日本病院薬剤師会(武田泰生会長)は、「医療機関における新人薬剤師の研修プログラムの基本的考え方」を作成し、公表した。
医療機関の薬剤師が、医療現場における各種業務を習得し実践的な能力を獲得・維持していくためには、業務に関わる幅広い内容について、一定期間研修を実施することが有用との考えを示した上で、特に、6年間の薬学教育を修了して薬剤師資格を取得した直後の薬剤師が、医療機関での勤務を始めるに当たっては、新人の薬剤師に対する研修は重要なポイントと指摘。
公表した「考え方」文書については、主に新人の薬剤師に対する研修を各医療機関が検討するに当たっての基本的な考え方を示すものであるとし、同文書を参考に各医療機関の機能や業務の実態などに応じた、魅力ある教育研修プログラムを検討・実施してもらうことを促している。
研修受講者の待遇では勤務者と同等求める
文書では、各施設において以下の要素を基本として、各施設の特性に応じたプログラムを形成することが望まれるとしている。
○施設における研修に対する考え方・姿勢
・ 研修に係る目的・理念や基本方針が確立されていること
・ 上記の目的・理念、基本方針及び自施設の機能等を踏まえて、研修を実施する施設として果たす役割が明確にされていること
○施設における研修の実施体制
・ 研修に係るプログラムの策定、研修の実施等の医療機関における一連の業務を統括管理する、施設職員から構成される研修管理委員会を医療機関内に設置し、定期的に開催されていること
・ 研修管理委員会の権能及び規定が明確に示されており、その責任者が置かれていること
・ 研修を実施する上で必要な指導者が確保されていること
○研修の実施環境
・ 研修のカリキュラムが適切に策定・実施されていること(詳細は次節)
・ 患者情報の管理が適切にされていること
・ 医療に係る安全管理の体制が確保されていること
・ 研修受講生が調査研究等を行うための環境が整備されていること
○研修受講生の採用及び待遇
・ 研修の対象となる者が公募等により公正に採用されていること
・ 公募等の際には研修プログラムが公開されており、その内容が確認できること
・ 研修受講生の待遇は医療機関における常勤又は非常勤の薬剤師の待遇と同等であること
○研修受講生の指導及び評価
・ 研修の内容ごとに指導の体制と指導者が明確に定められていること
・ 指導者となるための要件が明確に定められており、実際の指導内容について評価が実施され、必要に応じてその結果が活用されていること
・ 研修受講生が実施する調剤、薬剤管理指導等についての指導及び評価の体制が具体的に定められていること
・ 研修受講生の評価の方法が確立されており、評価に応じた指導が適切に行われていること
・ 研修受講生に関する研修の実施の記録が適切に管理されていること
・ 研修を修了するための判定基準が明確であり、その手続きが適正に定められていること
○医療機関における最新の業務実態に応じて、上記のプログラム内容について定期的に見直しが行われていること
・ 定期的にプログラムの内容、実施状況等に関して自己評価を行い、その結果を研修委員会で検討し、必要に応じた改善を行っていること
・ 可能であれば、研修プログラムを実践している他施設から研修内容や実施状況等に関して評価を行うピアレビューを受けることが望ましいこと
医療機関向けだが、「地域の薬局の協力のもと薬局業務研修も併せて行うことが望ましい」
具体的な研修カリキュラムの構成については、以下に示す項目を基本として、各施設の特性に応じたカリキュラムを策定するとした。医療機関に勤務する場合であっても、外来における診療のほか、入退院時において地域の薬局との連携も必要となることから、薬局に勤務する薬剤師の業務に関しても習得しておくことが必要であり、山田班調査研究においてとりまとめられている研修プログラムにおいては薬局における研修内容も含まれているが、同文書は、医療機関の業務に係る研修プログラムとしてまとめている。山田班調査研究で示されている薬局での研修項目を参考まで例示しておくので、必要に応じて参照し、地域の薬局の協力のもとで、薬局業務に係る研修も併せて行うことが望ましい。
○医療機関に勤務する上で基礎となるもの
・ プロフェッショナリズム
・ 医療倫理
・ コミュニケーション
・ 患者接遇、マナー
・ 個人情報保護
・ 医療安全
・ 感染対策
・ 防災・災害対策
○調剤業務(主に内用剤及び外用剤)
・ 処方内容の確認・分析(電子カルテの利用による薬剤服用歴の確認も含む。)
・ 処方監査及び疑義照会
・ 計数調剤
・ 計量調剤(散剤、水剤、軟膏剤等)
・ 麻薬、向精神薬等の調剤及び管理
・ 院内製剤
・ 医薬品の管理
○注射剤調製業務(無菌製剤を含む。)
・ 注射剤の調剤、払出し及び管理
・ 中心静脈栄養用輸液の調製
・ 抗悪性腫瘍薬の注射剤の調製
・ レジメン管理
○病棟薬剤業務
・ 患者情報及び持参薬の確認及び評価(薬局との連携も含む。)
・ 上記に基づく処方提案
・ 適正な薬物治療に関する薬剤調整(ポリファーマシー対策を含む)業務
・ ハイリスク薬を含む薬物治療に係る患者への説明及び指導
・ 副作用の重篤化回避、未然回避、薬物治療効果の向上のプレアボイド
・ 薬物血中濃度モニタリングに基づく投与設計及び管理
・ 退院、転院時の服薬の説明および指導
・ 地域連携業務(施設間情報連携を含む)
○チーム医療
・ 外来化学療法室での業務(外来がん化学療法を含む。)
・ 緩和医療チームとしての業務
・ 周術期における薬剤管理業務(手術室におけるものも含む。)
・ 感染対策、NST 等の業務
・ 他職種等からの相談応需業務
○医薬品情報管理業務
・ 医薬品情報の収集、薬学的評価及び活用
・ 患者や他職種からの照会対応
○治験・臨床研究業務
・ 治験薬管理業務
・ 円滑な業務実施のための治験責任医師、CRC 等との連携
(参考)薬局業務に係る研修の項目の例
○調剤業務
○服薬指導
○訪問薬剤管理指導業務
○医療機関、介護保険施設等との連携
○一般用医薬品の説明及び販売
○来局者からの相談対応(セルフケア・セルフメディケーションに係る内容を含む)