【リテールテック】富士通のAIレジレスはドラッグストアの新業態をつくるか

【リテールテック】富士通のAIレジレスはドラッグストアの新業態をつくるか

富士通が米・スタートアップZippin社と組んで、日本市場への普及を図る「AIレジレス」。顧客が会計作業に煩わされることのない買い物体験を提供するものとして期待されているが、AIカメラのほかに重量センサーを用いているため、現行の既存店への普及には課題がある。一方で、極めてニッチな市場を取り込む新たな業態開拓につながる可能性を秘めており、ドラッグストアと親和性の高い大規模介護施設等で訪問服薬指導などとセットで付加価値提案などができるのではないだろうか。本項では、富士通リテールビジネス本部DXビジネス事業部シニアディレクターの石川裕美氏にも独自インタビューしている。


AIレジレスが拓く「マイクロマーケット」業態

 まずは、改めて「AIレジレス」の概要を確認したい。

 2020年12月に富士通は、Zippin社と協業を開始したことを発表。Zippinの総代理店として、AI技術を活用したレジレスソリューションを富士通が日本市場で独占販売することになった。富士通は2023年度中に100店舗の導入を目指すとしている。

 基本的な仕組みはAIカメラと重量センサーによって、購入したものを把握し、顧客にとっては会計が作業なく、店舗側にとっては省人化を可能とする。

 “副産物”として、決済が自動化されるため、万引きなどは生じないといえ、万引きによるロスが低減できる利点もある。

 加えて、「AIレジレス」の特長は、富士通が持つ手のひら静脈認証や顔認証などの高度な個人認証テクノロジーを融合している点にある。マルチ生体認証と呼ばれるもので、手のひら静脈と顔情報のみで本人を特定し、非接触で認証できる生体認証を融合したデジタル技術だ。AIレジレスは、スマホでのQRコード決済も可能ではあるが、生体認証技術によって、一度登録してしまえば、スマホがなくても買い物ができる点は特筆できる。

訪問服薬指導とセットで介護施設に提案も

 このテクノロジーが、例えば、大学や大規模マンション、介護施設や病院など、本人が登録しやすい環境が整っている市場において、新たな業態を拓く可能性を秘めている。

 富士通は、この市場を、「マイクロマーケット」と呼称し、オフィスや駅構内などの狭小スペース、小商圏の業態開発につながることを標榜している。

 ドラッグストアや薬局企業においては、既存店の一部にインショップという形で設けることで、夜間や休日等の買い物需要を取り込んだり、長時間のニーズに応えられる体制によって顧客満足度を高める効果などが期待できるといえよう。

 さらに、新規出店に関しては、訪問服薬指導とセットで、大規模介護施設等の一部に無人の形で出店し、介護施設の利用者満足度を高めるような提案をすることも可能だろう。

吊り下げなどの多様な陳列に課題

 裏を返すと、売り場面積の広い、比較的大型~中型の既存店への導入には課題があるということだ。

 ローソンと行った実証実験では、買ったものを正しく認識できたかなどの精度については想定以上の良好な結果だったという。会計後のスマホ等への顧客への情報フィードバックもスムーズだった。万が一、顧客側で不明な点があった場合の、ストレスのないシームレスな問い合わせ窓口への誘導なども問題はなかった。

 一方で、課題として浮かび上がったのが、商品の対象の幅が狭いことだ。

 現状では、商品の重量は最低でも30g以上必要で、多品種の大型店舗での導入は想定されていない。
 また、吊り下げ型など、多様なディスプレーについても対応がしづらい。
 
 現状においては、前述してきた通り、「これまでにないマイクロマーケットでの省人化した店舗形態」を検討する際に導入するというのが現実的だろう。

採算ベースでは日商20万円以上が目安

 肝心の費用対効果は、どのように考えればいいのだろうか。

 まず、導入コストは数十平米で初期費用が1000~1500万円。これにランニングコストが月に数十万円となる。

 店舗の立地や顧客層によって一概に算出はできないものの、初期投資を5年で償却し採算を取るためには、日商20万円~25万円程度が目安となる。客単価1500円で1日133人の客数が必要となる。簡単なハードルではないが、単純な費用対効果だけでなく、設置する施設の満足度向上などの相乗効果を期待しての導入も考えられる。

 また、販売時は“無人”も可能となるAIレジレスだが、運営が無人になるわけではなく、品出しなどの作業は必要になるため、「既存店舗の夜間」や「訪問服薬とセットで」など、何かしらの業務と並行しての設置が理想的だ。

将来的にはレコメンド機能搭載を検討

 富士通リテールビジネス本部DXビジネス事業部シニアディレクターの石川裕美氏は当メディアのインタビューに応え、AIレジのソリューションについて次のように述べている。

 「わたしたちのパーパス(存在意義)は、イノベーションによって社会に信頼をもたらし世界をより持続可能にしていくことです。AIレジレスでは、まず、消費者の皆さまにとって、“レジレス”、“キャッシュレス”を基軸とした斬新な購買体験を提供します。リテーラーの皆様には、狭小スペース・小商圏ストア(マイクロマーケット)という新しいビジネス領域を提案いたします。さらにはコロナ禍で人との接触に不安を抱える方に最先端のICTで寄り添いたいと考えております。
 
 特に手のひら静脈と顔情報のみで本人を特定する当社のマルチ生体認証技術に注目をいただきたいと思っております。この技術は登録には一定の倫理的なハードルも指摘はされていますが、なりすましのない精度の高い本人認証を可能にするものです。また、スマホの操作などに不自由な方にとってもストレスフリーな買い物を実現するものです。単なる効率化ではなく、新しい買い物体験をご提供するテクノロジーとして普及を目指していきたいと考えております」

 将来的にはネット販売では進んでいるレコメンド機能の搭載も検討しています。これにより過去に自分が買ったものの情報の蓄積からよりパーソナライズされたお勧めが入店時や買い物中にも可能になります。ネット購入に近い体験が、リアル店舗でもできることにつながるのではないでしょうか。
データ分析機能など、順次、サービスのアップデートを図っていく予定です」

 小売り業界をみると、非接触化を進めるために、セルフレジは進んでいるが、それは顧客自身に一定のレジ業務の負担をかけていることでもある。

 店舗も業務効率化でき、顧客もストレスレスな会計の在り方は今後も進むことは間違いない。

 AIレジレスは、現状の課題を解決しつつブラッシュアップされていく計画だ。陳列棚についても、よりフレキシブルな対応も検討したいとしている。小売業界側がどのような要望があるのかを伝える意味でも、試験的な導入をしてみることも一考だろう。今後については、既存店への導入の可能性を含めて、ウオッチしていく必要がありそうだ。

富士通では新しい購買体験を実現するソリューションを、利用者と事業者、両方のニーズを捉えた新しいリテール業態を実現する仕組みとして位置づけている

ZOOMで取材を受けた富士通リテールビジネス本部DXビジネス事業部シニアディレクターの石川裕美氏。
 大手外資系IT企業を経て、2017年に富士通に入社。リテール業界を軸に、幅広い顧客ネットワークを活かし、業界を超えた共創ビジネス、DX新規事業を推進

この記事のライター

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