現状通りでも2043年に2万5000人が過剰
厚生労働省は今年7月、「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」を立ち上げ、薬剤師の需給調査を新たに行う方針を示している。
背景にあるのは、医療の在り方、人口構成、IT・機械化と、環境がこれまでないほど変化しているからだ。「過去の経緯から未来を推計」してきた従来の手法では、現実と乖離が大きくなることは目にみえている。
では、上記の変動要因を加味して需給を考えた場合、どのような結論が待っているのか。「薬剤師過剰時代」の到来を予想する薬局関係者は少なくないだろう。
薬剤師の需給調査については、平成30年度の調査で、すでに「今後数年間は需給が均衡するものの、将来的には供給過剰」という結論が出されている(平成30年度「薬剤師の需給動向の予測および薬剤師の専門性確保に必要な研修内容等に関する研究」分担研究者:長谷川洋一・名城大学薬学部教授)。2043年には需要総数40万人に対して、供給数の減少を織り込んだ場合でも供給数は40.8万人で、8000人が過剰。現状通りに国試合格者が供給されると仮定した場合、供給数推計は42.5万人となり、2万5000人が過剰となる計算だ。
しかも、この調査では、薬局での需要数を「薬剤師1人あたり処方箋枚数が現在と同程度で推移する」前提で推計している。IT・機械化で業務が効率化するとなると、薬剤師過剰では話は済まない。「薬剤師超過剰時代」の到来が迫っているといっても過言ではないだろう。
この危機を回避するには2つの選択肢がある。
1つは供給元を制限すること。
平成30年度調査でも、「薬科大学や薬学部の新設が今後も続き、6年制の入学定員が増加し続ける状況であれば、さらに薬剤師供給の増加要因となりうる」と、薬科大学の新設には釘を刺している。厚労省の検討会でも、平成15年以降に新設された大学とそれ以前の大学を比較すると、6年間のストレートで国試に合格した比率に乖離があるとの結果を示している。新設校では46.6%と5割を切っており、それ以外の大学の64.3%と17.7ポイントの開きがある。さらには、6年間ストレート合格の比率を大学別にみると、2割を切っている大学が1校あり、3割前後の大学も7校ある。
こうした状況は薬剤師供給過剰の観点だけでなく、社会的にも看過できない問題になっている。検討会には、読売新聞から生活部の記者が参加しているが、「率直に言って現状に驚いた」と、薬大の合格率の低さに触れている。一般紙が報道し始めると、薬学部全体のイメージ低下に波及しかねない。
平成30年度の需給推計では最大で2万5000人の薬剤師が過剰としている
新設校の方が6年間のストレート合格率が低い傾向がある
ドラッグストアは薬剤師の働く“新たなシーン”をつくれるか
2つ目の選択肢が新たな需要を拡大することだ。
いまだ需要に応えきれていないとされるのが在宅医療のニーズだ。特に「一人薬剤師」の店舗では、在宅に出かけることができないという問題点が指摘されているが、地域で連携して参入することが需要拡大につながる。
さらに、セルフメディケーションの推進。
そして、医療リソースが限られる地域では、リフィル処方箋などを認め、薬剤師の裁量を拡大させることも選択肢となる。
ただ、残念ながら、上記3つに関しては、叫ばれて久しい内容であり、供給過剰の危機を前にしたとしても、今から急展開をすることはあまり想像できない。
こうした新領域の開拓は、組織的に対応できるドラッグストア企業の方が積極的だ。ドラッグストアに勤務する薬剤師数は2018年で3万人に達している。関連する20万人の薬剤師に占める比率は15%を超えており、その比率は調剤併設店増加から今後も増えるだろう。在宅への参画も進んでおり、健康にかかわるテクノロジーを使ったサービス開拓にも意欲的だ。スギ薬局は自社アプリと店頭を結び付け、歩数など健康に寄与する取り組みの試行を始めている。アプリ上での薬剤師の働きも登場してくるかもしれない。
薬剤師の働く場としてだけでなく、“新たなシーン”を増加させる業種として注目しておきたい。
収入を得られる“種”を探す
供給問題、需要拡大においても、個人の薬剤師の力の及ばない問題のようにも思える。制度的な問題には時間もかかるであろう。個人の関心が制度の行方に影響も持つことから、関心だけは持っておくべきだが、制度変更に限界があることも事実だ。
結局、個人の薬剤師が備えるべきは個人力を強くしておくことしかない。
それから、店頭で“新たに収入を増やせる種”を常に探し、実践することだ。
保険薬局経営者連合会では、特定保健指導の薬局での実践を始めている。会員以外でもどの薬局でもホームページ上から申し込みができる。処方箋1枚の調剤に比べれば、労力がかかり、収入も低い。しかし、薬局という場が、新たに収入を得られる“種”を探し、実践していくことがいま、必要なのではないだろうか。
一人一人の実践が、地域住民における薬局や薬剤師のイメージを少しずつ変えてくれることに期待を持ちたい。