【処方箋40枚規定撤廃論議】識者はこう考える/「実際に調査してみる価値がある」/シドニー大学医学部リサーチフェローの藤田健二氏

【処方箋40枚規定撤廃論議】識者はこう考える/「実際に調査してみる価値がある」/シドニー大学医学部リサーチフェローの藤田健二氏

【2022.05.20配信】規制改革推進会議は答申へ向けた検討項目として、薬剤師の員数規定、すなわち処方箋40枚規定について、見直しの必要性を記載した。40枚規定は一定の調剤の質を担保するために必要という共通の認識は関係者にあるものの、調剤の質を測る指標はほかにもあるのではないかとの意見が提示されている。本稿では、同テーマを研究しているシドニー大学医学部リサーチフェローの藤田健二氏に聞いた。


海外の指標例「30日の処方の人は次回30日後に来局しているのか」

 ――今日はまず、藤田先生とお引き合わせいただいたユヤマ学術部部長の森和明さんに御礼申し上げます。ちょうど森さんは厚労省の「第3回薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」に参考人として出席されていて、薬剤師の介入による臨床的・経済的なアウトカム研究の例示を資料として提出されていたことに共感しました。また、WGのご発言の中でお名前は出されていませんでしたが藤田先生のご研究も紹介されていましたね。 

 森 かねてから藤田先生の「クオリティインディケーター」(QI)のご研究に触れてきて、薬剤師のバリューを現場で計測できる可能性を強く感じたのです。この概念をもっと厚労省や薬局薬剤師の皆さんにも知っていただきたいという気持ちがありましたので、WGで発言させていただきました。

 ――では、藤田先生、よろしくお願いいたします。政府の規制改革推進会議は4月27日に開いた「医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ」(WG)で今夏に公表が予定されている「規制改革推進に関する答申」に向けた検討項目案を提示しました。その中で処方箋40枚規定について、「薬局において配置が必要な薬剤師の員数に関する規制について、調剤業務の機械化や技術発展による安全性及び効率性の向上を踏まえ、処方箋枚数ではなくプロセスで管理するなど、規制の在り方を見直す必要があるのではないか」と記載しました。
 日本でも薬局や薬剤師の価値はどう測るのかというテーマに関心が高まっていると思います。まず、薬局や薬剤師の質の評価について、諸外国の動きをどのように感じていらっしゃいますか。

 藤田 日本に限らず薬局の質を評価するというモチベーションが近年すごく高まってきているのを感じます。

 それはそもそも薬剤師の存在意義にもつながってくると思うのですが、いったい薬剤師、薬局は何に貢献してどこに、どれだけ、どういった影響を与えることができるのかということを関係者の多くが着目をしていて、その中でひとつのキーワードとなってきているのが「クオリティインディケーター」(QI)です。

 QIは、ストラクチャー指標、プロセス指標、アウトカム指標の3つに大別されます。ストラクチャー指標とは、薬局のサービス提供体制の有無が該当します。薬局機能情報提供制度として報告が義務付けられている項目のいくつかはストラクチャー指標に位置付けられます。プロセス指標とは、簡単に言うと医薬品の適正使用に関連するガイドラインや指針1つ1つの遵守率が該当します。アウトカム指標は、患者の検査値、QOL、医療費等が該当します。通常、QIを用いて薬局の質評価を議論する際には、この3つの分類のいずれかの指標のことだと思ってください。

 ――プロセス指標の具体例を教えてください。

 藤田 「高齢患者の嚥下機能を定期的に確認すべきである」という場合、QIはその実施すべき分母と実施した分子によってパーセンテージで表すのです。例えば直近3カ月以内に薬局に来局している75歳以上の患者数が分母で、その中で薬歴に嚥下機能を確認したことが記載されている患者数が分子になります。

