【樽見厚労次官】コロナ“第3波”は1波の患者推移と違い

【樽見厚労次官】コロナ“第3波”は1波の患者推移と違い

【2021.01.22配信】厚生労働事務次官の樽見英樹氏は1月21日、日本医学ジャーナリスト協会の例会で「新型コロナウイルス感染症対応この1年」と題してオンラインで講演した。記者から「緊急事態宣言の発令が遅かったのではないか。読みが甘かったということはないか」と問われ、「対応をお願いしている医療関係者の方々からも『もっと早く緊急事態宣言を出せなかったのか』という厳しい意見をいただくことが多い。読みが甘かったと言われればそうではないと言うことはできないが、昨年春と今回の第3波では患者数増の立ち上がり方に違いがあり、そういったこともあるのではないかと思う」と説明した。


重症者増加は患者数増加に遅れてくる

 樽見氏は2020 年3月から内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室長を務めてきた。2020年9月に厚生労働事務次官に就任。

 同氏はこれまでの新型コロナウイルス感染症の対策を振り返り、特に国内の感染者が増えた第1波では、患者がどのような場で感染したかをたどった調査により、現在では世界的に対策として取られているいわゆる“三密”などの対策を打ち出したのは日本が早かったとした。この対策の早さは世界各国に比して患者数の少ない日本の状況に多少なりとも貢献しているのではないかとの考えを示した。
 
 また第1波などの統計を見ると、感染者拡大から少し間を開けて重傷者が増加することが多いとした。現在の患者数増においても、少し間を開けてから重傷者の急増が起きる可能性があるといえよう。

緑色の折れ線が新規陽性者数、赤色の棒グラフが重症患者数。患者数増に遅れて重傷者増加の山がくる

都道府県ごとに患者推移に違い

 厚生労働省では都道府県ごとの患者数の推移を見ているが、地域ごとに平均的な動きとは異なった動きをみせるという。例えば北海道や沖縄県、広島県などでは全国平均とは違った推移が見て取れ、地域特性に応じた対策を検討する必要もあるとした。

首都圏では全国平均(赤太線)を上回る患者数推移となっている

近畿では大阪府が全国平均とは異なった患者数推移をみせている

中部では全国平均並みか、それ以下の県が多い

北海道・東北では、北海道が全国平均とは異なった患者数推移をみせている

関東・甲信越・北陸では、栃木が一時期、全国平均を上回る患者数推移となった

中四国では広島県が全国平均とは違った患者数推移をみせた

九州・沖縄では沖縄県が全国平均とは異なった患者数推移をみせた

基本的な政策は「ピークをなだらかに」に並行して「医療提供体制の拡充」

 対策の基本的な考えは、患者増加のスピードを抑え、患者数の増加をなだらかにすることで、並行して医療対応の体制強化を図ることで、時間経過とともに許容できる医療提供体制のキャパシティが拡大すると同時に患者数の山も小さくしていくというもの。しかし、第3波では第1波以上に山が大きくなっている状況にある。

 記者から「緊急事態宣言の発令が遅かったのではないか。読みが甘かったということはないか」と問われ、「対応をお願いしている医療関係者の方々からも『もっと早く緊急事態宣言を出せなかったのか』という厳しい意見をいただくことが多い。読みが甘かったと言われればそうではないと言うことはできないが、昨年春との今回の第3波では患者数増の立ち上がり方に違いがあり、そういったこともあるのではないかと思う」と説明した。たしかに患者数増の推移をみると、第1波・2波では急激な増加のあと、ピークが訪れ、減少に転じているが、3波では急激な増加のあとに、横ばいとはいわないまでも増加の傾斜がなだらかになっている時期が続いており、この期間にその後の推移予測を迷わせた可能性がありそうだ。

昨年5月に示されていた対策の考え方

新規患者数推移。第3波では急激な患者数の増加のあとに、比較的なだらかな患者数増加の時期があった

院内感染時の対策も提示

 現在のコロナ対応医療機関数が都道府県ごとに違い、地域によっては他に比べて少ないのはなぜかと記者から質問が出ると、樽見氏は「必要病床数については都道府県ごとに策定しており、策定は完了している。もしも少ないという指摘が出ているのであれば理由として考えられることとして、現在入院している一般患者の転院先が見つからないなどの声は聴いている」とした。
 
 また、医療提供体制の強化については、5つの柱で支援を拡充しているとした。新たな病床確保のため病床が逼迫している地域に補助を拡大。確保病床の有効活用のため、回復患者を受け入れる「後方医療機関」の報酬加算を3倍に引上げ。柔軟な職員配置の容認等により既存病床をより効果的・効率的に活用。医療従事者への支援。院内感染発生時の早期収束支援などだ。国直接執行の緊急支援(加算措置の追加)も決めている。

 精神科病棟関係者から「診療科ごとに院内感染の割合はつかんでいるか」と質問が出ると、樽見氏は「現在はとりまとめはないと理解している」とした。その上で、院内感染に対しては発生時に早期の収束を実現するため、当該医療機関で取るべき対策を提示しており、活用してほしいとした。具体的にはゾーニング等の感染管理の方法、外部からの人的支援・物資支援、国の財政支援(重点医療機関の病床確保料、消毒・清掃・リネン交換等の感染拡大防止等支援)の活用をまとめている。

「看護師はなぜ優先接種対象ではないのか」

 看護関係者からは優先接種の医療関係者として看護師がはずれたのはなぜかと質問が出た。樽見氏は「今後、検討会等で対象については議論も進むため、対象者について現時点が結論ということではない。また、医療関係者の優先接種の結果をみていくことにもなる」と話した。

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