要望書の内容は以下の通り。
1 改定全体に対する基本的認識と重大な懸念
今回の改定において、調剤報酬の通常改定分はプラス改定と発表されましたが、実態としては、「効率化」として調剤基本料や加算の要件厳格化が行われており、薬局にとっては実質的なマイナス改定であると受け止めています。特に、特定の医療機関との距離が近い薬局形態に対して、一方的で不合理な更なる減算や要件強化が集中している現状は、地域医療のインフラ維持に重大な影響を及ぼしかねないものと強く危惧します。
また、現場経営に甚大な影響を与える変更が、答申直前の1月になって唐突に示されたことは、事業の予見可能性を著しく損なうものであり、手続きの透明性と公平性の観点からも看過できません。こうした「不透明な決定プロセス」と、それによって導かれた今回の「特定の医療機関と近接する立地」や「高い処方箋集中率」を有する薬局に対する評価の厳格化は、「患者ニーズの実態」や「医療 DXの進展」を無視し、さらには「職業選択の自由」といった法理とも著しく矛盾するものであり、到底納得できるものではありません。
よって、本改定案における当該項目に対し、以下の理由に基づき、強く再考および是正を求めます。
2 「立地」や「集中率」を標的とした評価手法の限界と患者利益の侵害
(1)患者ニーズとの乖離
2015年のビジョンにおいて、「門前からかかりつけ、そして地域へ」という方針が示されてから 10年以上が経過いたしました。しかし、患者が、受診した医療機関の近くですぐに薬を受け取りたいと考えることは極めて自然なことです。こうした患者の自然な選択を「依存」と呼び、ペナルティを課すことは、利便性を求める患者のニーズを無視した机上の空論と言わざるを得ません。
(2)医療DXの進展と「立地評価」の乖離
現在は、医療DXが推進され、場所を問わず質の高い「かかりつけ機能・一元的な薬学的管理」が可能になる時代です。かつて懸念された「特定の医療機関との距離が近いから一元的な管理が困難である」という図式は、医療DXの活用によってすでに解消されています。それにもかかわらず、機能と職能ではなく、「立地」や「集中率」といった外形的条件のみをもって評価を下げる手法は、時代の変化に逆行しています。結果として、「利便性と質を求めてその薬局を選択した患者」から、必要な医療インフラを奪うことになり、患者の受療権と利益を著しく侵害するものです。
(3)最高裁判決の精神に反する「実質的な参入規制」
今回の門前薬局等立地依存減算(都市部密集地や医療モール等に立地し、かつ集中率が高い、新規開設薬局への減算)は、行政が「集中率を下げれば回避できる」と説明したとしても、経営の採算性を著しく損なうことで、事実上の「出店規制」として機能します。この点において、我々は昭和50年4月30日の「薬局距離制限違憲判決」を重く受け止めるべきです。当時の判決において最高裁判所は、「職業は個人の人格的価値とも不可分の関連を有する」と述べ、距離による開設制限を「職業選択の自由」への重大な侵害として違憲といたしました。今回の、距離や立地をもって経営上の制裁を加える手法は、形を変えた参入規制そのものであり、こうした司法の精神にもとる施策と言わざるを得ません。
(4)健全な市場競争とイノベーションの阻害
法的な問題に加え、こうした新規参入者に対してのみ過酷なペナルティを課す制度設計は、結果として既存の事業者を過剰に保護することに繋がりかねません。地域医療の質を向上させるためには、常に新しいプレイヤーが参入し、機能やサービスを競い合う健全な市場競争が必要です。立地規制によって新規参入のハードルを不当に上げることは、業界全体の新陳代謝とイノベーションを停滞させ、産業としての発展を阻害することになり、最終的な不利益を被るのは国民であると懸念します。
3 医療モールや施設処方応需等の「高集中率薬局」に対する不公平性
(1)医療モールの必要性と、構造的に回避不可能な要件設定
