馳知事も参加/活動を検証し、何が有効に働いたのか、何が足りなかったのか、考える
2025年2月22日〜24日に、「第64回北陸信越薬剤師大会・第57回北陸信越薬剤師学術大会」(主催:北陸信越薬剤師会・公益社団法人石川県薬剤師会)が開かれる。通常の学術大会ではなく、能登半島地震をテーマに据えた大会とする予定だ。
この大会の概要を説明するハイブリッド会見を、主催者の1つである石川県薬剤師会がメディア向けに行った。学術大会の事前告知会見を薬剤師会が行うことは珍しい。その背景を石川県薬剤師会会長の中森慶滋氏は、感謝の気持ちを後世に伝えたい思いからだと語った。「支援に入ってくださった方々への対応が我々(石川県薬剤師会)が十分できなかったなというところもあって、本当に申し訳ない。ただ一つ、素晴らしかったのは皆、一つの方向を向いて復興について必死になって頑張っていただいたということ。その姿は本当に美しいものだった。その感謝の気持ちをどのようにして後世に残していけばいいのか。それが僕の強い思いの中の一つだ」(中森氏)。
大会の内容は、多角的な視点から能登半島地震を総括するものとなっている。「Zoom World Session:世界の薬剤師と能登半島地震から考える」では実に11人の薬剤師がコアキャストとして登場し、世界の薬剤師事情も交えて能登半島地震の対応を検証する。
また、「シンポジウム①:能登半島地震が我々に残したもの」では、主に薬剤師の活動を振り返り、薬剤師共有の情報共有を目指す。 ここでは石川県知事の馳浩氏も登場予定。日本薬剤師会会長の岩月進氏も演者となり、対応を検証する。事故で両足を失ったモデルの葦原海氏も登場し、突然、失うことについても考える。
さらに、「シンポジウム②:いきるということ・・・能登半島地震を経験して」では、DMATやDPATとして活動した医療者らとともに、「災害の超急性期に人はどのように考えるのか」「人に寄り添うということはどういうことか」をテーマに議論を行う。「シンポジウム③:生成AIが変える新世紀薬剤師の未来」も実施する。
会見ではまず、石川県薬剤師会会長の中森慶滋氏が概要を説明。本来は通常の学術大会を想定していたが、今回は能登半島地震を中心とした学術大会のプログラムを編成し直すことになったと説明した。
中森氏は次のように語った。
「石川県薬剤師会は、日本薬剤師のご協力を得まして(地震への対応)活動を行ってまいりました。全国より多くの薬剤師に現地に来ていただき活動を行っていただきました。またモバイルファーマシーも駆けつけていただきました。それらの活動を検証し、何が有効に働いたのか、何が足りなかったのか、この地震は我々薬剤師にどのような意味をもたらしたのか。それらを学術大会で考えたいと思います。また多くの人が不幸にして亡くなった、死について。突然の不幸とはいったい何を意味するのかについて考えるとともに、そもそも生きるということはどういうことかということについても深く考えてみたいと思います。また生成AIによって今、世の中が激変しようとしています。AIがAIを開発するというシンギュラリティの動きも現実化しています。そんな中、生成AIは我々薬剤師にとって何を意味するのかを考えたいと思っております。また世界の薬剤師をZOOMで繋ぎ、災害について、日本の薬剤師や薬剤師業務について、世界の各国事情事情を比較して討論したいと思っております。最後に石川県薬剤師会は今回、能登半島地震を経験しました。突然、現実が失われてしまうということがあるということを理解しました。石川県薬剤師会の事務局で途方に暮れていた時、多くの方々から復興にご協力いただく申し出を頂きました。日本薬剤師会をはじめと致しまして、日本保険薬局協会、日本チェーンドラッグストア協会、日本病院薬剤師会、非会員薬局も多く参加していただきました。それは実にとても美しい光景でありました。薬剤師は素晴らしい人達で構成されているんだということを改めて私は知りました。そして僕は薬剤師としての誇りを感じました。このことを皆さんにお伝えするために大会を開催したいなというふうに思っております。テーマはThink QUALITY。つまりさまざまな、いろんな領域における質について深く考えたいと思います」(中森氏)。
