただければと思います。

 患者さんは何を求めているのかという点から話をしたいと思います。世の中の指標でお客様、患者様が何に困って何に助けられたら感謝の気持ちを述べるのか、その価値に対して価格が払われるのかという本質的なところに対して、どうしたら調剤業界が向き合えるのかという視点で話を進めていきたいと思います。

 母は薬剤師ですが、私自身は非薬剤師で、患者さんの立場で一番薬剤師に感謝するシーンは何かを整理するのかがまず一つ。そしてそれを人ではなく組織として総量を最大化できるのかが企業力につながるのではないかというのが2つ目で、ある意味、事業戦略になると考えています。

 まず一つ目ですが、“患者を1、薬剤師を1”とした時に、助けられる、感謝されるシーンは2つあって、1つは薬に関して悩んでいることを事前に察知して聞いてくれる、もしくは自分が困っている顕在化された課題を解決してくれる。つまりリスクヘッジの視点で薬剤師が介入して解決できることを体現してくれるかどうか。これは薬局内で起こるというよりは日常生活の中で起きることが多いかなと思います。患者さんの多くは薬剤リテラシーが低いので、何をすればいいのかわからない。だから並走者のような感覚で事故のリスクをヘッジする。もうひとつは「この状態であれば他のところに行きなさい」といった課題解決を地域にパスするアクションがあると思います。

 これらを薬剤師対患者という1対1で考えるのではなく、組織、もしくはタイミングや量として考えると初めて戦略的な打ち手が見えてくると思います。まずキーワードとしては情報戦です。どの患者さんがどこで悩んでいるのかを薬局薬剤師が把握していないのが大きな課題です。一日に50人が来局するとして、1カ月で1000人ちょっとになります。その1000人が薬局外で何に困っているのかはわかりません。だから「ありがとう」と言われるタイミングで患者に介入ができない。つまり情報戦に負けているのが一つ。これから重要になるのは患者さんが困っていることを、いかに労働集約的でない形で薬剤師が把握できるかがポイントになる。

 ここで初めて生まれてくるのがテクノロジーの活用だと思っています。患者さんが困っていることをいかに把握できるのかです。患者さんの大半は薬剤リテラシーが低いので、患者さんが困った時に連絡する構図ではなく患者さんが困る前にその情報を把握できるかがポイントになるかなと思っています。患者さんのフォローアップのように言われるかもしれませんが、それをどこまで労働集約的ではない形でできるかが大事です。これからの治療環境は「ありがとう」の総数が成果になります。

 2つ目がどうやって地域に課題解決を受け渡すかで、この症状であればこの医師の方が良いというようなアドバイスを、地域医療上、どうやって連携していくのかが課題になります。そこで押さえておくべき企業戦略は、個人的には医療機関との情報連携のスムーズさと関係構築にあると思っていて、これを実現できていると何に勝てるかというと外部環境から入ってくる業種と戦えます。

 例えば、アマゾンや楽天のような企業が参入した時に勝てないのは地域連携の領域に入ってくるからです。急いで楽に薬を提供できるオンライン服薬指導と物流のセットは適切な医療機関へのサジェストという点では非常に難しい状況になっています。仮にアマゾン薬局の薬剤師が紹介してきたと言っても、医師はその患者さんのことをよく分かっていないし「あなたは誰ですか」となったらうまく連携できません。だから「先生、この患者さんを診てください」と言えるかどうかが勝負になります。実はトレーシングレポートでワークするのかということもあって、オンライン資格確認や電子処方箋のツールを利用して、メディカルと連携して、患者さんが来た瞬間にサジェストが上がるかどうか、そのタイミングでこの薬でこの副作用が出ているから消した方がいいといった、薬剤師の見解が医師にどう伝わるかはデジタル上の連携と人間関係の連携を作ることができた企業が強くなるのが2点目の勝負になると思います。