 ――なんらかの確認事項に対する薬局の遵守率をみるのがプロセス指標ということですね。

 藤田 はい。薬局のプロセスを評価するよりも、患者のアウトカムを評価する方が重要だと思われるかもしれませんが、薬局の質評価が目的の場合はそうではありません。患者アウトカムの変動の要因にはいろいろ要素が絡んできてしまうからです。例えば薬剤師さんが患者に介入することで、患者さんの糖尿病が改善したり血圧が下がったりしたとします。しかし、そこには医師のアドバイスだったり栄養士の関わりとか、患者さんご自身の生活変化や職場環境、家族環境などが要因になっている可能性もあるので、一概にアウトカムがダイレクトに薬剤師さんのおかげというふうにはならないのですね。加えて薬局はアウトカムの情報が入手しにくい状況があります。今でこそ血圧の数字や腎機能などを患者さんに聞く薬剤師さんが増えてきていますけれど、世界共通で薬局はアウトカムの数字自体を取りにくい状況にあるといえます。

 そういったことも相まって、ではどうするかというと、薬剤師さんが、ケアが必要な患者さんに必要なタイミングで必要な情報を提供しているかどうかというケアの質を評価しようということで、これがプロセス指標の基本的な考え方です。こうした評価をしようというモチベーションが各国で高まってきているという形です。

 ――QIの取り入れが一番が進んでいる国はどこでしょうか。

 藤田 僕が思うのはアメリカとオランダですね。アメリカは特に進んでいて、保険者によってはQIスコアと報酬をリンクさせています。QIスコアを可視化してスコアの改善に向けたコンサルティングを薬局向けに販売している会社もあります。

 アメリカの例を1つあげると、スタチン系薬剤を服用している患者に関して、直近6カ月間の服薬アドヒアランスが80%以上の患者割合を計算し、そのスコアが特定の閾値を超えていたらその分ボーナスがもらえるといった取り組みをしています。

 ――アドヒアランスというのは、薬をしっかり飲んでいるかどうかという理解でよろしいでしょうか。

 藤田 いや、違うのです。処方箋の日数と来局している間隔の日付に関する計算式があり、その数字で評価をしています。ですので実際に患者さんが服用しているかを評価しているのではなくて、来局の間隔を評価していることになります。ちゃんと定期的に薬局に来ているかどうか。日本で言うと30日分の処方が出たら、患者さんがきちんと飲んでいれば、30日後かそれより数日前に患者さんが来るはずですね。それが30日分の処方なのに、2カ月後に来局する場合は、それだけ薬がきちんと飲めていないと解釈します。

 WEBアプリを使うとスコアが見やすく表示されます。アドヒアランスの間隔については、この薬局は83%で、全体のゴールとしては93%。ゴールまであと10%ですよと、そういったものが見えるようになっています。このスコアがある閾値に達すると、ボーナスとして報酬をもらえるのでモチベーションにもつながっています。

日本でもQIは導入され始めている。ただ、増やしていく余地がある

 ――個人的なご意見で結構なのですが、日本の薬局や薬剤師の質の評価の現状について、どのように評価されていますか。

 藤田 日本でどのようなプロセスインディケーターを使っているかを考えると、後発医薬品調剤体制加算かなと思います。使用率を計算して、一定の閾値を超えていたら、加算がもらえる。ああいった分子と分母からパーセンテージを導き出すという手法はQIの考え方です。あとは、吸入薬指導加算も薬剤師が実施した業務に対する評価という意味ではプロセス評価なのですが、実施割合に対する加算ではなく、実施一回ごとに加算がつくので、QIの考え方とは若干異なります。対物業務から対人業務へと薬剤師の働き方がシフトしていく中で、QIの考え方に興味を持つ人は少しずつ増えてきているように感じます。