鎮魂の意味を込め献花式も開催
続いて、石川県薬剤師会副会長の柏原宏暢氏は「開会式」について説明した。
開会式は鎮魂の意味を込めてバッハ伴奏チェロ組曲第一番プレリードで始められるという。
演奏は石川県薬事振興会、また石川県医薬品工業会の会長を務める黒崎隆博氏(辰巳化学社長)が担当する。薬業関係団体の中でチェロを長く演奏してきたことから、県薬で依頼したところ引き受けてくれたという。
演奏後には献花式を予定。北陸信越薬剤師会の各会長、加えて日本薬剤師会の会長、また来賓が参加し、献花を行う予定。
発災の際は福井県や富山県の薬剤師関係者は真っ先に駆けつけてくれたという。隣県ということもあり穴水被災地に早期に入ってくれたという。穴水の支援の次には1.5次避難所の支援にも入ってくれたことも紹介された。長野県、新潟県の薬剤師会関係者は七尾港に停泊した防衛省のチャーター船で避難者の支援をしてくれたという。なお追悼式典については石川県でも地震発生から1年という節目に実施の計画があるという。
「能登半島地震のために1月から3月の間に4701人の薬剤師が支援に入った。今回の大会開催が2月ということもあり、我々薬剤師全体がですね能登半島地震で亡くなった方に鎮魂という意味を込めて粛々たる開会式にしたいと考えております」(柏原副会長)。
「特別講演:Positiveに生きる 能登半島地震で私が考えたこと」では葦原海氏が講演
次に石川県薬剤師会副会長の橋本昌子氏は、「特別講演:Positiveに生きる 能登半島地震で私が考えたこと」 について説明した。モデルとして活躍する葦原海(あしはら・みゅう)氏が講演する。
橋本副会長は、葦原氏について、16歳のときに事故に遭って両足を失い、その後、車椅子ユーザーになられたと紹介。車いすで生活しながらもモデルやインフルエンサーとして活躍している。東京2020閉会式やミラノのファッションショーにも出演し、注目されている存在だ。橋本会長は葦原氏について、「中森会長と一緒に東京でお会いした。本当に前向きで自分のことではなくて、車椅子ユーザーのほかの皆さんの幸せということも考えながら夢や目標に向かっていらっしゃる方。本当に素晴らしい方です」と紹介。「人生の困難にあった時に前向きに生きるためのヒントになればというふうに思います」と期待を語った。
会見では葦原氏本人も登場し挨拶。「私は16歳、高校1年生の時に事故で両足を失って、そこから車椅子で生活しています。金沢には2、3回行ったことがあるんですけれど、仕事で行くのは初めてなので、みなさんといっしょにお話できるのを楽しみにしています。先ほどあったように地震があって大会も当初とちょっと違う形になったと思うんですけれど、皆さんといい時間を過ごせるように私も自分の体験談とか経験談から色々お話できたらなと思います。よろしくお願いします」と話した。葦原氏は特別講演のほか、シンポジウムにも参加する予定。なお、葦原氏は「みゅう 足は姫にあげた」とのタイトルで各種SNSでも活発に情報発信している。前向きな発信は若い層からも支持が厚い。
「Zoom World Session :世界の薬剤師と能登半島地震から考える」/世界から10名以上が参加
続いて、石川県薬剤師会副会長の綿谷敏彦氏が「Zoom World Session :世界の薬剤師と能登半島地震から考える」について説明。
同セッションは2月20日土曜日の夕方5時半から9時まで、途中30分休憩を挟んで実施される。アメリカ、イギリス、ドイツ、カナダ、インド、韓国、ガーナ、タンザニア、そしてエストニアで現在働いている人や過去に現地で活動された人、手伝いをしている人など、12名にコアキャストとして出演してもらう。
各国の状況説明のあと、日本との違いをあぶりだしつつ、これからの日本における薬剤師の在り方を考え、世界の薬剤師と能登半島地震から考えるというテーマで2つのセッション行う。
1つ目が各国の災害事情。座長は江川孝氏(公益社団法人日本薬剤師会 災害委員/福岡大学薬学部 教授)が務める。
