関東のドラッグストア、販売記録から購入者への連絡「していない」
小林製薬の「紅麹」を使ったサプリメント摂取後の健康被害問題では、4月7日(日)時点で相談件数は5万 3000 件にのぼり、依然、増えている。回収対象となっている「紅麹コレステヘル プ」だけでも販売数量は約100万個という規模の大きさをうかがわせる。死者数の5人に増加はないものの、医療機関を受診した人は1224 人となり、入院治療を要した人 (退院した人を含む)は 212人におよぶ。
同問題をめぐっては現在、原因の究明が進められているほか、機能性表示食品の制度としての問題まで指摘されている。一方で、薬局・ドラッグストアを読者とする本紙として気になるのは、こうした問題が起こる中で、店頭はどのように貢献できているのか、という観点である。
ドラッグストアでは、会員カードなどで一定の顧客に対し販売履歴を保有しており、それを基に購入者に対し注意喚起などの連絡はできるはずだが、そのような対応はされたのだろうか。この問いに、関東のあるドラッグストアは「していない」と率直に回答する。「販売拠点として、早く・正しい情報提供は課題」とも明かす。ただ、相談時に不安を感じている顧客に対しては、受診を勧めるなどの対応のほか、小林製薬のコールセンターの案内も行ったとする。保健所への対応としては、過去3年分の全店舗別での納入数と販売個数を報告したという。
薬局・医療機関での医薬品回収では、令和2年12月の小林化工の事例が記憶に新しい。その際は12月1日の副作用報告発生後、12月4日には抗真菌剤への睡眠誘導剤混入が発覚、そのことを同日発表。当該ロットを交付された患者 344例に対し、12月9日には全患者への連絡が終了した旨の公表がされている。今回の紅麹を含む健康食品の購入者では、いまだ自身が当事者であることを知らない人も存在していることも否定できないと思うと、何らかの体制強化は必要だろう。小林化工問題では死亡例(因果関係不明)は2例であり、“紅麹問題”はその規模を超えている。
無論、医薬品回収においては薬機法で医療機関や薬局の役割も規定されてお り、健康食品の事例と単純比較することはできない。該当者数の規模も違う。そもそも“健康食品”は法的位置付けがされていない。ただ、健康維持・増進を期待して生活者がドラッグストアや薬局で健康食品を購入している以上、法的強制力はない状態においても、販売したモノの“その後”にも貢献する意味で、周知や購入者の把握に協力することはできるはずだ。
他業界では販売店の協力体制事例/家電量販店はリコール周知に購入履歴活用事例も
販売事業者への法的強制力はなくとも、製品安全に協力する体制は他業界では存在している。リコール等の製品安全における家電店の協力だ。2012年には経済産業省は流通事業者との協力体制を強化。大手家電流通事業者は製造・輸入事業者と協力の上、消費者への周知に努めることとされた。背景にはリコールの開始後、製品の所在は製品販売後に一般的には把握されていないために消費者への周知に課題があったからだ。製販の協力体制構築の議論にあたっては、「販売事業者はリコール対象製品の所有者に関する顧客情報等を保有しており、製造・輸入事業者と顧客を繋ぐ役割を果たしている」ため、「リコール情報の“途切れ”を防ぐためには、販売事業者による協力が重要となる」との指摘がされている。
具体的には大手家電量販店においては、顧客の購入履歴を活用し、DMを送付するなどしてリコール情報を告知する取り組みもあるという。
ただ、法的責任は原則はあくまで製造事業者にあるため、経産省が定める「消費生活用製品のリコールハンドブック」でも、販売事業者は「協力することが望まれる」との書き振りになっている。DM等の発送にしてもコストが生じるものであり、コスト負担については製造事業者と販売事業者の民・民取引の中での交渉となるが、結果的に製造事業者の負担が重くなることも想定される。法的根拠としては、「消費生活用製品安全法」において、販売事業者による製造事業者又は輸入事業者のリコールへの協力に関する努力義務等が規定されている。
製品安全については消費者庁に情報収集窓口が集約されたが、例えば販売店への対応などは現在も経産省の製品安全課が担っている。同課は回収状況の報告なども受けており、回収率が低い事例においては、回収率向上へ向けて販売店へのヒアリングなども実施している。
今年3月まで厚労省健康・生活衛生局の管掌だった食品基準行政は、4月から消費者庁に移管された。今後、製品安全のように、情報収集等は消費者庁に集約されるとしても、薬局や店舗販売業を管掌する厚労省医薬局の役割発揮と密な連携も必要になるのではないか。厚労省医薬局は、「薬局や店舗販売業に対して今のところ、購入者把握等で依頼はしていない」と話している。