【薬局ヒヤリ・ハット事例】糖尿病治療剤の注射薬に関する事例分析/同一名称薬剤において複数のデバイスがある場合など取り違え11件

【薬局ヒヤリ・ハット事例】糖尿病治療剤の注射薬に関する事例分析/同一名称薬剤において複数のデバイスがある場合など取り違え11件

【2023.03.29配信】日本医療機能評価機構は3月27日、「薬局ヒヤリ・ハット事例収集 ハット事例収集・分析事業」(2022年7月~12月、第28回報告書)を公表した。今回は、在宅自己注射の対象疾患が増えている中、薬局でも取り扱いが増えている糖尿病治療剤の注射薬の事例を分析している。薬剤取り違えと規格・剤形間違いの事例を合わせると11件あった。インスリン製剤はブランド名が同じでも、作用時間が異なる製剤やそれらの混合製剤、1mL当たりの単位数が異なる製剤がある。さらに、同一名称の薬剤に複数のデバイスがある製剤もあり、取り違えが起きやすいとしている。


 糖尿病治療剤の注射薬において、薬剤取り違えと規格・剤形間違いの事例を合わせて11件が報告された。報告された薬剤は下表の通り。

薬剤取り違えと規格・剤形間違いの事例を合わせて11件

 具体的な事例としては、以下の5つを取り上げている。

1、定期処方でヒューマログ注ミリオペンが処方されたが、調製者はヒューマログミックス50注ミリオペンを取り揃えた。鑑査者が取り違えに気付き、調製し直した。
<背景・要因>
 忙しい時間帯であったため調製者に焦りがあった。ヒューマログ注ミリオペンとヒューマログミックス50注ミリオペンは名称や色が類似していた。

2、ランタスXR注ソロスターが継続して処方された患者に、ランタス注ソロスターを交付した。患者が使用する際にいつもの薬剤と違うことに気付き、薬剤を取り違えて交付したことが分かった。
<背景・要因>
 調製者は「ランタス」の文字だけを見て取り揃えていた。

3、患者Xにノボラピッド注フレックスタッチを5本交付するところ、5本のうち3本はノボラピッド注フレックスペンを交付した。翌日、患者Yにノボラピッド注フレックスペンを取り揃える際、在庫数が足りなかったため薬剤取り違えに気付いた。
<背景・要因>
 通常は5人体制(薬剤師2人事務員3人)のところ、3人(薬剤師2人事務員1人)で業務を行っていた。薬局が混んでいたことから、調製した内服薬のみ鑑査を行い、注射薬の鑑査を行わなかった。

4、ノボラピッド50ミックス注フレックスペンが処方されたが、ヒューマログミックス50注ミリオペンを患者に交付した。交付時に薬剤を患者に見せて一緒に確認したが、患者はデバイスの色が変更になったと思い込み、そのまま使用した。
<背景・要因>
 薬局内に薬剤師が一人しかいなかったため、入力・調製・鑑査・交付の全てを一人で行った。薬剤を調製する際、「50」の文字を見て、処方頻度が高いヒューマログミックス50注ミリオペンを取り揃えた。

5、オゼンピック皮下注0.25mgSDを使用していた患者にオゼンピック皮下注2mg 1本が処方されたが、事務員はレセプトコンピュータに登録されていたオゼンピック皮下注0.25mgSDを入力した。調製者はその情報をもとにオゼンピック皮下注0.25mgSDを1本のみ調製した。薬剤を交付する際、患者に1回0.25mg使用することを説明し薬剤を交付した。患者は1回1本使用し、その後の3週間は注射しなかった。
<背景・要因>
 レセプトコンピュータの採用医薬品マスタにオゼンピック皮下注2mgが登録されていなかった。備考欄に週1回0.25mgと記載されていたが、調製者はオゼンピック皮下注2mgがあることを知らなかったため、単回使用の製剤であるオゼンピック皮下注0.25mgSDを取り揃えた。

交付時の「説明・確認不足」の事例5件

 交付時に説明・確認不足であった事例5件は、デバイス・注射針の使用方法に関する説明・確認が不足していた事例が3件、単位数の変更に関する説明を行わなかった事例が1件、連日注射から週1回注射への薬剤・用法変更に関する説明・確認が不足していた事例が1件であった。いずれの事例も、薬剤交付後に患者の薬剤の使用状況や体調の変化などを確認することで、用法や手技等の間違いに気付き適切に対応することができると考えられる。

 事例の内容は以下の5つ。

<デバイス・注射針の使用方法>
1、前回、インスリン治療を開始した患者の介護者に、インスリン グラルギンBS注ミリオペン「リリー」の使用方法について確認した。その際、薬剤師はナノパスニードルⅡの装着方法も含め手技を確認し補足説明していたが、注射する際にキャップを外すことは説明していなかった。今回の来局時に、介護者が使用開始後20日間ほどナノパスニードルⅡを装着後にキャップを外さずに注射していたことがわかった。

2、継続してランタス注ソロスターが処方されている患者に注射手技を確認すると、注射針を装着せずに空打ちをしていることが分かった。空打ち手技について薬剤師の説明・確認が不足していた。

