【インタビュー】なぜ「フリーランス薬剤師」という新しい働き方が大きくなろうとしているのか

【インタビュー】なぜ「フリーランス薬剤師」という新しい働き方が大きくなろうとしているのか

【2020.08.17配信】「フリーランス薬剤師」という働き方が注目を集め出している。「“自分で決められる”ことを優先する価値観を持つ人が20代・30代で増えている」。2019年2月、フリーランス薬剤師も紹介する会社「goose up」を立ち上げた菊地将和氏は、そう分析する。同社で紹介する「フリーランス薬剤師」は現在、4名。まだまだ多いとはいえないが、現在、毎月2~3人程度の問い合わせが入っている状況という。菊地氏は今後、調剤併設志向のドラッグストア企業にもフリーランス薬剤師の提案を広げていく考えだ。


「月に1日」から人材補充ができる

 ――まず、菊地さんのプロフィールからお聞きしてもよろしいでしょうか。
 
 菊地 私は福岡大学薬学部を卒業後、福岡県で30店舗程度を展開する調剤チェーン企業に就職しました。そこで3年間ほど勤めたのですが、「将来的に在宅の知識が必要になる」と考え、人材紹介企業を介して「在宅に強い薬局」を紹介いただきました。それがきらり薬局(Hyuga Pharmacy、本社福岡県)でした。当時、きらり薬局はまだ3店舗目を出店したばかりでしたが、「在宅なら、きらり薬局」と人材会社さんがいうほど、在宅では注目されていた会社でした。そこで、エリア長やシステム関連を担当しました。

 もともと、独立したいという気持ちはあったので、独立を真剣に考えた時に、「自分は薬局を経営するというよりも、薬剤師さんや薬局を支援するような会社を経営したい」と思い、今の会社を起業しました。会社を立ち上げたのが昨年(2019年)の2月でした。

 薬局を支援したいと考えた時に、大きな課題になっているのが“人”でした。特にどこの会社も人材紹介会社や派遣会社への不満が大きいと日頃から感じていましたので、「では、薬局とフリーランスの薬剤師さんをマッチングするサービスをつくろう」と考えたのが今の会社です。人材の環境をよくできれば業界の役にも立てるのではないかと。

 ――現在はどのくらいのフリーランス薬剤師を紹介しているのですか。

 菊地 まだ始めたばかりですので、多くはないのですが、今、フリーランス薬剤師さん4名を常に紹介しています。副業目的でご紹介している薬剤師さんが10名です。それから毎月、2~3名からフリーランスの登録要望をいただいています。

 ――通常の人材紹介とはどう違うのですか。

 菊地 従来、薬局の人材補充としては雇用がメインで、そこで補完できない部分で派遣を利用するという形です。ここでは、スポットでの人員補充が難しいという課題があります。チェーン薬局の場合、他店からの薬局スタッフの応援というのも成り立つのですが、特に店舗数が少ない薬局の場合は、他店の応援補充もできないですし、オーナーさんが無理をしていたり、本当は週2日だけ頼みたくてもパートさんや派遣会社ですと、少なくとも週3日以上は頼まなければいけなかったりなど、ミスマッチが生まれてしまいます。この課題を解決することができないかと考えたのが、当社のサービス「SUPPOND」(サポンド)です。

 特徴としては、最小ですと「月に1日」から、発注ができる点です。これが薬局にとっての一番のメリットです。時間帯も欲しい時間帯だけ依頼することができます。ただし、これまでの派遣などでは薬剤師さんと薬局を1対1でマッチングすることになりますが、サポンドでは一つの薬局に対して複数の薬剤師とマッチングすることになります。
 
 例えば薬局側が月1日だけ募集した場合、薬剤師さん側はそれでは収入が成り立たないので、複数の薬局と契約する形になります。薬剤師からみれば、一人の薬剤師さんが複数、だいたい3~4薬局と契約いただいている形になります。

 薬剤師さん側からみたメリットは、働き方が自由に選べることですね。週に3日働きたいという人もいますし、逆に週6日働きたいという人もいます。これも複数の薬局と契約いただくことで、柔軟な働き方が可能になっていると思います。

 ――マッチングするにあたって、システムは何か用いているのですか。

 菊地 今のところは件数も多くないので、私が双方の要望を聞き取りしながら、パズルのように組み立てています。いずれ件数が増えていったら、システムを開発しようとは思っています。

【略歴】
菊地将和(きくち・まさかず):2008年福岡大学薬学部を卒業後、調剤チェーン企業に就職。その後、在宅医療を学ぶため、きらり薬局(Hyuga Pharmacy、本社福岡県)に入社。エリア長やシステム開発担当などを経て、2019年2月にgoose upを起業。フリーランス薬剤師と薬局をマッチングする「SUPPOND」(サポンド)を提供している。現在は福岡市内の個人薬局を中心にサービス展開。今後はドラッグストア調剤事業や県外へのサービス拡大も模索中。
【SUPOND(サポンド)】フリーランス薬剤師と薬局をマッチング。「月に1日」からでも人材補充ができることが特徴。薬局は月額35,000円の定額で募集回数は無制限。時間報酬は最低3,000円~設定可能。薬剤師は登録料・利用料とも無料。

