厚生労働省は7月10日、「第1回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」(養成検討会)をWEB会議形式で開催した。薬学部の入学定員問題や臨床実習強化、将来の需給推計など広範なテーマが議題となる見込み。
これまで薬剤師の養成に関しては「新薬剤師養成問題懇談会」(通称6者懇)があったが、今回の「養成検討会」では日本薬剤師会に加え、日本保険薬局協会や日本チェーンドラッグストア協会などの団体も構成員として加わっている。薬剤師の勤務実態に応じた視点が加えられる可能性がある。日本チェーンドラッグストア協会からは後藤輝明常任理事(ツルハホールディングス取締役常務執行役員)が出席した。
今年度中に需給調査実施、来年度中にとりまとめ
養成検討会では今年度中に需給調査実施、来年度中にとりまとめを予定する。とりまとめは薬科大学や実習の在り方に影響を及ぼし、場合によっては法改正などにつながる可能性を秘めている。
日本チェーンドラッグストア協会が薬剤師の養成に対して、どのような要請を抱いているのか、社会に示すまたとない好機になる可能性がある。
主な検討事項は、「業務変化を踏まえた需給調査」、「薬剤師養成の在り方」となる。これらはすべて、薬剤師のあるべき姿が基本となる。そのため、検討会では今後、薬剤師が社会でどのような役割を果たすべきかが議論されることになる。
機械化先進事例も取り上げられる予定
「需給調査」に関しては、供給数予測面で、今後、どのような薬剤師養成が必要か、薬学教育もテーマとなる。需要面では機械化やIT化、業務の変化などの要因を考慮する必要が出てくる。
「薬剤師の養成」に関しては、質の観点から、薬学部の現在の定員割れや国試へのストレート合格率の低さなどの改善も問われることになりそうだ。地域偏在の対応も含まれる。薬剤師の免許取得後の資質向上のための取り組みのほか、新興感染症における対応等の緊急事態の状況下での薬剤師が行うべき業務についても議論される。検討会では今後、機械化の先進事例についても取り上げられる予定。
日薬、薬学生の総量規制の必要性に言及
日本薬剤師会副会長の安部好弘氏は検討会で、薬学部の新設と、それによる定員割れ増加、留年者などが増えている現状に懸念を表明。「決して望ましいとはいえない状況に強い問題意識持っている」と話した。その上で「薬学部の在学数が過剰な大学もあり、総量規制を検討する必要もあるのではないか」とした。
COML山口氏、「スチューデント医師」の議論を紹介
山口育子氏(認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長)は、現在の薬学部の実務実習でどの程度の成果が得られているかを疑問視。医学部の実習では、医学生が医行為ができるような仕組みの検討が進んでいることを紹介。国が「スチューデント医師」を付与するものといい、実際に参加する「参加型実習」がカリキュラムに取り入れている状況があるとした。山口氏は「薬学部でも実施してほしい」と提言した。一方、定員割れ問題について、「出願者の時点でもっと絞っていいのではないか」と指摘した。
大阪薬科大学学長の政田幹夫氏、臨床実習強化を提言
大阪薬科大学学長の政田幹夫氏は、医学生が臨床実習を経験することで、飛躍的に医療人としての覚悟が備わる感覚を持っていると話し、医学部では1年半にわたる臨床実習があるのに対し、薬学部の実習期間が短いのではないかとの懸念を示した。「臨床を経験しなければ、今後、薬剤師が担う対人業務はできない」と話した。同時に競争率が1倍となっているような薬学部があることについて、「良い学生は取れているのか。今、入口の問題も考えないと、将来、大変なことになる」と懸念を示した。
日医・宮川氏、卒後のレジデントなど提言
日本医師会常任理事の宮川政昭氏は、4点を指摘した。
