【薬局における法令遵守体制の手引き】日薬版で調剤録に注意喚起、改正薬機法で新たに調剤録に記載・保管管理する項目も

【薬局における法令遵守体制の手引き】日薬版で調剤録に注意喚起、改正薬機法で新たに調剤録に記載・保管管理する項目も

【2021.07.26配信】日本薬剤師会はこのほど、「薬局における法令遵守体制整備の手引き」を策定した。改正薬機法で薬局での法令遵守体制の整備が定められたことを受けたもの。


「自分の薬局は法令違反を起こさないから関係ない、ではない」

 日本薬剤師会が策定した「薬局における法令遵守体制整備の手引き」では、「1.はじめに」の項で、改正薬機法で8月1日から法令遵守の規定に関して施行されることに触れ、この手引きは薬局の法令遵守に係る日本薬剤師会の考え方について留意してほしい点をまとめたものとした。
 この手引きを参考にしつつ、関連法規や施行規則、通知、厚労省ガイドラインやQ&Aを確認し、法令遵守に関する整備を求めている。

 「2.概略」の項では、「法」の範囲に関して、薬機法に限定されない「薬事に関する法令」であると説明。具体的には薬機法、麻向法、毒劇法、薬機法施行令第1条 の3に規定している法令をいい、薬機法、薬剤師法、麻向法、毒劇法、 大麻取締法、覚醒剤取締法、化審法、臨床研究法などとしている。

 「3.基本的な考え方」では、「自分の薬局では法令違反を起こさないから関係ない、ではありません」とした上で、「法令違反のリスクはどこの薬局にも存在します。他人事ではなく自分事とし てとらえることが必要です」として、経営者が先陣を切って法令遵守が全ての業務の基盤にあることを分かりやすく継続的に伝えていくことが重要だとした。
 

 「4.教育訓練」の項では、調剤録の未記載や改ざんなど、具体的な違反類型を想定して教育訓練や社内規定の作成を行うべきとした。
 例えば、調剤録(薬歴)への記載に関しては、服薬指導の要点等、以前は調剤録への記載が求められていなかった事項も、改正薬機法で調剤録に記載し保管管理することが求められるようになったとして注意を促している。

 「5.具体的事項」では、「薬局開設者法令遵守10カ条+3ヶ条(全13ヶ条)」を以下の通り挙げた。

①役員の中から薬事に関する法令遵守の責任者(責任役員)を明確化し(法人代表者は必ず責任役員となる)、責任役員の権限・分掌をはっきりさせること。
②役員・職員が遵守すべき社内規程の策定と役員・職員に対して法令遵守を最優先に経営・業務を行うという指針(メッセージ、規範など)を発出すること。
③役員・職員が法令を遵守して業務を行っているかどうかの監督を行うととも に、役員・職員の業務を監督するために社内で必要な情報を集め、その情報を活用して適正な薬局業務を行うこと。
④薬事に関する法令遵守を行うために、必要な役員・職員数を確保し、社内配 置を行うこと。
⑤法令遵守を行うための役員・職員に対する教育訓練の実施と法令遵守を理解し、適切に実施している者への動機づけとして必要な評価を行うこと。
⑥役員・職員に対して業務記録の作成とその管理、保存を行わせること。
⑦必要な能力及び経験を有する管理薬剤師の選任と、管理薬剤師が必要な業務 を適正に行えるようにするために管理薬剤師が有する権限を社内で周知すること。
⑧管理薬剤師からの意見は尊重しなければならないこと、また、その意見に基づいて必要な措置を講じなければならないこと。措置内容は記録し、適切に保管すること。
⑨医薬品の保管、販売、その他医薬品の管理に関する業務が適切に行われるようにすること。
⑩薬事に関する法令の義務を果たすとともに、薬局で法令遵守が実効的に行わ れるよう1~9以外のことも含めて、必要な措置を講じること。
< 複数の薬局の開設者となっている場合は、以下のことも行うことが求められている>
11複数の薬局を開設しているときは、全ての薬局において法令遵守体制が確保 されていることを確認する必要があること。
12 複数の薬局を開設していて、薬局開設者を補佐する者(エリアマネージャー など)を置くときは、補佐する者が行う業務を明らかにすること。
13 複数の薬局を開設していて、薬局開設者を補佐する者(エリアマネージャー など)を置くときは、補佐する者が管理薬剤師から必要な情報を収集し、収集した場合、当該情報を薬局開設者に速やかに報告させること、また、当該 薬局開設者からの指示を受けて、薬局の管理者に対して当該指示を伝達すること。