使ってみるまでの「最初の壁」

 ――今までサービスを展開されてきた一番の成功事例のようなものは何ですか。

 菊地 継続的に利用いただいている薬局があることですね。率直に言って、利用料金の単価自体は人材派遣と大きく異ならないと思います。しかし、人員配置、人員補充の仕組みとして、継続して使っていただいている。これは一番の成功事例だと思います。

 派遣ですと、次の採用が決まるまでのつなぎとして利用する薬局が多いのですが、サポンドを利用している薬局は、正社員、パート社員、フリーランスと、3つを手段として継続して利用していらっしゃいます。これは私が理想としてきた形に近く、いろいろな働き方があってよいのではないかと思うのです。薬局側も、経営的にも安定して喜んでくださっていることが嬉しいですね。
 
 薬局は曜日や季節によって、繁忙になる時期が違ったりします。そこに合わせた人員補充ができるということは、経営的にもメリットになっていると思います。ベースは正社員やパート社員を雇用し、業務の波に合わせてフリーランス薬剤師との業務委託という形を取り入れることで経営は安定すると思います。
 
 ――フリーランスを取りいれない薬局はどのような点が理由になっているのですか。
 
 菊地 薬局の経営者からお話をお聞きすると、「薬局で働いてくれる人は家族同然なので、雇用契約以外は考えていない」ですとか、「時間報酬単価が高い」と言われることが多いです。
 
 ただ、その一方で、自社の正社員に時給でいくら掛かっているか把握されていない薬局経営者も多いように感じています。法定福利費を考慮すると決して安くはありません。

 また、新しい形態なので、使ってみないと実感がないということもあるかとは思います。最初の壁のようなものを感じることもあります。
 
 ――例えば、薬局の経営理念を正社員としてフリーランス薬剤師にも共有したい、とかはあるのでしょうか。
 
 菊地 今、10店舗以下のような、いわゆる個人薬局にご提案しているのですが、そこまでのお考えは、あまりお聞きしたことはないですね。

コロナで需給バランスが一転

 ――一方、デメリットといいますか、サポンドの弱点はあるのですか。

 菊地 そうですね、基本的には双方の要望を100%満たすことを目指しているのですが、それが完全にはできないことがあります。双方が同じ会員数規模であることが必要な面があります。

 特にコロナの影響で薬剤師さんの需要と供給のバランスが一気に180度変わりました。処方箋枚数が減少して、薬局さんが人員過剰になるケースが出ています。これまでは薬局からの要望が多く、薬剤師さんを見つけるのが大変だったのですが、今は薬局への営業を主軸に置いて活動しています。

 ――このように需要が減少した時に、「自由な働き方」と「仕事の安定」という問題をどのように捉えているのですか。
 
 菊地 今も悩んでいるところではあります。月収が減少してしまったという薬剤師さんもいるので。ただ、そこは私が紹介先の薬局を開拓して、多様な働き方をかなえてあげるように努力していきたいと思っています。

 今はコロナ禍が急に来たので、すぐに薬局の価値観や体制が変えられないところもあり、このサービスの弱点にもなっています。しかし、本当はこういったコロナ禍のように、経営の不安定要素が大きくなる時にこそ、売上や業務量の増減に合わせて人員を調整できるこのサービスの価値が大きくなると思っています。私は、もっとフリーランス薬剤師のニーズは大きくなっていき、数年間でこういったサービスが必須になると思っています。

優秀であれば将来不安はないのでは

 ――フリーランス薬剤師を選択したことで、将来的に収入が不安定になることも想定されると思います。そこをどう考えていますか。

 菊地 そこは大丈夫だと思っています。サポンドは、優秀な薬剤師さんが適正な報酬を得られる世界観を目指しているのも目的の一つです。そのために優秀な薬剤師さんに登録していただくことを意識しています。事前にしっかり面談をさせていただき、お断りすることもあります。そのおかげか、彼ら、彼女たちはとても薬局から評判が良いです。しがらみのない前提で、プライベートでも仲良くされていて、「今度、一緒に山に登るんですよ」とか「一緒に食事に行きました」といった話をしてくださるときは私も本当に嬉しく感じます。私にとっての「優秀」というのは、きちんと挨拶できたり、謙虚で良好なコミュニケーションが取れるということなんです。ですから、将来的にも仕事の心配はないと思います。

「自分で選択できる」を優先する価値観

 ――そもそものお話になりますが、フリーランス薬剤師を希望する人は、どのような人なのですか。

 菊地 3つぐらいパターンはあります。1つは雇用契約に不満を抱いている方です。2つ目が収入増を目的に副業として働きたい方。3つ目が独立を希望していて、集中的に仕事をしたり、自由に働きたいという方です。

 そのうち、雇用契約に不満を抱いている方が、なぜフリーランスを希望するかというと、「自分で選択できる」という自由を優先する価値観があると思います。例えば、極端な話でいうと、かかりつけの算定を不正に算定しておいてほしいなどの要望だったり、休みの取得などに関して、正社員であるがために周囲の人に配慮して言い出せなかったりする人がいます。そこをフリーランスであれば、自分の責任で休みを自由に取ったり、嫌なことは嫌と言いやすいところがあります。

