【日本薬剤師会】政策提言(2023年9月)全容/「過大な薬価差」に言及

【日本薬剤師会】政策提言(2023年9月)全容/「過大な薬価差」に言及

【2023.09.20配信】日本薬剤師会は9月20日、定例会見を開き、改訂した政策提言の内容を説明した。9月16日の都道府県会長協議会の場で公表、説明していたが、同日の会見では会長の山本信夫氏が改めて説明したもの。


地域医薬品提供計画、「開局制限をするつもりはないが、出店を自由に任せていた」

 日本薬剤師会会長の山本信夫氏は、改訂した「政策提言」(2023年9月)について、「継続していかなければいけないので“2023”を付けずに政策提言として整理した」と説明。

 今回、「国民が安心して医療の恩恵を受けられる、超高齢社会実現のため」「国民皆が良質な薬剤師サービスを享受できる社会を目指して」と目的を付しており、「かなり大上段にかまえたテーマだが薬剤師の基本的な役割、そのための機能を有している薬局をしっかり固めていきたいということで(趣旨を)3点に絞ったと解説。趣旨としては薬剤師の基本的な使命として「地域に必要な医薬品を適切に過不足なく提供すること」とし、薬局の機能としては「薬剤師が国民のために持てる全ての知識と経験を駆使して、その使命を果たしていく上で必要な機能を有する施設」とした。そして、薬剤師・薬局が使命を果たすために「薬剤師サービスの更なる充実を目指すとともにそのために欠かすことができない、安定した医薬品のサプライチェーンや流通の確保に向けて」、基本的な考え方をとりまとめた、としている。

 骨子は次の7つ。
1、地域医薬品提供計画(仮称)の策定
2、医薬品の研究開発の促進、製造・流通・安全確保体制の整備
3、医療用一般用共用医薬品(仮称)類型の創設
4、医療DXにおける薬局業務の高度化推進
5、地域への過不足ない医薬品提供をより確かなものとするための方策
6、臨床と基礎が適切に融合された薬剤師業務実践に向けた薬学教育の改善
7、薬事衛生に関わる社会活動を通じた薬剤師の役割

 地域医薬品提供計画については、「従来通りのスタンス」(山本会長)としつつ、「これまで医薬分業ということで整理されてきていたが、数年前から地域の医薬品提供体制というふうに表現を変えた」と説明。薬剤師法や薬機法および社会が求める薬剤師・薬局活動の総称である「薬剤師サービス」を過不足なく享受できる体制の整備を目指すとしている。山本会長は「開局制限をするつもりはないが、出店を自由に任せていた。実態に合わせて地域に医薬品供給体制をつくることも考えていく必要がある」と述べた。「それと併せて多職種連携が視野に入ってくるので、多職種連携を推進するために制度をうまく使っていくんだと。さらに言えば場合によって医療法、薬機法、薬剤師法等にそういった概念も入れておいたほうがいいであろうということを記載した」と説明した。

「薬価基準制度や適正な医薬品流通についても検討する時期にきている」

 2番目には「医薬品の研究開発の促進、製造・流通・安全確保体制の整備」を掲げた。
 供給不安の現状も踏まえ、「我が国では医薬品を戦略的に捉えることが足りていなかったのではないか、という我々の見方にはなるが、(医薬品産業は)知的産業であるので資源のないわが国で創薬のサポートもしてほしい」(山本会長)。提言では世界に先駆けた承認・製造・流通、医療の安全保障の確保を図ることを掲げている。

 薬価の下落については、「日本の仕組みとして、ある面ではやむを得ない面もあるが、度重なる改定が行われる、この6年は毎年改定されていることで改定のたびに値段が下がっていく、(医薬品の)価値が下がっていく。そうすると日本の市場としての魅力がなくなるのではないか、そんな危機感もある。医薬品の安定供給を損なわない程度にしてほしい。薬価基準制度をどう維持するかというのは大きな課題。過大な薬価差や偏在は結果として支障をきたす。薬価基準制度や適正な医薬品流通についても検討する時期にきている」(山本会長)とした。

