【零売】日薬山本会長、「規制するか否かの議論は本質を見誤っている」/総会会長演述で

【零売】日薬山本会長、「規制するか否かの議論は本質を見誤っている」/総会会長演述で

【2023.06.24配信】日本薬剤師会は6月24日に定時総会を開いた。その中の会長演述で、山本信夫氏は零売の問題に触れた。厚労省の医薬品販売制度に関する検討会について、「闇雲にいわゆる零売を規制するか否かという議論は本質を見誤ったものと言わざるを得ません」と述べ、零売そのものの規制は望ましくないとの意向をにじませた。販売方法についての局長通知に準拠していない販売をまずは指導すべきとの意向も示唆し、「準拠せずに販売することを放置」していると問題提起している。さらに政策提言の“共用薬”について触れた上で、「必要以上の規制が設けられるような事態とならぬよう」、「積極的に意見を主張していかなくてはなりません」と述べた。


セルフケア/セルフメディケーションへの支援、「薬剤師・薬局の重要な役割」

 山本会長の会長演述の全文は以下の通り。

■第102回定時総会 会長演述
日本薬剤師会会長 山本 信夫

 日本薬剤師会第 102 回定時総会の開催にあたり、一言申し述べさせて頂きます。

 まず、本年5月に石川県能登地方で発生した地震、並びに6月関東・東海地方、和歌山県を中心に全国的な被害をもたらした風水害によって、被害に遭われた皆様に心よりお見舞いを申し上げますとともに、1日も早く平常な生活へ戻ることができるよう願うものです。

 さて、2020 年1月に新型コロナウイルス感染者が我が国で初めて確認されて以来、3年数カ月の間、グローバルな規模での感染拡大が続き、我が国でも8波に及ぶパンデミックを経て、本年5月8日をもって、感染症法上の扱いが2類相当から5類へと引き下げられました。その間、国民の方々には厳しい行動規制が行われ、感染患者のみならず、通常の医療へのアクセスも容易でない状況が続きました。会員各位をはじめ多くの薬剤師・薬局は、地域医療提供体制を確保・維持するため、自身の感染防御に努めながら、必要な医薬品の供給を途切れることなく継続されました。ご尽力に、改めて御礼を申し上げます。

 5月8日をもって行動規制が解除され、平常の社会活動が戻りつつありますが、新型コロナウイルス感染症を完全に制御できたわけではありません。むしろこれからは、国民一人一人が、健康状態を自ら確認することが不可欠とされています。こうしたセルフケア/セルフメディケーションへの積極的な支援は、これまで以上に地域の薬剤師・薬局の重要な役割となっています。

トリプル改定、財源の確保と同時に「医科・調剤の公平な配分を維持を」

 一方、3年間余にわたる世界規模での社会・経済活動の停滞やウクライナ戦争の長期化によって、石油、穀物をはじめ多くの生活物資等のサプライチェーンが機能不全を起こし、その影響も含めて、急速な物価・賃金高騰への対策が喫緊の課題とされています。加えて、歯止めが効かない少子化傾向に向けた対策として、政府は来年度から子ども・子育て政策を充実させるとしていますが、その財源については「年末までに結論を出す」としています。少子化対策は高齢化の進む我が国にあっては、国の将来を占う重要な課題であると認識していますが、社会保障費の抑制は国民の医療へのアクセスを損なう可能性も否定できません。加えてこれまで実施されてきた社会保障費とりわけ医療費抑制策は、その大半を薬価に頼ったものであることは明白で、度重なる薬価の改定が製薬産業や医薬品流通業界へ与えた影響の大きさを考慮すれば、賛成できるものではありません。さらに、2024 年度は医療・介護報酬に加えて障害福祉サービス等報酬も含むトリプル改定が予定されています。長期に及ぶ景気の低迷は生活必需品をはじめあらゆる分野での価格高騰をもたらしており、来年度予算の編成については例年以上に厳しい環境の中で行われることが容易に想像できます。

 しかしながら、原価等の高騰を販売価に反映できる通常の商取引と異なり、公定価格で運用されている医療保険では、物価高騰・賃金上昇の影響を吸収できず、保険薬局は厳しい経営状態が続いています。2024 年度トリプル改定に向けては財源の確保と同時に、医科・調剤の公平な配分を維持するため、年末に向けて薬剤師連盟と密接に連携しながら、関係各方面に働きかけていかなくてはなりません。
 

