河合塾では実施した模試試験実績の点数などから、その学部に合格した人の合格者数と不合格者数が一致するラインをボーダーラインと呼んでおり、それが世間でいう偏差値とされている。したがって、偏差値50の薬学部でも、実際に合格した人の中には偏差値70の人もいれば50の人もいる。すなわち、あくまで合否の目安として出しているのが本来の偏差値であり、大学の“格付け”というよりも受験者の“志望大学合格への目安”といえる。また、少子化が進み、競争率が下がると前述の計算式自体が成り立たず、ボーダーラインが存在しない学部も登場する。
1つ、薬剤師界隈を賑わせたテーマの1つに「薬学部の偏差値が下がってきている」というものがある。これに関して近藤氏は、歴史のある“既設校”に関しては「6年制化以降の偏差値はあまり変わっていない」との見方を示す。少なくとも、近藤氏が示した2014年(6年制化以降で最も高倍率の年)と2022年の偏差値の差は“既設校”では、あっても数ポイントの違いしかない。
以前は8倍まであった競争倍率は6年制導入から一気に低迷し、2006年以降、4.5倍〜2.4倍で推移。偏差値は競争倍率に大きな影響を受けるもので、影響を受けたのは主に新設校であり、既設校には大きな影響はなかったと分析する。競争倍率が急速に下がる中で、既設校の偏差値が影響を受けるのであれば、ここ数年でも既設校の偏差値は下がっているはずだが、実際は目立って下がっていないわけだ。
その理由に関して、イメージを描いたのが下のグラフだ。山が高いのがひと昔前の薬学部の状況。人数も多いし、倍率も高い。それが少子化で志願者が少数になってくると、山が小さくなってくる。しかし、偏差値は“位置付け”であるため、特に偏差値の高い層の状況に大きな変化は起きない。
最後に近藤氏は、自身の立ち位置として、生徒が自分の希望する進路を見誤らないようにすること、加えてトレンドをデータで示し進路に関する視野が広がることで、より的確な進路を見つける手助けをすることだとしている。
河合塾の教育研究開発本部主席研究員・近藤治氏