共用薬、「大きな概念の医療の中でどうしたら一般用医薬品が使いやすくなるか」

 3番目に挙げた「医療用一般用共用医薬品(仮称)類型の創設」については、「概念としては(医師・薬剤師)どちらも使える。一般用医薬品を医療の中でも使いやすくする。医療とは保険とそれ以外に分かれているが、大きな概念の医療の中でどうしたら使いやすくなるか。今は薬剤師しか使えない薬、医師しか使えない薬となっているが、仕組みとしては正しいと思うが、その一方で、処方箋の交付は薬局においても調剤し、薬剤師による販売も可能とする。零売とは少し違った形にしてみたい。現在、医薬品販売制度の検討会が進んでいるので、その議論も踏まえ、中長期的な視野・視点も含めて検討を行っていきたい。医薬品の使い方について整理がいるだろうと思っている」と述べた。

調剤録の標準化を

 4番目の「医療DXにおける薬局業務の高度化推進」については、「患者のためにならなければいけない」(山本会長)とし、マイナ保険証使用によってマイナポータルを活用して自身の情報を利活用することを社会に定着させる必要があるとしている。
 電子カルテの標準化の議論も進んでいる中、「薬局の方では調剤録の標準化はなかなか進んでいない。医科と、薬剤師の知見に基づく調剤との情報共有ができなければいけない」とした。加えて、電子版お薬手帳については、国民と薬剤師との連携ツールであるとともに、医療機関や在宅医療の現場でも有効活用されるものとして位置付ける必要があるとした。

 なお、デジタルメディスンについては、薬局薬剤師による提供が可能となるよう、薬機法における位置付けや医療保険上のルールを検討する、とした。

敷地内薬局、薬事の面からも適正な措置を

 5番目の「地域への過不足ない医薬品提供をより確かなものとするための方策」については、「我々のこれまでの大きな目標は医薬分業、あるいは医薬分業の制度を定着させるということだった。医と薬が単純に分かれればいいと、制度的な定着がなかなか進まなかった。阻害になるのではないかと思われることについてはしっかりと検討する必要がある」として敷地内薬局について問題視。「政策提言としては小ぶりな話になるかもしれないが、昨今、問題にもなっている敷地内薬局については、医薬分業の本旨に反するだろうと。こうした薬局の発生する事象について、立ち位置をはっきりさせると同時に、薬事の面からも適正な措置を講じる時期にきているのではないか」と述べた。

卒後臨床研修の制度化

 6番目に挙げた「臨床と基礎が適切に融合された薬剤師業務実践に向けた薬学教育の改善」については、山本会長は、「6年制卒の薬剤師が最初に卒業して十数年経過したが、どうだったか。現場側から見た養成された薬剤師に対してどんな希望が持てるのか。あるいは薬学教育に願うという意味で記載した」と説明。「薬剤師の資格を持った上で臨床現場でどう応用するかについては医師のように(卒後は)義務化されていないこともある。いずれ卒後臨床研修も必要になるのではないか。それは国試のための延長型の教育の是正にもつながるのではないか」(山本会長)と述べた。

学校薬剤師の報酬均衡化、「子育て支援策の一環」

 7番目に掲げた「薬事衛生に関わる社会活動を通じた薬剤師の役割」は、薬剤師法第1条に規定のある「医薬品供給」「調剤」「薬事衛生」の3本柱のうちの「薬事衛生」を記述したもの。
 社会活動とした中で、「学校薬剤師」「医薬品の適正使用」「アンチドーピング」「災害時の支援活動」などを挙げている。「学校薬剤師については全ての学校に配置されているわけではない。それに対する対価、報酬も一定ではない。しっかり学校薬剤師が働けるような配置をしていく。」(山本会長)。提言では「子育て支援策の一環にもなること」「保健衛生の観点から保育環境の確保を図る」ともしている。

過大な薬価差、医薬品の価値を下げ開発意欲損なう点に問題

 なお、「過大な薬価差」の文言が記載されたことについて、記者から「コンサルやボランタリーチェーンによる過大な薬価差を日薬としても問題視しているという認識でよいか」との質問が出ると、山本会長は「そうではなく」と前置きし、「ここで言いたいのはコンサルがどうのではなく、薬価差は一定程度存在し、日薬としてそれはいらないのではなく求めないと言っていて、どの程度が適正か(ということ)。過剰であると何が起こるか。安くなるなら(医薬品の)価値自身がだめな薬と思われる。偏在については薬価差だけでなくものの偏在もある。診療報酬と薬の値段のあり方の関係そのものに大きな影響を及ぼしかねないので問題意識を持っている。価値を下げ、新しい開発されないのであれば国民が不幸である。現行の薬価制度の是非論を論じるつもりはないが、そういったことを考えた上で、適正な流通というのはどうあるべきか、考える時期にきているのではないか」と述べた。

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