【日本薬剤師会・山本信夫会長講演】「患者さん」から「その患者さん」へ

【日本薬剤師会・山本信夫会長講演】「患者さん」から「その患者さん」へ

【2023.04.24配信】4月22日、公益社団法人日本薬剤師会の山本信夫会長が、第31回日本医学会総会の中で「超高齢社会における薬局薬剤師の役割~地域医療計画と地域医薬品提供計画(仮称)を踏まえて」と題して講演を行った。山本氏は冒頭、「特にこの10年ほど、比較的医療の中で薬剤師にスポットライトあるようになってきたにも関わらずなかなかに薬剤師の姿が見えてこない。超高齢社会のスタートといわれる2025年を迎えるにあたって、薬剤師が果たす役割について2021年に日本薬剤師会が初めて公表した政策提言の内容も踏まえてお話をさせていただきたい」と述べた。(フリージャーナリスト・継田治生氏) 以下、山本会長の講演要旨。


 昭和49年に始まった医薬分業は、そもそも「地域の中に医薬品をどのように提供していくか」という大きな概念の中の一つの手段として行われたもので、処方箋調剤やOTC医薬品の販売という薬剤師の職務は変わっていない。

 しかし一方で、20年前に提唱された「地域包括ケアシステム」では、超高齢社会の中でどのような形で地域の医療を解決していくかという概念が初めて示され、その中で薬剤師の立ち位置が改めて問われることになった。「地域包括ケアシステム」では住まいを中心に、歩いて片道30分ぐらいのエリアの中で医療や介護、そして生活支援までを地域全体で考えていく。この中で薬剤師がどのように貢献できるのだろうかということを考えた時に、「医薬品の供給や指導」の他にも、多くの場所に薬剤師の活躍の場があると考えられる。健康でいるうちは予防措置を指導し、発症してしまった後には重症化予防、あるいは介護にならないように指導をしていくという関わり方がこれから必要になってくると思われる。さらに、地域の中でより健康で安全に生活できる環境を、薬剤師の目から作っていくことも考えられる。

 昭和49年以降、医薬分業によって薬剤師の目が医療だけに向いてしまっていたという反省を踏まえて、“地域に医薬品を提供する”という原点から、薬剤師がどのように地域に関わっていくかをもう一度考えていくべきだろうと思っている。

 2020年9月から施行された改正薬機法では患者のフォローアップが義務化され、継続的・一元的に患者の医薬品の使用状況を確認することが必須になった。そうなると、どうしてもその地域に根を張った薬局、薬剤師が必要になってくる。出生から終末期まで、様々なライフステージに応じて薬剤師が一人ひとりの患者さんに関わっていく。「患者さん」から「その患者さん」という考え方に、スイッチする必要がある。

 また、これまでは薬そのものや添付文書などを中心に服薬指導をしていたが、これからはお薬手帳に記されている薬歴だけでなく、患者さんを全人的・総合的に診る「プロファイル」を元にした指導も必要になってくると考えられる。

 20年ほど前に「健康サポート薬局」のあり方がまとめられたが、地域包括ケアシステムも含めて幅広く地域住民のニーズに応えていく時には必要になるのは「健康相談」。そういった意味では、薬剤師にはその地域の医療機関や診療所との連携、さらに言えば行政や包括支援センター、訪問介護ステーション、ケアマネジャーさんの方々と連携し、医薬品を通じてどのような健康情報を提供していけるかという視点で考えることが求められる。ちなみに、健康サポート薬局は全国6万件ある薬局のうち、まだ3千件弱しかない。

 医師との関係性の整理も必要だ。「薬剤師はどこまで手を出してもいいか」「どこまでが自分たちの判断」なのかということを整理し、プロトコールを作ってそれに従って仕事をするということで、患者さんには安心して薬物治療を提供できることになる。これまでは、処方箋を発行する医師との関係でなかなかプロトコールを作りきれず、何となく従属する関係になりがちだった。昨年の診療報酬改定でスタートした“リフィル処方箋”の運用も含め、プロトコールを作る必要があると考えられる。