2つ目は世界から日本の薬剤師を考える、デジタルトランスフォーメーション、ITを含める。座長は菅 幸生氏(金沢大学医薬保健研究域薬学系 教授)が務める。これまで打ち合わせを進めてきた綿谷副会長は、「私にとっては本当に興味、関心があることばかり。果たして90分間でこのコアキャストの先生方お話をまとめられるかという不安もある。しかし、当日までにMCの先生方とも打ち合わせを重ねて充実したworldセッションにしていきたいと思っていますので皆様方ご期待ください」と話した。
なお、コアキャストは以下の通り(敬称略)。
・藤本 麻里 (アメリカ合衆国 University of Maryland School of Pharmacy(メリーランド大学薬学部)・Doctor of Pharmacy Class of 2028 / Student Pharmacist/MedStar Good Samaritan Hospital, (メッドスター、グッドサマリタン病院)・Pharmacy Technician (薬局テクニシャン) (PharmD プログラム1年生/学生薬剤師))
・後町 陽子 (ガーナ共和国ほか ベンチャーキャピタリスト・薬剤師)
・Mehwish Mozam (インド共和国)
・新地 恵里香 (カナダ Shoppers Drug Mart 薬局長)
・熊谷 宏人 (エストニア共和国 Next innovation OÜ 代表取締役)
・江面 美緒 (アメリカ合衆国 NPO法人 Team WADA/Sylvester Comprehensive Cancer Center University of Miami Hospital and Clinics)
・平田 寿美子 (大韓民国 カトリック大学ソウル聖母病院・循環器専門薬剤師)
・アッセンハイマー 慶子 (ドイツ連邦共和国 セントラル薬局)
・荒川 直子 (イングランド ノッティンガム大学)
・國分 麻衣子 (イングランド 英国国営医療サービス(NHS)エプソム&セントヘリア大学病院/プリンシパル薬剤師)
・ハワード めぐみ (アメリカ合衆国 Oregon Health & Sciences University PharmD, BCPS(Acute Surgery) Clinical Pharmacist(臨床薬剤師))
シンポジウム①「能登半島地震が我々に残したもの」/アルピニストの野口健氏も登場
シンポジウムは3つ開催する。
①「能登半島地震が我々に残したもの」、②「いきるということ・・・ 能登半島地震を経験して」、③ 「生成AIが変える新世紀薬剤師の未来」だ。ボランティアとして入られていたアルピニストの野口健氏も登場する。
①「能登半島地震が我々に残したもの」については、石川県薬剤師会会長の中森慶滋氏が説明。次のように述べた。
「能登半島地震が発生しまして復興にさまざまな活動が行われました。石川県自治体、医師会、薬剤師会、ボランティア、さまざまな人たちが一つの方向を見てとにかく復興するんだという思いの中、活動が行われました。このセッションでは演者として石川県から馳知事様とボランティアとして入られていたアルピニストの野口健氏を招きます。元石川県医師会会長の小森貴先生という立派な先生がいらっしゃいますけれども、先生は東北の地震の時も活動されました。能登地震の時のモバイルファーマシーの存在は大きかったということを医師としてアピールしたい、医療の継続がとてもスムーズに図られたとそうおっしゃっておりました。また芦原海さんにも入っていただきましてさまざまの中でコメントしていただければというふうに思っております。また日本薬剤師会からは岩月会長、災害委員会担当の山田常務理事、災害委員の江川先生にも入っていただきます。石川県薬剤師会からは乙田常務理事、伊藤常務理事に入っていただきます。また能登出身の金沢大学附属病院薬剤部の板井進悟先生。板井先生は実際に正月に被災されました。その時に先生が薬剤師として医療はどのような流れで震災発生時から動いたのかというのを実際に見られた、そういう経験者でありますので、先生にも入ってもらいたいと思っております。