 ――厚労省のWGでは、処方箋40枚規制が薬局の質の担保のために必要という意見が多かったのですが、先生は40枚規制をどういうふうにみていますか。

 藤田 それこそ、実際に調査してみる価値はあるのではないかと思いますね。例えば処方箋の枚数で薬局の質が測れると仮定するとしたら、処方箋を1日に20枚受け付けている薬局の方が、40枚を受け付けている薬局よりも質が高いという仮説も立てられますよね。40枚を境に薬局の質が本当に下がってしまうのか、薬局の質に影響を与えうる応需枚数は何枚なのか等は調査可能だと思います。
私は質がきちんと担保されていたら、40枚規制はなくてもいいと思います。それこそ40枚にいかない薬局でも質は低い薬局はあるかもしれない。やはり質で評価すべきというのが私の判断ですね。

QI導入でメリットが大きいのは高齢者への医薬品適正使用推進

 ――日本でQIが進むと、どういう影響があると思いますか。

 藤田 私はQI導入のメリットの恩恵が大きい患者は高齢者だと思っています。高齢者の医薬品適正使用の指針が日本でもすでにありますので、それを多くの薬局が遵守することによって、まさに高齢者の医薬品の適正使用が進むと思っています。

 ――先生はオランダのような、ある種、自主的な薬局での取り組みを進めていく必要があるというご意見のように受け取りましたが、一方で、QIの指標によって、報酬に差をつけることで、薬局のある種の選別になったり、淘汰になっていく可能性についてはどのようにお考えですか。

 藤田 QIはやるべきことの遵守をみるものなので、割と最低限のレベルを底上げするというイメージです。本当に患者さんの1人1人のニーズだとか、個別に特徴的な内容をサポートするというのは、QIでは担保できないので。ですので、QIの評価をやっていれば、もう他に何もやらなくていいというのではなくて、薬局がやらないといけないことがきちんとできているかどうかQIを使って確実に担保した上で、その上で患者個々のケアを提供していくというような使い方になってくると思います。
 
 きちっとやっている薬局さんが正当な評価をされるべきだと思いますし、やれていないのであればそれをQIで可視化することによって、やれるように向かっていくこともできると思います。

森氏(ユヤマ)「報酬が絡むとICT活用進むのでは」

 森(ユヤマ) 現在、ICT活用の必要性も指摘されている中で、QIにもあるようなガイドラインなどを遵守するためのタイミングや内容について、どうすればアシストできるか、というのは我々メーカーとしても課題に感じています。当社は機器が多いのですが、電子薬歴のシステム企業さんとも連携することで、全体として薬局や薬剤師さんの業務に貢献できる部分があると思っているのです。
調剤報酬と絡むと、おのずとベンダーの開発も活発になると思うので、そういう機運を行政サイドにも盛り上げられたらと思っています。

(「ドラビズ for Pharmacy」では4号にわたって詳報予定)
・ケアの質が低い薬局を特定して、改善をするためのサポートを行う国も
・ハイパフォーマンスの薬剤師個人を特定し表彰
・評価指標の設定は米国ではコンソーシアム、オランダでは公的機関
・国の薬局の質全体が向上していることも示せる
・最低限の質担保の上にオンラインサービスの選択肢もあってよい
・厚労省「高齢者の医薬品適正使用の指針」を基に130種類のQIを策定した藤田氏の研究
・ガイドラインの遵守率を向上しケアの質を高める
・優先的に取り組むべきQIの選定

■ドラビズ for Pharmacyの概要
https://www.dgs-on-line.com/boards/5

シドニー大学医学部リサーチフェローの藤田健二氏
 昭和薬科大学大学院卒業後、製薬企業に勤務し、新薬の探索研究に従事。 その後、薬局薬剤師として勤務ののち、渡豪。 2015年6月にシドニー大学大学院臨床疫学修士号を取得、2020年10月に同大学博士課程(薬学)を修了。2020年11月よりシドニー大学医学部Kolling医学研究所にてリサーチフェローとして勤務中。そのほか、2020年2月から欧州臨床薬学研究団体(Pharmaceutical Care Network Europe)ガイドラインおよびQuality Indicatorワーキンググループ グループリーダーとして活動中。

ユヤマ学術部部長の森和明氏

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