どこか、今までの勢いのある池田氏の語り口調と違っていた。
池田氏といえば、47都道府県薬の中でも女性役員比率が高いことで知られる埼玉県薬の常務理事であり、日薬の代議員でもある。
日薬代議員会では、日薬に“モノ申す”姿勢は鮮明で、特に組織の多様性、それによる組織活性化のために日薬に女性役員を増やすように求める質疑を行ってきたことは知られている。複数回、同様の要望を代議員会で展開してきた。
本紙とも縁があり、創刊直後に県薬の学術大会の講師として招いていただいた。それも、「女性編集長の視点がある」という点に着目した池田氏の推薦だったと聞く。
今回、日薬は女性役員を増員する人事を敢行し、その中で池田氏が執行部入りした。これまでの池田氏の勢いはいっそう増しているのではないか――。取材前はそう感じていた。しかし、いざ取材をしてみると池田氏の声のトーンは下がっていた。
もちろん、これまで地元・飯能地区で、地域ぐるみで取り組んできた多職種連携の会合や、手法として相手を批判しないという“ワールドカフェ”様式を取り入れるなど、自身が力を注ぎ、一定の成果を残してきた活動への手応えは揺らぐものではない。
特に、飯能地区のコロナ禍でのワクチン接種への協力では、分注数は延べ7万8047回に及んだ。円滑な実施へ向けた薬剤師の研修や行政とのやりとりなどに奔走した。いまだに地域の医療職種から感謝の言葉をもらうなど、「近年で最大のトピック」(池田氏)を経験した。
もともと「みんなで何かをするのが好き」な性格。苦労もあるが、成果や喜びを一人ではなく、仲間と分かち合いたいと考える。
今年、日薬学術大会の開催地となった埼玉だが、プログラム班の班長を買って出た。テーマや中身に関しての日薬とのすり合わせも、粘り強く何度も重ねた。「企画提案者には思いがあると思うので、何とか思いに合致した企画実現に近づけたいと思った」(池田氏)。
取材終盤で、声のトーンが落ちていることをぶつけると、「埼玉県薬では仕事のしやすい環境の中でやらせていただいていたんだと改めて感じている。日薬で、どこまでできるかどうか」と悩んでいる本音が漏れた。
何があったわけではなくとも、これまでの県薬という立場と、日薬という薬剤師の総本山での活動の違い、重責を改めて感じているのかもしれない。埼玉県薬では副会長の畑中典子氏や常務理事の宮野廣美氏など、尊敬する先輩女性役員もいた。日薬内では関係性づくりもほぼゼロからになるだろう。
1つの山を登ったら、その先にもっと巨大な山があったというところだろうか。しかし、ここまで来なければ、次の山の大きさも分からなかったはずだ。今の池田氏の悩みの先に、これまで以上に大きな課題を解決できる池田氏の姿がある気がする。得意の粘り強さと仲間作りで、次の山も登ってほしい。
【池田里江子氏 略歴】
(いけだ・りえこ)[埼玉] 60歳 ※年齢は2024年6月14日時点
昭和62年 3月 明治薬科大学薬学部卒業
平成1年 3月 明治薬科大学大学院薬学研究科修士課程修了
平成1年 4月 大鵬薬品(株)開発部入社
平成13年4月~現在 (有)ふれあい薬局開局(現 BFC株式会社)
<薬剤師会役員歴>
平成17年4月 飯能地区薬剤師会理事
平成20年 4月 埼玉県薬剤師会理事
平成27年 6月~現在 埼玉県薬剤師会常務理事
令和 3年 6月~現在 飯能地区薬剤師会副会長