3、患者から、交付されたトルリシティ皮下注0.75mgアテオス4本のうち1本が、注入ボタンが押せない状態になっていることを聴取した。製薬企業に問い合わせたところ、使用する前に、キャップを装着したまま一度ロックを解除して注入ボタンを押したことが要因ではないかと回答を受けた。注射の手技に関する説明・確認が不足していた可能性がある。

<単位数の変更>
4、前回の処方でトレシーバ注フレックスタッチが6単位から8単位に増量になったが、交付者は変更に気付かず患者に説明しなかった。さらに、レセプトコンピュータが故障していたため、患者に薬袋、手帳シール、薬剤情報提供書を渡さなかった。今回トレシーバ注フレックスタッチを交付する際、単位数について説明すると、患者と話がかみ合わなかったため調べたところ、前回の処方から増量されていることに薬剤師が気付いた。

<連日注射から週1回注射への薬剤・用法変更>
5、ビクトーザ皮下注18mgからオゼンピック皮下注2mgへ薬剤が変更になった。これまで毎日注射していた薬剤が週1回の注射薬に変更になったことを薬袋に記載し、口頭でも説明したが、患者は理解しておらずオゼンピック皮下注2mgを毎日注射していた。

交付時の「交付忘れ」/「他の患者の薬剤を交付」の事例4件

 「交付忘れ」と「他の患者の薬剤を交付」の事例を合わせた4件すべての事例の背景・要因に、
調製後あるいは鑑査後に患者に取り揃えた注射薬を保冷庫で一時保管していたことが記載されてい
た。

 事例の内容は以下の4つ。

■交付忘れ
1、薬剤を交付する際、患者から、前回トルリシティ皮下注の交付がなかったことを聞き、保冷庫を確認したところ、前回調製したトルリシティ皮下注が残っていた。患者は5回分(5週間分)の注射を行っておらず、HbA1cが7.1%から7.4%に上昇していた。
<背景・要因>
 注射薬が処方された患者が受付後に外出して薬剤をすぐに交付できない場合は、鑑査者は注射薬を
保冷庫に保管し、内服薬などの他の薬剤を保管しておくカゴに「冷所あり」の札を付けることになっている。前回は、その札を付けなかった可能性がある。患者が薬局に戻った際、他の業務を行っていた薬剤師が業務を中断して薬剤を交付した。その際、焦りがあり、処方内容と薬剤を照合しなかった。

2、患者にゾルトファイ配合注フレックスタッチを含む薬剤が処方され、薬剤を調製した。薬剤を交付後、事務員が保冷庫を開けた際に、患者に取り揃えたゾルトファイ配合注フレックスタッチが残っていることに気付いた。
<背景・要因>
 調製された注射薬は保冷庫に保管されていた。鑑査を行っていた時に患者の家族が薬剤を取りに来局したため、鑑査者に焦りが生じ、注射薬以外の薬剤のみを確認して交付した。

3、患者に処方された3種類の糖尿病治療剤の注射薬を調製し、保冷庫に一時保管した。患者が来局し薬剤を交付する際、保冷庫から注射薬を取り出した。交付時に患者に説明している途中で3種類のうちトレシーバ注フレックスタッチがないことに気付き、保冷庫から取り忘れたことが分かった。
<背景・要因>
 前日に処方箋を応需し、調製した注射剤を保冷庫に保管した。保冷庫から取り出す際に、処方箋の確認を怠った。忙しい時間帯であった。

■他の患者の薬剤を交付
4、透析患者Xに定期処方薬を交付する際、患者Yに調製したトルリシティ皮下注とランタスXR注ソロスターを誤って渡した。
<背景・要因>
 交付直前まで保冷庫で薬剤を保管していた。交付忘れを防ぐため、同じ時間帯に交付する複数の患者の薬剤をまとめて輪ゴムでとめていた。保管場所が狭かった。

薬局における改善策

 薬局における改善策を次のように整理した。

【調剤】
・患者・家族に薬剤変更の有無を確認する。
・レセプトコンピュータに入力する際、処方箋に記載された単位数に印をつける、あるいは指差し確認を行う。
・薬剤名は規格まで確認する。
・処方内容を確認する際、声出し・指差し確認を行う。
・忙しい時でも業務手順に従い鑑査を行う。
・鑑査・交付時は、処方箋だけでなく薬袋や薬剤情報提供書と薬剤を照合する。
・薬剤を患者に交付する前に処方内容と薬剤を照合し、すべて揃っていることを確認する。
・入力から交付までを薬剤師一人で行う際は、交付時に患者と一緒に薬剤と薬剤情報提供書等との照合を行う。

【注射薬の手技に関する確認・説明】
・患者が注射薬の使用方法を理解しているか確認し、理解不足が考えられる場合は、デモ器を使用するなどして丁寧に補足説明する。
・患者が注射薬を正しく使用しているかを定期的に確認する。

【保管】
・注射薬を保冷庫で保管する際は、患者ごとに輪ゴムなどでまとめておく。

【日頃行っておくこと】
・保冷庫に薬剤取り違えを注意喚起する掲示を行う。
・「冷所あり」の札を用意し、保冷庫に薬剤を保管する際はその札を処方箋に付ける。

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