 次の時代に入った時の事業戦略について少しだけ話したいのですが、佐口さんがおっしゃっていた健康へのアシストに触れたいなと思っています。ポイントは患者さんの趣向性のデータが薬局内にとどまる(得られる)ことです。例えばⅡ型糖尿病の65歳男性で、腎機能が悪いことが薬歴に入っていたとすると、取るべき食事や運動は何かというデータプラットフォームを作った上で、次にeコマースにつなげるのか、スーパーマーケットに誘導するのか、仮に「こういうものを食べたら少し割引します」となったら少し健康になる可能性もある。このように社会保障ではない自由経済で患者さんにどう当てはめるのかが重要になってくると思います。

 佐口さんのところはそこに対するアセットを持っていらっしゃるので、迅速に戦略上行った方がいいと思います。データをためて関連企業とどう連携するのかという世界です。一方で、普通の薬局やドラッグストアであれば、スポーツジムも持っていないので、地域連携の概念を医療機関ではなく近くのスーパーマーケットやフィットネスジムなどとの連携を発表して、お互いの情報を共有し、患者さんが街で生活していたら健康になるという状況を各企業が違う業種と繋がれるかということが、データが蓄積されたあとの世界にできるのではないかと思っています。

 これらを視点にやるべき企業の戦略としては、今来ている患者さんとの繋がりのデジタル化を徹底的に作りデータをためておくこと、それを問題解決できるという状況をまず作りましょう。それができた後に次の業界との繋がりを作った時に、フィットネスジムで5km走ったから、うちで売っている漢方薬を割引する……といった、これはさまざまな手法が考えられますが、患者さんを次のステップに誘導できるつながりが大事になる。それが6万軒の薬局の市場がどう働くかと言えば、やはり質の論理に動くので、患者さんにとっても良いのかなと思っています。

 ――たしかに全国一気通貫の企業ではできないことを、今から強化していくことが対策になるのかもしれませんね。

 山村 佐口さんのところでは当然、そういったトライアルはやられたことがあると思いますがどうでしょうか。

 佐口 人の心ってそう簡単に動かないんですよね。健康診断結果を見て血圧が高いから運動をするかと言えば…、そうでもない。理屈では分かるのですがルーチンで運動を行ってもらうためには、人の心のファクターが大きすぎて…。ここがリアルで難しいところです。ここで差別化が生まれると思います。データはどこの企業でも持っていて、それが結果に直結しているかと言えばそうでもなかったというのが実際のところです。

 中尾 情報基盤でポイントとなるのが患者さんの名寄せだと思いますが、各社さんあまりできていないで状況かと。ご指摘の通り、人の気持ちに寄り添うことが大事な部分だと思います。
<vol.5に続く>

カケハシ 代表取締役社長 中尾豊氏
■なかお・ゆたか
医療従事者の家系で生まれ育ち、武田薬品工業株式会社に入社。MRとして活動した後、2016年3月に株式会社カケハシを創業。経済産業省主催のジャパン・ヘルスケアビジネスコンテストやB Dash Ventures主催のB Dash Campなどで優勝。内閣府主催の未来投資会議 産官協議会「次世代ヘルスケア」に有識者として招聘。東京薬科大学 薬学部 客員准教授(2022年〜)

この記事のライター

関連する投稿


【厚労省】調剤業務の一部外部委託でQ&A発出

【厚労省】調剤業務の一部外部委託でQ&A発出

【2024.05.10配信】厚生労働省は5月9日、「国家戦略特別区域調剤業務一部委託事業の実施要領に関する質疑応答集(Q&A)」を発出した。


【厚労省】調剤外部委託の特区実施要領を通知/特区事業開始の素地整う

【厚労省】調剤外部委託の特区実施要領を通知/特区事業開始の素地整う

【2024.05.09配信】厚生労働省は5月9日、「国家戦略特別区域調剤業務一部委託事業の実施要領」を発出した。これにより大阪での特区事業実施の素地が整うことになる。


【国家戦略特区】調剤の外部委託でWG、関係省庁等からのヒアリング実施/WG後は「区域会議」→「諮問会議」の流れ

【国家戦略特区】調剤の外部委託でWG、関係省庁等からのヒアリング実施/WG後は「区域会議」→「諮問会議」の流れ

【2023.10.12配信】10月12日、内閣府地方創生国家戦略特区ワーキンググループは関係省庁等からのヒアリングを実施した。この中で調剤業務の一部外部委託に関して議題となった。


