【薬局を変えるのは薬剤師だけではない】「薬局アワード」開催

【薬局を変えるのは薬剤師だけではない】「薬局アワード」開催

【2020.10.25配信】10月25日、「みんなで選ぶ薬局アワード」というイベントが開催され、参加者からの投票で決まるオーディエンス賞に、まんまる薬局(東京都)が選ばれた。同社は、薬剤師・非薬剤師の2人体制で在宅現場を回る「ボランチ制度」を取り入れている。そのボランチ制度の中で生まれてきた現場の取り組みを社内で表彰する「ベストカップルアワード」が評価された。同薬局を経営するhitotofrom社代表の松岡光洋氏は、「薬局が変わるには薬剤師だけでなく働くスタッフが行動変容を起こす必要がある」と語った。


「薬局はどこも同じではない」

 同イベントは、「薬局はどれも同じではない」ことを一般生活者に知ってもらうため、創意工夫をしている薬局の取り組みを募集、表彰するもの。主催は一般社団法人薬局支援協会(代表:竹中孝行氏)。4回目となる今年はオンラインで開催された。

 在宅医療に特化した「まんまる薬局」では、薬剤師・非薬剤師の2人体制で在宅訪問する「ボランチ制度」を取り入れている。そのボランチ制度の2人の会話の中で生まれるアイデアが埋もれるのは「もったいない」との思いから、アイデアをGoogleフォームなどから応募し、再現性や独創性などの観点から社内で表彰する「ベストカップルアワード」を始めた。

 実際に社内で表彰された取り組みとして、「ミートミー」、「ラインスタンプ」、「栄養食品マッピング」など3例が紹介された。
 「ミートミー」は心理療法士などの協力を得て、薬局で働くスタッフ自らの「自分らしさ」を見つける取り組み。「患者さんのために何ができるかを薬局は常に考えている一方で、働いているスタッフ自身の自分らしさについて考える時間があまり持てないのが実情」(松岡氏)。そこで、自分が「大事にすること」などを書き出し、それを言語化できるようになることを目指す。自己分析をすることで薬局の働きがいと照らし合わせ、自発的に行動できるようになることにも通じるという。
 「ラインスタンプ」は、社員の口癖と似顔絵を活用して作成した。社員間のコミュニティを活性化する効果があったという。
 また、「栄養食品マッピング」は、それぞれの栄養補助食品ごとに栄養素の量や甘さなどをマッピングして患者一人一人に分かりやすい形で提案をできるようにした。背景には、在宅現場では食に関する相談が多いことがある。
 そのほかにも、患者の「夢を叶えるプロジェクト」などがあり、歯が悪く食事に困難さを伴う患者から「女子会をしたい」という要望があり、管理栄養士の相談の下、「女子会」を実現したことなどがあるという。
 参加者からは「薬剤師だけでは思いつかないアイデアなのではないか」という質問が出ると、松岡氏は、「薬剤師が変われば薬局が変わるかというと変わらないと思う。薬局で働いているのは薬剤師だけではなく、医療事務さんや管理栄養士など、薬局で働くスタッフ全体が行動変容を起こすことで、社会のリソースとして存在している薬局の価値が上がるのではないか」と話した。

オーディエンス賞を受賞した「まんまる薬局」(東京都)

薬局への相談は医療や介護だけではない

 人口構成の急激な変化から、医療業界では、これまでの「治す」から「支える」側面が大きくなってきていることが、しばしば指摘される。
 「薬局アワード」もこうした「医療」「薬剤師」の枠にとどまらない取り組みが拡大していることを表したのではないだろうか。
 最終審査に残った6薬局に入った、かんまき薬局グループ ABC薬局(大阪府)では、管理栄養士の山田菜摘氏が発表。
 来局者に困っていることをヒアリングする「お困りごとカード」の取り組みを紹介した。具体的には、管理栄養士が対応した事例としては「血液検査の結果を見ても何を改善したら良いのか分からない」といった相談に対し、管理栄養士が栄養相談を行った結果、数値に改善があったこともあるという。
 さらに、「エアコンが付かなくて困る」という生活に関する相談のほか、買い物の回数の高い頻度やお財布の小銭の増加などから地域包括支援センターに繋ぎ、早期の認知症発見につながったケースもあるという。
 山田氏は、「取り組みを通して、薬局は医療や介護の相談はもちろんのこと、場合によっては銀行などと連携することで住民をサポートすることができることが分かった。薬局が不安を解消し心のよりどころになれる環境を作っていきたい」と話した。

かんまき薬局グループ ABC薬局(大阪府)

薬局のコンテンツマーケティング

 薬局アワードではオーディエンス賞以外に、特別審査員賞や最優秀賞があるが、最終選考に残った6薬局の取り組みはどれも独創的で選考は難航したという。
 
 そんな中、最優秀賞に選ばれたのは、「はなのゆ薬局」(鹿児島県)だ。
Facebookやインスタグラム、ファクス、地域の新聞などを通して、薬局が提供できる情報を発信する「コンテンツマーケティング」の取り組みだ。

 発表した中山茜氏は同薬局で唯一の薬剤師、いわゆる「一人薬剤師」ではあるが、近隣の施設や保育園などを一人で回り、「お困りごとはないですか。こういう情報を薬局は提供できます」と伝え続けた。その結果、以前は近隣の特定の医療機関からの処方箋が多かったものが、150を超える医療機関からの処方箋を受け付けるようになっているという。
 温泉の多い土地柄や、自身の温泉ソムリエの資格も生かしながら、「温泉マルシェ」などの取り組みも実施している。
 参加者からは「一人薬剤師で、こんなに多くの取り組みができることが驚きだ」といった感想が伝えられた。
 
 特別審査員賞に選ばれたサンコー調剤薬局 昼間店(徳島県)は、管理栄養士とメディカルスタッフを交えた企画である「ママ講座」を立案。子どもの目を引くイラストを多用した説明カードなどを作成した。季節ごとの病気の予防や病気になってからの対策を冊子にし、オリジナルブックとして無料配布も行った。

 また、最終選考に残ったウラタ薬局 仲町店(岐阜県)は、漢方のせんじ機や骨密度測定など多くの機器も置き、相談機能を高めている。スタッフの年間残業時間は2時間程度といい、プライベートを重視する理念も徹底している。スタッフは当日にLINEで休む旨を伝えれば有給休暇を取得できるという。
 
 同じく最終選考に残った合同会社みどりや薬局(静岡県)は、「うっかりドーピング」を防ぐ取り組みを紹介。カードゲームを通して「うっかりドーピング」をなくすための知識が得られるもの。「うっかりドーピング」を防ぐための科学的・法律的なハードルの高さを親しみやすいカードゲームで解消することに挑戦している。

「はなのゆ薬局」(鹿児島県)

特別審査員賞に選ばれたサンコー調剤薬局 昼間店(徳島県)

地域の健康のコンシェルジュを目指しているウラタ薬局 仲町店(岐阜県)

カードゲームを通して「うっかりドーピング」を防ぐ取り組みを行う合同会社みどりや薬局(静岡県)

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