【日本薬剤師会・山本信夫会長講演】会員である薬剤師に訴えかける/「薬剤師は“自分たちがしっかりと医薬品をグリップしてこの国の国民が安全に医薬品を使える体制を確保する”という覚悟・矜恃を持つ必要がある」

【日本薬剤師会・山本信夫会長講演】会員である薬剤師に訴えかける/「薬剤師は“自分たちがしっかりと医薬品をグリップしてこの国の国民が安全に医薬品を使える体制を確保する”という覚悟・矜恃を持つ必要がある」

【2022.10.12配信】日本薬剤師会会長の山本信夫氏は10月10日、「第55回日本薬剤師会学術大会」の中で数年振りとなる会長講演を行った。その一部をお伝えする。


改正薬機法をどう捉えるか

 山本会長は講演の中で、2020年の改正薬機法が、100年以上続く本邦の薬剤師の役割の法的位置付けを大転換したほど、大きな変化であったとの認識を示した。一方で、「地域連携薬局」などの表面だけを受け取る理解に対しては憂慮。改正薬機法を契機に、薬剤師自らが「薬剤師とは何をする人か」「薬局は何をする場か」を捉え直す必要があると警鐘を鳴らした。

 山本会長は「皆さん方の中で2020年の改正薬機法の中で“何が最も一番興味深かったか”と聞いてみると、ほとんどの方の回答が“地域連携薬局と専門医療機関連携薬局ができたこと”ということに収束する。そのことは間違ってはいないと思いますが、そもそも考えていただきたいのは、地域連携薬局とはどんな方々がなるのか。専門医療機関連携薬局に誰がなるのか。薬局ではない方々がなれるはずがない、というのをどこかで忘れていませんかと言いたい」と語り、まず「薬局」を捉え直すことこそが重要との考えを示した。

 「改正前では、薬局は何をする場所かというと“調剤をする場所”と書いてあります。薬剤師は何をする人ですかというと“医師の処方箋に基づいて調剤をする人”と書いてあります。多少自虐的に言えば、“ついでに薬を作って売ってもいいよ”というのが、ついこの間までの法律です。明治以来、ずっと変わっていません。よく出てくる薬律にしてもそうです。ずっとそういう書き方で、戦争が終わって新しい法律がなおって、全部の法律ができて、薬剤師法ができた時も同様に、そのスタイルは変わっていませんでした。従って、薬局は何をすればいいかというと、調剤をしていれば誰にも叱られなかった。薬剤師は調剤をしていればそれで役割を全うできたというふうに捉えられていた。2020年の改正はどうなったかというと、もちろん調剤はしますけれども、地域の方々から医薬品の相談を受け、その必要な情報を提供し、さらに必要な医薬品を販売しなさいということを、薬局開設者に義務づけています。一方で薬剤師は何をするかというと(薬剤師法)第二十五の二に、さらに追加をしてフォローアップをしなさいと。患者の一元的・継続的な医薬品の管理をするんだと。 そういう仕事が薬剤師ですよと言った時に、さて今までのように調剤をすればいいのか。あるいは処方箋だけ扱っていればいいのかというと、まったく違った視点の薬局像が出てくる」と話した。

 その上で、「薬局はいったい何をするところなんだ」という整理が必要との考えを示した。
 「薬局ができない方々が、なぜ地域連携薬局になれるのか。なぜ専門医療機関連携薬局になれるかということを考えていただくと、皆さんの仕事はどこにいくかと言えば、“薬局はいったい何をするところなんだ”というところまで落とし込んでいかないといけない。地域連携薬局が本当に今の情報でいいのか。実態が伴わない数が増えても何の意味もないと私は考えています。ですから、私の友人の書いた本から引用しますが、コペルニクス的転換なんです。まさに地球は回っているか、太陽が回っているかということをガラッと変えた。それぐらいの大きな変動ですから、この変動を大きく捉えずに、単に“地域連携薬局ができたからそれを取得しよう”というふうに言われたのでは、この法改正の意味は何もない。ぜひそこだけは記憶しておいていただきたい」と話した。