病院薬剤師の確保、「公費を投入しその確保に取り組むことが示された」

  また、6月 16 日には「骨太方針 2023」及び「規制改革実施計画」等が閣議決定されました。物価高騰・賃金上昇に対する財源確保について記載された点は、三師会挙げての要望が実現できたものと思います。また、昨年秋以来厳しい議論が続いていた「調剤業務の一部外部委託」や、薬剤師業務の根幹に関わる「訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の拡大」に関する記載も、これまでの本会の主張が概ね理解されたものと認識していますが、なお今後の動きに注意を払うとともに、こうした指摘がされぬよう、地域における在宅患者への医薬品提供体制の充実を図らねばなりません。

 また、本年3月末に都道府県宛に発出された第8次医療計画の作成指針には、これまでの国の検討会の議論を踏まえて、5疾病と新たに加わった新興感染症対策を含む6事業、並びに在宅医療の全てに、薬剤師・薬局の役割が明記され、地域医療提供体制の下で、医薬品の供給はすべからく薬剤師が担うことが期待されています。特に、これまで大きな課題とされてきた薬剤師確保については、地域偏在や開局と病院の給与格差等も視野に、地域に必要な医療人材、とりわけ病院薬剤師の確保のため、地域事情を踏まえて公費を投入しその確保に取り組むことが示されており、都道府県薬剤師会にあっては薬務主管課のみならず、医務主管課との密接な連携の構築が急務と考えています。また、災害薬事コーディネーターの配置についても、都道府県との協議をお願いします。

 一方、国を挙げての DX へ向けた動きはそのスピードを加速させていますが、本年1月からスタートした電子処方箋や、4月から原則義務化されたマイナンバーカードを活用したオンライン資格確認システムについては、それらのシステムを効果的に利用するための体制が未だ十分に整備されていないのではとの指摘がなされています。マイナンバーカードの運用上の相次ぐトラブルの発覚など、国が目指す「医療 DX を進めることにより、国民がより質の高い医療を享受できる」という考え方に水を差す事態が発生しています。長期的な視点に立てば、医療分野でも DX は進めなくてはならないことは理解しますが、患者の安全を守り適切な情報の交換を実効性あるものとするためには、患者や医療関係者がストレスなく安心して利用できる環境の整備が不可欠で、拙速に進めるあまり、こうした配慮が等閑にならぬよう注視することが必要です。

医薬品流通に係る問題の解決、「医薬品を扱う者として積極的に関わる必要」

 また、2020 年 12 月に発覚した、後発医薬品メーカーによる不祥事の影響を受けた後発医薬品の供給不足は、3年余を経過した現在もなお改善の兆しが見えぬばかりか、先発医薬品や長期収載品にまでその影響が及んでいます。こうした課題の解決を目的に設置された「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」が今月取りまとめた報告書は、医薬品産業の抱える問題や医薬品卸業の長年の商習慣、さらには我が国の薬価基準制度の見直しまで視野にした網羅的なものとなっています。今後この提言に基づき講じられる施策が、我が国の医薬品流通に係る問題の解決に繋がるよう、医薬品を扱う者として積極的に関わっていかなくてはならないと考えています。

 さらに、医療用医薬品の販売を巡る問題ですが、いわゆる零売行為を拡大解釈し、専ら医療用医薬品の販売を主体とする、およそ薬局とは言い難い特殊な販売形態をとる薬局が散見されています。医薬品の販売制度に関する検討会では、いわゆる薬剤師の零売行為の是非とともに、現行の医薬品の分類のあり方まで含めた議論が進んでいます。しかし、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売については、平成 26 年の医薬食品局長通知により一定の考え方が示され、令和4年8月にも再周知が通知されています。それらに準拠せずに販売することを放置して、闇雲に「いわゆる零売」を規制するか否かという議論は本質を見誤ったものと言わざるを得ません。本会は政策提言において、新たな医薬品の分類として「医療用・一般用共用医薬品(仮称)」の創設を提案しています。必要以上の規制が設けられるような事態とならぬよう、医薬品の地域への過不足ない提供とその適正使用を確保する薬剤師の責務を全うする観点から、積極的に意見を主張していかなくてはなりません。
 加えて、薬局の新たなビジネスモデルとしての、医療機関の敷地内での保険薬局の開設は、燎原の火の如く衰えるところを知りません。開設の理由や開設母体の如何に関わらず、医薬分業制度の根幹を揺るがす、こうした敷地内薬局の開設に対しては、今後も反対の姿勢を貫かなくてはなりません。折り返し点を迎えた本執行部は、目前に山積する課題の的確な処理を図るとともに、薬剤師を取り巻くさまざまな環境の変化に機敏に対応できる体制の更なる構築に向けて、着実に会務を進めて参ることを申し上げ、会長演述といたします。

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