 平成22年4月に出された「医政局長チーム医療通知」には、薬剤師を積極的に活用することが可能な業務として「薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査のオーダーについて、医師・薬剤師等により、事前に作成されたプロトコールに基づき、専門的な知見の活用医師等と協働して実施する事」と明記された。薬剤師が処方後もプロトコールに従ってモニタリングで効果と副作用をフィードバックすれば、適切な薬物療法が推進されることになる。

 「もっと薬局に気軽に相談に来てもらえないだろうか」と考えている。ただ「病院に行きなさい」ではなく、患者さんの話をしっかりと受け止めることが必要。薬局がもつ膨大な医薬品の情報と、患者さんの情報を継続的にフォローアップすることで、たくさんの情報が溜まっている。しかし、今はそれをうまく活用できず、単なる医薬品の授受で終わってしまって、患者さんに起きた問題に対するソリューションとしては薬剤師のなすべき仕事ができていないのではないかと危惧している。薬剤師が患者さんの健康不安をしっかりとフォローアップできるように体制を整えていくことが、地域の薬局、それを支える地域の薬剤師会、そして日本薬剤師会として考えていく大きな方針だ。 (談)

(編集部メモ)

 ちなみに、今回の第31回日本医学会総会は東京国際フォーラムを中心に丸の内界隈において4月15日~23日まで開催された。メインテーマは「ビッグデータが拓く未来の医学と医療~豊かな人生100年時代を求めて~」。今回は、120年の医学会総会の歴史の中で初めて多くのセッションが一般開放され、さらに医療・医薬業界関係者以外にも介護やIT関連、建設、ドラッグストアなど、ヘルスケアに関わる多様なジャンルの企業や団体が数多く参画した。

この記事のライター

最新の投稿


【厚労省】“研究用”抗原検査キット、薬機法で取り締まりの方向/該当性判断の上

【厚労省】“研究用”抗原検査キット、薬機法で取り締まりの方向/該当性判断の上

【2024.07.25配信】厚生労働省は7月25日に「厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会」を開催し、体外診断用医薬品の特性を踏まえた制度の見直しについて議論した。その中で「研究等の医療以外の用途を標榜する試薬の提供業者への対応」を議題とした。


【日薬】オーバードーズ問題でマニュアル作成を検討中

【日薬】オーバードーズ問題でマニュアル作成を検討中

【2024.07.24配信】日本薬剤師会は7月24日、都道府県会長協議会を開催した。


【厚労省】処方箋保存期間の検討を提示/薬局検討会

【厚労省】処方箋保存期間の検討を提示/薬局検討会

【2024.07.19配信】厚生労働省は、現在3年間となっている処方箋の保存期間について見直す方針を示した。「第7回薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」で提示した。診療録の保存期間が5年となっている中、電子処方箋については処方箋を調剤済みとなった日から5年間保存するサービスを提供しているなどの環境変化を挙げている。今後、制度部会で議題とする方針。


【コンソーシアム】大阪市から調剤外部委託で4社8薬局が確認通知受領を公表

【コンソーシアム】大阪市から調剤外部委託で4社8薬局が確認通知受領を公表

【2024.07.19配信】薬局DX推進コンソーシアムは7月19日、大阪市から調剤業務一部委託事業の確認通知を受け取ったと公表した。


【日本保険薬局協会】健康サポート薬局と地域連携薬局「違いない」/厚労省検討会に意見書

【日本保険薬局協会】健康サポート薬局と地域連携薬局「違いない」/厚労省検討会に意見書

【2024.07.19配信】日本保険薬局協会は7月19日に開かれた厚労省「第7回 薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」で意見書を提出した。「健康サポート薬局、地域連携薬局、地域支援体制加算届出薬局が描く薬局像は、小異こそあれ、分立させるほどの違いはない」とした。


ランキング


>>総合人気ランキング