なぜ地域医薬品提供計画なのか

 地域医薬品提供計画に関しては、次のように語った。
 「では、いったいこの国に医薬品がどう提供されるのか。今までのように、“すぐ自分の目の前に行けば済むよ”という話ではなくなる。例えばリフィルでも何回かに分割される。例えば仙台の方が東京の専門の病院に行って、それでリフィルをかけた時に地元に戻らずに東京に戻ったら、何のためのリフィル処方箋かということになってしまいます。そう整理してみると、どこに行っても、ある程度の不自由さは伴いながらも、地域の方々が医薬品にアクセスできないというのは極めて問題だと思っています。まさに薬剤師がどこに医薬品を置くのか(を考える必要がある)。薬剤師が実際に触るかどうかはともかく、薬剤師が知らないところで勝手に薬が売られているって、何のために薬剤師がいるんでしょうか。それをなぜ認められるか。それは嫌ですから、何としても地域の中に薬を置くためには拠点を置かなくてはいけないでしょうと。それは採算もあればさまざまな理由があります。けれども人が住んでいる以上、そこでは当然のことながら(拠点があるべき)。週にいっぺんかもしれない、あるいは毎日かどうかはわかりませんが、少なくとも薬剤師なり薬局がそこに存在をして、その地域の人に安全に医薬品を提供していく。そのことは薬剤師会という会であれば、当然、考えるべきです。少なくとも薬剤師は、“自分たちがしっかりと医薬品をグリップしてこの国の国民が安全に医薬品を使える体制を確保する”と、そういう覚悟、あるいは矜恃かもしれません、そうしたものを持たなくてはいけない。そのために地域の中に医薬品提供計画を作ろうよと。どういうふうにプロットしたらそこでは 5分でもらえないけど20分動けば(薬に)アクセスできると。2時間も3時間もかからせないというようなことができないだろうかと」と話した。

「薬剤師サービス」の意味

 加えて、地域に提供するのは、調剤、医薬品の供給などだけでなく、「薬剤師サービス」だとした。この言葉には薬事衛生の役割も含まれていると考えられる。

 「その上で、なぜ必要かという“なぜ論”です。国民に対して薬剤師はどんなことをするか。 “医薬品の提供”とか“調剤”ではなしに、薬剤師が薬剤師として地域に対して医薬品をどのように提供していくか。われわれは“薬剤師サービス”という言葉を付けました。海外ではごく当たり前に“ファーマシストサービス”“ファーマシーサービス“という言葉が使われますが、日本でこの言葉を使うと“ただですか”と言われるので、敢えてこれまで使って来ませんでした。しかし、そろそろいいだろうと思って薬剤師サービスを提供する、それが薬剤師の仕事であり、その拠点になるのが薬局というふうに我々は考えています。本当に必要なところに、小さくてもいいんです、薬局が存在して、薬剤師がいて、という体制を組みたい。そのために、地域連携薬局がサポートに回り、専門医療機関連携薬局がある。そもそも薬局と言えるものが存在しなければ、地域連携の組みようがない。我々としてはどういうふうに薬剤師サービスが提供できるのかという環境整備が必要だろうと思っています」と話した。

薬剤師の職能発揮は結果的に「この国で国民が安心して医薬品を使える体制をつくる」こと

 最後に、山本会長は、「数年ぶりの会長講演になりますが、社会背景、今の状況、そして本来、何を目指すべきかということについて考え直していただく機会になればと思います」と会員に語りかけた。
 
 「ちょうど今年で、(医薬分業元年といわれる)昭和49年から50年目に達しました。半世紀を過ぎたところで折り返して、さて50年後にここに集まって、同じように話ができているか。“なんか昔、こんな職種があったみたいだな”という話にならないように、是非みなさんとご一緒に、これからも薬剤師のために、あるいはそれが結果に国民のためでありますが、この国で国民が安心して医薬品を使える体制をつくるために努力をしていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願い申し上げます」(山本会長)。

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