1つ目は薬剤師の需給問題に関連して、在宅の需要にも関わるとし、一人の薬剤師で何人ぐらいの在宅患者さんがみられるのかの視点も必要だとした。
2つ目は偏在の問題。地方の中核病院では薬剤師が足りておらず、地域間の偏在があるとした。
3つ目は機械化の推進。「非薬剤師が日本では活用されておらず、機械化を進めなければいけないが、本質的な機械化やAI導入が進んでいない」と話した。AIが入ってきていないことで、基本的な処方チェックに業務時間を奪われているとした。カルテのデータを共有しようという動きがあるが、一方で薬剤師側がカルテを読める必要があるとも指摘した。
4つ目が薬剤師の卒後教育。「卒業生に対してどこまで求めるのかに関係する」とし、病院では半年のレジデントを取りいれているところもあると紹介。病院では薬剤師の病棟配置加算ができ、薬剤師が病棟にいけるようになってから、飛躍的に薬剤師の業務が進展したという。「もはや薬剤師が病棟にいないと業務がまわらないようになっている一方で、高度なことが要求され、最近の論文に目を通りしていないと話にならない。解析して医師に答えていく必要がある」と話した。
NPhA藤井氏(アイセイ薬局社長)、薬局でも薬剤師は不足と指摘
日本保険薬局協会常務理事の藤井江美氏(アイセイ薬局社長)は、地域の偏在を含め、薬局も薬剤師の獲得には苦心している状況を指摘。「在宅を含め、連携しながら地域で受け皿になっていく」と薬局の使命を訴えた。さらに、「健康サポート、セルフメディケーション含め、薬局を活用していただきたい」と話した。また、国試に受からなかった人にテクニシャンとして働けるような道を検討してほしいとした。
JACDS後藤氏(ツルハ常務)、病院薬剤師の退職理由は給与問題ではない
日本チェーンドラッグストア協会・常任理事の後藤輝明氏は、病院で薬剤師が不足している問題に一石を投じた。病院では給与が低いため薬剤師が獲得できないという指摘がこえまであったが、後藤氏は薬剤師の転職エージェント企業3社が行ったアンケート調査の結果を紹介。薬剤師が病院を希望した薬剤師の理由としては、「患者さまの役にたちたい」「あこがれ」「専門性」などが上位である一方で、病院を退職した理由では、「人間関係」「雰囲気」などであり、「給与」を理由とした退職は少ないと指摘した。
教育面については、薬剤師の覚悟を養成する教育の重要性を指摘。医師と薬剤師で「心構え」に違いがあるとした。
JACDSからは後藤輝明氏が参加
WEB会議形式での開催となった
卒後か実習かが大きな分かれ道に
こうした議論を総括すると、2つの論点が見える。
まず1つは、現在、定員割れを起こしている大学もある薬学部の状況に関しては、多くの構成員が問題意識を持っており、今後、総量規制の検討が始まる可能性が高いことだ。
もう1点は、薬剤師の臨床教育の拡充だ。この点では、ほぼすべての構成員で意見が一致している。ただし、実施の形態については、「卒後」なのか、薬学生としての「実習」なのかで主張に違いがある。医療機関側が卒後の臨床に触れているのに対し、例えばCOML山口氏が「スチューデント医師」を紹介したように、薬学部の実習で「参加型実習」を強化する方策もある。
卒後の薬剤師レジデント制度については、すでに実施している病院もあるが、レジデント中の薬剤師の給与が低いという指摘はこれまでもあり、6年制で学費負担も増えている現状がある中、さらに卒後に給与の低い状況で薬剤師に経済的な負担を強いての臨床強化が現実的なのかどうかという問題点があろう。
そうであるならば、薬学生の数を絞って、「スチューデント薬剤師」の実習に協力する医療機関に経済的な報酬も国の予算を割きつつ行うことが現実的ではないか。さらには、この検討会では前提となる「今後の社会で薬剤師はどのような役割を果たすべきか」が広範に議論されることになる。
いずれにしろ、実業界が教育の行方に高い関心を持って、この検討会で発言していくことが求められる。