何を話すのかというと、まだ確定ではありませんが、少しピックアップしますと、当時の災害の現状、医療現場の現状、さらにはさまざまに入っていただいたボランティアというのはどういう意味をもったのか、突然の不幸の意味するところ、生きるとは、突然の不幸で死ぬということは何を意味するのか、災害現場での善意の意味するところ、薬剤師が人として災害現場で向き合うこと、災害現場での薬剤師の意味・存在とは、モバイルファーマシーについて、また当時の薬剤師の命令系統は十分だったのか、これは実際に日本薬剤師会の方にいろいろお聞きして検証したいなというふうに思っております。情報の共有がなされたのか、宿泊の確保、滞在の生活環境、災害処方箋、オンライン資格の有効性、何が足りなかったのか、何が有効だったのか、今後起こるであろう災害時にそれに1つの情報、申し送ることとして取りまとめていきたいなというふうに思っております。トラブルであるとか、いろんなことを検証して能登地震をさまざまな角度の人達から総括し検証してみたいなというふうに思っております」(中森氏)。
シンポジウム②「いきるということ・・・ 能登半島地震を経験して」/災害の超急性期に人はどのようなことを考えるのか
②「いきるということ・・・ 能登半島地震を経験して」については、金沢大学病院薬剤部副部長の坪内清貴氏が説明。次のように話した。
「今回の地震では薬剤師は薬剤の供給ですとか被災者の飲んでいる薬の把握、そういった薬剤を扱う業務に主に携わっていた。けれどもその一方で、被災された方と接する場面も非常に多くありました。そういった場面ではそれぞれの方がその時の100%の行動をもちろん目指して動いたかなと思うんですけれども、ただそれがはっきりしない中でそれぞれ考え得るベストな対応ということをイメージして動かれたかと思う。今、薬剤師の仕事というのは徐々にその薬を扱う業務っていうところから対人業務にシフトを少しずつしている中で薬剤師は医療人として、あるいは人としてどのようにあるべきなのだろうかということをこのシンポジウムで考えていきたいと思っております。このシンポジウムに参加いただく先生方ですが、今回震災の直後から現地に入った災害派遣医療チームDMATの医師ですとか、同じく精神科のDMATチームであるDPATの精神科の医師、あるいは普段から生と死を見つめる緩和ケアに携わっておられる緩和ケア科の医師、グリーフケアと呼ばれる死別の悲しみなどを抱える遺族のサポートなどを行っておられる宗教学者の東北大の先生ですとか、そういった方に加えて東北の大震災で被災者になられる中で支援者にもなられた保険薬局の薬剤師の先生、さらに今回の震災で被災された中で支援に入られておられた珠洲市総合病院の薬剤部長の先生、そういった医療者に参加いただいて災害の超急性期に人はどのようなことを考えるのかということと、人に寄り添うということはどういったことかということをテーマに議論を行っていきたいというふうに考えております。このテーマ自体が明確な正解がないテーマですけれどもそういった中でそれぞれが経験した場面でどのように考えて、どんなふうに動いたかということをこのトークセッションの中でそれぞれご紹介いただいて、ざっくばらんに話す中で今後、薬剤師はどのような心持ちでそういった被災者の患者さんと向き合うかということを考える、そういった時間になればいいなというふうに思っております」(坪内氏)。
③ 「生成AIが変える新世紀薬剤師の未来」については東京理科大学嘱託教授の上村直樹氏が説明。次のように述べた。
「今、薬局の業界の中でも生成AIが薬剤師の仕事を奪ってしまうんじゃないかとかですね、いろんな危機感を感じている方も大勢いらっしゃいます。そこで厚生労働省薬事情報専門官の高橋悠一氏やエスト株式会社代表取締役の高尾圭一氏、 他にも調剤機器のメーカーの方、ジャーナリストの方も入れて、4人でいろいろ議論していきたいというふうに思います。生成AIが薬剤師にとってどう役に立つのかというのは、役に立たせるようにしていかなければダメだというふうに我々考えていますので、そのあたりを皆さんで議論したいというふうに思っております」(上村氏)。
詳細、参加申し込みは下記、石川県薬剤師会ホームページまで。
https://www.ishikawakenyaku.com/taikai/index.html