管理薬剤師と別の従業者に「店長」などの肩書き、「つけるべきではない」

 「6.管理者が有する権限の明確化(管理薬剤師に求められる具体的事項)では、管理薬剤師の権限の範囲を明確にし、その内容を社内において周知することが必要としている。

 「7.法令遵守規定を守るための留意点」の項では、薬局で法令違反があった場合で薬局開設者が法人の場合は、責任役員が法令違反に対する責任を負うこととされているとした上で、特にこれまで薬局等の法令遵守に係る問題として指摘されてきた、以下のケースなどにおいて、薬局開設者は薬機法法令遵守規定違反が問われることが明確にされているとした。
・ 開設法人の代表者や役員が法令に反する事項を薬剤師に指示するケース
・ 開設法人の代表者や役員が、自身が関与・認知していないと言い逃れを行う
など責任を取らないケース
・ エリアマネージャー等が管理薬剤師等に法令に反する事項を指示するケース

 薬局開設者を補佐する者(エリアマネージャーなど)に関しては、「薬局開設者と管理薬剤師の橋渡し役でしかない」とし、「薬機法上権限のない薬局開設者を補佐する者が、自らの判断で、薬機法上権限 のある管理薬剤師に指示することは、管理薬剤師が薬機法上の権限を適切に行えなくなる懸念があります。そのため、このようなことがないように、薬局開設者は、管理薬剤師の権限をエリアマネージャーに周知し、社内規程に盛り込むなど法令遵守規定が適切に履行されるようにする必要があります」とする。
 薬機法上の責任は、あくまで、薬局開設者と管理薬剤師にあることをよく認識する必要があるとした。

 当該法人において、薬局開設者を補佐する者(エリアマネージャーなど) が、管理薬剤師より法人内の上席の役職・立場にある場合でも、それは変わらないため、「管理薬剤師とは別の他の従業者に『店長』『薬局長』『支店長』といった名称・肩書を付した者を配置していることがありますが、薬機法上の薬局の管理者は、 管理薬剤師であることに留意し、業務管理の指揮命令系統を明確にしておく必要があります。日本薬剤師会としては、このような名称・役職は、他の従業者や患者・薬局の利用者等に誤解を与える可能性が高いことから、管理薬剤師以外の者にこのような名称・役職をつけるべきではないと考えています」とした。

 企業合併や企業買収においては、企業文化の違いや管理体制の仕組みの違いの他、従業者同士がお互いを知らない事によるコミュニケーション不足などにより、組織だった法令遵守の仕組み作りに苦労することが考えられますので、特に法令遵守の体制作りを丁寧に行うことが重要とする。

 管理薬剤師に「必要な能力及び経験」に関しては、「厚労省法令遵守ガイドラインでは、必要な能力及び経験とは、薬剤師認定制度 認証機構に基づく認定薬剤師であって、薬局における実務経験が少なくとも5 年はあることが重要であるとされていますので、十分留意してください」とした。
 日本薬剤師会としては、「5年は当然のとと考える」とするとともに、「必要な能力及び経験を有する薬剤師を確保できないのであれば、薬局を新規に開設するべきではないと考えています」とした。
 
 「要指導医薬品・第一類医薬品の販売、説明」については、登録販売者がいる薬局において、要指導医薬品・第一類医薬品の販売やその医薬品の説明については、薬剤師に行わせることを店舗内で徹底するために、 薬局開設者が必要な措置を講じる必要があるとした。

 高度管理医療機器販売業・貸与業等の許可も併せて取得している薬局については、 厚労省の「医療機器の販売・貸与業者及び修理業者の法令遵守に関するガイドライ ン」(令和3年6月1日付 薬生発 0601 第1号厚生労働省医薬・生活衛生局長 通知)も参照するよう求めた。

 「終わりに」の項では、これまで不祥事が起こってきたことを未然に防止するための方策などの点
を中心に解説したとした上で、「薬局の法的位置付けに鑑みると、薬局は社会インフラであると日本薬剤師会は考えています。社会インフラである以上、法令遵守は薬局業務を行う基盤となりますので、薬剤師・薬局の皆様におかれては、是非今回の法令遵守規定に ついて、熟読して自分の薬局において必要な対応を行っていただきたいと思います。それが社会に対する薬局の責任であり、信頼を勝ち取る基盤です」とした。 

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