 また、薬局は企業の規模の大小はあっても、やはり店舗のスタッフは2~3人とか、10人以下の店舗が多いので、どうしても狭い世界になってきてしまう。そういった面からも複数の薬局で自由に働きたいという気持ちを持つ方はいます。複数の店舗でいろいろな人と働いたり、いろいろな処方を経験したりしたいと思う人がいるのは、むしろ自然なのではないかなと思うのです。

 それから大きな要因にあると思うのが、プライベートを充実させたいという気持ちですね。「これまで、仕事を優先にしてきて、長期間の旅行にも行けなかったので、ここで一度、プライベートの方を大切に過ごしたい」という方もいます。

フリーランスを希望するか薬剤師には、「自分で選択できる」という自由を優先する価値観があるという(写真はイメージです)

規制上グレーでもやりたい

 ――フリーランス薬剤師は、薬局とは業務委託という契約になると思います。薬局という医療に関わる業種だけに、そこに規制や倫理的な問題はないのでしょうか。

 菊地 率直に申し上げて、薬局において業務委託というのはグレーゾーンだと思います。薬機法などには薬局における業務委託という明記がないというところです。しかし、明記されていないから、ニーズがあるのにやらない、という選択肢は私の中ではないのではないかと思っています。薬局、薬剤師双方にニーズのあるサービスだからです。

 ただ、病院に関しては、医療法の中で業務委託できる範囲が定められています。衛生管理などに関しては業務委託してよいと。調剤はそこに入っていないので、病院に関しては、フリーランスの薬剤師は紹介せず、パートなどの雇用契約をご紹介しています。

 ――なるほど。そう考えると、パート雇用を複数の薬局と結ぶというやり方もあると思うのですが、フリーランス、あえてグレーな業務委託形式を採用しているのはなぜですか。

 菊地 労働基準法の存在が大きいと思います。雇用契約を結ぶと、労働基準法に縛られてしまうのですが、労働基準法そのものが合わない方もいると思うのです。

 過労死などの問題もあり、過重労働や有休などの縛りも厳しくなっていっている傾向があるのですが、そうすると、お昼休憩は30分間だけでも詰め込んで働きたいと思っている人も、必ず12時から1時まで休憩をしなければいけないなど、不自由さが出てきてしまうのです。

 これは雇う側も同じで、休みを取らせなければいけないなど、がんじがらめになってしまう面があると思っています。もっと自由な働き方があってもいいのではないかと、私は思っているのです。

それぞれの役割分担がある

 ――さきほど、サービスの提案先は個人薬局で、チェーン薬局だと応援が可能で需要が少ないということだったのですが、調剤併設のドラッグストアには提案されないのですか。

 菊地 正直なところ、これまで接点や人脈がなく、ご紹介していなかっただけなので、今後はご提案先として広げていきたいと思います。例えば、日・祝日や夜遅くまで処方箋を応需するドラッグストア調剤のニーズを満たすことができるのではないかと感じています。

 ――展開エリアは福岡県ですよね。

 菊地 現在は福岡市内を中心に展開しているのですが、関西エリアから薬剤師さんの要望があったり、想像以上に薬剤師さん側のニーズが大きいので、エリアの拡大も検討したいと思っています。

 ――ちなみにですが、一つの業務を正社員と業務委託が一緒にやっている業界というと、どこが進んでいるのでしょうか。

 菊地 前職でシステム開発を担当していた経緯もあるのですが、IT業界は進んでいると思います。一つのプロジェクトに複数の会社や正社員、フリーランスが一緒に遂行していますね。それぞれが得意分野を発揮できるメンバーを集めた方が質の高いシステムも作れますし、経営効率も高まるということは感じていました。

 ――エンジニアは専門職だから、フリーランス契約がしやすいのかもしれませんね。そう考えると、薬剤師も国家資格を持った専門職なので、フリーランスという考え方が出てくるのかもしれませんね。

 菊地 そこはすごくあると思います。実際に会員の薬剤師さんが派遣薬剤師として働いていたときのお話ですが、派遣先の薬局が不正をしていて雇用主である派遣会社に申し入れをしても、取り合ってもらえなかったという経験をされた方がいます。その場合、国家資格を持っている薬剤師として不正を断わる場合、やはり一つの会社に雇用されているとリスクが大きい。そこをフリーランスで複数の薬局と契約していれば、きっぱりと断っても収入上のリスクが小さく自分自身を守ることができると思います。

 不正に限らず、よりよい職場環境をつくろうと薬局も努力したり、薬剤師側も仕事の発注を継続してもらえるよう努力したり、双方が高められる環境をサポンドで作れたら、というのが目標です。
今までの安定した働き方を否定するつもりは全くなく、安定した働き方をしたい人もいれば、いろいろなところで働きたいという人もいてもいいと思うのです。社会全体でもそれぞれの役割分担があると思っています。

 ――分かりました。ありがとうございました。

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