人口減少と医療資源の制約が進む中、医療モールは患者が複数の診療科をワンストップで受診できる「持続可能な地域医療モデル」として、効率的な医療提供体制の維持に一定の役割を果たしてきました。特に高齢化が進む地域において、患者の身体的・移動的な負担を軽減し、複合的な疾患に対する対面でのきめ細かいサポートを提供する場として、今後の地域包括ケアの観点からも、その機能や患者利便性はペナルティの対象ではなく、むしろ適切に評価する視点が求められるはずです。
こうした医療モール型薬局の場合、その設立経緯からして、モール内の医療機関からの処方箋が多くを占めることは必然です。今回の改定では、モール内の複数の医療機関を「一つ」として集中率カウントする変更がなされますが、この計算式が適用されれば、物理的に近接し一体的に機能している医療モールにおいて、集中率を85%以下にすることは構造上、不可能です。「回避不可能な条件」を課した上での区分変更や減算は、誘導政策ではなく、特定の業態に対する「排除」に他なりません。
(2)既存の調剤基本料1との著しい不公平
今回の改定では、既存の「調剤基本料1」の中で、集中率が高い薬局に対しては、基本料区分が維持されるばかりか、面分業推進を理由に評価を引き上げる(45点→47点:+2点)措置が取られています。その一方で、医療モール型や施設処方応需の薬局に対しては、集中カウント方法の変更により、区分変更(37点→20点 等)され、即座に17点の大幅減額を強いる内容となっています。同じ「集中率が高い」という特性を持ちながら、この整合性のない恣意的な線引きは、公平性の観点から極めてバランスを欠いています。
(3)法的安定性と予見可能性の侵害(不利益遡及)
既存の医療モール型薬局や施設処方応需は、開局当時の法令やルールに則り、適法に開設・運営されてきました。今回、集中率の定義(計算式)を変更し、それを過去に開設された薬局にまで適用して減算を科すことは、経営者の予見可能性を奪い、過去の正当な経営判断を事後的に罰する「実質的な不利益遡及」に該当します。法的安定性と信頼保護の原則に照らしても、このような不利益変更を強行することは、行政権の濫用との疑義を生じさせるものであり、断じて容認できません。
(4)医療経済実態調査に基づく調整を超えた「二重のペナルティ」
特定の医療機関からの集中率が高い薬局や医療モール型薬局については、医療経済実態調査の結果に基づき、「調剤基本料2(30点)」や「調剤基本料3口(20点)」等へ誘導され、「調剤基本料1(47点)」と比較して大幅に低い点数が設定されています。これは、経営効率性を勘案し、厳格な「利益調整」が行われていることを意味します。
今回、そこに加えてさらに「門前薬局等立地依存減算(▲15点)」を追加することは、二重に不利益を課すものであり、合理的根拠を欠いた過剰な介入です。すでに低い基本料へ調整されている薬局に対し、さらなるペナルティを課す本施策は、直ちに撤回または凍結すべきです。
4 結論および要望
要望1:集中率カウント変更に伴う激変緩和措置を強く要望いたします。
既存の基本料1(+2点の優遇)との間に生じる著しい不公平(▲17点の懲罰的減額)を是正し、法的安定性を損なう不利益遡及を回避するため、医療モール型や施設処方応需薬局における区分変更(減額)について、基本料1と同様の不利益変更への対処、および激変緩和措置の検討を強く求めます。
要望2:「門前薬局等立地依存減算」の導入に対し、断固反対いたします。
すでに基本料が引き下げられている薬局に対し、さらに減算を課す実質的な参入規制は、健全な市場競争とイノベーションを阻害し、最終的に国民の利益を損なうものであるため、断固として撤回を求めます。
我々は、「立地という『場所』ではなく、医療DXを基盤とした『機能と職能』の発揮」が公正公平に評価される報酬体系を強く望みます。時代の変化に即した、真に求められる薬局インフラの実現に向け、行政におかれましては、現場の実態と地域医療の将来を見据えた賢明な判断を要望いたします。