【調剤業務の一部外部委託】厚労省、大阪府での特区に「実証の方向で検討進める」

【調剤業務の一部外部委託】厚労省、大阪府での特区に「実証の方向で検討進める」

【2023.09.28配信】内閣府はこのほど、「国家戦略特区等に関する検討要請に対する各府省庁からの回答について(令和5年度分)」を公表した。この中で、大阪府・大阪市・薬局DX推進コンソーシアムの3者が提案した調剤業務の外部委託に関わる事業について、厚労省は「実証の方向性で検討を進めてまいりたい」と回答した。


【日本薬剤師会山本会長】大阪の外部委託特区事業「注目している」/「所期の目的にそうように」

【日本薬剤師会山本会長】大阪の外部委託特区事業「注目している」/「所期の目的にそうように」

【2023.09.16配信】日本薬剤師会は9月16日、都道府県会長協議会を開催した。


最新の投稿


【東京都・厚労省】11月24日に「麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動東京大会」

【東京都・厚労省】11月24日に「麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動東京大会」

【2025.10.29配信】東京都薬務課は10月29日に定例会見を開き、令和7年11月24日(月曜日・祝日)13時30分から15時45分まで、令和7年度「麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動東京大会」を開催することを説明した。今年は2年に一度の厚労省との共催年で、広い層に関心を持ってもらうため、多彩なタレントを招聘している。


【東京都薬務課】試買で指定薬物検出/前年9品目増の11物品から

【東京都薬務課】試買で指定薬物検出/前年9品目増の11物品から

【2025.10.29配信】東京都薬務課は10月29日、定例会見を開き、試買検査によって11物品から危険ドラッグを検出したことを説明した。9月29日に公表済み。前回公表の昨年11月の検査結果では2物品からの検出であり、薬務課では「11物品からの検出は多く驚いている」としている。今回の結果を受け、今後の試買を適切に行っていく方針。


【敷地内薬局】日医委員、診療所除外規定「削除も含めて検討すべき」/中医協

【敷地内薬局】日医委員、診療所除外規定「削除も含めて検討すべき」/中医協

【2025.10.24配信】厚生労働省は10月24日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、「敷地内薬局」を個別事項として議論した。敷地内薬局を巡っては、令和2年度診療報酬改定において従来から存在する医療モールへの配慮として、「ただし、当該保険薬局の所在する建物内に診療所が所在している場合を除く」という「ただし書き」で除外規定が設けられていた。しかし昨今、特別な関係のある病院の敷地内にある保険薬局の同一建物に、別途診療所を誘致することで、ただし書きにより、特別調剤基本料Aの対象となることを回避する薬局事例などが問題になっていた。この問題に関連し、日本医師会委員は「ただし書きの削除も含めて検討すべき」と述べた。


【敷地内薬局】日薬「グループ減算含め検討を」/中医協

【敷地内薬局】日薬「グループ減算含め検討を」/中医協

【2025.10.24配信】厚生労働省は10月24日、中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、「敷地内薬局」を個別事項として議論した。この中で日本薬剤師会(日薬)副会長の森昌平氏は前回改定で答申書付帯意見に落ち着いた敷地内薬局の“グループ減算”について、「敷地内薬局問題の改善が見えないのであればこのグループ減算も含め、あらゆる措置を引き続き検討していく必要があると考える」と述べた。


【日本保険薬局協会】“48薬効”、一定販売実績は3カテゴリーのみ/調査公表

【日本保険薬局協会】“48薬効”、一定販売実績は3カテゴリーのみ/調査公表

【2025.10.23配信】日本保険薬局協会は10月23日、定例会見を開き、「一般用医薬品等の取扱いに係る調査報告書」を公表した。それによると、地域支援体制加算の届出薬局等に求められる「基本的な48薬効群」に関して、1カ月間で販売実績があった割合が30%を超えたのはわずか3カテゴリーに留まったとした。協会では「一律的な備蓄」から、「地域医療のニーズや、薬剤師の専門的な知見に基づき推奨する品目を備蓄する」という、柔軟な仕組みを求めたい考え。


ランキング


>>総合人気ランキング